15:組織の所在地と再面接
地球では土曜日になるお昼時。
今週もまた異世界に、いつも通りの三人で訪れた。
こちらに来た主な目的は、日本で腹を満たせるだけ肉を買うと結構高くつくから、という理由による鹿肉の買い出しか狩りである。
異世界であれば貨幣の入手が容易であるため購入は楽だし、日本と違って狩猟の許可も容易に得られる。
その分日本より危険は多いものの、魔法を習得できる世界であるため、猟銃で挑む日本より楽なぐらい……いや、魔物が出るから危ないか。
ただ、買うか狩るかは別として、一応先に城へと顔を出してみた。
俺宛の手紙が部屋に置かれていたので読んでみたところ、先週持ち込んだ物品はそれなりに好評だったようだ。
毎度持ち込むのもなんなので今回は何も持ち込んでいないが、余裕が出てきたら月一ぐらいで持ってきてみるのも良いかもしれない。
「……うん?」
「何か書かれてたんですか?」
「ああ、郵便受けに関して……ええと、俺が所有してるあの家に郵便物を外から投函できる設備を用意したいらしい」
「言われてみれば、ユーリに連絡を取ろうとしたら登城するまで待たないといけないのよね、現状って」
「確かに。まぁ、仕方ないかな。何々……家の中に受け取り用の籠を設置しておいて外には鍵を掛ける? ……同伴する必要はあるが、設置にはさほど時間もかからない、と。とりあえず、さっさと済ませた方が良いかな?」
「……そうですね」
「私も賛成よ」
「じゃ、今日の予定はそんな感じで」
話が通じる使用人を呼ぶべく、部屋に置かれていたベル型の魔道具を鳴らした。
いつも通り早めに来てくれた使用人と話をして、職人やらと顔を合わせつつ家に郵便受けが取り付けられた。
取り付けられた郵便受けは壁に埋め込むもので、マンションのドアポストが壁に埋め込まれて鍵が付いたようなものだった。
鍵が掛かっているのは投函口であるため、投函するために鍵が必要になる。ダストシュート程ではないが滑り台のようなものも付いているため、投函口からの取り出しは困難だ。
厳重だなぁと思わなくもないが、連絡を送ってくるであろう相手の身分を考えれば──近所の家を買い上げて二四時間待機、なんて真似をしていないだけマシな気もする。
空間魔法の対象は自分の家だけにすると言ってあるので、地球から確認し易いようにあれこれと考えてくれていたのだろう。多分。
狩りに行くにはやや遅い時間帯になってしまった気がするので、鹿肉は市場で何キログラムか購入。
埃の類を軽く水で洗い流し、水気を切ってから日本に持ち込んだ。
………………
日曜日は適当に、買い物に一度外出した以外は部屋でのんびり過ごし、何事もなく就寝。
月曜日になったが、不合格だとしても連絡ぐらいはあるだろうということで、テレビにはニュースを垂れ流させる。
なんとなく『対象年齢一〇歳以上のエアソフトガン』について調べてみたところ、『対象年齢一八歳以上のエアソフトガン』なんてものもあるという事実には驚いた。
なんでそっちではないのかと考えたところ、高校生にR-18はダメだという当たり前の話に気が付──使うところを見せてくれた井上は一八歳以上だったか。
……まぁ、魔法的な改造で威力は出るようになってるしな。
とりあえず、一応異世界側の家を覗いてみて、何も届いていなかったことを確認してからゆったりと過ごす。
「お」
スマートフォンに電話が掛かってきた。前回聞いていた番号で、『支部?』と疑問形付きで登録したものだ。
現在時刻は一二時になったころ。アンナ達には静かにしてもらってから通話に応じた。
「はい、白井です」
『こんにちは。今日はどうだい?』
「大丈夫ですよ」
『それはよかった。あと三〇分ほどでそちらに迎えが着くと思いますので、それまでに準備をしておいてください』
「はい」
『ああ、それと、今回は携帯電話……白井さんはスマートフォンでしたか? 持ち込みは許可します』
「あ、はい、わかりました」
『それでは、失礼します』
「はい、それでは」
なんとも淡泊な通話が終わったので、とりあえずスーツに着替え、鞄には履歴書も一応放り込んでおく。
ついでに、実印と一緒にスマートフォンはジャケットの内ポケットに突っ込んでおいた。
「じゃあ、行ってくる。いつ帰るかはわからないから……」
「わかってるわよ。行ってらっしゃい」
「行ってらっしゃいませっ」
「おう」
