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仕様違いの魔法使い  作者: 赤上紫下
第 4 章

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14:落ち着いた時間と努力の方針

 今回市場で買った物は料理の材料として肉や野菜、小麦粉と調味料等と、椅子がいくつか。

 全てまとめて持ち歩くのは流石に大変なので、食材を買い終えた時点で一旦家まで持って帰った。

 そして材木から買おうかと思っていたのだが、良い品質の物を見かけたのでそちらを買ってまた家に帰ってきたという流れだ。

「うー……ん、今度はじっくり寛げるのよね?」

「ああ、今度は大丈夫だ。慌ただしくて悪いな」

「本当よ、もう」

「あっはっは……すまん」

 アンナがこの家に来るのはこれで三回目になるが、今回を除く二回ともすぐ外に出ていたので、なんだか申し訳ない気もしてくる。


「さて、一通り部屋を案内して回ったところで、だ。少し考え事をしたいから、ちょっと横にならせてもらうよ」

「はいっ。えと、膝枕とか、しましょうか?」

「んー…………今はいいかな。ってそれだと二人とも暇になっちゃうのか」

「じゃあ、掃除でもしておくわ。私達だけで外に出るのは避けた方が良いのよね?」

「そうだな、出たい時は言ってくれれば付き合うよ」

「わかった、その時はお願いするわ。アニマちゃん、手伝ってくれる?」

「はいっ」

 二人は静かに寝室の扉を閉め、とことこと歩いていった。

「さて、俺も集中して頑張るかな」

 誰が聞いているわけでもないが、宣言してから楽な姿勢をとり、考察に没頭し始めた。


 まず最初に、この世界の魔力という力。この力は俺からすれば、この世界に来るまで未知の物だった。

 風や水流、血流に乗って流れるという点から、分子か原子か素粒子か、とにかく物理的な影響を受ける物質に蓄えられる力である事は、恐らく間違いない。この力を蓄えられる物質を『魔力素子』と仮称したのは、随分前の事になる。

 そして物理的な流れがなくても、魔力の濃度の高低差で魔力は伝わってしまう。そのため俺は、『魔力容器(マナケース)』と名付けた容器を【固定】の力で作り、空気をやや高めの気圧で封入して貯め込んでいる。熱や光以外にも魔力の伝導まで【固定】で防げたのは嬉しい成果である。

 使い勝手が良いからと気にしていなかったが、この世界に来て割とすぐ作った時のままなので、もう少し改良を重ねるべきだろうか?

 とりあえず、液体にも見える程の圧縮空気を封入した『魔力容器(マナケース)』を一つ作って、魔力の蓄積量がどの程度変化するか比較してみようと思う。

 そして、この魔力を蓄える手順の効率化も考える必要があるだろう。

 今までは自然に回復した魔力を『魔力容器(マナケース)』に突っ込んでいれば足りていたが、空間魔法を使うにはやや物足りない気がする。

 一応、俺の体力(?)から変換できるようなのだが、もう少し別の方法も開拓するべきだろう。

 まぁ、魔力の濃度の高低差によって伝わる性質がある以上は、いつぞやに液体空気を作ったように、『断熱過程』と同じように圧縮を上手く使えば可能かもしれない。魔力的な意味での絶縁体が作れるため、これは可能だと思われる。

 あるいは、体力以外のエネルギーを魔力に変換する…………?

 そうだ。呼吸によって、人間が大気から魔力を吸収できる事はわかっている。だが、大気に含まれる魔力を増やす要素は、生命体が漏らした魔力だけとは限らない、か?

 そういえばという話だが、この世界の魔力というのは自然の、というより物理的な現象への干渉がある程度可能なのである。

 例えば、熱。魔力を消費して熱を上げ下げできるわけだが、これは上手く転用できるなら、熱を魔力に変換する事も可能かもしれない。

「それじゃあ…………」

 アニマ、とまた頼もうと思ったが、今はここに居ないんだった。掃除をしているような物音は聞こえるし、魔力も感じはするのでアンナと二人で掃除をしているんだろう。

 ……邪魔するのも悪いし、ひとまずは、自前で小規模実験かな。


 熱、光、魔力のいずれも通さない容器を【固定】で作り、断熱圧縮によって綿なら発火しそうな温度になるまで内部で空気を圧縮する。

 そのまま【固定】の掛かり方を変えて魔力だけを通す小さな穴を作ると、じわじわと、容器から流れ出てくる魔力を感じた。熱と同じように魔力も、空気に含まれていれば物理的に圧縮する事で高められるらしい。

