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仕様違いの魔法使い  作者: 赤上紫下
第 4 章

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12:ひっそりと祝杯を

 なんやかんやとバルダーの演説が続いて、広場での騒ぎが収束したのは、まだ夕方というには早い頃。

 明日の朝食は、アンナが居ても問題ないと聞いたので城で頂く予定ではあるが、まずは今日の夕食をどうにかしなければいけない。

 もう自由にして良いとも聞いていたので、肉料理が美味いいつもの店へと向かう事にした。


「ここが聞いてた例のお店なのね」

「ああ。もう少し時間が経つと込みそうだから……味わいながら、ちょっとだけ急いで食べよう」

「はいっ」

 俺の言葉にアニマは即答し、アンナは少し呆れたように笑った。


 席はまだ空いていたので座り、見覚えのある店員に注文をして、待つこと少し。

 この店の裏に行く扉はあっちの方だとか、実際に見て雰囲気が良かったとか、そんな話を交わしている内に料理が来たので、とりあえずと手を付ける。

 やや高めの値段設定ではあるものの、やはりこの店の料理は美味い。アニマは単純にわかり易く、アンナはこくこくと頷きながら、二人とも美味しそうに食べている。

 そんな二人を見ていると、俺の視線にアンナが気付いて手を止めた。

「……何よ?」

「いや、二人とも美味しそうに食べてるもんだからついな」

「む……アニマちゃんはともかく、私は普通だったでしょ?」

「え? アンナさんも顔に出てましたよ? ご主人様もですけど」

「まぁ、美味いしな。普通に」

 思わぬ方向から少し飛び火したが──料理の腕というより素材や調味料の差によるものとはいえ、移動中に食べた食事と比べれば美味いのは確かなわけで。

 そして俺達二人の視線を受けたアンナは、何やら照れたような表情にじわじわと変化していく。

「……もう、さっさと食べるわよ」

「そうだな」

「ですね」

 逆らう理由もないので食事を再開する。



 食べ終えてからは、この店の持ち帰り商品であるソーセージを少しだけ購入してから店を出て、なんとなくさっぱりしたかったので王城へ。

 通用門の前に辿り着き、職員に通行証を見せた。

「ユーリ様と、アニマ様と、アンナ様ですね。確認しました。どうぞお通りください」

「え、魔道具とか要らないんですか?」

「はい、ユーリ様とそちらのお二方については魔道具も不要という事で許可が出ています。他の方を連れ込む場合であれば魔道具は必要ですが、そちらも二名までに拡張されていますね」

「通行証を持ってるのが俺だけでも、最大で五人まで入れるって事ですか?」

「そうなります」

「へー……、わかった。ありがとう」

「いえ、これも仕事の内ですから」

 俺の戦功に対する報酬として願った結果ではあるが、バルダーが俺に出してくれた許可は、思ったより大きなものだったらしい。

 今までの俺の通行証は俺以外には一人だけ、それも警備の都合から、居場所を報せる魔道具を付けた上でなら入城できるといったものだった。

 しかし今回はアンナも含めて素通りと、桁が変わる程ではないが中々に拡張されていて驚いた。

 魔道具が不要になった分、アニマやアンナが着替える際の不都合が減るのも大きい。

 バルダーに感謝である。



 割り当てられていた懐かしの自室へ辿り着き、宝箱のような形のチェストを漁って──家に一度戻り、改めて王城内の浴槽のある個室に来た。

 チェストも家もしっかり施錠、というより【固定】まで使って閉じていたので、空き巣等の被害には遭っていない。

「……なんだか慌ただしいわね?」

「いやぁ、シャンプーは家の方に置いてるのを忘れてたもんでな」

「何度か聞いたけど、そんなにいい物なの? シャンプーって」

「試してみるといいよ。地球じゃないと買えないから、あんまり大量には使えないけどな」

「うー……言われてみれば、ちょっとべたべたしてますかね、私……」

「達、な。アニマだけじゃなくて俺達三人ともだ」

「それは良いんだけど、ちょっと狭くない?」

「そこは一人用だから仕方ないかな。探せばもっと大きな浴場もあるとは思うぞ、多分」

「それはまぁ、そうね」


 浴槽には水を張らず、別に貯めた水を魔道具でお湯にしながら、わしゃわしゃと髪や体を洗う。

「香りが付いてるのね。結構強め?」

「ま、しっかり落とせば大丈夫だろ、多分」

「ふーん? あら、意外と泡立つのね」

「洗い上がりもそこそこ良い感じになるぞ」

「へぇー、楽しみにしておくわ」

「そこまで期待されるようなもんでもないけどな」


 健全な(?)入り方で旅の疲れと汚れを落とした後は、楽な服を着て──

「あぁ、アニマ、ちょっとやりたい事があるから嵌めるなら手袋じゃなくて、手先が出る方で頼む」

「わかりました」

「何かあるの?」

「さっきチェストを漁った時に思い出した物があったんだ。楽しみにしてて」

「「?」」

 服を着た後は、机を囲んで椅子やベッドに座る。少しばかり行儀は悪いが、今はあまり気にしたくない。


 机の上に【固定】の板を敷いて、【固定】製のコップを三つ用意して、チェストをまた漁る。そしてチェストの中のマイバッグを開いて、とあるブツを取り出してから、机の上に並べた。

