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仕様違いの魔法使い  作者: 赤上紫下
第 5 章

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02:二人と一緒に地盤固め

 なんとなく催してきたような感覚があって、目が覚めてきた。時計に目を向けると、表示されている時刻は一二時。起きる予定だった時間である。

 アンナが立てている静かな寝息が耳に入り、アニマはどうかと視線を下ろすと──俺の上で小さく震えていた。

「……アニマ?」

「ご、ごしゅじ、ま……おはよ、ざ……お、おちょい、え…………」

 どうやら、アニマの方は緊急事態だったらしい。

「俺はまだ大丈夫だから、先にいいよ。行っといで?」

「あいあ、ごじゃ……う、はうっ!? ……う……うぅぅ……」

「……」


 涙目になってきたアニマを便所(トイレ)まで運び、結果として、無事に済んだ。

 部屋に戻ってくるとアンナも起きていたので、身嗜みを整えてから外出用の服を着る。

「そっ、それで、今日はお買い物の予定でしたっけ?」

「そのつもり。自転車……は、まだ山で雨ざらしだろうから、徒歩だろうなぁ。車は買ってないし」

 免許証は持っているが、あれの役割は身分証(ペーパードライバー)だ。一般道の運転というのはそれなりに恐ろしいし、体力もそこそこあるので、普段の買い物ぐらいは自転車で済んでしまう。

 新たな住人が増えはしたものの、二人とも一般的な日本人と比べれば体力はあるので、頻繁に遠出する用でもない限り購入と維持費に釣り合う利点がない。運転経験の浅さからレンタカーもリスクが高いので、今後の基本は徒歩だろうか。

「行きたい所は色々聞いたけど、どこから行くの?」

「まずはスーパーだな。ATMもあるからそこで残金を確認して、ある程度引き落としてからそのまま買い物だ」

「なるほどです。えと、その次は、ホームセンターとかいう所ですか?」

「今回買う物は嵩張(かさば)るし、食材は結構重そうだから、一旦帰ってからになるかな? まぁ、持てそうだったらそのまま行こう」

「がんばりますっ」

「おう。…………あれ?」

 予定が決まったところで、ふと現状に気が付いた。

「どうしたの?」

「いや、今は手を繋いだりしてないのに【伝達】で言葉が通じてるなーと」

「そういえば……そうね。部屋の魔力が良い感じに溜まったのかしら?」

「多分そういう事だと思う。改めて見てみれば、外と比べて結構濃くなってきてる気はするしな」

「じゃあ、外ではまた繋ぐ必要があるって事ですね?」

「そうだな」

 アニマの声にはどことなく嬉しそうな響きが混じっている気がする。

「手が繋げない時はどうしましょうか。日本語にする?」

「んー……基本的には、アニマが居た世界の言葉で話そう。アンナもそれなりに喋れるだろ?」

「そうね。でも、なんで?」

「……虫よけ、かな?」

「虫?」

「虫」

 外国人の美人が拙い日本語で会話している場合と、外国語でペラペラ喋っている場合。話しかけ難いのはどちらかと考えたら、多分、外国語の方だろう。


 マイバッグを肩にかけ、ドアをしっかり施錠してからエレベーターを見る。

『んー、エレベーターは昇ったところか。ってそうだ、階段も教えておかないとな』

『エレベーターは使わなくていいの?』

『階段でもエレベーターでも上り下りはできるようになってるから、必須じゃないよ。ここのエレベーターは一基だけだから、他の移動手段も覚えておいた方がいい』

『なるほど』

『わかりました』

『階段は三つ、部屋から一番遠い階段は基本使わないとして、とりあえず、こっちから下りるよ』

 俺が先導するようにエレベーターから少し遠い階段へ向かうと、二人も大人しくついてきた。

 外廊下から繋がるコンクリート製の階段に目を向けると、所々剥がれた滑り止めのタイルが年季を感じさせる。……そこまで古いマンションじゃないんだけどな。



 よく利用しているスーパーマーケットまでたどり着いたら、まずはアニマ達を外で待たせてATMの設置された小さな建物に入った。

 自身の緊張を感じながら預金通帳をATMに突っ込み、四桁の暗証番号を入力すると、残高照会と記帳は無事に完了。残金は、それなりに引き落とされているが、あまり使う用もなかったので七桁は残っている。