 最低限程度の実験だが、まず一つは成功、と。


 魔力の流れが止まったので、次は熱から魔力への変換を試す。

 対象を冷やすのではなく、熱を魔力に変換して受け取る。つまり、火属性魔法による加熱の逆操作を──

「チッ」

 魔力が消費された。温度は下がっているようだが、これは慣れていた水属性魔法が発動した結果だろう。失敗だ。

 小規模でもいいから、とにかく高温の圧縮空気が入った容器を用意して、もう一度──俺の魔力は減らなかったが、中の魔力が消費されただけだ。もう一度。

 細かな手順一つ一つを指定するように、曖昧な命令ではなく厳密に、高まった熱を魔力として奪い取ることを明確に意識して操作する。


 妙に難度は高かったが、ようやく成功した。そのまま数度繰り返し、確実に行えるようになった、と思う。

 ほっと息を吐いてベッドの上を見ると、二〇本近い【固定】の容器が転がっていて唖然とした。

 光を通すようにしてみると、目立つほど赤み掛かってはいないように見える。どうやら、窒素酸化物はせいぜい極少量程度しか発生していなかったらしい。音が出ないようにゆっくり圧力を下げつつ膨張させ、窓の外に流して廃棄する。


 余計な処理も必要だったが、ひとまずは、熱を魔力に変換する実験にも成功した。

 その成果から、『魔力素子』が太陽光の熱を魔力に変換して蓄えている可能性も考えられなくはない。つまり、魔力の他の変換先も、魔力の補充元である可能性が出てきたわけだ。

 では他に魔法を使う際に発生する物といえば、まずは光か。早速日光を吸収してみる事に──違う、闇属性魔法(おまえ)じゃない。

「はぁ……」

 先は長そうだ。


 微妙に融通の利かない魔力に俺の求める操作を少しずつ仕込んでいき、ほんの少しずつだが光も吸収できるようになったのは、日が傾いてきた頃。

 よくよく考えてみれば、熱を魔力に変換できる時点で光を吸収する必要もほぼなかったのだが、意味はあったと思いたい。

 熱からの変換にしても、今のところは発火しそうな温度でなければ変換速度が遅いので、もう少し効率化を目指したい。

 そして、魔力は、俺がよく使っている力にも変換できる事を忘れてはいけない。

 そこで重要なのは、色が違う程度でしかない初歩の魔法。不定形の何かの塊を飛翔させ、物理的な干渉を当たり前に行うのがこの世界の攻撃魔法である。

 魔法だからとあまり深く考えてこなかったが、【魔力操作】などでも空中にある物質を、術者の意のままに移動させる事ができる。

 より難度の高い魔法であれば自然現象も操作できるが、この魔法の難度と魔力の消費量は質量に依存するため、これも結局は物理的な干渉を行っているだけ、と言えなくもない。

 つまり少なくとも、この世界の魔力を物理的な力に変換する事は可能、というわけだ。


 発光したり熱を発生させたりと妙な機能も多彩だが、魔力とは地球で認識されている物理現象に関わらない、蓄積に適した何らかの力。

 要するに『魔力素子』とは、魔力を蓄え、術者の望む力に変換してくれる変換器、といったところだろう。

 この『魔力素子』の集団は、魔力を介して思考すら行うのもまた重要な機能だが、今は置いておく事にする。

 今からやるのは先程までの流れと同様、魔力からの変換の、逆。

 物理的な力から魔力への変換を行う実験としては……何が良いだろう? とりあえず、空気圧でも使うか。

 空気圧というのは、気体を構成する分子が他の分子との間に働かせ続けている、特に身近に感じられる物理的な力である。

 重力も代表的な一つだが、まぁ思いついたのは空気圧が先だし、認識のし易さからいってもこちらの方が楽そうだからな。


 空気を圧縮し、温度を魔力に変換しながら奪いつつ、魔力も垂れ流して常温かつの魔力量も他と変わらない圧縮空気を用意して、上部に実験用としてピストンも付ける。

 実験内容としては上から体重を掛け続けて、魔力が発生するついでにピストンが押し込まれれば空気圧を魔力に変換する事が成功している、という証明になるわけだ。……多分。

 もう少し考えたいところだが、とりあえず、実験を開始する。上から体重をぐぐっと掛けながら魔力に指示を──

「ご主人様ー、夕食ができましたよー」

「……」

 扉の外からアニマが声を掛けてきた……もう、そんな時間だったか。キリは良くないが、仕方ない。

「……ご主人様?」

「今行くよ」

「はいっ」

 努めて明るい声を出し、呼びに来てくれたアニマに応じる。実験は後回しでもいいだろう。

 魔力への指示を取り消し、扉を開いてアニマと共に台所(キッチン)へ向かった。


 食卓に並んでいたのは、肉野菜炒めと肉野菜スープ。随分と食材が被っている気はするが、そこは置いておく。

 手を合わせ、いただきますと唱和してから──なんだか視線が集中している気はするが、フォークを伸ばし、葉物野菜多めな肉野菜炒めを少し食べる。続いてスプーンを手に取り、今度は芋の入った肉野菜スープを口にする。

