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仕様違いの魔法使い  作者: 赤上紫下
第 5 章

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04:ファミリーレストラン

 俺達がファミリーレストランに入ると、それを報せる電子音が鳴り、店員がこちらに歩いてきた。

「いらっしゃいませ。何名様でしょうか?」

「三人です」

「おタバコは吸われますか?」

「吸わないです。禁煙席空いてます?」

「はい、あちらの方が禁煙席となっております。お好きな席へどうぞ」

「ありがとうございます」

 店内を見回すと、外からも見えていたが、席は六割ほど空いている。

 ちらりと喫煙席の方にも視線を向けてみると、席数は少ないようだが、埋まり方は同程度だ。天井から喫煙席である事を示す絵と文字の書かれた(プレート)が下がっている。

 喫煙席はいいとして、俺達は何処の席に座ろうかと考えたところ──ドリンクバーからそれなりに近い四人用のボックス席が空いていたので、そちらに座った。

 仕切りの中で向かい合うソファーのうち、一方にはアニマとアンナが並んで座り、俺と荷物はもう一方だ。アニマ達の背後は空いている別の席であり、俺の背後は通路である。


 席に着いて間もなく、店員がフォークやナイフや箸が入った食器類用の箱(カトラリーケース)とおしぼりを持ってきた。

「ご注文はお決まりですか?」

「いえ、決まってないです」

「では、ご注文が決まりましたら、そちらのボタンでお呼びください。冷たいお水はあちらのドリンクバー横に御座いますので、ご自由にどうぞ」

「はい、どうも」

 店員が立ち去ったので、まずはおしぼりで手を拭きながら、二人にも拭かせる。

 メニューのうち一冊は二人に渡し、もう一冊に目を落とそうとしたところで、二人からの視線を感じた。

『……なんだ?』

『あ、いえ、見慣れない物ばかりだったので』

『ま、わからんでもないか。二人とも、メニューの見方はわかるか?』

『なんとなくぐらいなら、わかります』

『多分、大丈夫』

『そっか。とりあえず、夕食も兼ねるつもりで選んでくれ。ご飯やパンはセットで頼むつもりだから、そこも忘れないようにな』

『はい』

『うん』

 二人に注意も終わったので、おしぼりで手を拭きながら改めてメニューを読んでいく。

 ……肉は食いたい気もするが、ステーキはあんまり量が無いんだよなぁ。ハンバーグでいいか。


 当然というか、こちらの料理の知識がある俺の注文が最初に決まってしまったので、メニューを渡して二人がそれぞれ読めるようにした。

 それでも、初めて見る料理が多いからか、料理が決まるまで、それなりの時間は掛かった。

『飲み物は、えと、どれがいいでしょう?』

『ドリンクバーっていう、そこのコーナーで好きに飲めるサービスを全員分頼む予定だから頼まなくていいぞ?』

『そうなの?』

『ああ、こっちの、セットメニューって奴でな』


 注文が大よそ決まったことを確認し、ボタンを押してからしばらくすると、店員が注文を取りに来た。

 二人の日本語はまだ怪しいので、俺が応対する。

「それでは、ご注文をどうぞ」

「えーと、このハンバーグをドリンク付きの洋食セット、ライスで一つ。あ、大盛りって値段変わります?」

「いえ、無料で変更できます。大盛りでよろしいでしょうか?」

「はい、それでお願いします。……次に、このサイコロステーキを同じセットのライス大盛りで一つ。……この、チキンドリアを同じセットの、やっぱりライス大盛りで」

「……はい。ご注文は以上ですか?」

「いえ、唐揚げが一つと、デザートで、あ、これセットに加えられますか?」

「はい、大丈夫ですよ」

「じゃあ、チョコレートケーキとチーズケーキを一つずつセットでお願いします。以上で」

「唐揚げとサラダは先に、デザートは食後にお持ちしますね。クーポンをお持ちではありませんか?」

「あー……すみません、持ってないです」

「承りました。では、ご注文を繰り返します。────……以上で、よろしかったでしょうか?」

「はい」

「それでは、ごゆっくりどうぞ」


 注文の書かれた伝票がテーブルの上に置かれたので、無いとは思うものの荷物の見張りに一人を待たせて、ドリンクバーまで二往復。

