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仕様違いの魔法使い  作者: 赤上紫下
第 5 章

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10:異世界で過ごす週末

 改稿作業が進んだ箇所は前話までです。

 この話も含め、この先の改稿にはもうしばらく時間がかかります。

 また今日も日が昇り、部屋の中をうっすらと照らして、俺達も目を覚ます。

 目が覚めてからも、いつものように朝の支度と朝食を済ませた。


 テレビが垂れ流す大して目新しくもないニュースを聞き流しながら、二人に確認。

「昼頃になったら皆で向こうへ行く予定だけど、問題はないよな?」

「はいっ」

「ええ。……こっちも、色々あって生活は楽なんだけど、ね」

「ちょっと窮屈だし、人目を気にせず駆け回れるような場所は中々ないからなぁ。アンナはまだしも、アニマは特にな」

「そうね、アニマちゃんは私より体力もあるし……」

「い、いえ、私は、走る事はできてませんけど、部屋の中でも十分体を動かせてますから大丈夫ですよ?」

「そうか? じゃあ……ああいや、じゃあじゃないな。俺がちょっと走りたいんだ。それに付き合ってくれ」

「そういう事なら……はい、喜んでっ」



 そして、昼前までだらだらと何事もなく過ごした後。最終確認として銅貨を転送してみる場面を二人と一緒に確認し、異世界の家への移動を無事に果たした。

 移動先は、一階の目立たない一室だ。今日は日本では土曜日であり、地球に帰るのは明日の夜の予定である。

「無事に着くとは思ってたけど、やっぱりちょっと緊張するわね」

「ですねー」

「まぁ、空間魔法で飛ぶ時はしっかり確認するようにするよ。さて……ま、そりゃ切れるわな」

 スマートフォンは購入したモバイルバッテリーごと持っているが、当然というか、アンテナのアイコンは圏外の表示になっていた。

 そして──

「あれ、こっちでも繋がるんですか?」

「いや、空間魔法でちょっとだけ繋げてみたんだ」

 空間魔法で自宅への穴を作ってみると、アンテナのアイコンが変化した。接続先を確認してみると、当然というか、自宅の無線LANである。

 あまり小さいと電波が通り抜けられないため一センチメートル弱程度の穴を開けたが、穴から入る光を増幅する魔法は併用していないので、いきなり繋がったようにも見えるわけだ。


 窓の外も日が昇り始めたのか明るくなってきた。天気は悪くないようだ。

 時差としては、四、五時間程度だろうか。地球の世界地図で言えばまだまだアジア圏なので、やはり異世界なのだろうなと思う所。

 まぁ、宗教は精霊信仰的なものだし、普通に頭を下げたりもするため、ここが地球のヨーロッパだったら逆に驚くが。

「さて。そろそろ城に行こうと思うが、忘れ物はないよな?」

「私は特に思い当たらない、かしらね。アニマちゃんは耳も尻尾もちゃんと出てるし……」

「首輪もこちらのものに替えたので大丈夫ですっ」

「そっか。それじゃ行こうか」

「はいっ」「ええ」



 いつも使っていた通用門で通行証を見せた後、少し待たされた後で応接間のような一室に通されて、更に少し。

 金髪碧眼で、相変わらずお姫様らしい見た目の、というか正真正銘この国の第一王女であるアモリアが部屋に入って来た。

 とりあえず、席を立ってから頭を下げつつ挨拶を。

「お久しぶりです、アモリアさん」

「はい、お久しぶりです、シライ様。とはいえ……何と申しますか、もっと先の事になるとばかり思っておりましたが……」

 途中で見かけた使用人がやや慌ただしく見えたのはその辺が原因だろうか?

「まぁ、魔法を使う所は見せて頂きましたから、こちらの研究成果を模倣したようなものですよ」

「そうですか……それでも凄いとは思いますが」

「ありがとうございます。とりあえず、俺の家についてはこのまま俺が権利を保有するという事でよろしいですね?」

「はい」

 地球で俺が空間魔法を研究し、一年以内にこちらへ来れなければ没収される、という口約束をアモリアとは交わしていた。

 その辺は俺から言い出した条件だし、普通に達成したので問題ない。問題といえばあれだ。

「それでなんですけど、この国を空間魔法の対象にする場合は、無条件じゃない方がいいですよね?」

「そうですね。人目を避けて、自重もして頂けたらありがたいです」

「わかってますよ。余程の緊急時でもない限り、俺の家と向こうの部屋を移動するために繋ぐだけです」

「城の、シライ様の部屋は対象に含めないのですか?」

「はい、城の中は避けた方が良いと思ってます。少しずれて、別の部屋に繋げてしまったら大変でしょう?」

「そうですね……ご配慮、ありがとうございます」

「どういたしまして。と、遅れましたがこれ、お土産です」

 スーパーで買った物であるため少々恐縮ではあるが、この世界で買える物ではない。

 二千円分程しか買っていないので、こちらの通貨で言えば銀貨四枚程度でしかないのだが……まぁ、この世界では売ってないからな。

「これは……饅頭……とはなんでしょう?」

「ええと…………お菓子ですね。注意点として、中に『たべられません』と書かれた脱酸素剤、お菓子が痛み難くするための消耗品が封入されています。それは破かないようにしておいて下さい。まとめておいて頂ければこちらで回収して廃棄します」