「ちょっと真剣に頑張ってみたんだけど、どう?」

「うん、どっちも美味しいよ。ありがとう」

「えへへ」

 食べる瞬間の反応からして、肉野菜炒めがアンナ、スープの方がアニマの作品だったらしい。

「味付けはアンナ?」

「私は炒め物だけで、スープはアニマちゃんの作品ね。ちょっと不安げには見えたけど、しっかり作ってたわよ?」

「へぇ、アニマは味付けの経験はあんまり無かった、よな?」

「先日までの旅の途中で、料理を作ってるところを見て覚えたんですよ。鼻と舌には自信がありますからっ」

「なるほど」

 とはいえ、凝ったものを出されても俺はその二つにあまり自信がなかったり……ま、言わぬが華か。

 明確に差がわからなくても、浪費なしに美味くなるなら歓迎だ。

「これからも、頑張りますっ」

「ありがとう。でも、無理はしちゃだめだからな?」

「はい!」

 ……返事は元気で良いんだよな。

 少しばかり苦笑が漏れた。


 夕食後もしばらく実験を続けてみたが、結局まともな成果は得られなかった。強いていえば、実験するための器具を一つ思いついたくらいだ。

 思いついた実験装置は、空気の入ったピストンの上に重りとして水の入った容器を置いたものである。

 圧力を魔力に変換する事が成功すれば、魔力が発生しつつ重りが下がる。重力を魔力に変換する事が成功すれば、魔力が発生しつつ重りが上がる。

 狙って起こすので両方同時は無いと思うが、重りが動かずに魔力が発生したら、両方成功と判断していいだろう。……結局、何も起こせてはいないのだが。

 水と空気さえあればどこでも作れるので、暇な時にまた試してみようと思いながら就寝した。



 ………………



「それで、今日はどうしようか」

「ユーリはもう、実験は良いのよね?」

「試したい事は一通り試せたからな。もう少し詳細に実験するには時間が掛かるし、今すぐじゃなくてもいい」

「じゃあ、とりあえずですけど、組合(ギルド)の近くにあるあのお店で朝ごはんなんてどうでしょう?」

「そうだな。食べ終えたら南の森にでも行ってみるか?」

「そうね。……」

「……アンナさん?」

 アンナが沈黙し、その視線はアニマに向いている。より具体的には首元……に?

「……首輪、欲しいのか?」

「そうなんですか?」

「! えっと…………その、まぁ、ちょっと」

「んー……」

 望んでいる以上は叶えてやりたい気もするが、どうしたものやら。

「その、買うのは難しいのよね?」

「なりたいって宣言は聞いたけど、法律上は奴隷商に売りにいってそのまま買い戻す必要があって……なんだか意味がわからないんだよな」

「私のを貸したりもできないんですよね?」

「アニマを示す情報も刻まれてるし……国の認める奴隷じゃないのに奴隷用の首輪を着けてたら、それはそれで問題だ」

「そうよね……」

 アンナは落ち込んでいる様子だが、これは仕方がない。特定の誰かに奴隷として扱ってもらうために奴隷になりたい、というのがそもそもおかしな話である。

 アニマは、遭遇した時点で奴隷だったからな。

「……まぁ、革でも買ってそれっぽい装飾品でも作るかな? 首に巻くタイプの。勿論、違いはわかるようにするが」

「う、うん。ごめんね? ありがと」

「おう。…………材料は多めに買って、アニマにも作るよ。この国じゃ着けられないがな」

「ありがとうございますっ。……その、すみません」

「構わないよ」



 朝食は飲食店で済ませ、市場ではなめし加工済みの黒い革を買った。

 狩人(ハンター)組合(ギルド)に新しい情報がない事を確認して、王都の南から三人で外に出ると、左右の畑には以前と異なる点が目につく。

「ブドウが生ってるな」

「ですね。夏が近付いてきた感じです」

「あれ、美味しいの?」

「このブドウの品種は知らないけど、美味い奴は美味いよ」

「ふぅん……地球にもあるの?」

「普通に店で売ってるはずだよ。俺の住んでた辺りで買えるのは……多分、ちょっと高いけどな」

「……こっちのブドウがしっかり熟れるよりは、地球に行く予定の方が先ですよね?」

「そうだな。俺も空間魔法を習得できるように頑張らないと、な」

 俺がそう言ったところでアニマが何やら立ち止まり、こちらを見つめてくる。

「ご主人様も、無理はしないですよね?」

「勿論、休み休み慎重にやるよ。無理しない範囲でね」

「はいっ」

 アニマは素直に頷き、俺の反応がわかっていたらしいアンナと共に笑みを浮かべた。

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