 アニマとアンナは一回ずつ俺と行っており、それぞれしっかり教えたので、後は一人で行ってもらう予定である。

『お金は、先に払わなくて良いんですか?』

『少なくともここでは大体後払いだな。食券を先に買う店もあるぞ?』

『へぇー……』

 二人にとって、後払いの飲食店は新鮮だったらしい。俺も財布に手が伸びかけたので、あまり偉そうなことを言える立場でもないが。

 昨日引き出した現金は半分を部屋に置いてあるものの、昨日と今日を合わせても大した出費はしていないので、余裕を持って払える。

 ファミレスだけで四千円ほどの出費になっているが、たまにはいいだろう。

『そういえば、お店に入ってすぐ聞いてた、禁煙席? ってなんなの?』

『煙草を吸ってはいけない席。反対側は喫煙席で、煙草を吸ってもいい席だな』

『ええと、煙草? を吸わなきゃいけない席じゃないなら、何が問題なの?』

『それは多分、アニマならわかるんじゃないかな?』

『?』

 俺とアンナの視線がアニマに向き、アニマはびくりと震えた。

『え? えと、匂い、ですか?』

『正解。煙草って結構強い匂いが残るんだよね。煙草を吸う人の比率は下がってるみたいだから、違いがわからない禁煙席ももしかしたらあるかもしれないけど……アニマぐらい鼻が良ければ、多分すぐわかるよ』

『うーん……? こっちの方が禁煙席なんですよね? 少し匂いはありますけど』

『……そこはまぁ、ほら、あくまでこの席に着いてる間は吸わないってだけの席だからな。普段から煙草の匂いをたっぷり付けてる人がいたら、匂いが移るぐらいはするだろう』

『なるほどっ』

『禁煙席で煙草を吸う不届き者は……これも居ないとも限らないか』

『あ、あはは……』

 アニマは一応納得できたようだが、アンナはまだ完全には納得いかない様子だ。

『うーん……どんな匂いかしら?』

『外に喫煙スペースがある店にでも行けばすぐわかるよ。日常的に吸ってる人は相当匂うから、スーパーなんかですれ違ったら俺でもわかるぐらい』

『そう? ……あ、料理が来たみたい』

『お、ホントだ』

「お待たせしました。こちら唐揚げと、サラダになります」

「はい、どうもですー」


 唐揚げはドリアを頼んだアンナの前に配置して取り易いようにしつつ、一個だけ貰う。レモンの汁をその一個に数滴垂らし、掛からなかった部分を齧った後で、残り半分も味わう。

 サラダを摘みながら喋っているうちにハンバーグとサイコロステーキが到着したので、サイコロステーキはアニマの前に。

 やや中央寄りにそれぞれのメインを押し出し、二、三口分程度の量を交換してから、少しずつ食べ進めた。


 皿が下げられ、デザートのケーキが二人の前に一個ずつ並び、俺はそれぞれから一口だけ貰った。

 それから俺は食後にと取ってきたウーロン茶のストローに口をつけ、後は抹茶ラテでも飲もうかと考えを纏める。

 大体半分ぐらいずつお互いにケーキを食べる二人を見ながら、そのまま少しずつウーロン茶を飲んでいると、何やらカシャッという音が後ろから聞こえてきた。

「? ……ぁあ?」

「っ!?」

 音のした方に視線を向けてみると、中高生ぐらいの私服の男が居て、アニマ達の方を向いたままスマートフォンを操作していた。

 俺が席から立ち上がって近付いてみると、明らかに動揺した雰囲気で俺に視線を返してきたが、知った顔ではない。

 この男は背筋を伸ばせば一六〇センチ程度の身長、だと思うが、腰が引けていて更に小さく見える。

 突き出すように構えていたスマートフォンごと男の手を掴み、画面を覗き込むと──

「……チッ、やっぱりか。何無断で撮ってんだよ」

「っ……は、はなっ……」

「とりあえず、写真は消すぞ」

 男の手ごとスマートフォンを掴んだまま、スマートフォンを操作する。

 撮影用のアプリしか起動していないようだったので、保存されている写真の一覧を開いて、とりあえずついさっき撮ったばかりと思われるアニマ達が映っている写真を削除した。

 ついでに複製なんかがないかも確認する途中で他の写真も見えたが、何やらコスプレ写真のようなものがいくつか混じっている。

 被写体はポーズを取っている風ではなく、何かの動作の途中だったり、こちらを睨んでいたり。カメラからの距離もまちまちで、背景もどこかの会場やセットのようには見えない。

