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仕様違いの魔法使い  作者: 赤上紫下
第 4 章

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11:国境を越えてから

 道中、多少天候が崩れる日はあったものの、俺達は無事に国境を越え、グリフォード側の砦で一泊した。


『これからは魔族が暗殺されたりしないように……少なくともしばらくは特に気を付けないとね……』

 砦に着いた後、少し疲れの見える顔でそんな事を呟いていたバルダーの姿は、中々に印象深かった。

 結局そのまま夜は明け、先程何事もなく砦を出たところである。


 砦内で寝る時にはまた例の元地下牢で寝るものだと思っていたのだが、今回は普通の部屋を割り当てられてしまった。地下牢は流石に二〇日も時間があったためか修繕されていて、仕方ないといえば仕方ない事ではある。

 閉じ込められるのはお断りなので、今後はああいう所とは縁が薄いはずだ。俺が多少改造を施したとはいえ、真剣に人を閉じ込める為に作られた一室を見る機会は、今後そうそう巡ってくる事はないだろう。

「ちょっと物足りな……いや、なんでもない」

「……」

 つい口に出てしまったが、妄想で済ませるべき趣味を現実に持ち込んではいけないなと思い直す。微妙に手遅れ感はあるが、まぁ、ちゃんと同意を取ってるしな。うん。

 現在俺に背を預けて抱き抱えられているアニマも肯定するような反応を返してくる。何処まで伝わっているかはわからないが、心強い反応である。

 済んだ事は仕方がないと、アニマを撫で可愛がりながら忘れる事にした。

「そういえば。アニマと会ってそろそろ一月半か」

 アニマの髪に触れていると、唐突に思い出した。元々肩に届くぐらいだったので中々気付かなかったが、二センチぐらいは伸びている気がする。地味に時間の経過を感じる変化である。

 ……切るか伸ばすかを考える必要はある、か?

「えと、そうですね。どうします?」

「どうしたい?」

 選択権は譲られているにしても、アニマの好みを聞いてから選びたい。

「ご主人様にお任せしたいです。私は、どっちでも?」

「そうか? じゃあ、切らないでおこうか。もっと伸びてきたら色々試してみたいしね」

「はいっ。えへへ」

 髪をできるだけ傷めない髪留めも、そのうち考えておかないとな。


「!」

「ふぐあっ!?」

 馬車がしばらく道を進んだところでアニマが急に頭を動かし、俺の鼻に命中した。地味に痛い。涙も出てきている気がする。

「ご主人様!? すみませんっ、だだ、大丈夫ですかっ?」

「ふお、おう。で?」

「は、はい。賊を捕まえたらしいです。それで……えと、賊は知ってる人かもしれません」

「誰だ?」

「いえその、名前は思い出せないんですけど、どこかで聞いた覚えのある声のような気がして」

「……?」

 騒ぎが前方で起きているという事は確かなようなので、止まってしまった馬車から降りて向かってみる事にした。


「なんだってんだ! 魔族は敵だろうが! 邪魔をするんじゃねえ!」

魔族の国(ハインデック)との戦争は既に終わっている。彼らは捕虜のようなものだ」

「そいつらは魔族だろうが! そいつらを殺す前に戦争が終わるわけが無えだろ!」

「我らは魔王を討ち、ハインデック王都まで侵攻して賠償を支払わせる事で終結とした。もう一度言うぞ。戦争は既に終わっている」

「ばっ……馬鹿いってんじゃねえ、魔族が生きたまま戦争が終わっただと!? 俺の功……いや、国民がそんな事を認めるわきゃねえだろ!」

「事実だ。そして、我らが王を含む一行に剣を向けておきながら、ただで済むと思っているのか?」

「お、俺が剣を向けたのは魔族どもで……決して王に向けたわけじゃ……そうだ。魔族を連れてる時点でおかしいんだ、俺が目を覚まさせてやろうとしただけで害する気なんて……」