 脱酸素剤は大体使い捨てカイロと似たような中身で、鉄と活性炭を主成分とした物だ。俺の住んでいる部屋がある自治体では不燃ごみ扱いである。

 少々手間だが、この程度なら問題はない。

「……ええ、わかりました。そちらの袋に入っているのは……?」

「つまらない物で恐縮なのですが、書かれている通り、白い砂糖と塩ですね。こちらの袋は燃やしてしまっても大丈夫ですが、何でしたら回収しますので、その場合はまとめておいて下さい」

「…………わ、わかりました……。ありがとうございます」

「……詰め替えるなりしておけばよかったですかね? 申し訳ない」

「何か、意味があったのでは?」

「まぁ、ありますね。一度開けたら閉めるのは難しい袋なので、開封されていないという事は、混ぜ物をしていない証明にもなります。……この場で開封してみせた方がよろしかったでしょうか?」

「……そうですね」


 紙の包装をできる限りという程度だが綺麗に剥がし、厚紙の箱を開け、了承を得てから全体を包む袋に切れ目を入れる。

 土産に買ってきた饅頭は個包装ごとに脱酸素剤が仕込まれているものではなかったので、説明して見せながら回収した。

 そして個包装を開き、食べてみせつつ食べてもらいつつ、少しばかり感想を貰う。

 部屋に居ない者にもと半分程は残ったが、そんなに日持ちはしない事を念押しして、俺達の今日と明日の予定を伝えてから城を後にした。



 城を出てからは、一旦家に戻って着替え、荷物を入れた背嚢(はいのう)を背負ってまた外出。

 日本の役場のような狩人(ハンター)組合(ギルド)で情報収集──魔物も大人しいようなので行先に悩み、結果として、南から外に繋がる門を出た。

 馬車も少なかったので足を止める事もほぼ無く、左右に畑が広がる街道を抜けてからは軽く走り始める。勿論、脚力を補助する装置は全員装着済みである。

 少し経って森に着いたが、アニマ達も気分転換にはなったようで、やや明るく息を弾ませていた。これからも適度に機会を作りたいと思う。


 ただ、一応暑さには気をつけたものの、ほんのりと汗をかいてしまった。問題がない程度ではあったが、何となく、水場にある小さな岩に腰かけて涼む事にした。

「もうちょっと汗をかき難い移動手段も考えるべきかな?」

「あんまり楽をし過ぎるのもちょっとどうかと思うわよ?」

「それもそうだな」

「……私が、乗り物になるとか?」

「む、確かに今なら純粋な脚力はアニマの方がありそうだから……って考える余地はあるにしても、目的からはズレるな」

「そうですか……」

 残念そうに呟くアニマから視線が飛んでくるが、心を鬼にして目を逸らす。絵面が酷いし、魔物が出る森の中でいきなり実験するのも問題だろう。……ここに来るまでの街道で実験? いやそれもどうなんだか。

