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仕様違いの魔法使い  作者: 赤上紫下
第 4 章

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XX_1:アンドリュー

 たまにはヒロイン以外にも、という事でアンドリュー視点の閑話です。

 時系列は第4章内ですが、結構広い範囲に渡ってます。

 父上、現魔王ヴォールト陛下の傷が癒え、再度父上が出陣してから幾日か。

 オレはここ、ハインデック王国の王都モーアを守るように命令を下され、退屈な日々を過ごしていたが、伝令が信じ難い報告を持ち込んだ。

「……聞き間違えたか? もう一度言ってみろ」

「は、はっ。銀一色の鎧を着た人族には我らの攻撃が一切通じず、その剣はアンナ殿の強化を無効化しながら容易く我が方の兵を斬り裂いたとの事です」

「チッ、やはりいくら強力であろうと、人族を信用するものではなかったか?」

「し、しかし、その銀一色の鎧を着た人族と相対する直前までは、確かに武具の強化は失われていなかったと」

「……アンナが裏切ったわけではないということか?」

「はっ。間諜(スパイ)の報告では、一月前にグリフォードに召喚された人族の一人である可能性が高いそうです」

「召喚されたのは二人で、どちらも日本とやらから召喚された者だという話ではなかったか?」

「はっ。顔や体格の情報は以前召喚されていた者と一致していると報告されています」

「……そうか」


 父上を倒すためにグリフォードで召喚が行われたのは、一月ほど前。初めは皆が人族の苦し紛れだと笑っていた。

 そして、父上の手によってとこちらでも召喚が行われたのは、グリフォードの召喚が成功したという報告が入ってすぐ。父上にはどうにも遊び過ぎるきらいがあり、相手に召喚された者が居るならこちらでも召喚した者をぶつけてみようなどという、至極単純な理由から行われた。

 召喚した者同士の戦いでこちらが勝利すれば、そうでなくとも同郷の者がこちらについていれば、人族に絶望を与え易い。そんな理由から同意する者も多かった。

 日本とやらがある地球とはまた異なる世界から来た者が含まれており、その者の力が非常に有用だった時には、嬉しい誤算だったと更に喜ぶ者も多かった。

 実際、アンナの力によって強化された武具は尋常ではない強度を誇る。父上が全力で振るっても曲がりすらしない剣、その剣を当てても傷つかない鎧を作れたため、父上も随分と気に入った様子だった。