「なんなの? それ」

「匂いは……箱と鞄の匂い以外はよくわかりませんね?」

「ああ、俺が地球に居た頃好きだったコーラっていうジュースと、ポテトチップスっていう芋を揚げたお菓子だ。召喚された時に持ってたんだが、中々開ける気になれなくてな……ま、今日みたいな日なら、いいだろ」

「……悪くなったりは?」

「アニマは匂いを感じ取れてなかった、つまり、ちゃんと密閉されてたって事だから……ちょっと味は悪くなってるかもしれないけど、賞味期限はまだだから大丈夫。まぁ一応、一口目は俺が試すよ」

「しょーみきげん……ってなんです?」

「入れ物が開けられてなければ、この日までなら美味しく食べられますよっていう期限の事だ。……俺の主観では一八年以上前に買った物だが、実際には二か月弱、五〇日ちょっとしか経ってないはずだからな」

「……本当に大丈夫なの?」

「シャンプーは悪くなってなかったし、(多分)大丈夫大丈夫。じゃ、まずはコーラから……」

 懐かしいプラスチック製ボトルキャップの感触を味わいながら捻る。

 リングとキャップがプチプチと音を立てて千切れ、プシュッと炭酸ガスが隙間から噴き出した。

 シュワァァッという炭酸の音を耳で楽しみ、自分のコップに少し注ぐと、また炭酸の音がする。

 キャップを締め、静かにボトルを机に置いて、コップを手に取り、味わう。

 喉を通り抜けたのは、期待していた通りの、懐かしい味だった。

「え、ご主人様、大丈夫ですか!?」

「うん? 何がだ?」

「私も驚いたんだけど、目が潤んでるわよ? ユーリ」

 手でこすってみると、指に涙が少し付いた。

「あー…………懐かしくてな。悪くなってもいないみたいだから、二人にも注ぐよ。ちょっと待っててくれ」

 そう言って二人のコップにもトクトクと注いでいき、ついでに自分のコップにも改めて注いだ。


「まぁ、なんだ。完全に俺の趣味だし、値段も安くて悪いんだが、戦争を無事に乗り切ったささやかな祝杯ってところだ。これからもまた、よろしくな?」

「はい、勿論ですっ」

「こちらこそ、よろしくね」

 コップを軽く当ててから、それぞれが口に運ぶ。

 コップの材料が材料だっただけにトン、トプンと微かな水音ぐらいしか鳴らなかったのは少し残念だが、まぁ、今更だ。

「あら、甘い」

「しゅわしゅわします……けひゅん」

 喉が潤ったので、次は机の真ん中にあるポテトチップス。全員が取り易いように袋を背中から開くと、またもや懐かしい香りが部屋に漂った。

 うすしお味の大袋だが、業務用スーパーにあるらしい五〇〇グラムの物ではなく、普通のスーパーにある大袋だ。三人で食べるなら、少し前に食事を摂った今でも丁度良いぐらいだろう。一般的な日本人女性と比べれば、二人とも健啖だからな。

