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仕様違いの魔法使い  作者: 赤上紫下
第 4 章

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13:空間魔法とアンナの組合証

「「「「「おはようございます」」」」」

 久しぶりに会った使用人に連れられ、朝食時の小食堂に馬車でも一緒だった五人が揃った。

 挨拶の声が妙に綺麗に揃ったのは、二〇日ほど共に旅をした成果だろうか。


「シライ様、カっ……ホンドー様、改めてになりますが、この度は国難を排してくださいまして、誠にありがとうございました」

「どういたしまして、ですね」

「ど、どういたしまして。……僕はついていっただけ、って感じだけどね」

「いや、本堂君だってちゃんと負傷者を治して回ったろ? って馬車でも何度か言ったかな」

「あはは、すみません」

 確かに普通に見れば俺が一番大変な所には居たのだが、【固定】の力で身を守れていたので、実は戦場でも相当に安全な場所に居たわけだ。我ながらつくづく、ズルい力だと思う。

 駆の仕事は味方の治療だが、重症を負った味方を治すためには、傷をそれだけ詳細に認識する必要があったはず。しかも投げ出せば味方の死傷者が加速度的に増えるという大変なものだった。

 だから俺よりも駆の方が精神的に厳しい環境だったと見て間違いない、と思うのだが、駆の様子は割と普通。敵を倒せなかった事を悔やんでいる程度にしか見えないので、大物と言うべきか。

「お二方とも、そうそう比類する事のない働きで国を救ってくださった事に変わりはありませんよ」

「うん、ありがとう」


「ところで、その、お二方を召喚した際の依頼は無事に、予想よりも良い形で達成されたのは良い事なのですが、これからどうなさいますか? その、居住する世界についての話ですが」

「僕は……どうしようかな」

 駆がどう答えるかを伺っていると、駆は視線を上に向けてぽつりと呟いた。

「その、こちらの世界に残るのであれば、ある程度の優遇はいたしますよ?」

「うーん………………白井さんはどうするんですか?」

「俺はある程度決めてるんだが、本堂君は本堂君で決めた方が良いと思うぞ。今回はな」

 駆は悩んだ末に俺に聞いてきた。突き放すような形ではあるが、俺はそう答える。

「……ですよね。うあー、どうしよう」


 駆の決断を待ちつつも料理を食べ進め、もう食べ終えてしまいそうなところだが、駆はまだ決めることはできないようだ。

「んー……この場で答えを出せってのは、無茶なのかな。じゃあ、アモリアさん、少し聞きたい事があるのですが、よろしいでしょうか?」

「は、はい、なんでしょうか?」

 悩んだままの駆は一旦忘れ、そのまま知りたい事を聞いてみる。

「その、世界を移動する方法である空間魔法の情報が欲しいんですよ。発動するために必要な魔力だとか、用意する素材が有ったりするのかとか、そんな情報が」

「そうでしたね、申し訳ありません。ええと……お二方を召喚したあの施設が、送還にも必要である、という点はよろしいでしょうか」

「ええ、その点は承知してます」

 俺達が召喚された石造りのあの部屋には、魔道具で色々と補助がしてあるらしいという話なら以前聞いていた。

 俺がこの世界に来て割とすぐ、ある程度の魔法を使えた点から考えると、もしかしたら補助抜きでいけるかもしれない。

 勿論、【固定】の力は大前提だ。これは【固定】の力がすごいというより、【魔力操作】で動かすだけでも消費してしまうこちらの魔力が駄目だったり──いや、空間とかいうよくわからない物を操作できるのは凄いんだがな。

「送還する際に最低限必要な魔力はのべ百人分ほど。特別な素材は必要ありません。魔力を蓄積するための魔道具もありますので、数日あれば発動できるでしょう」

「そうですか。あ、移動する人数によって必要な魔力の量が変わったりはしますか?」

「重量に依存しますが、十名程度までであればほぼ変わりませんよ」

「え、そうなんですか?」

「はい。召喚や送還を行う度に、空間を渡る為の道を作る必要があるのですが……その道を繋ぐ先を探し、作り、安定させる、という手順で消費される魔力が大部分なのです」

「道さえあれば、渡る為にはあまり消費しないと?」

「はい、その通りです。あの魔法陣で一度に対象にできる人数がそれだけでして……接続先を確認する為の魔法は数分維持できますが、人を移動させられる程の穴にすると数秒で魔力が尽きてしまいます」

