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仕様違いの魔法使い  作者: 赤上紫下
第 5 章

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07:今までよりも、もう一歩

 やや閲覧注意。

 今回の話は読み飛ばしても問題ありません。

 朝から降る雨は止まないまま、気が付けば時刻は昼前になっていた。

 左右からは、落ち着いた寝息が聞こえている。どちらも体調を崩しているような様子ではないため、本当にただ眠かっただけらしい。

 手元にある小説を読み終えてしまってもまだ寝ていたので、掴まれていた服からそっと手を離させて、本棚に本を戻して部屋を出た。


 とりあえず、さっと用を足し、顔を洗って喉を潤した。

 朝から何も食べていないので流石に腹も減ってきたところだが、調理の前にリビングに干してある洗濯物を畳んでしまう。

 洗濯物を畳み終えてからは、遅めの朝食にと、冷蔵庫を開いて三人分のウィンナーと卵を取り出した。

 ご飯は昨晩のうちに予約してあったものが炊けていたため、下の方から優しくかき混ぜておく。

 煮物用の小鍋に浄水を張り、少量の乾燥わかめと顆粒状の昆布だしを投入して火に掛ける。

 フライパンに油を少量垂らし、ウィンナーで薄く塗り広げてからウィンナーを追加で投入、こちらも中火程度で炒め始めた。

 その間にわかめが膨らんだので、左手で菜箸、右手で料理ばさみを使って、鍋の上で適度な大きさに切り分ける。

 ウィンナーに多少焼き色が付いたら弱火に変えて配分し、卵を三個割り落として蓋をする。これでこっちは、火が通るまでじっくり待つだけだ。

 冷蔵庫から豆腐を出し、水洗いしてから手に乗せたまま包丁で、まず縦横に切り、上下に切り分けながら鍋に投入。後は煮立つ直前に火を止めて味噌を溶けばいい。

 そのままキュウリとトマトをいくつ取り出そうかと考えた所で、寝室の扉を開く音が聞こえた。二人とも起きてきたようだ。

「おはようございます、ご主人様っ」

「おはよう、ユーリ」

「二人ともおはよう。もう大丈夫か?」

「はいっ」

「うん、まだちょっと眠いけど、もう大丈夫」

「そっか。まぁ、顔洗っといで」

「……手伝わなくて、いいの?」

「ああ、後は待って少し手を加えるだけだからな。できたら呼ぶよ」

「……そう?」

「おう」


 野菜は洗って切り、キュウリには適当にマヨネーズを掛けておく。

 汁は火を止めてから、適当に取った味噌をおたまで溶き、全体を軽くかき混ぜる。俺用の椀に少量注いで味を見て、良さそうだったので味噌汁も注ぎ分ける。

 やや豪華な目玉焼きの火も止めてから配膳し、ご飯は、必要ならおかわりをすればいいかと軽くよそった。

「できたぞー」

「はいっ」

「あ、う、うん、今行くわねっ」

 寝室に戻っていた二人に声を掛けると、アニマにやや遅れてアンナもリビングに来た。

「……アンナ? 顔が少し赤く見えるが、大丈夫か?」

「だ、大丈夫。何も問題はないわよ」

「あ、あはは……」

 アンナは嘘を言っているようには感じられず、アニマは何か知っているようだが、乾いた笑いを漏らすだけだ。

「ま、問題ないならいっか。いただきます」

「「いただきます」」


 チャッチャッと箸が立てる音を聞きながら、二人の様子をそっと見てみた。

 箸はまだやや不慣れなようだが、握りも刺しも交差もせず、それなりに上手く扱えていると思う。

 とはいえ流石に遅れはするので、二人に合わせてややペースを落としつつ静かに味噌汁を啜って、ほっと一息。

 もう一口啜っていると、何やらもぞもぞと動くアンナに目が行き──俺の視線に気づいたアンナは顔の赤みを増した。

「……?」

 よくわからない反応だったが、とりあえず、箸を進める事にした。


「ごちそうさまでしたっ」

「ごちそうさま」

「ほい、どういたしまして」

 いただきますは食材への感謝、ごちそうさまは調理者への感謝の言葉だ。

 普通なら『ごちそうさま』には『お粗末様』と返すのが定番ではあるが、食材を買う時には二人にも手伝ってもらっている。手伝ってもらいながら買った食材で調理した物を粗末とは、なんとなく言い辛い所である。

