表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
仕様違いの魔法使い  作者: 赤上紫下
第 5 章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

86/238

17:忍ぼうとしたわけではない

 袴を穿いた人らとは結局一言も喋らなかったな、と頭の片隅で思いながらも説明を聞いていく。

 魔物の出現情報を見る方法もわかったので、近いうちに挑んでみるのも良いかもしれない。

 情報が少ないとは聞いているので、異世界の魔石を持ち込むのは確定として──時期的には来週の頭ぐらいだろうか?


 この建物内で俺が歩き回れる範囲についても聞いて、実際に情報が集まるらしい部屋の場所へと案内されて来たところだが、特に魔物の出現情報はなかった。

 演習場での訓練の様子も見れる区画が同室内にあるようで、人はそちらに集中している。

 なんとなく手持無沙汰な感があるので、気になっていたいくつかの点について聞いてみる。

「あそこに映ってるのはさっきの演習場、ですかね? 今の映像なんですか?」

「今流れている映像は、そのようですね。白井さんの演習を見て気合が入ったのではありませんか?」

「へぇ……? まぁ、良い影響を出せたのならよかったです」

 一度【固定】込みの全力を見せたらどんな反応をするか見てみたい気もするが、それは流石に面倒事が寄ってきそうなので避けるべきか。

 魔石持ち込みだけでも十分に面倒事の香りが漂いそうな気もするが、実力を全開にするよりはいくらかマシだろう。

「あともう一つ気になってたんですけど、今日の演習場は中々に魔力が濃く漂ってましたよね? あれは何故なんでしょう?」

 もう一つ気になっていた点を聞いてみると、光明は驚いたような表情を見せた。

「やはり、そういった違いもわかるものなんですね」

「先日通された演習場とあれだけ違えば、普通わかるものだと思いますよ」

「残念ながら、その差を感じ取れるほど感覚に優れた者はあまり……そういえば、距離によってそういった感知能力に差は出ますか?」

「個人差はあると思いますが、遮蔽物がなく、空気と魔力が満ちていれば、という条件下でも私の場合は三〇メートルも離れればあまり感じ取れなくなりますよ」

「そんなに広いんですかっ……!?」

 小声ではあるが驚かれた様子。こっちの人らが感じ取れる範囲というのは、意外に狭いんだろうか?

「開けた場所だと案外狭いですよ? 遮蔽物があればわかり難くもなりますから、おそらく地下にあった前回の演習場からは魔力の濃い場所は感じ取れませんでしたし」

「……先日は、壁越しに察知していたと記憶しておりますが」

「私が気付いた時点ではもう一〇メートルもなかったので、自慢にはならないかと……それで、何で魔力が濃かったんです?」

「土地柄……ですかね? 霊脈だとか、龍脈といった単語に覚えは?」

「それは、まぁ。ああ、そういえば近くに神社のような建物がありましたね」

「はい、不可視の力の流れとしてそういったものは古来より認識されていましたし、あの神社もそういった力の集中する点の近くに建てられているものです」

「その流れの一つがあの演習場を通ってたりするということなんでしょうか……いや、空中だと風に流されてしまいますし、地面そのもの?」

「そんなところです。さて、私は用があるのでここで失礼します。お帰りの際は受付にお立ち寄りください。車を回すように話はつけておきます」

「あ、はい、ありがとうございました」

 質問は切り上げられたが、しっかり案内してくれた光明に感謝である。


 このまま帰るのも味気ないので、部屋の案内でも任されてそうな事務職員にも頭を下げてから、席に着いて魔物の資料を読んでみる。

 魔物の呼称は色々違っているらしく、異世界でどの程度通じるかはわからないが、あちらで見た覚えのない魔物の情報は面白い。

 集まっている情報自体は全国区、日本全体に及んでいるが、件数自体はそこまで多くもない。

 ……まぁ、日帰りできる程度の範囲、それも徒歩で行ける距離でもガンガン出てたあっちの世界がおかしいんだろうけどな。

 異世界との差を再認識していたら、思わず苦笑が漏れてしまった。

 日本の国土上においては精々オーガ程度の、三メートルに届かない程度のものしか記録にないらしい。

 ただ、海に出ればもう少し大きめの魔物も現れる場合はあるようだ。外海に出れば一〇〇メートル級の魔物と遭遇することすらもなくはないそうだが、海は個人的に苦手意識があるので避けておこうと思う。