「愚かな。功績を重ねる為に魔族を斬ろうとしていただけであろうに」

「っ、そんな、そんな事はねえ! 俺は、俺は国の為に」

「その程度の嘘を見抜けんと思ったか?」

「う、うあああっ!」

 声が聞こえる辺りまで近付くと、単独だったらしい賊と軍の会話が聞こえてきた。

 捕らえられている男の声は、確かにアニマの言う通り憶えがある気はするものの、思い出せないのでもう少し近付いてみる。

 俺が近付くと取り囲んでいた兵達は道を開けてくれたので、目礼を返しておく。

「だっ、誰かっ……!?」

 捕まっていた男の視線が俺を捉えるが、その顔を見ても記憶にあるようなないような、微妙なところ。

「……やっぱり思い出せないな。誰だ? お前」

「て、んめえはあの時の化け物か! そうか、てめえが軍の連中を洗脳してんのか」

「は? っていうかホント誰だよお前」

「この野郎、俺の剣を壊しておいて忘れたってのか!? お前のせいで俺はこんな苦労をしてんだぞ!」

「……?」

 思い出せそうで思い出せない。剣は戦争中にかなりの本数を叩き折ったが、人族相手にそんな事をした憶えはない。

 そんな俺の反応が信じられないらしく、目の前の男はぱくぱくと口を開け閉めしている。

「っ、ふざけやがって! ……獣混じりの小娘はどうした、愛想でも尽かされたか? ハッ、てめえみてえな奴ならありそうだ」

「……ああ、思い出した、お前あの時の強請(ゆす)りか」

「誰っがじゃごるああああ! 正当な治療費を要求しただけだろうがああっ!」

 そうそう、思い出した。こんな声だった。

 その時に一緒だったアニマは俺のすぐ近くに居るのだが、この男の目には入っていないらしい。

 この男は、飲食店でいきなりアニマに酒をぶっかけた酔っ払いの強請りで、俺達の座るテープルを突然蹴りだして、足を怪我したから治療費を出せ、なんて言い出した奴だ。

 確かにその時には男の剣をぶっ壊したし、兵士に突き出して、アモリアからその後の話も聞いた覚えがある。

「脱走したって話だった、かな。協力者は誰だ?」

「獣混じりの事なんざ知らねえよ! 知ってても教えるかってんだ」

「……まあいいや。お前が誰かわかった時点で俺の興味も失せた。じゃあな」

「待ちやがれ化け物! この俺が、グッ……」

「いい加減にしろ、賊めが」

 背を向けると懲りずに叫び始め、取り押さえていた兵に黙らされていた。

「その、お知り合いで?」

「以前、飲食店で夕食を摂ってた時に────って事があったんです」

「ああ、小耳に挟んだ事があります。あれがその男でしたか」

「はい。それでは戻りますね。邪魔して済みませんでした」

「いえ、有益な情報を得られましたので、問題ありません」


「その、誰だったんですか?」

 馬車に戻ると、今度は駆から質問を投げかけられた。

「本堂君には、前に話したっけかな? お店でアニマと二人で夕食を摂った後、帰ろうとしたらアニマに酒を掛けて騒ぎ始めて、剣まで抜いた男だったよ」

「? ……ああ、あの」

 質問をしにきた駆以外も今の話で納得できた様子。アンナもアニマから聞いた事を憶えていたらしく納得顔だ。

「どうやって逃げたかはわからないけど、牢から逃げてこんな所まで来てたらしいね」

 しかし脱走から一か月は経っているはずなのだが、どうやって食い繋いだのやら。

「そういえば、あの、もしかしたらなんですけど。あの人は、自分を逃がした相手の事を『獣混じり』って言ってましたよね?」

「? 確かに言ってたな」

 アニマの事も『獣混じりの小娘』などと呼んでいたので、獣人族に対する蔑称の一つなんだろう。

「ですから、もしかしたら……あの人を逃がした相手は、私を奴隷商から逃がした人かもしれないなって思ったんですけど」

「成程なぁ。匂いはまだ憶えてるか?」

「う……すみません。私を逃がした人の方を嗅げばわかりそうですが、あの人には残ってないみたいでしたし、断言まではちょっと……」