「そっ、それじゃあ、食器を洗うわね」

「ん? じゃあ、よろしくな、アンナ」

「ええ」

 アンナに食器の後片付けは任せて部屋に戻り、朝読んでいた小説の続きを手に取った。


「あっ…………むう、うぅぅ」

「?」

 忘れていた展開を読み進めていく途中で、何やらアンナが上げた声が気になった。

 リビングを覗いてみると、アンナは洗い物の途中で手を止めており、泡の付いた手と食器に目を向け、唸りながら食器洗いに戻った。

 ちょっとだけ、アンナの食器を洗う速度が速くなった気がする。


 アンナは時折唸りながらも無事に洗い物を終え、寝室に戻ってきた。

「お疲れさん」

「っ、え、ええ、どういたしまして」

 アンナはそのまま本棚から本を一冊手に取り、少し離れたところに座って、また小さく唸った。

「……アンナ、ちょっと」

「えっ? ゆ、ユーリ? っ!」

 声を掛けてから、体調を診るべく腕を回してアンナを抱き寄せてみると、強く張った布の感触と、やや高い衣擦れのような音がする。

 そして、違和感の元を確かめるべくもう少し触れてみると、先程までの原因に想像がついてしまった。

 まぁ、体調が悪かったわけではない事がわかって安心できたのは良い。それは良いとして。

 寝ている時は普通の下着だったはずなのに、外側も寝間着にしていた服から変わっていないのに──

「……なんで、中に水着を着てるんだ?」

「っ、う、これはその、その……ね?」

「いや、咎めるわけじゃないんだけどさ」

 諦めたように力を抜くアンナの乱れた服からは、肌とは違う白い色が覗いている。

 競泳水着というものは、水の抵抗を減らすために、水着と肌の間に水が入り難いように締め付ける構造になっている。水が入り難いようにギリギリ着られる程度の小ささのものを選ぶ場合もあるらしいが、競泳に使う事はなさそうなので、そういった選び方はしていない。

 下半身部分(ボトムス)脚の出方(カット)は脚の付け根のラインとほぼ一致するものだし、買ったのはピッタリフィットする程度のサイズである。

 だがそれでも、着慣れていれば別かもしれないが、アンナ達はこの世界に来て初めて着るものだ。そりゃあ違和感もあるよなと変に納得してしまった。

 購入時には俺の趣味をがっつり反映されたため、普通ではない状況とアンナの恥じらいも相まって、強く意識を引きつけられる。

「……その、ほら、お風呂で着てみた時は結局、上がる時に脱いじゃったじゃない?」

「濡れた水着で部屋を歩き回られるのは、ちょっと困るしな」

「そ、そうでしょ? でもその、ユーリはこういうの、好きでしょう?」

「……まぁ、そうだな」

「だから、こうすればお風呂だけより長い時間でも大丈夫よね、って思ったんだけど」

「……上に服を着てる理由は?」

「……直前に、ちょっと恥ずかしくなっちゃって……」

「成程なぁ……」

 着てみたところで俺から呼ばれて、待たせないように外側だけ整えた、という流れか。

「はぁ、もうバレちゃったし、服はもう脱いじゃうわよ。…………その、ユーリ? 離してくれないと、水着を見せられないんだけど」

「……いっそ、このままで居るのはどうだ?」

「え? …………えっ? 貴方がそう言うならそうするけど……わ、私が水着を着てる所、あんまり、興味……ないの?」

「いや、興味はあるぞ? 今の状態にも別の良さを感じただけだ」

「……えと、ありがとう?」

「こちらこそ? それはそれとして、最初は病気にでもなったのかと心配したんだからな?」

「あ、それは、ごめんなさい……」

「うむ。なので、存分に弄られたまえ」

「……あはははっ、うん、ごめんなさい。えっと……どうぞお好きになさって下さい、ご主人様?」

「うん? ……そうだな、そうしよう」

 やや冗談めかして言ってみたところ、アンナからは珍しいご主人様呼びで返された。

 アンナの献身に甘える形だが……さて、何をしようかね?

