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仕様違いの魔法使い  作者: 赤上紫下
第 5 章

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08:警察

 ドアホンが来客を報せる電子音を鳴らしたので、応答するべく操作した。

「はい、どちら様ですか?」

『警察署の者です。白井、悠理さんでしょうか』

 聞こえてきたのは若い男の声だったが……警察署? 警察!? いやまぁアニマとアンナの二人には結構アレな事してるけど! って、警察署の者としか名乗ってないな?

「えー……と、とりあえず、出ますね」

 強盗の類なら対処できるかと通話を終了させ、玄関に向かった。


 ドアを開けると、外からむわっとした熱気が入ってきた。

 大雨だった昨日と違って今日は曇りだが、思わず顔をしかめてしまう程度には温度も湿度も高い。

 ドアの外にはスーツを着た二人の男が居て、一人は若く、もう一人は中年ぐらいに見える。そして、なんというか、二人を見て嫌な表情をしたような形になってしまった。

「……この暑い中お疲れ様です。それで、何処のどちら様が、何の御用ですか?」

「……〇〇警察署の者ですが、白井悠理さんですか?」

「その前に、ほんとに警察の方ですか?」

 若い方の男が俺に話しかけてきているが、まだ警察署の名前しか聞いていない。

 そのまま固まっていると、中年の方が警察手帳らしきものを縦に開いて見せてくれた。

「刑事第一課の鈴木です」

「っ……刑事第一課の田中です」

 中年警察官に続いて、若い方も同じく縦に開いた。若い方が巡査部長、中年の方が警部補と書かれていて、顔写真も顔と一致しているように見える。

 とはいえ、俺は警察官の制服や手帳が正規の物か判断できるほど詳しくはない。

「手帳を見ても本物かどうかなんてわかりませんが……私が白井悠理本人ですよ。免許証持ってきますか?」

「はい、お願いします。社員証もお持ちではありませんか?」

「社員証はたしか、月曜に会社へ郵送しましたね。免許証はありますんで、すみませんがちょっと待っててください」

「はい」

 玄関で待たせる形だが、なんとなく入られたくはなかったので、さっと寝室に向かった。


 寝室に向かい、財布から運転免許証を取り出す。

 アニマとアンナはこちらの様子を伺っていたので、安心させるように笑いかけると、静かに笑い返してくれた。

 念のために財布とスマートフォンも部屋着のポケットに突っ込んで玄関に戻ると、二人の視線は足元の靴に向いていた。……あー、アニマの靴もアンナの靴も置いてあるからなぁ。

「お待たせしました。免許証です」

 視線を逸らすため、というわけでもないが、声を掛けながら免許証を提示する。

「……本物みたいですね」

「そうだな。……貴方の行方が半年程不明だったのですが、その間の経緯を伺ってもよろしいでしょうか? できれば、署で詳しく。送りますので」

 中年の方、鈴木が俺の対応をするようだ。俺が日本に居なかった期間の情報もしっかり持ってるし、本物かな?