「そっか。ま、わかったら教えて。捕捉できたら捕まえよう」

「は、はいっ」


 しばらくすると馬車も再び進み始めたので、先ほどまでと同じくアニマを抱えて撫で始める。突き刺さってくる呆れたような視線からは目を逸らした。



 ………………



 少しばかりの騒動を終えてから、三日後。

 行軍中の兵達から上がる喜びの声が徐々に多く、大きくなっているように感じる。


 昼を過ぎた頃にひときわ大きな声が上がり、何事かと目を向けると、馬車からでもグリフォード王国の王都とそびえ立つ王城が見えた。

「あれが、人族の国(グリフォード)のお城?」

「ああ、そうだよ」

 ダイヤモンド製のレンズを使った望遠鏡を覗きながら、アンナの質問に答える。

 俺の素の視力はこの中で一二を争う程度には低いので望遠鏡を必要とするが、アンナは裸眼でもそれなりに見えるようだ。

「そ、その、白井さん。望遠鏡借りていいですか?」

「ん? ああ、じゃあこれを。アモリアさんと二人で使うといい」

「そっ、その、ありがとうございます、シライ様」

 俺と視力の低さを争える相手である駆の希望に応じて、一本だけ貸し出す。

 残り二本はアニマとアンナに渡して、俺はそのまま腰を下ろした。


 アモリアはしばらく望遠鏡を覗き、王都の無事を確認したからかホッと一息を吐く。そして駆と少し話し合った後で、望遠鏡を俺に返しつつ、口を開いた。

「ありがとうございました、シライ様。その大きさで遠くがよく見える望遠鏡というのは素晴らしいですね」

「そう言っていただけると、頑張って作った甲斐があります」

 レンズの加工にはかなり気を使った。屈折率が高いせいで少しの角度の違いが大きな歪みを生むし、単純に硬くて加工し難いという理由もある。

「ところで……その、望遠鏡をどうやってそこまで小型化したのですか?」

「加工の精度が高いから、ですね。……それ以上は知らない方が良いですよ。どうしても聞きたいというのであれば、答えない事もないですけど」

「加工の精度以外? 何か、如何(いかが)わしい材料でも?」

「いえ、材料がおかしいのは確かですけど、如何わしいものではないです。聞いたら後悔しそうな物ではありますけどね」

 俺は悪そうな笑みを浮かべながら、そんな事を言ってみる。

「そのような事を言われると尚更気になりますね……」

 アモリアは聞くかどうするか迷っている様子だ。

 アニマとアンナは材料を知っているので半笑いのような表情。駆は疑問符を頭に浮かべていそうな顔をしている。

「うーん、ガラスだったらそんな事は言わないだろうし、プラスチックやアクリルみたいな感じじゃなかった。ダイヤモンド……? いやそんなまさか」

「「!」」

「!?」

「……」

 駆がぼそぼそと呟き、アニマとアンナが答えを言外に語ってしまい、その反応でアモリアにも気付かれた。そこまで把握した俺の表情が固まったのもまた後押しになった模様。

 アモリアの視線が俺達の表情や望遠鏡の間を高速で動き、表情が引きつったようなものへと変化し始める。

「そ、その、本当に、ダイヤモンドなの……で?」

「少々お待ちを」

 仕方ないので、馬車に【固定】の防音処理を施してから質問に答える事に。


 何かがあるといけないのでアニマは範囲外で待機してもらい、正直に答える。

「先程の質問への答えは、是です。確かにダイヤモンドで間違いないはずですよ。内密にお願いしますね?」

「! ……!? は、はい」

「え、ホントにダイヤなんですか?」

「人工ダイヤって奴だな。これだけ大きな結晶は中々作れないはずだから、地球で見る事は多分まずないよ」

「へぇー……」

 駆は随分落ち着いているが、価値がわかっていない様子だ。……念のため、釘を刺しておくか。

「人工ダイヤ自体は地球でならありふれてるが、個人で作れる人はまずいないから、言うんじゃないよ? 面倒事が寄ってくる」

「わ、わかりました」

