16:アスレチックな演習場
案内された演習場は、分厚い壁に覆われてはいるが、階段は上ってきたのでおそらく地上にあるもの。
以前見た地下の演習場より広く、どういう理由かはわからないが、魔力がやや濃く漂っているように感じる。
後は、奥の方には丸太が何本も突き刺さっていたり、木で作られた壁にロープが下がっていたり、足場が浮いた水場も──そこはかとなく、アスレチックっぽい。
先日エアソフトガンを使うところを見かけた人も含めた制服姿の人が、ずらりと二〇名ほど並んでいて中々に圧巻である。先日は巫女っぽい服を着ていた女性も、今日はここの制服を着ているようだ。
「それでは、彼らの紹介から。まず──」
わからないことだらけだったが、光明が説明を始めてくれた。
聞き流していたら忘れそうなので、いつも通り【固定】でこっそりメモを取りつつ、紹介にあわせて目礼を交わしつつ聞いていく。
戦闘部隊はARとMUの二つに分かれていて、ARの方が入隊の難しい部隊であるそうだ。
ARはオールラウンダーの略で、身体能力と魔力的な技能どちらも優れた人員で構成されている。
MUはマジックユーザー、魔法使いの略だそうで、魔力的な技能に優れた人員で構成されている。
IM、インフォメーションマネージャーと呼ばれる情報部隊は、魔力的な技能に劣る人員の受け皿でもあるが、AR、MUに所属できる人員でもこちらに所属している人はいる。
また、遊撃と言われていた人員はIFと呼ばれているらしい。インデペンデントファイターの略なんだとか?
部隊には所属していないが戦う者というような意味で、美奈子を含む三人もここに該当しているそうだ。
あとは、戦力を持たない外部協力者ぐらいの立場の人員も居て、そちらには特別な呼称はないらしい。
俺が言うのもなんだが、直訳に近い怪しい英語の使い方な気がする。というかARって略は色んなところで聞いた気がするんだが、困らないんだろうか?
そして、今この場に並んでいるのは万能戦士と魔法使いらしいので、全員が例の改造エアソフトガンを使えば魔法を放てて、万能戦士の方はかなりの体力もあると。
あまり人数が多いようには見えないが、そこは、組織のことを知っている人員が少ないという理由によるのだろう。
「──というところですね。ここまでで何か質問は?」
光明の説明が一通り終わって、質問を求められた。気になる点はあるが、あまり意味のない質問は避けるとして──
「ええと、高木さんってここでは偉い人で、今日入る新人は私ぐらいですよね? 毎回こんなことしてるんですか?」
「確かに、私は当支部の長を務めさせていただいておりますし、毎回ではありませんね。多少のレクリエーションも兼ねていて、白井さんへの期待もある、というところです」
「そういった理由でしたか。……ありがとうございます?」
「どういたしまして。それでは、次の説明を始めてもよろしいですね?」
「はい」
「では、これからの予定についてですが、この演習場で技量を示していただくことになります。具体的には、通信機による指示に従い、指定された地点へ移動して的を撃つという内容で、早さや正確性による成果を競っていただくことになります」
光明はそう言ってアスレチック染みた演習場に視線を向けたので、俺もそれにならってみる。
端から端までで一〇〇メートルぐらいはありそうな演習場だ。地上とはいえ、学校などの公的機関でない組織が屋内にこの広さの空間を持つ施設を持つというのは、日本では中々できることではない気がする。
異世界の王城にあった訓練場も同程度の広さはあったが、日本とは土地の事情が違いそうだからな。
「通信機については、競技……でいいですね。競技開始前にこちらから支給いたしますので、そちらを使ってください。地点の指示方法は横軸にアルファベット、縦軸に数字を用いたもので、通信機の地図からも確認できます。何か質問はありますか?」
「……横軸がアルファベットとなると、表計算ソフトなんかと同じですかね。アルファベットや数字の呼び方はどうなります? アルファ、ブラボーとかいう呼び方になるのか、エービーシーで言うのか。数字も日本語なのか英語なのかとか」
「エービーシーの方で、数字は日本語です。アルファベットが先で、数字も一桁ずつ指示されます。AB二八地点、などと言われた場合、地図上で縦横とも二十八番目の座標となります。ああ、数字は一からで、地図の左上がA一になります」
「ええ……と、はい、ありがとうございます」
「では、通信機を含む装備を支給しましょうか」
「はい。遊撃……あいえふでしたっけ? そちらを希望していてもそういったものは身に着けるんですか?」
「通信機と、隠密性の高い武装ぐらいは身に着けていますが……普通のスーツを着たままでは動き難くありませんか? 汚損の可能性もありますよ?」
「私の場合は洗濯機で洗えるリクルートスーツですし、大口叩いちゃいましたからね。通信機だけお借りできますか?」
「…………本当に?」
光明は視線を上下させながら俺の服装を確認しているようだが、何か問題でもあっただろうか?