 俺はそのまま二〇万円ばかり引き出してバッグに突っ込み、預金通帳を回収して外に出た。

『おまたせ』

『何かあったんですか?』

『いや、無事に金は下ろせたから問題はないよ。俺が居なかった間の料金が引かれてたのがちょっとな』

『うーん……まぁ、そこは、仕方ないんじゃない?』

『……そうだな。再契約は必要なかったって事で、良かったと思おう』

『そうですね』


 店の入り口では買い物かごを誰が持つかが中々決まらなかったので、買い物かごはカートに乗せる。

 持ち歩ける力はあると思うが、平日だけあってカートはたくさん余っていたから、まぁ、構わないだろう。きっと。

『ちょっと嗅ぎ慣れない匂いがいっぱい……あと、なんだかご主人様みたいに黒い髪の人がいっぱいですね。時々違う人は居ますけど』

『日本人は大体黒いからな。あ、眉毛やまつ毛と髪の色が違う人は十中八九染めてるから、あまり参考にはならないよ』

『……私達、ええと、私とアニマちゃんは珍しいのかしら? さっきから視線を少し感じるのよね』

『アンナの髪はまだ普通だけど、その肌の色はちょっと珍しい方、かな。アニマは……肌も珍しいんだけど、髪がかなり目を引くよ』

『色々あるのねぇ。でも、アニマちゃんの髪の毛ってそんなに珍しいの? 昨日まで居た世界だと、たまに見かけた色よ?』

『ここまで鮮やかな緑色の地毛はなかなか居ないもんだぞ? っていうかそもそも緑色なんて居るもんだったっけかな……?』

『え、そそ、そうなんです?』

『まぁ……少し目立つぐらいだ。二人が居ない生活よりは良い』

『う、うん』

『えと、ありがとうございますっ』

『それじゃ、気を取り直して買い物を進めようか』

『そうね、いきましょ』

『はいっ』


『野菜がいっぱいありますね、果物も種類がたくさん……綺麗な形のばっかり?』

『そうだな。キャベツと人参と、玉ねぎあたりも何玉か買っておこうかな。あとじゃが芋も』

『はいっ』

 まずは野菜コーナーで適当に放り込む。主観で十八年半ほど異世界にいたため、日本で出回っている野菜・果物類は随分と綺麗に見える。初めて見るアニマとアンナは当然だ。


『雑巾は基本として、ウェットティッシュもあった方が楽だよなー。トイレットペーパーとティシューも買わないと……洗剤類もか。ゴム手袋も欲しいかなぁ。あとスポンジと……』

『そういうのは全然わからないから、ユーリに任せるわ』

『おう。っと、歯ブラシと歯磨き粉も忘れちゃだめだな。シャンプーとボディソープもか』

 掃除道具類と、生理用品を放り込んでいく。スナック菓子のコーナーは見えるが、スルー。


『透明な袋に入った白い粉がいっぱい……ここは?』

『砂糖と塩と、片栗粉とか、色々だ。買っていこうかね』

『え、この値段のこれが砂糖なの? 真っ白よ?』

『大量に精製できる工場があって大量生産してるから、黒糖よりも安かったりするんだよ。塩も純度は中々高いぞ?』

『へぇぇ……』

 白砂糖と塩は一袋ずつ。ついでに、酢と醤油とみりん風調味料は一本ずつ、味噌は一応ひとパックなどなど。油も含め、調味料類を一通り投入すると、カートも段々と重くなってきた。