 実際、人工ダイヤを使ったと謳う手頃な価格の工具は多いから仕方ないといえば仕方ないのだが、その分口止めはしっかり行う。


 内緒話も終えたので防音を解除して、アニマに何もなかったかを確認してから、改めて王都を見る。

「やっと帰ってこれたな。長かった。いや本当に」

「そういえば、ご主人様が王都に居た時間より長かったんじゃないですか?」

「ん? ……言われてみれば、確かにそうだな。しばらくはのんびりしたいね」

「ですね」

「そうね。狩りで遠出するにしても、ここまで日数は掛からなかったものね」

「そうだな。今まで生きてきて初めてだ」

 一月近い期間の旅というものは、普通に生きていればそう経験するものではない。現代日本人なら余計に、いや、そもそも旅ではなく戦争だったか。

 後半は本当に移動だけだったが、その程度でもやはり、そうそう参加したいものではない。次が無い事を願うばかりである。

 まぁ、目的が防衛であるならば、(やぶさ)かではないのだが。



「此度の戦争は終結した。我らグリフォード王国の勝利である!」

『オオオオオオオッ!!』

 門からの凱旋を果たした後、王都内の広場で人を集めて、バルダーが演説を始めた。民衆からの反応が凄い。

「戦争を引き起こした魔王ヴォールトは既に討ち取り、また彼の魔王が率いた軍は既に壊滅している。彼の国において力の象徴であったそれらが倒れた事により、彼らは降伏を選択し、賠償金を差し出した。そして、戦時中に特に非道を行った者らは順次処刑していく事が決まっている」

 俺は会議で大よそ聞いていた通りなので特に驚きはない。民衆はというと、ざわつきながらも次の言葉を待っている。

「それぞれ思うところはあると思うが、魔族のほぼ全てが敵であった今までとは違い、彼ら魔族はこれから罪人と隣人とに分類される事になるわけだ。魔族だからと無用な血を流させれば罪を負う事もある。決して忘れぬよう、留意せよ」

 ブーイングまでは入らないが、だんだん民衆が静かになってきているのが怖いな。

 バルダーはというと、そんな反応を前にしても落ち着いたものである。

「さて、其方らにとっては突然であるとは思うが、これより公開処刑を執り行う」

 また少しずつ民衆が騒めきだした。このあたりの予定は俺も詳しくは聞いてなかったので、どうなるのかは知らな……うん?

 アンドリューを含めた魔族が三人とエドワルドが前に出てきた。

 アンドリューは特に拘束されておらず、残りの魔族は枷が付けられているという違いはあるが、どういう意図だろうか。……もしかしてアンドリュー処刑されんの?

「まずは、彼らを紹介しよう。人族であるエドワルドは前騎士団長であるため、知っている者も多かろう。そして枷の付いていない彼の名はアンドリュー・ハインデック。魔族の王族であり、彼の魔王ヴォールトの息子である」

 一瞬焦ったが、引き倒されたのは枷を付けられている魔族二人だけだった。

「彼はヴォールトの息子だが、戦争には大して関与しておらん。彼は罪人ではない。斧を二人に」

 バルダーの言葉にあわせて控えていた兵が、処刑用と思われる斧を二人に手渡す。

 枷を付けられている魔族達は涙を流しながらアンドリューに縋るような目を向けているが、アンドリューはしっかりと斧を握り、頭上に構えた。

 そして、バルダーの合図に合わせて斧が二つとも振り下ろされ、罪人であるらしい魔族二人の首が飛んだ。


 アンドリューはそれからも特に暴れたりはせず、兵に斧を預ける。

「彼ら魔族にも罪を憎む心がある事がこれでわかったであろう。改めて言う。彼ら魔族は敵ではなく、隣人である」

『ウオオオオオオオオッ!!』

 盛り上がっているし、なんだか魔族も受け入れられそうな流れではあるが、地味に悪趣味だな。

 民衆の反応を感じて、俺の口から苦笑が漏れた。

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