「……的はBB弾を当てないと反応しない、とかそんなわけじゃないですよね?」
「それはまぁ、貫ければ魔法でも、魔法でないBB弾でも、木刀等で直接貫いても問題ありませんが……」
「あ、近い的もあるんですね。あと、魔力を使うのは問題ありませんよね?」
「? それは勿論ですが」
「でしたら、とりあえずは通信機だけで挑んでみようかと思います」
「……わかりました」
専用のアプリケーションがインストールされたスマートフォン、にしか見えない通信機を受け取り、操作説明をおおよそ聞いてから起動する。
『確認はもういいのか? 試しに現在地を答えてみろ』
「はい、私の現在地点はC七ですよね?」
通信機から聞き覚えのない声が聞こえてきた。通信機には簡単な地図も表示されていたので、答えたのは見たとおりの座標である。
『正解だ。水場のおおよその座標もわかるか?』
「E五、F五付近でしょうか」
『そちらも正解だ。地図は見えているようなので、ブザーが鳴ったら演習を開始する』
「はい、よろしくお願いします」
ふっと小さな笑みが聞こえてきたような気がしたすぐ後、演習場のブザーが鳴った。
『ではまず、B五地点まで移動しろ』
「了解」
地図のマス目はおよそ一〇メートル四方のようなので、二二メートルほどの移動だろうか。
とりあえず今回は、【固定】による補助は最低限にしておこうと思う。魔力消費は多くなるが、たまには良いだろう。
魔力消費との兼ね合いから、【魔力操作】だけで一歩辺り五メートル程度を跳ぶように移動してみたが、まだまだ余裕はある。
「完了しました」
『D四地点に的が二つ見えるはずだ。貫け』
「了解」
先程の移動と同程度離れた地点の指定。同心円の描かれた目立つ的が二つ見えるので、素早く魔法の矢を作って真ん中を撃ち抜く。
「完了した、と思います」
『確認した、問題ない。次はE五地点から水上の足場を渡り、G五地点の壁を越えろ』
「了解」
魔力を使って加速を得ながら、水場の浮島を跳んで渡り、壁の前へ。
壁の高さは三メートルほどだったので、壁に掛かっているロープは無視して駆け上がり、降りる際は【魔力操作】で若干減速しながら飛び降りる。
「完了しました」
『ほう……やや遠いが、C四地点に的が一つ見えるはずだ。貫け』
「了解……完了しました」
『確認した。次、G六、H六地点にあわせて五つの的がある。全て貫け』
「了解」
また指示に従って、ほぼ同じ高さにある地点にあるらしい五つの的を……四つ? ああ、今回は見えるとは言わなかったか。
ひとまず見えている四つを魔法で貫きながら突っ込んでみると、先程の位置からでは死角になる場所に最後の的があったので、それを貫いた。
若干体に満ちている魔力が減ってきた気がするので、胃の中に隠した『魔力容器』から少しだけ補充しておく。
「完了しました。次は?」
『C三地点の中心に移動すればC二地点方向に的が隣接する。破壊しろ』
「? 了解」
途中に設置されていたアスレチックを乗り越えて指示された辺りに移動すると、丸太の上に木のブロックでできた的が置かれていた。確かに、『貫く』より『破壊』の方が適切そうな的だと思う。
魔法で作った回転のこぎりを押し付けるように操作し、中心部分を狙って上下に切り分けた。
「十分だと思いますが、どうでしょうか」
『……十分だ。開始地点まで戻ったら演習は終了だ。御苦労』
「了解、演習の開始地点まで戻ります。…………完了。わかり易い指示でした。ありがとうございます」
『ははっ、どういたしまして』
通信が終了した。
この後はどうすればいいかと悩んだが、このまま他の人もやるとのことなので、通信機を返却してから光明の案内で観覧用の席に移動した。
「通信から判断する限りでは、一応やれてたとは思うんですが、どうでした?」
「そうですね……驚きました。白井さんからはそこまで大きな魔力を感じ取れなかったのですが、どうやってあれだけの魔力を?」
「……手法としては、外に流れ出ないようにしっかり抑え込んであった、というところです。外に流出させなければ、体内に溜め込んだ魔力は認識され難いようなので、それが原因ではないでしょうか」
「……なる、ほど? 具体的には、どのような?」