 ついでに茶葉とコーヒーと、麦茶のティーバッグなども近くにあったので、追加で投入していく。


『な……なんだか匂いが特に強いですね、この辺り』

『魚はやっぱり、匂いが強いからな』

『で、お肉は……お砂糖の値段より随分高いですね?』

『そうなんだよなぁ。砂糖がそもそも安いってのもあるが、肉も牧場で食べるために育てられてる奴だから高いんだ。美味いとは思うけどな』

 そんな話をしながら肉類も少しばかり。値段あたりの量は、異世界に居た頃と比べるとどうしても物足りない。


『あっ、あれ、コーラですよね? ご主人様が前に飲ませてくれたあの』

『ああ、でも今回は買わないぞ?』

『そうなの? ユーリは好きなんでしょう?』

『好きではあるが、あんまりジュース類ばっかり飲んでてもどうかと思うから、今回この列で買う物はなしで』

 と言いはしたが、二人とも興味はあるようなので、一応カートを押しながら通り抜ける。

『あら、この辺のは高い……ってお酒? へぇー……ほんとに高いのね』

『……ですねー。あ、でも味はいいんでしたっけ?』

『まぁ、そう思うぞ? 俺がしっかり酔うまで飲むと一本空くから、俺は買わないけど』

『うーん、ちょっとずつ飲むぐらいなら……?』

 そう言うアンナからは酒類への未練が少し伺える。アニマも何やら──いや、アニマは酒ではなく、置いてある棚に視線が向いているようだ。

『お酒は、二十歳になってから?』

『……そうだった、日本だと二人とも公には飲めないんだな』

『……仕方ないわね』

『今日は買わないが、まぁ、そのうちな。料理に酒の風味を付けるだけなら、このみりん風調味料でも近いものは付けられるぞ』

『そう? ならいいわ』


『で、米かな。五キロ袋のでいいか。合うかどうかわからないし』

 その気になれば俺だけでも消費できる量として、この辺りが妥当だろう。部屋にあった米は残量もあまり多くはなく、虫にがっつり食い荒らされていたので生ごみとして処理済みである。

『ざらざら鳴ってますね……どんな味がするんでしょう』

『美味しいと思ってもらえれば、嬉しいかな。さて後は……昼飯も買ってくか』

 腹が空いてきた。掃除を終えてない現状でも食べられる物を買っておこう。ということで、食パンやコッペパンなど基本的なパン類と、からあげを2パック分追加する。

 揚げ物用のソースが無かった事を思い出して追加しに戻り、ようやく一通り商品を選び終えた、と思われる。

『えーと、それで、ここで並んでればいいんですか?』

『そうだよ。俺達の番が来たら、前の客みたいにバーコードっていうこの模様を機械で読み取って値段の計算をしてくれる』

『値切ったりはしないのよね?』

『ああ、値段はちゃんと決まってるから、お店の人が困るよ』

『あ、ここに置いてあるのは何です?』

『スナック菓子だな、レジ前に置かれてることは結構多い。……欲しいか?』

『その、興味はあります』

『わかった。いくつか買っておこう』


 日本の店でのマナーをアニマ達に教えたり、レジ前のスナック菓子をカートに加えたりしていると俺達の番が来たので、買い物かごをレジ前に置いた。

「どぅゆーはぶあきゃりあばっぐ?」

「……?」

 ……店員さん、いきなり何語?