 ひとまず、アンナの高まった心拍と体温を感じ取った。



 夜が更け、やや名残惜しくも風呂から上ってすっきりした頃には雨も上がっていたので、やや心許なかった食材を買いにスーパーまで足を運んだ。

 当然、全員が下着類(インナー)を含めて普通の服装──具体的に言うなら、上は袖つき、下は長丈のズボンであり、スリット等も入れていない。

 肉や野菜をカートのかごに投入した後は、どうしようかと悩んだが、団子粉とわらび餅粉、きな粉と、ついでに黒砂糖もと、一袋ずつ入れてみた。

『えっと、茶色の砂糖は分かるんだけど、他はそれぞれ、どういう粉なの?』

『きな粉は大豆の粉で、あとは何だっけか。団子粉はうるち米……ええと、普段食べてる米の粉と、もち米っていう少し違う米の粉を混ぜたもの。わらび餅粉は甘藷(かんしょ)澱粉(でんぷん)か。サツマイモを加工して作った粉だな』

『ええと、サツマイモって、何です?』

『適当に温めるだけで食べられる、甘い芋だよ。多分、今もどこかのコーナーで売ってると思う』

『へぇ……小麦粉とは違うのよね?』

『どれも結構違うぞ。団子粉は無駄に素直だし、わらび餅粉は水に溶かして熱したら透明な餅になる。きな粉は、沢山使っても大丈夫な調味料ってところかな?』

『うーん……』

『ま、どれもお菓子の材料によく使われる物だよ。っと、サツマイモも売ってたか。何本か買っておこう』

 カートの重みを徐々に増しつつ、米売り場を経由してからレジに向かった。


 無事に食材を購入した後は特に寄り道もせず、車のせいで跳ねる水を避けるように、車道からやや離れて街灯が照らす歩道を歩いて家に帰る。

『気温も湿度も随分違うが、夜にこの道を歩いてると、昔の事を思い出すな……』

『たしか、ご主人様が召喚……じゃなくて、一回、死んだ、時……でしたっけ?』

『そうそう、気づいたらエルヴァンになってたんだよな』

『へぇ……たしか、ユーリの、自転車もそこにあるだったわよね?』

『多分そうだな。まぁ、今は行かないけど』

 と、普通の事を言ったつもりだったのだが、二人にとっては意外なことだったようだ。

『行かないんですか?』

『今日は大雨だったからぬかるんでそうだし、買った物を持ったまま行きたくはないなぁ』

『なるほどです』

『自転車は回収しなくていいの?』

『半年も雨ざらしだったなら錆び放題だろうし、今更だよ。しばらくしたら、明るい時に行ってみよう』

『明日とかじゃないのね』

『大雨から数日間は危ないからな。雨がもう少し降るようなら伸ばすが、最短でも数日後にはしたい』

『わかったわ』



 部屋に帰り着くと俺の口から大きな欠伸が出てきたので、購入した食材はそれぞれ適切な場所に置き、寝る準備も済ませて就寝した。



 ………………



「ひゃっ……!?」

 近くで、誰かが、小さく声を上げた。

 何だろうかと考えて、先程の声の元はアニマだろうと判断しつつ、現状の確認。

 ついさっき寝返りを打ったような気がするな、とぼんやり考えながら目を開けると、目の前に見慣れた緑色の髪と耳がある。少しずつ、やや暗い寝室も目に見えてきた。

 世間では暑い時期ではあるし、耳の良いアニマに配慮してエアコンの稼働は最小限だが、壁には【固定】の力を通してあるので、外の熱は大半を遮断できている。抱き合って寝ていても、やや汗ばむ程度で済むぐらいには快適だ。