「充電池にどれだけ電気が溜まっているかは外装に多少触れてもわからないように、魔力的な絶縁性能を高めてあったようなものです。……どうやってそれを成していたかは秘密ですよ?」
「……何か、大きな代償でも支払いましたか?」
「大きいといえば大きい、ですかね。十年以上掛けて鍛え上げた技術ですし。あぁ、他者を犠牲にするような真似はしていないのでご安心を」
実際、エルヴァンになってから習得した【固定】に関しては努力を重ねてきているし、それによって魔力が通れないように空気を固めただけだしな。
「…………」
「? あっ、自分の身体も犠牲にしたりはしてませんよ? 完全には無理でも、魔石に魔力を込めるなりしておけば、ある程度再現できることではありませんか?」
「確かに、魔石を利用して魔力を溜める装備ぐらいはありますが……」
「私のは、それがちょっと目立ち難くなっただけですよ。きっと」
適当にはぐらかせたらいいなと思いつつ演習場に視線を向けると、俺の次に参加した人達の演習が終わったらしい。チームでも参加できる演習だったようで、小銃で的を狙う弾幕は少し綺麗に思えた。
そして次の団体と交代したら、また演習が始まるようだ。……微妙に指定されている座標が異なっている気はするが、ランダムだったりするのだろうか?
「……そうですか?」
「はい。…………あっ」
一人が水に落ちた。……なんかこう、バラエティ番組でも見ているような気分になるな。実況もCMも入らないけど。
「あぁ、今挑んでいるのはMUでしたか」
「……あー、運動能力にやや問題があったりするんですか?」
「そういう方も居る、という程度ですね。ARの基準は高いですし、志望しない方もいるので、MUでも一般人よりは動ける方は多いですよ」
「……確かに、そうみたいですね」
一度水に落ちた人も復帰して木の壁を乗り越えていた。壁を濡らすのはどうかと思うが、あまり高くもないし、どちら側にも厚めのマットは敷いてあったから大丈夫なんだろうか。
「白井さんの魔法の威力についても、一度測らせていただいてもよろしいですか?」
一通り終わったらしいところで光明から声を掛けられた。
「あ、はい、わかりまし……測り方ってどんな感じになるんですかね?」
あまり面倒そうなら勘弁願いたいところである。
「測定機器の前で、対象物に三度ほど発動していただく形になります」
「そのぐらいなら、わかりました」
演習場の特に何もなかった辺りに移動すると、威力測定用と思しき的と何やらの機械が手早く設置され──木の板だけでなく、金属板まである事に驚いた。
とりあえず、準備は終わったようなので質問を投げかける。
「形状は割と自在ですけど、どんな形で使えばいいんでしょう?」
「でしたら、そうですね……弾丸のような形であれば比較し易いかと」
「わかりました。あと、威力がやや高い属性の魔法も使えますけど、これも使いますか?」
「属性? ……両方を試すというのであれば回数は増えてしまいますが、よろしいですか?」
「三回が六回になるだけなら、私としては問題ないかなと」
「では、お願いします」
とりあえず火属性の魔法から。最初は木の板を貫き、金属板単体は凹む程度で、木と金属の板が組み合わさった的は少し凹ませた程度で弾かれた。
次は聖属性の魔法を木の板から順に三回発動してみると、こちらは組み合わさった的も貫いた。
「い、今のは……」
「私が魔法を教わったところだと、聖属性なんて言われてた属性で、【聖魔法】とも言ってましたかね。魔力の消費量は多く、制御も難しくなりますが、威力は高いです」
「当たり前に、使えるので?」
「そうですよ? さっきも言いましたが魔力の消費量は多いので、練習が難しいとは思いますが……と、そうだ、遊撃扱いでの就職を希望しますけど、よろしいですかね?」
「……戦闘部隊の倍出しますから、常駐しませんか?」
「いえ、給料よりも勤務時間の短さが理想的だったので、遊撃で」
「……三倍では?」
「最初に出た条件通りの遊撃で。一応、ちょくちょく顔を出そうとは思ってますよ」
「…………わかりました」
光明はまだ何か言いたげだったが、了承はしてくれた。
それからはスムーズに一通り契約を交わし、こちらと通信するためのアプリケーションもスマートフォンにインストールしてと、こちらで働く準備が整っていった。