 店員は日本人にしか見えないし、日本語で聞かれると思っていたんだが、キャリアバッグ? 英語か? ええと──

「あ、あれっ? どぅゆーはぶあきゃりあばっぐ? その、通じませんか?」

「袋はあります。あと、日本語で大丈夫ですよ?」

「そーりー、ほわっでぃどぅ……あれ?」

「日本語で、大丈夫です」

「……あ。はいっ、えと、袋は」

「ありますよ」

「そでっ、そうでしたね。ン、ンン。お支払いは現金で?」

「はい」


『最初、何処の言葉で喋ってたの? 後半は日本語だったみたいだけど』

『最初のは英語って奴だな。俺苦手なんだよなぁ』

『うーん……私達も英語が話せるようになるべきかしら?』

『アンナ達は外国人に見えるから、覚えてた方が便利かな。でも俺がレジに並んだのになんで日本語で話しかけてこなかったんだろ?』

『それは……なんでかしら? 日本人、なのよね? ユーリって。顔も似た感じだし』

『その、日本語じゃない言葉で喋ってたからじゃないでしょうか……?』

『あ、なるほどな。そりゃ店員さんには悪いことをしたかなぁ』

『英語って、私達が今喋ってる言葉とも違うわよね?』

『日本語以外の言語をそこまで聞き分けられる人は少ないし、この世界出身の外国人なら英語が通じる人は多いからな』

『なるほどっ』

『そういうことなら、納得ね』



 レジ前で少し問題はあったものの、会計は終わったので、一度部屋に帰って荷物を置いた。

 冷蔵庫はまだ少し臭かったので、電源は抜いたまま扉を開けてある。まだ本格的に拭いてはいないため、あのまま食物を冷やすのに使うのは(はばか)られたからだ。

 なので、要冷蔵の食材は【固定】の力で隔離スペースを作り、そちらで冷蔵してある。周囲との熱伝導は【固定】の力で防げるため、冷蔵も問題な……あれ、冷蔵庫いらなくね? …………。

 とりあえず、綺麗に掃除はするとして、アニマが稼働音を気にするかどうかを考えながら使うかどうかは決めようと思う。うん。

 ほんのりと甘味のあるパンやからあげの味に驚く二人の様子を楽しみながら、軽い昼食を食べ終える。

 そしてまた三人で、今度はホームセンターに到着した。

『匂いも品ぞろえもスーパーとは全然違いますねー』

『そうだなー。今回は軽いものばかりだと思うし、結構狭いから、かごは俺が持つよ』

『……わかりました』


『まずは風呂場の……っと、ここか。コーキングガン? と、コーキング材か。防カビ剤の入った奴は高いなぁ。まぁ必須だから必然的に防カビ剤入りになるんだが。で、色は白だったかな。アイボリーじゃなかったはずだ』

『え、黒い点がいっぱ──』

『あれはカビ。最初は白一色だったんだよ。だから、これだな。……標準施工量一二メートル? 一本で足りそうだが…………一応、もう一本。こっちは防カビ剤無しでいいか』

『……ご主人様、何だか変な事に使おうとしてませんか?』

『さてな』


『ユーリ、この布は、何? 値段はかなり、安い、わよね?』

『ん、『メリヤスウエス?』……説明を読んだ感じでは、手で触れると汚れそうな物を拭うための布、ってとこか。人が着ることを考えてないからだろうけど、重さの割に随分安いな』

『……贅沢な話ねぇ』

『まぁ、なぁ』

 洗い落とそうとしたら洗剤や水がたくさん要るぐらいきつい汚れだったり、あまり水が使えない所を拭くための布だから、需要はあるんだろう。

 薬品での消毒はされているとは思うが、恐らくは素手で振れても問題ない程度に洗浄もされていて、生地は新品でも中古でもキロで千円を切るのはあると……覚えとこう。


『お風呂の蓋っていっても、色々あるのね』

『そうだな。どれか良さそうな蓋が思いつくなら聞くが、要望はあるか?』

『……特には、ないわね。アニマちゃんは?』

『私も、特には』

『んじゃ、俺が勝手に選ぶよ?』

『ええ、任せるわ』

『はいっ』

 俺が選んだのは、カビに侵食された蓋とほぼ同じ形状のもの。風呂の蓋は賃貸契約時にはついていなかったので、以前の物もこの店で俺が購入したという理由からの一致である。


 洗濯槽や配管掃除用に、重曹やら洗剤、蛇口に取り付けるタイプの浄水器もかごに放り込んで、レジに並んだ。

 今回は二人を少し離れたところで待たせていたためか、精算は日本語で普通に終了した。



 家に改めて帰り着いたところで時計を確認すると、午後三時を回ったところだった。

「じゃ、部屋の掃除をしていこうか。俺はまず浴室からやってくから、二人は他の部屋の床や壁と、窓なんかをお願い。台所の辺りは、掃除を始める前に声を掛けてね」

「はいっ」

「わかった。台所を後回しにする理由は、前に聞いた、ガスとかいうのが理由?」

「そういうこと。万が一の状況が起きた場合なんかは俺が居た方が対処しやすいし、細かく説明してたら時間が掛かるからな。あ、他の所の掃除でも壁に空いてる穴や壁から伸びてる線には触れないようにね。危ないから」

「そうするわ」

「わかりましたっ」

 二人の返事を聞けたので、俺は掃除とコーキングの張り直しをするべく、浴室に向かった。

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