表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
仕様違いの魔法使い  作者: 赤上紫下
第 4 章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

67/238

10_6:アンナの考察

 アンナ視点の閑話です。やや閲覧注意。

 時系列は、第4章10話と11話の間です。

 ユーリがアニマちゃんに背負われて馬車から降りてしばらく経った後。

 ユーリがアニマちゃんを背負って馬車に戻ってきた。何故か頭が少し濡れている。

「おかえりなさい、二人とも。何があったの?」

「あー……走るアニマに背負われながら喋ってたら池に落ちてな、落ち着いたらアニマの脚はがくがく震えてたから、俺が背負ってきたんだ」

「いえその、走りながらよそ見をして、自分の疲れも認識しきれてなかった私が悪いんです」

「いや、そのよそ見の原因は俺だしな」

「……うーん?」

「二人とも失敗して二人とも池に落ちた。済んだ話だよ」

「そうなの?」

「そうそう」

 事実──ではあるんだろうけど、前より少しユーリとアニマちゃんの距離が縮まっている気がする。ちょっと悔しい。


 あの日、エルがユーリじゃなくなってから──ユーリがこの世界に来て、私もこの世界に来た日から数えて四〇日とちょっと。

 ユーリがアニマちゃんと知り合ったのは、私が召喚された数日後ぐらいだというのに、一気に追い抜かれてしまった。

 エルだったユーリから一五歳の誕生日に貰った短剣の重みが、いつもより少し頼りなく感じる。せめてエルがユーリだった頃に関係を持てていれば……というのは今更かしら。

「はぁ……」

「ん、悩み事か?」

「まぁね。ちょっとじっくり考えたい、かな?」

「そっか。何かあったら言いなよ? 協力はするからさ」

「ええ、ありがと」

 そんな申し出をしてくれたユーリの事で悩んでるんだけど、それは言っても仕方ないわよね。

 私は深く呼吸をしながら、気分を落ち着けた。



 ◆



『エル、これはわかる?』

『ん? これは──だね』

『じゃあ、ここはどう?』

『んー……これは知らないな。でもこれは、──って事かな?』

『あ、ほんとだ』


 子供の頃から、勉強でわからないところがあったら、大体はエルに聞いたらわかり易く教えてくれた。

 なんでも知ってるわけじゃないんだけど、わからない時でもエルが一緒に考えてくれた時は捗った。


 たまたま他の子に、というかイーデだったんだけど。あの子に教えている時の教え方を聞いて、『私がどこでわからなくなっているかを考えながら教えてくれていた』という事に気付いた時は随分と驚いた覚えがある。

 気付いた理由は簡単。内容は同じ事を教えてるのに、どこを重視するかが私の時と全然違ったからだ。それでいてイーデの理解は早かった。



 他に大きな出来事といえば、大人に連れられて狩りの訓練をした時かな。


『オ、オレだって』

『ガルルルル……』

『ひっ』

『ったく危なっかしい。退がってろ!』

『ガルルルアッ!』

『ずお、らっ!』

『グルアッ、グッ』

『ハッ! よし、このまま……』

『ガアアッ!』

『うおっ!? この野郎め』


 怯えていたマルの姿は今なら笑い話だけど、当時は私も本当に怖かった。

 エルも吹っ飛ばされてたけど、大きな怪我もせずに立ち向かう姿には勇気付けられたっけ。



『……エールー? いい加減起きてきなさいよー』

『……』

『入るわよー? もう、早く起きないと料理無くなっちゃうわよ? ……エル?』

『……』

『エル? ちょっとどうしたの? 大丈夫? エル!?』



 ◆



 あの時は本当にびっくりしたなぁ。

 別の世界にあった身体に戻されてた、なんて思いもしなかったから、本人と出会って更にびっくりした。あの世界の話も聞いて、力まで使える事を確認してもすぐには信じきれなかったぐらい。

 勿論それだけじゃなくて、顔つきも体格も違うんだけど、ふとした時に見せる表情や喋り方が、あの時までのエルとそっくりだった事も大事。

 召喚される事がわかってたわけじゃないけど、世界を超えてまで追いついて、前の世界じゃ聞けなかったであろう話も聞いて……やっぱり一緒に居たいと思った。


 さっき思い出した話のうち、エルとユーリが別れた時の事は置いておくとして。

 前世の記憶があると(タネあかしを)聞いた今になってみれば昔ほど不思議でもないんだけど、私が同じ目にあってそんな事をできるようになれるかと考えると、結構難しい気がする。

 数日前に聞いた時は『あんな危なっかしい世界で力を付けずにはいられなかった』とか、『出身が魔法のない世界で、魔法には憧れてたから』なんて答えを聞いて、言われてみればと納得はした。