 召喚されたもう一人、レイクと名乗っていた小物の作る砲も、それまでに使われていた物よりは高性能だった。

 アンナの使う力の条件や、アンナの居た世界ではごくありふれた力でしかなかったという話は一応聞いていた。

 召喚された日本人らは、それなりの戦力は持ち合わせていたという報告こそあったものの、これらの前には無力であろうと、皆がそう思っていた。

 新たにグリフォードで召喚が行われる様子もないまま実戦でも砦を容易く奪取し、あとはどのように蹂躙するだろうかと笑いあっていた。


 しかし、先程入ってきたのは想定外の凶報。

 報告をそのまま信じるなら、アンナと同じ力を習得した日本人が敵として呼ばれていたという事か。

 その日本人は力の強さを認識していて、切り札として伏せていた、とでもいう事だろうか。

 アンナの力を認めていただけあって、逆にこちら側が絶望感を味わう事になるとは思いもしなかった。

 ただ、同じ力であるというのなら、アンナがこちらに居る限りまだ手の打ちようはある。何らかの繋がりがあるなら、アンナはその抑止力としてうまく──

「緊急です! アンナ殿が、アンナ殿が……!」

 駆け込んできた別の兵がアンナについての報告を持ってきたようだが、様子がおかしい。

「なんだ、アンナがどうしたというのだ」

「アンナ殿は前線の兵を援護しつつ、グリフォード側の国境砦まで前進していましたが、急な反転攻勢に怯えた兵が裏切り者としてアンナ殿を地下牢に拘束──」

「なんだと!? アンナはどうなった!?」

「ひっ!?」

「アンドリュー、落ち着け。報告が途中だろう」

「っ! そう、ですね、叔父上。……続けよ」

「は、はいっ! 地下牢に拘束さ、されていたアンナ殿ですが、砦に単独で侵入した銀色の鎧を纏う人族によって牢から連れ出され、その人族と合流したと」

「遅かったか、それで戦況は、戦況はどうなった!」

「混乱する中、人族らの後続もあり、一方的に砦が奪い返されたとの事です!」

「なんという……事だ……」



 ………………



「ほ、ほほ、報告、です!」

 アンナが敵側に奪われたという報告を受けてから、三日目。

 情報の精査を行うために一日ほどの時間を掛けたそうだが、兵がこれだけ怯えながら報告するというのも珍しい。

「何があった」

「奪い返された国境の砦ですが、その日のうちにサイクロプスが襲撃し、していた、そうです」

「うん? 人族に被害が出たという事か?」

「い、いえ、違います」

 いま一つ要点が掴めない報告だ。人族に被害が出ていたのなら吉報だと思うのだが、何故この伝令兵は震えているのか。

「人族の侵攻はサイクロプスの襲撃に便乗していた、というわけでもないよな?」

「はい、そ、その、例の銀色の、鎧の人族の話です。単独でサイクロプスと、戦闘。す、数分ほどでサイクロプスの首を落とし、砦の被害は、一切なかった、そうです」

「…………は?」

 サイクロプスといえば、父上がアンナに強化された武具を持ってすら苦戦しかねない強大な魔物だ。

 その魔物を相手に、被害を出さずに数分……?

「複数名からの、報告です。砦から追い出された後、森に隠れていると、大きな足音が聞こえて、その現場を見たそうで」

「……戦闘の様子はどうだったんだ?」

「しばらくは防戦を続けた後、足を斬り飛ばし、転んだサイクロプスを駆け上がり、首を斬り落として終わらせた、との事です」

「砦の近くでの戦闘なら、支援ぐらいはあったのか?」

「い、いえ、それが……砦からの支援が遅れ、首を落とした直後にその、鎧の人族が、砲弾の直撃を受けたそうで、です……」

「? そいつが直撃を受けたなら、何が問題なんだ?」

 砦からの砲撃などといった支援を受けずにサイクロプスを討伐したのは確かに脅威だと思うが、そいつが味方の砲撃を受けたというのなら、むしろ喜ぶところだろうに。

 そう思っていたのだが、報告に来た兵は震えを増し──予想は付いてしまったが、報告を促す。

「あ……明らかに直撃を受けたのに普通に動いてたとか、サイクロプスの首を落とす手順についても複数名から確認したんですよ!? 確認するごとに速さと攻撃はヴォールト陛下に匹敵する、大砲の直撃を受けても無傷なんて報告に信憑性がどんどん出てきて……! 前線では『銀鎧の死神』なんて呼称が定着しつつあるだとか、そ、その銀鎧の奴が同じ調子でここまで来ると思うと……う、うぅぅ」

