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仕様違いの魔法使い  作者: 赤上紫下
第 5 章

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12:賑やかなリビングでの会話

 俺が呼び掛けてから、遅れること数秒ほど。寝室の扉が控えめに開いて、アニマとアンナが顔を出した。

 服装はよく外出時に着ている外着で、アニマの耳の偽装もそのままだ。

「茉莉さん、先程口にしていたのはあの方達ですか?」

「うん、地味な服だったけど珍しい顔つきだから、多分」

 黒髪の二人がアニマ達を見て何かを言っているが、桜は加わっていない。

 しかし、アニマ達二人は固まったままだ。

「来ないのか?」

「えと、椅子が……」

「あ、足りないか。形は作っておくからクッションと、シートの余り持ってきて」

「わかりました」


 アニマ達が戻っている間に、背もたれのない四本脚の椅子を【固定】で形作っておく。【固定】光を遮るようにしてあるので、背もたれのない銀色の椅子が出来上がった。

 すぐにアニマ達も戻ってきたので、板状に固めた動物の毛(フェルト)を一辺二センチメートル程度の正方形にカットし、厚みの半分ほどに【固定】を掛けて、椅子の脚の先端にくっつける。

 勿論、フェルトが床に接する部分は【固定】では固めない。フェルトもいつぞやに抜いたアニマの毛ではなく、ちゃんと購入した物である。

 後は、座るためのクッションを座面に乗せて完成だ。

「貴方、本当に日本人?」

「さっき答えた通り、俺は日本人だぞ?」

「……」

 桜からは何か、よくわからない質問が飛んできた。俺の回答は今一つお気に召さなかった様子である。そして、他には誰も喋る気配がない。

「とりあえず、二人とも自己紹介を簡単に……アニマからでいいか?」

「は、はい。えと、アニマです」

「アンナ」

 二人とも名前を口にした程度で自己紹介を終えてしまった。

「……もう少し何か、ないか?」

「何かって言われても、何を言えばいいのよ?」

「ええと、私からだとどこまで話していいかはよくわからないんですけど……」

「そう言われると…………そうだな」

「あの、白井さん? そちらのお二人は何を喋っておられるんですか……?」

 今度は茉莉が俺に質問を投げかけてきた。

「ん、ああ、二人を呼ぶ前の話の流れと似た感じなんだが、自己紹介って、学校や会社に行ってないと名前以外に言うことって迷うよな」

「いえ、その……名前を言ったらしいのはわかりましたが、それ以外がちょっと、何を話してるかがわからないんですけど……」

「……? 二人とも【伝達】を切ったりはしてないよな?」

「はい、家の中で話す時と同じようにしてます」

「私もだけど、そっちの三人が使ってないのかしらね?」

「んー……? まぁ、慣れてない、のかな?」

「その、【伝達】って、何の話?」

 俺が三人に視線を向けながら疑問を口にすると、桜が首をかしげて口を開いた。……魔力云々はよく知ってそうなのにこれは知らないのか?