「時間はどのぐらい掛かります?」

「一、二時間は頂きたい所ですね」

「……まぁ、仕方ないですかね。外出用の服に着替えてくるんで、また少し、えと、玄関の外で待っててもらっていいですか? 着替えたらすぐ出ますんで」

「……わかりました」

 同意も得たので引き返し、カチャリと扉が閉まったところで、鍵は掛けないが【固定】で固めて寝室に向かった。


 多少の防音効果に期待しつつ、スーツ──は少し面倒なので上は半袖のカジュアルシャツ、下はジーンズに着替えながら、小声でアニマ達に話しかける。

「悪いが、今日は警察に行く事になった。俺の帰りが遅くなるようだったら夕食は二人で食べててくれ」

「……わかりました……」

「私達が付いていくわけにはいかないの?」

「そうするともっと何か面倒になりそうだからな。特に何もないとは思うが留守の間は気をつけてな。来客には出なくていいよ」

「わかったわ。行ってらっしゃい」

「……行ってらっしゃいませっ」

「おう、行ってくるよ」

 着替え終えたので、財布とスマートフォンを今のポケットに突っ込み、名残惜しいが玄関へ。

 念のため、魔力発生機能付きの『魔力容器(マナケース)』は持っていく。大きさ的にはスマートフォンがもう一個あるような物だが、おかしな程でもないだろう。

 何となく、特製のスマホケースだと言い張れるように、スマートフォンをくっつけておいた。


 靴を履いて外に出て、待っていてくれた先程の二人に声を掛ける。

「お待たせしました」

「はい、それでは行きましょうか」

「……」

 鈴木の案内で俺が歩き、若い警察官の田中は無言のまま、やや大きな足音を立てながら後ろに付いてきた。



 案内された車は普通の車に見えたので訝しんだところ、収納用の袋に入っている赤い回転灯(パトランプ)を見せてくれたので、指示に従って後部座席に乗り、揺られる事しばらく。運転免許証の住所変更で来た覚えのある大きな建物に辿り着いた。

 そのまま先程の中年警部補、鈴木の案内に付いていくと、一つの部屋に通された。

「……事情聴取室? 取調室とかじゃないんです?」

「取調室は被疑者用ですよ。……何か、取調室に通される心当たりでも?」

「いえ、純粋に存在を知らなかっただけですよ。へぇー……」

 狭い部屋だが、窓に格子が嵌っているような事もなく、観葉植物等も置かれており、どことなく明るい印象を受ける部屋だ。

 まぁ、録音装置やカメラぐらいはあると思うが、その位は当然だろう。やや煙草の匂いも漂っている気はするが、灰皿はない。

「コホン。そろそろ話しを聞かせていただいてもよろしいですか?」

「あ、はい、どうぞ。何からお話ししましょうか」

「そうですね。まずは、行方不明になる直前の話をお願いします」

「わかりました。えー、今年の一月ですね。年が明けてすぐの満月ぐらいの日に、シャンプーが切れてたんで買い物に出たんですよ」

「そうですか」

「はい、それで──」


 主観では一八年以上も前の話だが、たびたび思い返していたため、記憶は比較的鮮明である。とはいえ、勘違いで上書きした可能性は無きにしも非ず?

 不安は少しあるが、憶えていた通りの経緯を鈴木に伝えていく。


「──で、木の根本に猫を置いて帰ろうとしたら、何か明るくなったような気がして、意識が飛んだんですよね」

「意識が飛んだ……というと?」

 ……エルヴァンだった頃の話は、省くか。

「どうも私は死んでたらしくて、たまたま居合わせた人に蘇生してもらったんですけど……」

「…………んん?」

「蘇生してもらったら全く知らない、石造りの部屋の中にいて、時間も四か月近く経ったんですよね……いや、信じ難い話なのはわかりますけど、私の主観ではそうだったので」

「……そう、なんですか。その、四か月ですか? それだけ長く仮死状態にあったんですか? 後遺症などは……」

「不思議な事に、何もありませんでしたね。蘇生された直後は体がだるかったぐらいです。服装は一月に着ていた物のままだったんで、あの時は暑かったです」

「……それからはどうなさったんですか?」

「住居は用意してもらえたんで、肉体労働で生計を立てたところ、まぁ随分評価していただきまして。つい先日、無事日本に送り帰してもらった次第です」

「…………よければ、その具体的な内容をお聞かせ願えますか?」

「えー……と、基本は刃物や弓を使った狩猟ですね。ちょっとした争いごとを治めたりもしました。二か月ばかりの期間ですが、筋肉が結構付きました」

「………………その、二か月ほどの間住居としていた場所の、具体的な位置はわかりますか?」

「……緯度や経度、辿り着くための交通手段はさっぱりですね。強いて言うなら、季節は日本と同じだったようなので……北半球でしょうか?」

 魔法で行くなら割と近いが、物理的に行く手段など想像がつかない。

 そして、恐らくは地球でない以上、緯度や経度を割り出したところで意味は薄いだろう。

「同じように行方不明になっていた邦人はご存知ありませんか?」

「ほうじん……日本人ですか。ええと、私を蘇生してくれたのが日本人の高校生でした。私と一緒に送り返してもらいまして……まだ、高校生なのかな? 連絡は取ってないので経過は存じません」