「そうですか。えと、接続先の確認と、もう少し小規模な……硬貨を一枚だけ転送するような実験だけだったら、どの程度魔力が必要になるのでしょうか」

「その程度でしたら……そうですね。本日の昼頃には可能だと思います。お見せしましょうか?」

「是非、お願いします」

「わ、わかりました、手配しておきます」

「ありがとうございます」

 聞いてよかった。問題の大半が解決した上で、更なる手段を手に入れられる可能性が目の前にやってくるとは。

「ふふふふふ……」

「ちょっとユーリ、声、声。もう少し落ち着きなさいよ」

「ん……ああ、済まん」

 興奮しすぎたらしい。声が漏れていたようで、窘められてしまった。アニマも声には出していないが、袖を引いて俺の注意を促してくれていた。

 まぁ、まだ使えるようになると断言はできないからな。何度も使ってもらうのも申し訳ないから、一切の見落としが無いように、できれば一回で、あの部屋で発動する空間魔法を詳細に把握するのが一番良い。

 そのためにも、【魔力知覚】及び【演算】全開で徹底的に見抜かなければ。最低でも、細かな記録は取りつくすつもりで頑張ろう。

 今のうちにある程度予想を立てておけば実演時に詳細に分析しやすいだろうか。勿論予想外の事態が起こっても先入観は持たないように集中する必要はあるが、予想外が多すぎるよりは認識し易いはず。

「ふ……ふふ……おっと」

「「……」」

 …………。

「とりあえず、食べるか」

「はい」

「……うん」



 結局、駆は結論を出せずに朝食が終わったので、全員で地下の一室へ向かう事になった。俺達だけではなく、神官のような、儀式的な装飾の施された服を着込む魔法使い達も居る。

 コツコツという足音がやや大きく聞こえる気がする中、魔道具の灯りに照らされる道を曲がりながら進むこと、しばらく。

 辿り着いた部屋の床にあったのは、薄っすらと光る大きな円と、その内外に描かれた複雑な模様。俺達が、いや、正確には駆が召喚され、ついでに俺の死体が現れた魔法陣がある。

 先を歩くアモリアが入口から少し進んだ魔法陣の外で止まり、こちらを振り返った。

「では、実演を行いますね。魔法陣の中央に転移させる物を置いてください」

「わかりました」

 俺はアモリアの言葉に従って、鞄から一枚取り出した銅貨を魔法陣の中央に置いて戻った。

「それでは地球の様子を確かめる魔法を使いますが、その前に。何か質問があれば今のうちにお願いします」

「じゃあ、一つ良いですか?」

「はい、なんでしょう?」

「地球の様子が見えるんだと思いますけど、俺達の姿が向こうに見えたりはするんでしょうか」

「小さな穴を開けて、そこを通った光を増幅する、という形で発動する魔法ですから……あちら側にも光を増幅する何かがあれば別ですが、空中に小さな点が見えるぐらいでしょう」

「わかりました。ありがとうございます」

「どういたしまして。他には……無いようですね。それでは、発動いたします」

 アモリアは控えていた魔法使いから、装飾の施された杖を受け取り、その杖に魔力を集中させていく。

 杖が微かに光りながら俺の記憶にない魔力の動きを起こし、奥の壁に日本の街が投影された。


 壁に映った景色は、やや高い位置から見下ろした道路と、それなりに人通りのある電車の駅。空が赤く色づいていて、時計は映っていないが夕方頃に見える。そしてあまり大きくはないが、街の音も聞こえてくる。

 ここは──いや、今は解析を優先だ。【魔力知覚】と【演算】の二つを意識しながら、魔法の発動する仕組みを読み取り始める。

 発動している魔法は、空間に穴を開けるものと、小さな穴から通った光や音を増幅する働きをするものだろうか。混同しないよう、慎重に。

 アニマとアンナと駆は息を呑んで壁に映る景色を見ている。

「ふぅ……その、どちらに転移させましょうか」

「え? あっ、そうですね、できれば目立たない所がいいと思うので……そこの屋根の上なんかはどうでしょう」

「わかりました……っ!」

 俺の提案に頷いたアモリアはまた杖に魔力を込め、視点が屋根の上に移動する。

 更にアモリアが魔力を込めると魔法陣の中央が小さく光って、置かれていた銅貨が地球に転移。キンと小さな音を立て、銅貨は建物の上にある平面に接触した。

「おぉ……」

「では、ここまでで、す」

 アモリアの宣言に従うように魔法陣の光が消え、銅貨を中心とする映像も途切れた。

 魔法陣から魔力が緩やかに散ったので、こっそりと少量を確保した。情報の足しにしようと思う。

「しかし、H駅かぁ。久しぶりに見たな」

「ですね、僕が召喚されたのもこの近くです。白井さんは?」

「俺は少し違うぞ、そこそこ近いが山……名前は憶えてないが、駅じゃあなかった」

「あ、そうでしたね、すみません」

「参考に、なりましたか?」

「はい、ありがとうございました」

 駆と日本の話をして、疲労が見えるアモリアにも礼を言った。

 とにかくこれで──物理的な繋げ方はよくわからないままだし、空間に穴を開けさせるための魔法とその操作方法がそれとなくわかった程度だが、概ねの方向性は把握できた。

 ただ、流石に空間を弄る魔法だけあって複雑さは尋常ではないようで、今まで通り杖も持たずに発動できるかどうかはわからないし、必要な魔力量も相当なものだと思われる。

 これをPCに例えて言うならば、実行できるアプリケーション本体とデフォルトのパラメータは揃っているが、PC本体(ハードウェア)と電力は心許ないといったところか?