やや早い時間だったが、マンションの前で車を待っていると、車は予告されていた時間からさほど遅れもせずに到着した。
前回と同じ運転手であり、似たような車も同じ辺りに来たが、他には誰も乗っていないようだ。ひとまずは挨拶か。
「こんにちは、よろしくおねがいします」
「はい、本日もお送りさせていただきます」
勧められたのは今回も後部座席だったが、今回の車は内装が異なっていて外が見えるようになっていたので、今日は酔わずに済みそうだ。
運転主は特に喋りもせず運転を続け、俺は窓から街並みを見ながら車が走っている道筋を把握していく。
俺を乗せた車は、どことなく敷地の広い建物や田畑が多く見える人通りの少ない道を進み、山の近くに辿り着いていた。
俺の住んでいるマンションから徒歩で移動した場合、二時間ぐらいかかる場所だろうか。
神社のような建築物がやや遠くに見えたが、車が進んだのはそれとは別の、ショッピングモールのような建物の地下だった。田舎道を通った後なので場違い感が凄い。
異世界の狩人組合もそうだったが、魔物を狩る組織ってのは何故こうも大きな建築物を使うのか。
妙な共通点に苦笑しつつ車から降り、見覚えのある地下だと納得できたあたりで、光明から松林と呼ばれていた男性が奥の通路から歩いてきた。
「こんにちは」
「こんにちは。会議室までご案内します」
「ありがとうございます」
今度は松林の案内で移動することになった。……なんというか、偉くなったと錯覚しそうな気がするなぁ、これ。
普通に会議室だったらしい見覚えのある部屋の近くまで移動すると、部屋の中からはこちらの世界では珍しく妙に濃い魔力を感じ取れた。
松林はそのまま入っていったので続いて入ると、光明がスーツ姿で待っていたのは前回と同じだからいいとして、和服を着込んだ男女が何故か居る。
和服を着た男女がどちらも袴までしっかり穿いているのは気になるが、とりあえずこの二人が魔力の濃さの原因らしい。
他には、この組織の制服だと思われる服を着こんだ人が数人控えているぐらいだ。
なんというか、全体的に厳粛な雰囲気を漂わせていて驚いたが、とりあえず、普通の面接時のように礼をしておく。
「……さて、本人も来ましたので、まずは紹介からでしょうか、白井さん、名前と簡単な経歴をお願いします」
「あ、はい、白井悠理です。大学卒業後サラリーマンとして三年ほど勤めておりましたが、一身上の都合で退職しました。次の職をどうするか探していたところでこちらの方が魔物と戦っている場面と遭遇しまして、紹介をお願いしてみたという次第です」
一四日数以上無断欠勤を続けた末の退職であるため、退職理由は一身上の都合である。うろ覚えの知識ではなく、調べてみた話なので間違いではないはずだ。
「……はい、それではそちらの席へどうぞ」
「失礼いたします」
今回も面接のようなものだとしたら…………どのぐらい上の人なんだろ、あの人ら。
「私の隣に座っているのは、本部よりお越しいただきました、立会人のような方々です」
光明からの紹介を受けて、和服姿の二人が軽く頭を下げたので、こちらも頭を下げておく。
「さて、早速ですが、白井さんにこちらから提示できる選択肢を説明します」
「はい、ありがとうございます」
光明が指示を出し、俺に取れる選択肢らしきものが印刷された紙が俺の手に渡された。
渡された資料を見ながら、光明からの補足を合わせてまとめると──
一.観測部隊
・日中はこちらの支部で待機し、魔物の情報収集を行う。
・月に二〇万円ほどの給与が保障されている。装備も安価に補充できる。
・基本的に戦闘は行わないが、最低限の自衛の力は求められる。
二.戦闘部隊
・日中はこちらの支部で待機し、必要に応じて出動する。
・月に二〇万円ほどの給与が保障されている。装備も安価に補充できる。
・実際の戦闘に参加する必要がある。
三.遊撃
・自宅で待機し、必要に応じて観測、あるいは戦闘を行う。
・待機だけだと一万円ほどの給与しか保障されていない。装備も一部以外は許可が必要で、やや割高。
・居住地域の支部への出入りは可能で、観測部隊からの情報も回してもらえる。
という選択肢は取れるらしい。
守秘義務についてはどの選択肢でも変わらないし、ある程度の訓練を受けるための申請手順や費用までは特に差もないようだ。
含まれていない選択肢は、管理職や装備の開発、補修などがあるとかなんとか。
俺が選ぶ選択肢としては……少し厳しい気もするけど、やっぱり、遊撃かな?