「…………その、少年のお名前は?」

「……少年? あ、女子高校生でも少年扱いなんですっけ」

「ええ、仰る通りですね。その方のお名前を伺う事は可能でしょうか」

「うーん……命を救ってもらったのは確かでして……あんまり名前は出したくないんです。ご遠慮いただけませんか?」

「そうですか……」

「ええ、恩人の追跡は警察の仕事じゃないでしょう?」

「その方が貴方を誘拐したわけではないんですよね?」

「ええ、それは間違いないと思います」

「貴方も、誰かを誘拐したりは、してませんよね?」

「当たり前じゃないですか。国際法……はあんまり詳しく知りませんけど、現地においては現地の法に従ってましたし」

「そうですね。……以上ですか? ありがとうございました」

「どういたしまして。……もう帰っていいんですかね?」

「調書を作成しますので、もうしばらくお待ちいただけますか?」

「……まぁ、いいですけど」


 待っている間に少々雑談を振られたが、芸人の誰々がどうこうだとかいう話はわからなかったので正直に告げた。

「煙草は吸われますか?」

「煙草は吸わないですね。残る匂いが好きではないですから」

 特にアニマは鼻が利くので、昔より気になる所だ。我慢してくれそうな気もするが、そんなところで負担を掛けたいとは思わない。

「そうですか……普段、お酒はどの程度飲まれます?」

「普段は全然ですね。体には回りますけど……気分が変わるほど飲んだ頃には眠気が来ますんで、飲む意味がほとんど無いんです」

「それはまた、難儀な物ですね」

「まぁ、熱燗四、五本飲んでも理性は揺るがないんで、飲み放題の飲み会なんかではちょっとだけ便利ですよ。普段なら、ジュースや茶やコーヒーですね」

「そういえば、行方不明になる直前にも購入しておられたんでしたか」

「はい。私は酒を飲むより、甘い物を飲み食いして頭に糖分(エネルギー)を送りながらぶん回す方が気分はよくなりますから……糖尿病にはなりたくないですね」

「成程。カフェインや糖分の摂り過ぎには注意ですね。カロリーハーフやカフェインレスといったものは?」

「飲んだ時に物足りなく感じてからは、買ってませんね。勿論、中毒にならない程度の加減はしてますよ?」

「ほほぅ」

 しかし、飲食物の嗜好の話ばかりしているというのもどうなんだろうか。そういえば──

「ちょっとした興味の話なんですが、一つ良いですか?」

「はい、何でしょう?」

「例えば、地球でない、地球に似た惑星で生まれた人間が最初に日本に上陸して、自主的に帰還する手段を失ったらどうなります?」

「漫画かドラマの話ですか? 私はそういうのは詳しくないんですが……」

「いえ、例えですけど真面目な話で。法律上は『入国の許可を得ずに上陸した外国人』とかになるんでしょうけど、強制退去させようにも船や飛行機じゃ送り返せないでしょう? どうするんだろうなーって思ったんですよ」

「その場合はどうなるんでしょうね? ……武器は携帯していない前提で?」

「そうですね。ついでに、言葉は通じる前提でお願いします」

「……その場合は、どうなるんでしょう。私にはわかりかねます。申し訳ない」

「いえ、変な質問をしている自覚はあるんで、お気になさらず」

「とりあえず、検疫は済ませていただきたいところですかね。そこから病原菌やウイルスが広がって、というのは導入としてたまに見かける話ですから」

「そうです、ね? ……って、ああ、忘れてました」

「? 何か持ち込んだんですか?」

「いえいえ、私です。日本に送り返してもらいはしたんですけど、気付いたら街中に居た感じで……検疫受けてないんですよ」

「っ!」

 ガタッと音を立てながら鈴木が動揺した。

 もっとも、回復魔法は細胞単位での異常の検出と処理が可能であるため、細菌どころかウイルスに感染した細胞やがん細胞も正確に潰せる。

 あらゆる細菌や異常にいちいち回復魔法を使っていては消費する魔力が大きすぎる上、免疫力に影響が出そうなのであまりやらないが──こちらに来る際には一応きっちり掛けていたので、検疫的な面での問題もそうそうないはずだ。