 まぁ、多少の難はあるにせよ、地球とこの世界を繋ぐ魔法はある程度なんとかなりそうだ、という結論には達せたので、良かったと思う事にする。



 地上に戻ったところで、駆はもう少し考えたいと部屋に戻った。

 俺はアモリアにもう少し聞きたい事があったので残ってもらい、駆が十分離れた頃を見計らって、言葉にする。

「まず、そうですね。今すぐに、ではありませんが、空間魔法はなんとなく習得できそうなんですよね。そこで、一度俺達が地球に戻って、その後でまたこの国に来た場合はどうなります?」

「え、ええと……難しい問題ですね……。少々の荷物程度なら預かっておけますし、城内の部屋も空けておくことは可能ですが、シライ様がお持ちの家は少々……」

「ですよね。だから、ある程度の期間内に俺達が戻ってこれなかったら、家屋を没収するような方向で如何でしょう」

「……シライ様がそれで良いのなら、はい。期間はどの程度にいたしますか?」

「一年ぐらいで考えてますけど、大丈夫ですか?」

「はい、その程度であればなんの問題もありません」

「ありがとうございます。……って事でアニマ、アンナ、難しいかもしれないけど往復は可能そうだから、地球に送ってもらう方向でいいかな?」

「はい」

「ええ、いいわよ」

「という事なんで、アモリアさん、俺達三人は地球に送っていただきたいと思います。よろしいでしょうか?」

「わかりました。準備や都合の関係で……そうですね、一〇日後で如何でしょうか」

 アニマとアンナに顔を向け、どちらも首肯してくれたので、代表して答える。

「一〇日後、よろしくお願いします」

「はい、そのようにいたしますね」



 アモリアには感謝を伝えて程なく別れ、三人で部屋に戻って(くつろ)ぎながら話し合う。

「んーで、一〇日後の予定が決まったわけだけど、それまでどうしよっか」

「何か作ったりしないの?」

「そりゃあ作ったりぐらいはしようと思うけど、地球に、というより日本に行けるってなると、向こうの方が良い素材は一杯あるんだよな」

「そっか。荷物をあんまり増やしても移動が大変になるわね。ちゃんとした材料で料理を作ってみたいところだけど、ここの部屋に調理できそうな設備は無いのよね?」

「無いな。俺が買った家にはあるから、一〇日のうち何日かはそっちで過ごそうか」

「うん、腕によりをかけて作るから楽しみにしてて」

 アンナの言葉に大きく頷く。大よその方針はそんな感じで良いとして。

「アニマはどうだ?」

「うーん……狩人(ハンター)組合(ギルド)とか、どうです?」

「そうだな。そっちも行こうか」

「私はなんでもいいけど、なんのために行くの?」

「ああ、それは……」

 アンナからの質問への回答は、俺にもあるのだが、発案者であるアニマに視線を向けて促してみる。

「アンナさんは組合証(ギルドカード)を持ってませんから、このままだと仲間外れみたいじゃないですか」

「アニマちゃん……うん、ありがと」

「ま、そういう事だ。登録が済んだら……今日はちょっと家の方でのんびりしたいかな」

「わかった。ユーリもありがとね」

「おう」



 予定が決まったところで平服に着替え、使用人に食事が不要である旨を伝えてから、王城の外に出る。

 そのまままっすぐそこそこ良い天気の賑やかな王都を歩き、狩人(ハンター)組合(ギルド)に辿り着いた。

「久しぶりに来たなぁ。前よりは騒がしいけど」

「戦争が終わったから、ですかね」

「ここまでの道も結構賑わってたものね」

「そうだな……まぁ、受付は空いてるみたいだから登録はできるか」

 アニマ、アンナと共に、どこか役場を思い出す建物の中を歩いて受付の前へ移動すると、受付職員がこちらを認識した。

「ようこそ狩人(ハンター)組合(ギルド)へ……? あ、ユーリ様、お久しぶりです! 本日はなんの御用でしょうか」

「とりあえず、組合に登録してない一人がパーティーに加わる事になったんで、組合への登録からお願いします」

「はい、承りました。そちらの方ですか?」

「えぇ、私よ」

「ではお名前と、登録料として大銀貨一枚の支払いをお願いします」

「名前は、アンナ。登録料は……はい」

「アンナ様ですね。それでは組合証(ギルドカード)を作成して参りますので、少々お待ちください」


「ええと、これでいいの、よね?」