「【伝達】ってのは、言葉を発するときに魔力に意思を乗せることができる便利な力で、この部屋ぐらいの魔力があれば普通に話せるはずなんだが、通じてないか?」

「うっすらとは、わかる気がする。でも、詳しくわかるほどでもない」

「ありゃま。俺は読み取れてるから、不慣れなだけ……か? 悪い、二人とも。日本語で頼む」

 俺はずっと日本語で喋っているのでそのままだが、アニマとアンナはどちらも外で喋る時と同じように異世界の言葉だったので、日本語でお願いする。

 一応、【伝達】スキルを持っていない相手に意思を伝える方法もあると聞いたことはあるが、詳細は知らないんだよな。

「わかりました」

「ええ、仕方ないわね。まだ慣れては、いないんだけど……」

 二人が慣れない日本語で喋り始めると、日本人らしい女子三人は驚いたようだ。

「それで、さっきの話の続きなんだが……アニマ、もうちょっと近くに」

「はいっ」

「その子がどうかなさったんですか?」

「まぁ、話の流れで予想がついてたと思いますけどね。アニマ、外すから頭をこっちに傾けて」

「は、はいっ」

 俺は美奈子の質問に対する回答を見せるべく、アニマの耳元に手を置いてヘッドフォンのような形状の付け耳を、髪を巻き込まないように慎重に持ち上げる。

「え、み、耳がっ!? いい、一体何をしてるんですか!?」

「あれ、さっきの話でわかりませんでした? これは人の耳に見た目を似せただけの小道具ですよ? 本物の耳なら頭の上にちゃんとあります」

「!?」

 そんなに驚くことでもないと思うのだが、何故そんなに驚いているのやら。

 人の耳に見えた部分が偽物だったってだけで…………知らなかったら、結構、ショッキングかも知れんな。うん。


 尻尾も確認させようかとも思ったが、上着(アウター)の下に締め付ける化学繊維の布が見え──尻尾の生え際は脊椎の先なのでそこを見るのは遠慮してもらったが、それでもちゃんとアニマの意思通りに尻尾も動くことは三人とも納得したようだ。

「ほんとに居たんですね……いえ、その、信じてなかったわけではないですけど。……アンナさんも獣人なんですか?」

「私は、普通の人間よ? ミヤデラさん。まぁ、出身はこの世界ではないけどね」

「そ、そうですか、失礼しました」

「いえ」

 付け耳を外した時の反応が一番大きかった美奈子からの質問にアンナが答えている。

「えっと、もしかして、アニマさんのその、緑色の綺麗な髪って、地毛なんですか?」

「ジゲ?」

「染めたりしてない、素の色なのか、だってさ」

「なら、そうです」

「そ、そうなんだ……」

 アニマに質問をしたのは茉莉。確かに気になる点だよな。

「その、アニマさんって、力とか、どうなの?」

「何て言えば伝わり易い、でしょうか」

「俺から伝えとくよ。素の身体能力なら、単純な力は俺より強くて、一〇〇メートルを一二秒ぐらいのペースでなら何分か走ることもできる。鼻はかなり利くし、目も耳も良い」

「……私達が部屋の前で話してたことも、聞こえてた?」

「来客があったのと、それが女性三人だってのはドアホンを鳴らされる前からわかってたよ。……日本語の聞き取りはあまり慣れてないせいで、内容はよく聞き取れなかったらしいけど」

「そう……なの?」

「はい、階段から上って来た三人の足音が、部屋の前で止まった時に、伝えてました」

「耳が良いのはいいんだけど、別の部屋で鳴ってる目覚ましでも聞こえるのが困るところだね。大音量の目覚ましを使ってる寝坊助も近所に居るみたいだし」

「それは、ちょっとわかる」

 桜からアニマへの質問にも、俺が補助しながらだがアニマが答えた。


 そんな話をしばらく続けたところでふと、本題が何も進んでいないことを思い出した。

「とりあえず、そろそろ話を戻そうか。二人を隠そうとした理由は異世界人だから。まぁ、俺と一緒に買い物してたこの子らをそっちの畑さんが見てるんだから、無理矢理じゃなさそうなのはわかるだろ?」