 だから、まぁ、女性的な柔らかさを味わうための障害は無いわけだ。

「…………?」

 控えめな催促を【伝達】スキル越しに感じるのは、アニマを抱えている時にはよくある事。

 アニマはこちらを向いているから、やや荒くなってきたアニマの鼻息を胸元に感じるのもいつもと同じ。

 ただ今日は、腕から伝わる感触がいつもと少し違う気がする。

 目が覚めて、徐々に正確になってくるこの感覚から判断すると──

「え……えと、おはようございます?」

「……おはよう、アニマ。アニマは……いつから着てたんだ?」

 腕から伝わる感触の根源は、俺が寝る時には着ていなかったはずだ。

「ご主人様が寝て、少し経ってからです」

「……ちゃんと眠れたか?」

「えと、はい。一昨日の夜よりは、ちゃんと」

「それなら良い、のかなぁ」

 まぁ、多少寝難いとしても、鎧を着たまま馬車で眠った時と比べればマシか。


 時間的にも丁度良かったので部屋の灯りを点けると、アニマの姿がはっきり見えた。

 頭髪は緑色で、室内では偽装をしていないので、頭の上には猫のような三角形の耳が出ている。

 アニマの競泳水着はアンナとほぼ同じデザインの物で、下半身部分(ボトムス)脚の出方(カット)もアンナの物と同じぐらいだ。

 試着が不十分だったせいかアンナよりやや余裕は少ないものの、見た目(シルエット)が崩れる程ではない。

 水着の背中側は大きなX字を描くように腰部分にも穴は開いているが、猫に似たアニマの尻尾は付け根が隠れる位置にあるので、水着の外には出ていない。

 風呂場で着てくれた時と同じなら、尻尾に負担がかからないように水着の内側、下を通って(へそ)の少し上に先端があるはずだ。

 水着の上には、無着色のままアニマの体格に合わせて編んだ木綿(コットン)の薄いシャツを着ていて、中に着ている濃紺色の水着が少し透けて見えている。

 そして、手足には濃紺色に染めた木綿(コットン)の、長い手袋(ロンググローブ)長い靴下(サイハイソックス)

 アニマの肌は白いので、コントラストが眩しい組み合わせである。

 で、首にはいつもの、黒い革のチョーカー。

 水着以外は俺が作った物だが、改めて見ると………………何っっだろうなぁ、この、にじみ出る変態臭……!

「!? っだ、ダメでしたきゃうっ……!?」

 アニマは、水着の中で動いた自分の尻尾の感触に驚いたようだ。

「ダメじゃあないが……ちょっと待ってくれ。落ち着きたい」

「うぅ……は、はい。……えと、着替えましょうか?」

 現物を見る機会なんぞ無かったとはいえ、漫画ではたまに見るような姿だ。もっといかがわしい姿の絵も見た覚えはある。落ち着け、俺。

「……アニマなりに考えて着たんだろうし、ちゃんと嬉しかったよ。ただ、ちょっと、驚いただけだ。悪かったな」

「いえいみゅえっ!? ……そ、その、喜んで、いただけたのなりゃっ……」

「……とりあえず、尻尾用の穴、開けよっか」

「……すみません、お願いします……」


 水着の調整後、アンナが作ってくれた朝食を囲みつつ、少しずつ箸を進める。

「……それ、暑くないの?」

「屋内に居るなら大丈夫ですよ?」

「ふぅん? ……家事にはあんまり向かないけど、私も今度は手袋してみようかしら」

 …………。

「アンナさんだったら、えと、ご主人様みたいにあの力で手を覆えば良いんじゃないんですか?」

「ユーリは普通に扱ってるけど、あれ結構難しいのよ? 私もこの力は長く扱ってるけど、素直に手袋を外した方が楽ね」

「へぇぇ……そういえばご主人様は、私が生まれた世界の力も私なんかよりずっと上手に扱いますからね」

「アニマちゃんが知ってる中ではどのぐらい凄いの?」

「私が知ってる中では一番ですっ」

「……いや、あれは、この世界で学んだ経験を応用してるからだからな? 魔法なんかは更に、その力を組み合わせてるからだしな……」

 二人が盛り上がっている話題は俺にとって照れくさいもので、なんとなく混ざり難かったが、そこだけは否定しておく。

「……だとしても、器用よね?」

「……私もそう思いますよ?」

「ぐぬ……」

 あっさり言い負かされてしまったので、朝食に逃げる事にした。


 話を大よそ聞き流しながら朝食を終えた後。

 何かもう随分吹っ切れてきてしまったので、アニマを抱え込んだまま何をしたいかを聞くと、PCにインストールしてある(ブツ)の閲覧を所望された。

 一八歳未満の閲覧が禁止されている旨と、フィクションである事。空想と現実の区別をちゃんと付ける事、犯罪にあたる行為は真似しない事等の注意を徹底した後で、起動。

 音については、イヤフォンはあるがスマホ用、起動する(ブツ)はステレオのみ対応、複数のヘッドフォン類を接続するためのジャックはなく、スピーカーとヘッドフォン両方から音を出す設定は見当たらない、などなどの問題があった。