 少し残念なところも含めてユーリらしいと思ったけど、私も同じ経験をした時に同じように力を付けられるとは思えない。


 って、エルの凄かったところばかり思い出してても仕方ないわね。

 考えるなら、今後どうするか、かしら。うーん。

「あ、あぅぅ……」

「……」

 声がした方を見ると、ユーリがアニマちゃんを抱えていた。

 何度も見た抱き方と変わらないようには見えるんだけど、なんだかいつもよりアニマちゃんの顔が赤い気がする。

 ユーリが私の視線に気付いて視線を逸らしたら、アニマちゃんの様子も落ち着いてきた。私の知らない何かをしていたのは、間違いなさそう。

 何をしてたのかはわからないけど、私もしてもらうべきかしら? ……明日になったら、申し出てみましょう。


 ユーリがエルだった頃の付き合いは長いから、ユーリの嗜好はある程度わかってるし、たまに聞かされる教訓めいた話もよく覚えてる。

『自分がされたくない事を他人にしてはいけない。もしやるなら、同じことをやり返される覚悟ぐらいはしておくように』

 これは特に、子供の頃に何度も聞かされた話だ。ユーリ以外の大人達からも結構聞かされる話だけどね。

『自分がされたくない事を相手からされたら、同じ事をやり返しても良いとは思うよ。まぁ、やり過ぎないようにな』

 もう少し大きくなったら、ユーリからは追加でこんな話もされた。こっちは喧嘩の時の注意。

『自分がされたくない事でも、相手が理解した上で了承した事なら構わないんじゃないかな。勿論、脅したり騙したりなんかしないで、相手が望んだら、な』

 二番目までを聞いた後で、それだけなの? と聞いたら、こんな話も教えてくれた。

 生まれた時点で今のユーリとほぼ同じ年の精神が中に居て、その経験を元に言っていた言葉だとわかった今では、重みが少し増して感じる気がする。


 ユーリがアニマちゃんにしてたのは、多分この三番目。あ、また始めたみたいだから、アニマちゃんにしてるのは、か。

 なんでも受け入れてくれそうなアニマちゃんが相手だから、抑え込んでた欲望が出てくる事ができた……と考えるのが自然ね。

 奴隷になるって未来は正直予想外だったけど、知識として持ってた奴隷の扱いとは全然違うから、ユーリの奴隷という扱いなら、あまり気にはならない、かな?


 私の扱いは良いとして、同じ扱いのアニマちゃんが抱き抱えられているあの光景を前にして、私が何をするべきか。

 まぁ、これは簡単。『邪魔をしない』。何故なら私も、『邪魔をされたくない』から。

 それが後から割り込む形になってしまった私を受け入れてくれた、アニマちゃんへの礼儀というものだ。

 単純に、ユーリがそういう真っ直ぐな事を好むと知ってるからっていう理由もある。

 それにユーリがエルだった頃、エルが居ない間に持ち物に悪戯をした子が居た時の反応は……ちょっと思い出したくないぐらい怖かった。

 奴隷である、つまり所有物扱いであるという点から考えると、傷つけるような行動は尚更却下だ。私自身の自傷も含めて。


 そこまで考慮して、ユーリとの距離をもっと縮める為に私が何をするべきかといえば……何だろう?

 何もしなくてもユーリからは、こう、可愛がってもらえそうな気はするけど、やっぱり私からも行動はしたい。

 アニマちゃんに真似できない事を探すのは、まず一つかしら。私はユーリを背負ったままあんな速さで走ったりはできないものね。

 だから、ユーリと別行動を取ってる時に守りを固めるのは、私の大事なお仕事の一つ。

 他には、ユーリが気に入ってそうな尻尾や耳は生やせないから無理として……お料理かしら? うん。これは良さそう。

 あと、アニマちゃんでも私でもできる範囲だったら、私がアニマちゃんの真似ばかりしてるのは駄目だろうから……逆?

 そうだ、アニマちゃんが私の真似をしたくなるような事を目指すのは良いわね。うん。この方向でも頑張りましょう。



 ………………



 夜が明けて、今日もまた馬車の旅が続く。

 今は、この世界の力の使い方をユーリから教わっているところ、なんだけど──

「う、うぅぅ……」

「……大丈夫か? 無理しなくていいんだぞ?」

「だだ、大丈夫よ」

 座ってるユーリに抱き抱えられながら、自分の顔が熱くなってるのがわかる。

 この世界の、魔力やスキルと呼ばれる力の扱いに私達の中で一番慣れてるのがユーリで、その【測定】とかいうスキルを使いながら丁寧に教えてくれている。それはいい。

 顔が熱くなってる主な原因はそれじゃなくて、昨日アニマちゃんにしてたような事を私にも、なんて言ったせいで受けているユーリからの悪戯なのよね。

 というより悪戯の方が主目的で、力の扱いを教えてくれてるのはアモリアさん達を誤魔化すために始めた事だったりするんだけど、為にならないわけじゃないから悩ましい。


 でも、ちょっと後悔しかけたけど、確かに距離は縮まった気がした。

 これからも頑張ろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