「それは、はい。無理してるようには見えなかったです」

「でもってこっちには本物の獣人が居るんだから、君らの中に獣人の血を引いてる人が居ても悪い印象は受けないというか、どちらかといえば親近感を持つぐらいだな」

「今日は驚かされてばかりだけど、それもびっくりした」

「ん。で、まぁ、戦力的な意味では保護が不要なのもなんとなくわかったと思いますが、まだ何か重要な話はありますかね?」

「……少し、待っていただけますか?」

「はい、構いませんよ」

 俺の了承を聞いた三人は顔を寄せて、話し合いを始めた。

「その……桜さん、茉莉さん、何かありませんか?」

「……私は、重要というほどではないけど、もう少し話を聞いてみたい」

「私ももう少しお話はしたいけど、むしろこっちが助けてもらえたりしないかな?」

「助け……ですか? 手が足りないこともあるのは事実ですが、あまり戦いに引き込むのは……」

「でも、あの中型の人狼をあっさり抑え込んじゃったし、魔石もすごく丁寧に処理されてるって驚いたでしょ? あれ本当にあっさりやってたんだよ? この人」

「さっきの魔法を見て私も納得した。精度が尋常じゃない」

「そ、そうですね。しかし、大人の方ですから、何かお仕事の都合があるかもしれません」

「……半年行方不明になってた間に会社はクビになってたから、今はフリーですよ。でなきゃ月曜の昼に応対なんか無理です」

 大型だと美奈子の言葉に従うように三人の視線が俺に飛んできたので、答えておいた。

「……らしいよ?」

「私達は夏休みだけど……そういえば、そうだよね」

「そう……でしたね。あぁぁ…………」

 ……というか本当に中型の人狼とか言ってるなぁ。ライカンスロープが大型なんだろうか。オーガとか出たら何て言うんだろう?