 俺としても久しぶりに音は聞きたかったので、やや小さめの音量でスピーカーを利用する形で話はまとまった。ただし、音声(ボイス)だけはかなりミュートに近い状態である。


 濃紺の長い手袋(ロンググローブ)に包まれた細い手が、マウスを操作し(ブツ)の画面を切り替える。

 ネタバレ防止のため俺は操作に携わらず、【伝達】によって伝わる意思も最低限になるよう制御している──はずなのだが、アニマが時々過激な場面へ繋がる選択肢を明らかに狙って選ぶのは何故だろうか。

 まぁ、そういう場面でアニマから伝わってくる妄想内の多役っぷりがカオスなのは置いておく。

 そして、アニマの血圧や心拍がやや高い気がする。俺は回復魔法が使えるので、時々でもちゃんと診ていれば問題もないとは思うが、一応注意しておくべきか。

 アニマもアンナも普通に若いし、血管も診た限りでは健康だとはいえ、流石に興奮しっぱなしでは体に悪いだろう。


 昼時になったので一旦中断させて、サツマイモを輪切りにしてじっくり蒸す事にした。おやつという名目なので、作る量は少なめだ。

「アニマー」

「はーい」

 俺の声に応じて無防備に歩いてきたので、椅子に座ったまま捕獲してから体調を診る。

「大きく息を吸ってー、吐いてー。ゆっくり繰り返そうなー」

 ……やっぱりちょっと心拍が普段より早い、かな?

「……えと、何か問題でもありましたか?」

「ずっと心拍がいつもより早いままだと思ってな。ちょっと落ち着こうか」

「落ち着かなきゃ……ダメですか?」

「ダメです。サツマイモが蒸しあがるまでに落ち着けなかったら、普段着に戻させて寝かせるからな?」

「わ、わかりましたっ。頑張って落ち着きますっ」

「っははは。ほら、寝る時みたいに力を抜いて、ゆっくり息をすればいいんだよ」

 アニマの発言のおかしさに笑ってしまったが、アドバイスはしっかり送っておく。


 数分後、アニマはいつもの調子に戻ってきたので可愛がり、更に待つこと十数分。

 いつもよりはやや興奮しやすいものの、健康的には大丈夫そうだと確信できたので、食後の事を話しながら蓋を取った。

 菜箸を刺してみたところ火は通っていそうだったので、大きめの皿二つに取り出し、片方には少量の塩を振っておく。

「こっちに塩は振らないんですか?」

「比較用だな。塩を振った方がいいなら、こっちを食べる時にまた振ればいい」

「なるほどっ」

「皮はそのままだけど、大丈夫なの?」

「サツマイモは皮ごと食べても大丈夫だよ。土はしっかり洗い落としてあるし、火は通ってる。どうしてもダメってのなら剥いてもいいが、まずは試してみてくれ」

「へぇー……」

 食器としては、箸と取り皿を用意している。

 俺は手本として、大皿のサツマイモに箸を伸ばして齧りつき、口に入らなかった分は手に持ったに取り皿に置いた。

 口を付けた物を取り皿に戻すのは、箸の正式なマナーとしては少々よろしくないらしいが、主観的には長年異世界で暮らした俺が、異世界人二人の前で気にするところでもない。

 ……うん、良い甘さだ。

 二人はどちらかといえば塩を振った方が美味しく感じたらしいので、次からはそうしようと言いつつ、冷えた麦茶で喉を潤した。


 PCの前に戻り、休止していたPCを起動させる。

 深呼吸をするアニマに対して苦笑しつつ、背もたれ役として腕を回す。

 データをロードし、マウスが数回クリックされた所で、アニマの動きがピタリと止んだ。

「……どうした?」

「外の階段を上りながら、この部屋の番号を口にしてる人が居るみたい、です?」

「む、来客か……何だろ?」

「えと、何を言ってるかまではちょっと……」

「あ、すまん、日本語はまだ上手く聞き取れないよな」

「すみません……」

「いいって。二人ともこの部屋で大人しくしててくれな」

「ええ」

「はい、えと、このそふとは……」

「また後でな」

「はぁぃ……」

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