 まずは割れて小さくなった一枚を摘み取り、口に運ぶ。

「こっちも大丈夫……だな。二人も食べてみて」

「で、ではっ」

「う、うん」

 アニマもアンナも恐る恐るポテトチップスを口に運び、もしゃもしゃと咀嚼する。

 反応は上々、かな。気に入ってはくれたようだ。二人は次に手を伸ばすかどうか悩みながら、俺の反応を伺うようにちらりと視線が飛んでくる。

「……ぷっ」

「あっ、なんで笑うのよ」

「いや、二人の反応が可笑しくてな。ほら、食べよう。湿気(しけ)ったら不味くなるぞ?」

「うー……。そうですね。それでは」

 どちらも、なんだか恐る恐る口に運ぶ様子が可笑しくて、そんな様子を楽しみながら俺も次の一枚を口に運ぶ。

「これが地球の味なのねぇ」

「地球のジャンクフードの一つ、な。この大きさのポテチなら……三袋で銀貨一枚ぐらいだよ」

「安い、んですかね?」

「そこそこな。重さはそんなでもないから、調理できる設備があるなら芋を買って作った方が安上がりだけどね」

「なるほど……。それで、こっちのコーラってのは?」

「そっちもジャンクフードのお供で、この大きさのボトルは安売りだったから、ポテトチップスよりは少し安い」

「入れ物も含めて?」

「そうだぞ? ガラスや陶器と比べれば、安くて軽くて割れ難く運び易い。難点としては、傷が付き易くて、熱にも弱いあたりかな」

「へぇー……欠点はあっても、結構凄いですね」

「ああ、水が染み出したりもしないしな。ただ……作り方は覚えてないのが残念だ」

「ご主人様が作った容器の方が凄いですよ?」

「言われてみれば、そうか。……あ」

「?」

 コーラを継ぎ足そうとして、手がべたついてきた事に気付いた。机を見てみるが、この手をどうにかできそうな物はない。

「手を拭く物を用意し忘れてたな。タオル取ってくるよ」

「す、すみません」

「いいよ、気にしないで」


 俺が濡らしたタオルを軽く絞って持ってきた後も話をしながら食べ続けて、どのぐらい時間が経ったのか。

 コーラとポテトチップスが尽きてしまった。

「……終わりかー。ちょっと寂しいけど、無駄に取ってても仕方ないしな」

 厳密に言うなら、コーラは二本セットだったのであと一本は残っているのだが、今は開けなくても良いだろう。

「ぅ……私達も食べてよかったの?」

「二人にも俺が飲み食いしてた物の味を知ってほしかった、ってのはあるからな。構わないよ」

「ご主人様……」

「そ、そう?」

「それに言ってしまえば、香りの付いた砂糖水と薄切りの揚げ芋でしかない。完璧な再現は難しいにしても、似た物を作る程度なら道はそこまで遠くない、はずだからな。時間はあるんだし、暇な時にのんびり再現でも頑張ってみるよ」

「わかりました。手伝える事があったらなんでも言ってくださいっ」

「私も手伝うわよ」

「ありがとう、アニマ、アンナ」


 食べ終えたポテトチップスの袋とコーラのペットボトルは水洗いして、乾かしておく。乾いたら改めてチェストの中のマイバッグに放り込むつもりだ。

 そして三人並んで歯を磨き、やや狭いベッドに寝転んで布団を被った。

「ねえ、ユーリ」

「うん?」

 明日はどうしようかな、なんて考えていたら、アンナが俺に話しかけてきた。少し真剣な表情だ。

「私達であれと同じような物を作れるようになるって目標は良いんだけど、地球に帰ろうとは思わないの?」

「んー…………」

 あまり考えていなかった問題が出てきた。

「……」

 アニマの方に顔を向けると、こちらは不安げな表情。

 頭の中で考え直してみるが、悩む。さて、どうしたものやら。


 少し悩んだ末の結論としては──

「空間魔法の発動条件次第、かなぁ」

「どういう事?」

「まず、俺達三人でまとめて移動できないようなら、この世界に居ようと思う。それは良いよな?」

「そうね。それは私もそうしてもらえるとありがたいわ」

「す、すみません」

 同意は得られた。アニマの謝罪は、自分が俺の行動を制限してしまうから、かな?

 アニマの頭を撫でながら、次の例を口にする。

「逆に、三人一緒に軽く飛び回れるようなら、観光気分で気楽に行けるんだよな」

「あ、ですね。それができたら良さそうです」

「そうね。それができれば一番良い、かな?」

 これも好感触。ただ、問題は最後の場合。

「軽々しくは使えないけど三人まとめて移動できるって感じだったら、悩むんだよなぁ」

「何かこう、地球に帰りたい理由なんかは、ないの?」

「特に明確な理由は、ないな。こっちの世界はやや文明が劣るにせよ、十分暮らしやすいし」

「うーん……アニマちゃんはどう?」

「ご主人様の居た世界は見てみたいですけど、私はご主人様と一緒に居られればそれで良いです」

「うん、そうよね。アニマちゃんならそうよね……」


「時間が経てば経つほど、地球に帰り難くなるのは確かだから……多少難しくても往復ができるなら、一度帰るのもいいかもな」

「とにかく明日、ですか」

「そうなる」

「むー」

「アンナのお陰で考えるにもいい機会だったよ。アンナもありがとうね」

「……どういたしまして」

 アンナはほぼ俺とアニマで進んだ話の流れが気にくわなかったらしく、少し拗ねてしまったので感謝を伝えながら宥める。


 そのまま少し他愛もない話をしていると徐々に眠気が瞼を抑え始めたので、おやすみと言って眠りに就いた。

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