 それからも三人話し合いは続き、結論がまとまってこちらを向いたのはしばらく後だった。

「……その、魔物を討伐するお仕事なんかは、如何でしょうか。危険もありますし、一度上に判断を仰いでからになると思いますけど」

「それは良いんですけど、給料なんかがどうなってるかって、わかります? 時給制か歩合制か、ぐらいのあたりから」

「それは……どちらもありますけど、詳しい話は資料がないと……というより許可がないとダメです」

「……それは、仕方ないですかね。そういえば、この間の魔石ってどうなりました?」

「あ、はい、あれは……えっと、一〇万円ぐらいのボーナスが出ました」

「ありゃ、随分安いんだな」

「い、いえ、私と美奈子ちゃんと桜ちゃんと、あとはあの魔物の発見したチームにも出てたらしいから……合計すると五〇万円は超えてたはず? 装備として還元もされますし」

「……んん、妥当なところ、なのかな?」

 魔石について答えてくれた茉莉の言葉を信じるなら、まぁ、納得できない額でもない。

 異世界の狩人(ハンター)組合(ギルド)だと、上位種(ハイ)コボルドの魔石は直接持ち込みで金貨一五枚前後だったと思うから、日本円換算で七五万ぐらい。

 異世界で狩って魔石だけ持ち込むような真似は避けるべきだろうか? ……とりあえず、詳細を聞いてからだな。

「それで、上の判断を仰ぐ形でよろしいでしょうか?」

「あ、はい。そういう方向でお願いします。固定電話は設置してないんで、連絡はスマホか、直接お願いします」

「は、はい、わかりました、そういたします。一応、メールアドレスも登録させていただいてよろしいでしょうか?」

「そうですね」

「……私もしたい」

「あ、じゃあ私も」

「わかったよ」

 茉莉と桜も名乗り出てきたので三人ともと連絡先を交換する。

「……」

「……アニマ達にも携帯を用意しようとは思わなくもないが、ちゃんと収入のアテができてからな?」

「あ、その、すみません」

 羨ましがるような視線が横からこちらに突き刺さってきていたので、そう言っておいた。


 重要な話は終わったので、また多少なり雑談を始めた。今日は仕事はなかったらしいので、まぁ、構わないといえば構わないのだが。

「その、御手洗いをお借りしたいのですが……」

「……あっちの、洗面所の横です」

「はい、それではお借りします」

「どーぞ」

 俺の許可を聞いた美奈子が席を立った。まぁ、冷房はそこそこ効いてるし、麦茶も飲んでるからな。

「ところで、アニマさんとアンナさんっていくつなの?」

「えと、私もアンナさんも一八歳です」

「あ、そのぐらいなんだ? もっと大人だと思ってた」

「そうなんです?」

「うん、白井さんと同じぐらいかと」

「……まぁ、外国人の年齢なんてわかり難いよな」

「そうだねー、あ、異世界人なんだし、寿命が長い種族だったらもっとわからないか」

「そういえば、異世界では人族と獣人族以外に魔族ってのも見たが、あっちの寿命がどうなのかは聞きそびれてたな」

「魔族なんてのも、いたの?」

「まぁ、見た目が違うだけで、中身は人間と大差なかったよ。人族主体の国とも普通に国交がある」

「どんな見た目なんです?」

「見た目は、まぁ普通に悪魔っぽい感じだな。動物っぽい角が生えてたり、羽や尻尾が生えてたり。獣人とも由来は似てるんだけど、一緒にすると獣人からは怒られるらしいね」

「えと、どんな風に似てるの?」

「意思を持った魔力を精霊っていうんだけど、善意で行動する方の精霊が人に宿って肉体が変化した結果が獣人。悪意や害意を持つ精霊が肉体を得たのが魔物。悪意や害意を持つ精霊が人間の肉体に宿って変化した結果が魔族だな」

「…………似てるけど一緒にすると怒られるのは、わかった。でも、魔族と仲良くなんてできるの?」

「初代がそうだったってだけで、精霊は子供に宿らないこともあるんだってさ。今の魔族は身体的な特徴だけしか残ってないのが大半だよ」

「なるほど……」

「まぁ、俺が居た国の近くの魔族がそうだったってだけの話だけど……うん?」

 やや粗い足音と共に美奈子が便所(トイレ)から帰ってきた。

「し、白井さん? 御手洗いはありがとうございました」

「どういたしまして。何かありましたか?」

「あの、洗濯機の横に、ローションの材料が大量に置いてあったのですが、つまり、お二人にそういうことを……?」

 そういえば、先週通販で買った粉末の物を割と目立つ位置に置いてた気がする。大量といっても、ケースに詰め替えたものと開いていない一袋しかないのだが。

「とりあえず、こっちは全員一八歳を超えておりますし、プライベートな話についてはどうかと…………というか、宮寺さん?」

「なんですか、白井さん?」

「袋には中身を表す(カルボキシル)(メチル)(セルロース)Na(ナトリウム)という文字と内容量、あとは会社名ぐらいしか書かれてませんでしたよね?」

「……確かに、そうでしたね?」

「あれは食品添加物としても使える品質(グレード)の増粘多糖類で、洗濯のりにもなるのですが、何故いきなりローションの材料だと断定なさったので?」

「……」

「……」

「……そういうことに使っているのは事実です、よね?」

「……洗濯のりとしても使ってますよ?」

「……」

「……」

「…………コホン。御手洗い、ありがとうございました」

「どういたしまして」


 少しばかり微妙な空気は流れたものの、なんとか落ち着いてまた会話に戻った。

 そのまま三〇分ばかり話し込んだところで美奈子が持っていたスマートフォンに連絡が入り、解散することとなった。

「では、上に伝えて結果が出たら電話で連絡いたしますね」

「電話でも大丈夫なんですか? 守秘義務とか」

「はい、詳細なお話についてはこちらの施設までお越しいただくことになるとは思いますが、是非については電話口で問題ないかと」

「わかりました。どんな仕事が入ったかは知りませんが、魔物と戦うのでしたらお気をつけて」

「ありがとうございます。それでは」

 三人とも会釈をしてから、どこかへ向かうために部屋を出て行く。

「じゃあ、俺達は……どうしようか?」

「冷蔵庫の食材がちょっと少なくなってるから、そろそろ食材を買いに行かないといけないわね」

「そうですね、せっかく外行きの服を着てるんですし」

「そうだな。ああ、アニマは耳と尻尾を隠してからな」

「あ、はい、すぐ着けます」

「そんなに急いでないから大丈夫だよ」


 美奈子達から数分ほど遅れたところで、俺達も部屋を出た。

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