「……わかった。下がれ」

「も、申し訳ありません、失礼します……」

 怒涛の勢いで恐怖を誤魔化すような報告だった。これは、今まで父上の力で抑えつけられていた反動、だろうか。

 前線からこの王都までの距離を考えれば、父上は既に件の銀鎧とやらと当たっているはずだ。

 勝敗は不透明だが、あの父上が何の成果も得ずに敗北する図は想像できない。自身の手で仕留めたがる悪癖はあるにせよ、アンナが居た頃にあの力については聞いている。

 あのアンナを地下牢に捕らえる事ができていたのだから、銀鎧の奴が同種の力の使い手ならば、何かしら防ぎきれない攻撃もあるだろう。



 ………………



 続報が届いたのはその翌日。

 相当急いだのか息も絶え絶えな様子の兵が持ち帰った情報は、王都を震撼させるものだった。

「父上が、討ち取られた……?」

「は、はい! 死神は砲撃をものともせず砲を潰してまわり、人族の兵を率いて砦に侵入、ヴォールト陛下は死神と単独で戦い、そのまま討ち取られたと」

「馬鹿な……」

 父上が撤退の判断を誤るとは思えない。父上を超える実力があろうと、そう易々と討ち取れるものではない、はずなのだ。

 それが覆ったのなら本当に圧倒的な実力を持っているのか、何らかの助勢があったと思うべきか、あるいは毒でも使ったのか。

 いずれにせよ、ハインデックにおいて最強だった父上が敗れたのは事実。

「そ、それだけでなく、もう一人の日本人の情報も入りました。回復魔法に長け、致命傷や重傷を負わせたはずの者を何十人と癒し、戦線を支えていたようです」

「……」

「殿下?」

「……」

 ただでさえ傷つけ難い銀鎧に重症を負わせても、治されてしまう、という事か? ……父上が居なくなった我らは、どうすればいいのだ?



 ………………



 答えを導けずに悩んでいると、翌日にはまた別の報告が届いた。

「降服せよ、と?」

「は、はいっ、銀鎧殿は、殺意を向けられないならこちらも殺しにいく理由はないと。ある程度の賠償を支払い、不戦の条約を結ぶ必要もありますが、それさえ成せば銀鎧殿がこちらに剣を向ける事はないと思われます」

「信じられるか! こちらの軍は略奪を行いながら前線を進めたんだぞ!? 何故やり返されないと言い切れる!」

「ぎ、銀鎧殿自身が受けた被害は小さく、平和を望み、しかしレイクというあの者の処罰は肯定されています。最も戦果を上げた者がそれを望んでいない以上は、グリフォードとしてもやり辛いのではないかと……」