「って、なんだこりゃ、盗撮染みた写真だらけじゃんか」

「見るな、離せよ! やめろ!」

「まぁ、そっちは知ったことじゃないから良いとして。ええと、このままだと復元できる可能性があるんだっけか? 写真を何枚か撮って消しなおせば大丈夫かね」

「あああああ! いい加減に──」

「黙れ、糞ガキ」

「っ……」

 起動したままだった撮影アプリの操作に戻り、床の写真を何枚か撮影し、改めて削除しなおしていく。

 空いている手で男が殴りかかってきているが、俺の身体は鎧を着ていなくても、【固定】の力で強度が増している。殴られたところで痛くも痒くもない。

 ……服が乱れるのは鬱陶しいが、そこは仕方ないか。


 一通り作業を終えたところでスマートフォンの電源を切り、バッテリーを抜く。バッテリーは男の胸ポケットに、スマートフォンは尻ポケットに突っ込んでから、突き離す。

 俺が解放した男は何やら喚いたあと、そのまま背を向けて、店の入口から逃げていった。

 席に着いて、ウーロン茶で喉を潤し、飲み込み切れなかった愚痴を漏らす。

『変な客の居る店だね、全く』

『ええと、私たちが何かをされてたの? あれ』

『カメラとか教えてなかったっけ、なんか撮影されてたんだよ、二人が』

『え、その、なんで私達をカメラで撮るんです?』

『アニマもアンナもここらじゃ珍しい見た目だから、かな。……ついでに言うなら、あいつが馬鹿だったからってのもあるか』

『うー……なんだか嫌な奴の事を思い出すわね』

『確かに、相手の事を考えない嫌らしさがちょっと似てますね……』

『…………そういえば、そんなんも居たな』

 二人の思い出している相手と同じであろう相手を思い出しながら、また気分が沈んでいくのを感じた。

 とりあえず、席を立つ。

『帰るの?』

『いや、甘い物でも飲んで気分を落ち着けようかと思ってな』

 飲もうと思っていた抹茶ラテを入れるべく、ドリンクバー用のコップを手に取った。

『そう? じゃあ、ユーリが戻ってきたら私も行こうかしら』

『そうだな。……結構混んできたみたいだし、次を飲み終えたら、清算して店を出ようか』

『そうね』

『はいっ』


 なんだかんだでドリンクをおかわりをしてから伝票を持ってレジに行き、清算を済ませる。

「こちらレシートと、次回来店時に利用できるクーポンとなっております。是非御利用ください。ご来店ありがとうございました」

「はい、ご馳走様でした」

 クーポン券とお釣りを財布に突っ込みながら礼を言うと、アニマ達も目礼程度に頭を下げた。

 そんなやり取りの後は、電子音を聞きながら扉を開いて、蒸し暑い夕暮れの空気を感じながら、足を踏み出した。



 部屋に戻ったところで、部屋に置いてあった荷物から新品の茶碗類を出し、流し台に置く。

「あ、私が洗っておくわね」

「そうか? ありがとう」

「どういたしまして」

 手があいたので、忘れないうちにとPCを起動し、肖像権云々を調べてみる。

「……ん? 肖像権って法的に、厳密には存在しないのか……」

 人格権と財産権、プライバシー権の侵害等によって罰せられると。

 盗撮は、下着や裸が写ってなかったら合法? いや、付きまとい(ストーカー)の関係でダメっぽいか。……それにしても、面倒臭いなぁ、法。


「……自力救済、自救行為の禁止?」

 関連する話を色々調べていると、そんな単語が目に付いた。

 犯罪によって権利を害された被害者が、法に頼らずに権利を回復すると違法になる……?

 あの盗撮小僧のスマホから写真を削除したあれは違法になり得るって事だろうか?

 私刑を禁止するための法らしいが、命が重い世界というのも考え物だ。


 いまいち納得がいかなかったのでカチカチと単語を打ち込みながら調べていくと、正当防衛や正当行為はこの自救行為に該当しないらしい。

 …………うん。あの盗撮された写真を消すのは、人格権を侵害された事に対する正当防衛だった。

 割と勢いでやってしまった事ではあるが、正当防衛だ。むしろ勢いでやった辺りが正当防衛らしいと言える。

 怪我はしてないはずだし、アニマとアンナが写った写真を消しただけだからあっちの損害も皆無。問題ないだろう。

 すっきりしたところで、買っておいた本のうち、まずは漫画から、覆っているビニールのフィルム(シュリンク)を引っ剥がし、ちらりと中を覗いて──内容をしっかり思い出せなかったので、そのまま本棚に並べる。

 一冊目をそんな風に並べてしまったので、とりあえずと他の本も本棚に並べていき、最初に並べた漫画の第一巻を手に取った。

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