「……とりあえず、そろそろ行こうか。あんまり強い魔物は出ないにしても、油断しないようにな?」

「ええ、そのつもりよ」

「はい」

 二人の返事も聞けたので、小さく頷いてみせてから立ち上がり、森へ足を向ける。

 さて、今日は何を試そうか。

「……でも何となく、ユーリが一番やらかしそうな気がするのよね?」

「はっはっは」

 ……気をつけよう。


 やや憎々しい程に青く生い茂る広葉樹の森を三人で歩きながら、時折遭遇するゴブリンをさっと始末する。

 しばらくそんな調子でのんびり歩いていると、アニマがまた何かに気付いたらしく、足を止めた。

「あちらの方、一五〇メートル程先にオーガ一体、だけです」

 アニマが顔を向けた方向を見てみるが、木に遮られて俺にはわからない。まぁ、いつもの事だな。

「どうしたい?」

「私がやっても良いですか?」

「私はそれで良いわよ」

「了解、アニマに任せる」

「はいっ」

 アニマが要望を出し、アンナに視線を向けると同意も得たので許可を下した。


 二〇メートル程まで静かに近付くとオーガもこちらに気付いて持っていた丸太を構えたが、アニマもそれに応じて走り始め、オーガに迫る。

「やっ」

 剣に魔法を纏わせて、小さな掛け声を上げながらオーガの首を斬り飛ばした。

 地球に帰る前と比べても衰えてはいないようだ。


「よくやったな」

「えへへ」

「じゃあ、次は私で良いわよね?」

「ああ、良いぞ。アニマ、他には居るか?」

「えと……近くには居ないみたいです」

「じゃ、また適当に歩くかな」

 行き当たりばったりな方針だが、感覚器官の優れた仲間が居たら楽なだなと再認識した。


 とはいえ、いくら感覚器官が優れていようと居ないものは見つからないわけで。

「ふぅ……今日は少ないわね」

 そう言うの足元には、アンナによって仕留められたばかりのオーガが横たわっている。夕方まで掛かってようやく見つけた本日二体目のオーガだ。

「結構奥まで来たはずだが、そうだな。結構狩られてるのかな?」

「はい、この辺りも数日以内に何度か人が通ったような痕跡があります」

「それなら、むしろ遭遇できたのが不自然なのかしら?」

「かもなぁ。……もうしばらくしたら日も沈みそうだし、川を探して今日は休もうか」

「は、はいっ」


 川の近くで背嚢(はいのう)から色々出しつつ、アンナの協力を得ながら【固定】の力で樹上に三人で休むための部屋を作り、水を引く。

 魔道具の灯りに照らされながら晩飯を囲み、体を清めて床に就いた。



 ………………



「……む?」

 控えめに揺すられるような感覚で目が覚めた。

 俺を揺り起こしたのはアニマで、何かに警戒している様子である。

 どうしたのかと問うような意思を【伝達】スキルを使って伝えると、アニマからも【伝達】スキルで何かの感覚が伝わって来た。

「あちらの──」

「待った、声には出さないで」

 小声で報告しようとするアニマを遮り、アニマから伝わってくる感覚に意識を集中する。

 どうやら、五〇メートルほど離れた所までオーガが来ているようだ。こちらにはまだ気付いておらず、他には居ないらしい。

 ……というか、こんな伝え方もできたんだな。

 オーガの存在よりそちらに驚いていると、アニマは苦笑するような反応を見せる。

「……どうしたの?」

 アンナも起きてきたようで、俺の服を小さく引いて状況を聞いてきた。

「オーガが居たんだ、俺がやってくるよ」

「はいっ」

「わかったわ」

 小声でやり取りをしながら方針も決まったので、二人を部屋に残して外に出た。


 木の上から着地し、『怪物の脚(モンスターズレッグ)』で衝撃を吸収、再利用して距離を詰める。

「! ゴア……ッ!?」

「五月蠅い」

 武器を持っていなかったオーガの視界に入るとそのまま殴りかかってきたが、回避して更に接近、魔法を纏わせた剣で首を斬り落とした。


 オーガの身体が崩れるまで待ち、魔石を安定させて回収してから部屋に戻った。

「ただいま」

「おかえりなさい」

「おかえりなさいませっ」

「他には何か居るか?」

「えーと、むむむむ……」

「……?」

「……どうしたんだ?」

「あ、あれっ? ……その、あっちの方、一〇〇メートルちょっと離れた所にゴブリンが居るみたいです。わかる範囲だと他には居ません」

「成程、伝えようとして失敗してたのか」

「はい……」

「何か条件があるのかしら?」

「そうだな……手でも繋いでみるか?」

「は、はいっ」


 そのまま朝まで色々試した結果として、頭に浮かべた映像や感覚を【伝達】経由で送る事もできるようだ。

 何でも、俺から二人への映像や感覚の送信は行われていたそうだが、アニマも送信できるようになってきたらしい。

 まぁ、俺が受信しようとしていなかったために失敗していた様子なので、実際には今日より前からできていたのだと思う。少し試したらアンナも成功した。

 伝わり方は接触の仕方や距離でも変わるらしく、手を繋ぐ、腕を抱く、胴体を抱く、という順に伝わり易くなる。服越しか直接かでも差は出るが、この順が変わる程ではない。

 何がどの程度まで伝わるようにするかは送信側、受信側ともに選択でき、互いに認めた範囲でしか送受信は行われないようなので、まぁ、一安心である。

 背負っている時に、自分の匂いを間接的に伝えられるような事も防げるからな。



 帰りはアニマを背負って歩いてみたり、アンナをアニマに背負わせてみたり、少し拗ねた風のアンナを俺が背負ってみたりしつつ、王都まで歩いた。

 オーガの素材を換金し、市場で肉を買い込んでから帰宅。施錠をしてから日本の部屋に転移すると日が暮れていたので、風呂でさっぱりしてから適当にくつろいだ。

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