「……随分と平和ボケした、いや、同じ日本人の処罰を許容するなら、何かが違う……?」

 わけがわからない。賠償は支払えなくもない程度でしかないが、こちらが再度軍備を整えて侵攻するとは考えないのか? 父上が居なければ後は雑兵とでも言うつもりか。


「道中の宿場からの情報が届きました! 連中、商店でも通常価格で買い物をしており、略奪もなく、軍を進めているだけとの事です」

「何……? 確かな情報か?」

「まだ確認中ですが、確かかと」

 叔父上も気になるようだ。本当になんだというのか、その日本人は。

 グリフォードへの帰属意識が薄いなら、油断しきっている銀鎧を決死で足を止めさせ──

「そうだ。銀鎧が平和を良しとし、奴らの王がのこのこ出向いてくるというのなら……王をどうにか仕留めてしまえば、銀鎧も魔族に従う他なく……」

「待てアンドリュー、正気か!?」

「奴らは偶々強力な兵を得ただけの人族、凡人族どもだろう! 我ら魔族が支配される理由など、どこにもない!」

「それは私も共感できなくはないが、失敗すれば多くの魔族が犠牲になる高い賭けだぞ! 挑まない時と比べても得られる物が僅かに増えるだけだ!」

「精鋭が集まれば父上が相手でも数分の足止めは可能だ! 抑え込んでおけば人族の王ごとき──」

「頭を冷やせ! アンドリュー!」

「オレは正気だ! 叔父上こそ冷静に考えるべきだろう!」



 ………………



 叔父上に従う兵が多く、オレは軟禁された。

 条約の内容は聞いたが、確かに厳しいものではなく、それだけなら受け入れられないものでもない。

 しかし、人族に召喚されて大人しく従っている銀鎧が、父上を圧倒し得る力を持っていた、という点がどうにも信じ難い。

 父上の実力はオレが思っているより高く、オレの訓練を行う際には手加減がされていた、などという話も聞いたが、それでもだ。

 いくら考えても、銀鎧の奴の実力を納得するより、単独で父上を討ったという話が嘘のように思えてくるだけだった。

「殿下、今なら」

「ああ」

 オレと同じように考える連中も少なくないようで、グリフォード王を討つための協力者もそれなりに集まった。

 こそこそ隠れながら行くのには不満があるし、武装も整えきれていない。しかし、やれない程ではない。

「化けの皮を剥がしてやる……!」



「……死んで後悔するなよ!」

「残念ながら、後悔するのはきっと貴方達だ」

「ほざけ!」

 思わぬ流れになったが、好都合か。

 随分と舐めた異国の人族が居ると思えば、鎧を着けていない銀鎧の奴だったらしい。

 オレ達は三一名で刃もついた実戦用の剣、奴は鎧を着けないまま、初めは剣すら抜く様子がなかった。


 初めは様子見で、しかし当てるつもりで振るった剣が、音を立てて弾かれた。

 奴はただ、オレの剣に目を向けただけ。

「っ、うおおおっ」

 理解できない。いや、したくない。

 剣を当てても何の意味もない相手が存在するなどとは、当て続けていれば理解できないこの力もいずれ尽きるだろうと──

「じゃ、そろそろこちらからも動きますね」

 奴は軽い調子でそんな事を言いながら剣の一本を摘み、魔法を発動して剣を折った。


 聖属性という、高威力だが高難度なはずの魔法。それを小さく発動して、奴は最大限の成果を得る。

 本来なら、指先に発動すれば、少しずれるだけで皮膚が消し飛ぶ。剣に纏わせれば、普通なら剣が削れる制御だ。

 しかし奴は一度も失敗する事なく、平然と武器を破壊しながらオレ以外の全員を倒してしまった。

 銀の鎧すら着るまでもなく剣が効かない、アンナが持っていた力をアンナより上手く扱い、この世界の魔法を魔族より、父上より上手く扱う化け物。

 ああ、前線の連中が言っていた死神という名は確かに相応しい。これが向かってくるのなら、成す術もないだろう。……?

 そうだ、たしか、殺意を向けられなければ、殺しにいく理由もない、だのと言っていたとか、なんとか?

「さぁ、残るは貴方だけですね? アンドリュー殿下」

 オレが殺意を向けてしまった死神が、オレを見据えて名を呼んだ。

「っ、うあ、うああああっ!」

 制御できる魔法を発動できるだけ発動しながらぶつけるが、奴はまるで気にせずに歩いてくる。

 距離が縮まる程に心臓が暴れ、呼吸も乱れる。脚は先程から言う事を聞いてくれない。

「く、来るな、来るなっ、来るなあっ! うあああぐあっ」

 背を向けて這いながら、少しでもこの死神から離れようとする。しかしオレは背中からの衝撃で地面に抑えつけられ、た……。



 ………………



 模擬戦だったという事で全員無事なまま見逃され、追い立てられる悪夢にうなされながらも、グリフォードの王都まで来て、条約もしっかり結ばれた。


 観衆の前でオレが首を斬り落とした魔族は、前線で略奪を行い、潰走後にまたグリフォードで盗賊行為を働いた元兵士だ。

 もしオレがあのままだったら、首を落とされていたのはオレだったのだろう。そう思うと恐怖はあるが、大きな安心感も沸いてくる。オレはあの死神に見逃してもらえたのだ。


「どうした? アンドリュー。何か面白い事でもあったか?」

「何でもないよ、グリット。ほんの少し前までの自分がおかしく思えてきたんだ。魔族だ、凡人族だなどと、オレは何を気にしてたんだろうな……」

「そんなに凄かったのか? ユーリは」

「ああ。二度と敵対したくないと思うぐらいには、な」

 ユーリという名の死神と比べれば、人族も魔族も見た目が少し違う程度でしかない。そう認識してからは、種族の違いがあまり気にならなくなった。

 その変化を快く思っている自分が少しおかしく、また小さくオレの口から苦笑が漏れた。

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