「こんちわー、って何この人だかりっ!?」

「……茉莉、驚いたのはわかるけど、静かに」

「う、うん、ごめんね桜ちゃん。でもどうしたんだろ? 映ってるのは、演習場?」

「そのようですね。白井さんが今日こちらに入るために訪れているそうなので、その関係でしょうか」

 何やら入口の方からどこか聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 名前も呼ばれているようだし、と顔を向けてみると、先日俺が住んでいる部屋に来た三人組が姿を見せている。

「あー、あの人が来てるなら影響もあるのかな。ここからじゃよく見えないけど、映ってるかな?」

「今の映像がいつのものかがわからないと……桜さん、見えますか?」

「今流されているのは、三〇分ほど前のもの、みたい」

 …………。

 ここは入口付近の会話は割と聞きとれてしまう場所なんだが、どうしよう。

 流石に無視をするには意識が傾き過ぎているし、なんだか盗み聞きしてるような気分になってきた。

 と、俺の体重移動によって、椅子が軋む音を立てた。三人組の中で一番耳が良い桜の視線がこちらに向いたので、軽く手を挙げる挨拶を投げかけてみる。

 返ってきたのは、意外なものでも見たような表情と瞬きだったが。

「三〇分前ですか。これが朝のものでしたら確実に映っているとは思いますが、見分けが付くかどうか」

「うーん、制服だったらそうだけど、白井さんは着替えずに皆を驚かせてる気がする。前の射撃の映像もそうだったし」

「……先日訪れた際はスーツを着てましたから、流石にそれはないのでは? いくらあの方でも汚してしまいそうですし」

「スーツ姿かー。他の人だったら水に落ちたり汚したりしそうだけど、あの人だったら大丈夫じゃない? あ、朝のを流すみたい。……やっぱり着替えてないね」

「運動することを考慮したスーツではない様子でしたが……これから着替えるのでしょうか?」

 美奈子と茉莉の二人は桜の様子に気付かないまま、流れている映像を見ている。……もうすぐ流されるなら、声を掛けるのは後でいいか。

 俺が肩を竦めて画面に視線を向けると、桜も画面に顔を向けたのが視界の隅でわかった。

「私はそのままだと思うなー」

「そうですか? 汚してしまいそうな気がするのですが……桜さんはどう思います?」

「わ、私は、大丈夫だったんだと思う、よ?」

「む、お二人ともですか。私は無茶だと思いますが……」

「あ、あの、二人とも……」

「始まるみたい、まずは見ようよ」

「そうですね」

「…………」

 桜はまたちらりとこちらを振り返ったので、また肩を竦めておく。……名乗り出るにしてもタイミングってものが、こう。な。


 映像には通信機による通話の音声も入っており、見ていて小っ恥ずかしくなったので、映像の中盤辺りで三人の近くへと歩いていく。

 特に足音を隠したりはしていないのだが、桜以外の二人は俺に気付く気配もない。

「うーわ。あっはは何あれ、すっごいシュール」

「……移動にも魔法を使ってた、の?」

「踏み込んでいるようには見えませんし、私はそう思いますが……あら、接近時の火力もあるんですね」

 俺の方を向いて問いかけてきた桜だったが、顔を向けた方には美奈子も居たため、美奈子が答えた。俺からも桜には肯定を返しておく。

 映像は、丁度最後の的を壊したところか。

「ナイフみたいな魔法だけじゃないんだねー。回転のこぎりみたいなあれ、頼んだら教えてもらえるかな?」

「……そんなに難しくはないし、やってみれば案外すぐできるんじゃないか?」

「そうなの?」

「いやぁ、私はそんなに器用じゃないから、結構付き合わせちゃ……あ」

「茉莉さん? …………あっ」