「登録はな。ついでにランク試験も受けていけばいいんじゃないか? 試験が大銀貨三枚で、あとはパーティー登録が銀貨一枚……だったかな?」

「結構掛かるのねぇ……」

「まぁなぁ。あ、試験の費用は落ちたらまた要るから、油断はするなよ?」

「わかってる。力み過ぎない程度に頑張るわよ」

「あれ、あんたら……ああやっぱりユーリか」

「うん?」

 声を掛けられたので振り向くと、そこには獣人の大男が立っていた。見覚えがある。名前はたしか──

「……ラック……だったっけ?」

「ああ、それで合ってる」

「知り合いなの? ユーリ」

「ほら、アニマが一度連れ去られた話はしたよな? その時の奴だよ」

「あぁ、あの。へぇ……?」

「いや、その、間違っちゃいねえけどよ。……あ、あんたらは、どこに行ってたんだ? しばらく居なかったみたいだが」

 露骨な話題逸らしだが、あんまり責めるのも可哀想か。

「そのあたりは守秘義務が……あるかどうかは聞いてないか。まぁちょっと外国まで行ってたんだよ。戻ってきたのは昨日だ」

「戦争が終わったから帰ってきたのか? 耳が早えな」

「まぁ、終わったから帰ってきたのは確かだがな。そっちはどうだったんだ?」

「こっちは結構大変だったんだぜ? トロルがオーガを連れて街まで攻めてきやがったからな」

「そりゃ中々だな。……被害は?」

「また畑がちょっとやられたが、その位だな。軍も帰ってきたし、戦争も終わったってんなら魔物相手に割ける力は増すだろうよ」

「なるほど、一安心かな」

 トロルといえば魔物のランクでAに該当する、かなり強めな分類の魔物だったはずだ。オーガも魔物のランクはBであり、まぁ、一般的には脅威である。

 軍が他国に攻め入っている状況でもそれらの魔物を倒せた上で、今は軍も戻ってきていて戦争も終わったとなれば、しばらくは平和も保たれるだろう。


「お待たせいたしました、こちらがアンナ様の組合証(ギルドカード)です。説明は必要でしょうか」

「説明は、ユーリから聞いてるから要らないかな。無くさなければ良いのよね? あとは、無くしたら悪用される前に届けるとか」

「ええ、紛失された場合は直ちに届け出てください」

「それで、個人ランクの試験も受けさせてもらえるんだったかしら?」

「はい、今なら担当の者も手が空いているので大丈夫です。どのランクの試験をお受けになりますか?」

「B……でいいのよね? ユーリ」

「受けられるのはそこまでだし、アンナなら十分受かるだろ」

「うん、じゃあ、Bの試験を受けるわ」

「承りました。では──」


 受付職員が試験官を呼びに行ってしばらく待ち、アンナが狩人(ハンター)のBランク試験を受けることに。。

 アンナは俺がエルヴァンとして生きていたあの世界で、それなりに狩りの経験を積んでいる。そして、この世界の魔法は戦争からの帰り道でそれなりに仕込んである。

 結果、アンナの試験はアニマの時より危なげなく終了し、Bランクの評価を無事に獲得した。

「やったわよ、ユーリ!」

「おめでとう、アンナ」

「……意外とおっかねえな、その嬢ちゃん」

「戦う力があるだけで、普通にいい子だぞ。っつかあんたは……暇なのか?」

「うちのパーティーは昨日狩りに行ったから、今日は休みだ。次の狩りに向けて情報を集めに来てたんだよ」

「なるほど、そりゃ済まなかった」

 俺は情報を集めた当日にしか狩りに行ってなかったが、よく考えてみればそんな使い方もするよな。


「これで、ユーリ様のパーティーの一員として、アンナ様の登録が完了いたしました」

「ありがとうございます。と、一応なんですけど、何か目立つ魔物の情報とかありますか?」

「ユーリ様方のお力を必要としそうな地域はありませんね。最近はどの方面も穏やかなものです」

「そうですか。ありがとうございます」

 処理を進めてくれた受付職員に感謝しつつ狩場の情報を聞いてみたが、ま、平和なのは良い事だよな。

「えっと、どうしましょうか」

「市場で材木でもちょっと買うか? 流石に椅子が無いのは不便だし」

「……狩りには行かねえのか?」

「ああ、今日はアンナ(こいつ)の登録に来ただけなんだよ。ちょっと俺が疲れててな」

「そうか。……まぁ、体は大事にしろよ」

「ありがとさん」

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