 まぁ、頭のおかしな奴だと思われそうだから、動揺している鈴木には悪いがそれを明かす気はない。既に手遅れな気もしないでもないが、うん。

 沈黙したまま少し時間が流れたところで何かが印刷され始め、俺と鈴木の視線がそちらを向いた。

「……何です? あれ」

「……あれは、今回の調書となります。内容にご納得いただけたら、サインをお願い致します」

「? はあ……」


 内容が読み上げられ、書類に目を通してみても、確かに俺が言った通りの経緯が記されている。

 高校生については記述もなく、特に不自然な点は見当たらなかったので、署名をしておいた。

「事情聴取へのご協力ありがとうございました。ただ、先程仰った高校生についてもう少しお話をお聞かせ願えますか?」

「あ、はい、そうでしたね。ええと、本堂駆って名前の、一六歳の男性です」

 検疫絡みなら黙っているのは問題であるため、正直に答えておく。予想がついていたのか、鈴木は納得顔だ。

「やはり、そうでしたか。ええ、彼なら検疫を済ませていて、身体的な意味では健康である事が確認されています」

「それは良かったです。生活環境は殆ど同じようなものだったので、彼が健康なら私も多分大丈夫でしょう」

「……ただ、診療所は署内にありますので、一応そちらで検査を受けてください」

「わかりました。ええと、場所は……」

「私も一緒に向かいます」

「ありがとうございます」


 署内にあった診療所で問診を受け、血液を提出してと、各種の検査を受ける。

 わかり易い問題は見つからず、帰宅の許可が出たのは一時間程経った頃で、窓の外は暗くなりかけていた。

 詳細な検査にはもう少し時間が掛かるらしいが、結果は電話で教えてくれるそうだ。

「後は、何かありますか?」

 妙に疲れた様子の鈴木が声を掛けてきた。

「何か……あ、私の捜索願なんかは出てたりします、よね? 私の事を行方不明だったって認識してたんですし」

「ええ、正式には行方不明者届といいますが、その通りです。現在有効な物はご家族からの届だけで、後でご家族にはこちらから連絡させていただくかと思います」

「はい、お願いします」

「はい」

 …………。

「…………それで、帰りたいんですけど……私はどうやって帰れば良いんでしょうか」

「タクシー代を支給しますよ」

「……それは、どうも」

 微妙に釈然としない所だが、タクシー代が出るならいいか。


 タクシーを探そうかと思ったが、家電量販店に用がなくもなかったなと思い出し、現在地点との位置関係を思い出して、家電量販店の方に足を向けた。

 あまり二人を待たせても何だからと、有線のイヤホンとステレオの分岐ジャックを、それぞれ二つ手に取る。

 ついでにデジタルカメラでも買おうかと思ったが、これはスマートフォンで事足りる、かな?

 とりあえず外付けハードディスクを一つ加えて────。


 一通り買おうと思った物を買い終えてから、タクシーを捕まえてマンションの前まで送ってもらった。

 料金を支払ってタクシーを降り、そのまま郵便物の確認を済ませる。今回はエレベーターが一階に居たのでエレベーターで上り、自室の玄関の鍵を開けた。

「おかえりなさいませっ」

「おかえりなさい」

「ただいま」

 鍵を開け、扉を開くとアニマとアンナがそこで迎えてくれた。施錠をしながら話を続ける。

「出迎えてくれたのは嬉しいが、部屋着に着替えるからすまんが奥に行ってくれ。と、夕食は……まだ食べてなかったのか?」

「もうちょっと遅かったら手を付けてる所だったけど、まだ私もアニマちゃんも食べてないわよ」

「ありゃ、それじゃさっと着替えてくるかな」

「ええ」

 風呂に入ってさっぱりもしたかったが、食事の用意が整っている状況でやる事ではないだろう。


 手を洗ってから服を着替え、家電量販店の紙袋を寝室に置き、食卓を囲んで夕食を味わった。

 食後は風呂場でアニマに背中を流してもらいつつ、やや長めに疲れを癒した後で、寝間着に着替えて寝る準備。

 法律関係の事を色々調べてみているうちに、丁度良い時間になってきたので、三人並んで眠りに就いた。

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