 茉莉の質問に答えてみたところ、やや間はあったが、茉莉は俺に気が付いた。その様子を見た美奈子も、俺が居ることに気付いたようだ。

 表情の急転直下ぶりは、少し面白かったかもしれない。

「とりあえず、久しぶり、三人とも」

「お久しぶり」

「あ、あはは、お、お久しぶり、です」

「その、お久しぶりです」

 俺が声を掛けると、桜、茉莉、美奈子の順に挨拶を返してくれた。

「魔力を全然感じなくて、驚いた」

「外は魔力が薄いからな。あんまり垂れ流してるのもどうかと思ったから、できるだけ留めるようにしてるんだよ」

「……なるほど?」

「何か、特別なスーツだったりするんですか?」

「いや、就活用に買った普通のリクルートスーツだよ?」

「そ、そうですか……」

 美奈子からの質問の意図はよくわからな──いや、【固定】みたいに魔力を遮断できる素材は少ないのかな。そう考えれば桜の反応も納得である。

「え、ええっと、魔法を教えてくれるってのは、ほんとに?」

「人目に付かないで練習できる場所、なんかが用意できないと難しいとは思うけど、教えるのは構わないよ」

「あー、確かにそう、ですね。場所となるとどうしましょう……」

「俺もIFだか遊撃だかで入ることは決まったから、内部でどこか取れないかな? あぁ、代わりに俺の方も色々教えてもらうことになるけど、よろしくお願いしますね、先輩方」

「わかった、頑張る」

「ゲフッ……ゲホッゲホッ、いや、白井さんから先輩って違和感が、というかほんとにIFで入ったんですかっ!?」

 桜は頷いてくれたが、茉莉がむせた。変な事を言った覚えはないのだが。

「ここに常駐するのはどうかと思ったし、他との戦力差が大きいと連携を取るのは大変だろ?」

「あ、あー、まぁそうですけど、結構魔物を狩らないとまともにお金は入らないですよ?」

「輸入……とは違うけどどうにかはなりそうだし、最悪の場合は……ある程度手加減しながら戦闘部隊にでも入れてもらう感じで?」

「……普通は逆なんですけどねー……」

「…………普通じゃない自覚も、多少はあるぞ、一応」

「一応、なんですね……」

「ここの人らが本気になったらどのぐらいやれるか、なんて知らないしな」

 美奈子と茉莉の二人から呆れたような目を向けられたので、そっと視線を逸らした。



 魔法を教える機会についてはまたそのうちと、結局具体的には決まらないままだった。

 そのまましばらく適当に話してから別れ、受付で車を回してもらい、空の色が変わらないうちに帰宅できた。

「ただいま」

「おかえりなさい」

「おかえりなさいませっ……あれ? 友木さんたちの匂い?」

「ああ、向こうで会って少し話したんだよ」

「そうだったんですか」

「そうそう、と、着替えたいから、ほら、入ろう」

「そ、そうね、ごめんなさい」

 二人とも玄関まで出迎えに来てくれたのは嬉しく思うが、スーツのまま玄関で立ち話というのは落ち着かない。


「じゃあ、近いうちにまた異世界(あっち)に行くの?」

「今週か来週の週末ぐらいかな、そこまで手間でもないし」

「……それもそうね」

「えっと、じゃあ、私も頑張りますっ」

「頼むよ。まぁ、オーガぐらいでいいけどな」

「あれ、そうなんですか?」

「こっちじゃあんまり強い魔物は居ないみたいだから、いきなり上質なの取ってきても面倒な事になりそうだしなぁ」

「へぇー……どんなのが居るか聞いてもいい?」

「いいよ。まず、この辺りに出る魔物からかな」

「そうね」

 飲み掛けの麦茶を飲み干し、注ぎ直してから、まとめておいた情報を話し始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