「何か質問はありますか?」
おおよそ選ぶ選択肢が定まったところで光明から聞かれたので、気になっていた点について質問をしてみる。
「この、観測部隊からの情報ってのはどの程度あります?」
「この支部の範囲では、月に一〇件ほどですね」
「……案外、少ないんですね。じゃあ、魔物を狩ると素材が残ったりはしますよね? あれの持ち込みは可能ですか?」
「……遊撃で、観測部隊が発見する前に魔物と戦闘した場合でしょうか? 可能といえば可能ですが……戦闘した場所は報告する必要がありますよ?」
……となると、持ち込みは難しいか?
「……海外とか、支部がなさそうな場所だったらどうでしょう?」
「そういった場合であれば、必ずしも報告する必要はないとは思いますが……おそらく空港で差し止められると思います」
「……外部の誰からも怪しまれずに持ち込めた場合はどうなります?」
「そうそうないと思いますが、何か見当でも付いておられるので?」
「なくはない、という程度ですね。どうでしょう?」
「……そういうことであれば、可能、なのでしょうか」
光明が和服の男性に視線を送ると、その男性は頷いた。
「可能だそうです」
「じゃあ、遊撃で」
問題がなさそうなのでそちらを選んだが、光明は納得できない様子である。
「……本当に?」
「はい」
「……当組織からの上質な支援は受けられませんが、それでもですか?」
「独力である程度狩れる自信がなかったら、就職活動は別のところに行ってましたよ」
「それは……確かに? もう少し足並みを揃えようとしてくださっても良さそうなものですが」
「やや傲慢な気はしますが……先日見たエアソフトガンぐらいの威力の武器で足りる魔物ぐらいしか出ないのなら、残念ながら必要性を見いだせませんね」
「あぁ……あれが基準になっているわけですね。あれは外部に見せられる武器では最弱クラスの物なのですが……」
「……正式に実戦で採用されている装備の威力が、前回見たあれから想定できそうな範囲に留まっているなら、私としてはやはり遊撃を選択したいです」
四、五倍程度の威力があっても高が知れている──というより装備の威力云々より重要な点が一つある。
楽に稼げるならそれはそれでよいとも思うのだが、日常的にこちらに顔を出して待機するということになれば、アニマやアンナと過ごす時間が減ってしまう。
二人もこの組織に所属できるなら構わないとは思うのだが、無国籍状態の二人も一緒に、なんてのはいくらなんでも無茶だろう。
「……いいでしょう。そこまで言うのであれば、正式装備の戦闘部隊と競ってみますか?」
「え、はい、私としては構いませんが、選択肢の件はどうなります?」
「終わった後でまた伺いましょう。後から戦闘部隊を選択することも可能ですから、ご安心ください」
「は、はぁ、わかりました、ありがとうございます」
少しばかり興奮した様子を見せる光明には驚いたが、礼はちゃんと告げておく。
ちらりと和服の二人に視線を送ってみると、やや苦笑した様子だが、止める気はないようだ。
「……松林、戦闘部隊は手が空いていますね?」
「はっ、AR、MUはどちらも二班ずつ待機中です」
「よろしい。それでは行きましょうか、白井さん?」
「は、はい」
光明に促されるように部屋を出ると、和服姿の男女も席を立って付いてきた。
おかしな流れなのか既定路線なのかは知らないが……まぁ、優れた装備が見れるなら、良いか。




