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仕様違いの魔法使い  作者: 赤上紫下
第 4 章

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09:魔族の国の王都にて

 結局魔族は襲ってこないまま、退屈な進軍は魔族の国(ハインデック)の王都であるモーアの近くまで問題なく続いた。

 昨日は宿場町より少し進んで野営となったので、モーアに辿り着いた今の時刻は昼過ぎ。天候は運よく快晴だ。

 ここまで近付いた状況で馬車に揺られるのもおかしな話なので、俺達はバルダーの周囲に並んで、あと少しだった距離を進む。


 王都モーアの様子を見ると、外壁の上には巨弩(バリスタ)や大砲が設置されているものの砲手は居ない。

 というかよく見ると壁の上に白旗が掲げられている。魔族の国(ハインデック)の国旗は別の絵柄なので、間違いなく白旗だろう。

 門は開いていて、魔族の兵は槍を携えてはいるが、穂先は真上を向いたままだ。

「ようこそお出でくださいましたバルダー陛下。まずはこちらを」

「う、うむ。おい」

「はっ」

 門に集まっている中で、一番偉そうな魔族の男が手紙を差し出した。

 控えていた兵がその手紙を受け取り、罠の有無を確認してからバルダーへ渡す。


 バルダーはその手紙を二度三度と読み返し、先程の偉そうな魔族に目を向けると、魔族は大きく頷く。

 その反応を見たバルダーはため息を吐いてこちらを向いた。

「……ハインデックは我らに降伏するそうだ」

 ……戦わずに済んだのは良いが、それでいいのか? 魔族。いや、俺達としては都合も良いのだが。

「詳しい話は城で、ご案内いたします」

「ふむ、よかろう」



 罠を警戒しつつも魔族の案内とバルダーの指示で軍が進み、結果として王城まで問題なく到着してしまった。

 なお、ちらちらと見える魔族の兵の大半は怯えるような表情を顔に浮かべていた。そうでない一部は不満を抱えてそうだったのは、怖いような嬉しいような、複雑な気分である。

 城の正面にあった大きな門から入り、玉座のある大きな広間に辿り着くと、王族だと思われる魔族達が待っていた。玉座は空で、魔族達は全員こちらと同じ高さに立っている。

 俺達が広間に辿り着いてから、少しだけ時間を置いた後。俺達をここまで案内した魔族が、俺達の方へ向き直した。

「それでは、僭越ながら王弟である私、オウルム・ハインデックが代表として話をさせていただきます」

 ヴォールトの弟がそんな名前だったはずなので、魔王として俺達と戦ったヴォールトはまだ王として扱われている模様。王位を誰が継ぐかは決まっていないという事だろうか。

 その言葉を聞いたバルダーは一つ頷き、オウルムに向かって話す事にしたようだ。

「では、改めて問う。ハインデックが我らグリフォードに降伏するという事で良いのだな?」

「はい。我らの中でも比類なき力を持っていたヴォールト陛下が、異世界より更なる戦力を召喚し、準備を整えたにもかかわらず初戦で惨敗、討ち死に。もはや慈悲に縋る他何ができましょうか」

「私もあえて虐殺しようなどとは思っておらん。降伏し、賠償を支払うのであれば命まで取りはせん」

「バルダー陛下の慈悲に感謝いたします」

 随分硬い会話だな、と。警戒を解く気はないが、ひとまずは平和的に話が纏まりそうで安心した。


 長引くことをある程度想定されていたのか椅子が用意された。バルダーとオウルムはそれぞれの椅子に座り、更に話を進めている。

「統治に多少口出しはするにせよ、魔族らの頭が其方らである事を変える気はない。賠償金は大金貨でおよそ一万枚とする。詳しくは書き出してあるので目を通しておけ」

「大金貨いちま……い、一括で御座いますか?」

「出せなくはないだろう? 一括でという話が無茶であるのは理解している。五年程度なら時間をかけても構わない」

「ははっ……」

 …………意外と安い、か?

 大金貨一万枚といえば、いつだかに計算した日本円換算だと五〇億円前後だ。

 地球の戦争賠償と比較したら桁が二、三個小さな気はするが、人口と武器の価格から考えれば、高いのやら安いのやら。


「!」

「うん?」

 賠償金の額が決まってからも続く二人の会話を見守っていると、アニマが何かに警戒するような意思を伝えてきた。

 こちらの兵や魔族の何人かも、アニマと同じ方向に注意を向けている。

 俺はバルダーから完全に意識を外さないように気を付けつつ、少しだけそちらに注意を向けてみると、誰かが扉を荒々しく開いた。

「叔父上!」

「アンドリュー!? 何故ここに、兵はどうした!」

「オレに賛同する兵も居たというだけだ! 今ここで──」

「馬鹿な真似は止せ! ヴォールト陛下が討たれたのだぞ!」

「っ! 父上が殺されたという話が事実にせよ、あの父上を単独で討ったなどという話を信じられるか!」

 押し入ってきたのは、会話から察するにヴォールトの息子か。顔つきは良くわからないが、年齢は駆と近いように見える。

「……オウルム殿?」

「バルダー陛下、申し訳ありません、彼はヴォールト陛下の息子です。少数派ながら徹底抗戦を訴えていた為に軟禁しておったのですが、協力者が潜んでいたようで……」

「どうしようかね。シライ殿は何か良い案はあるかい?」

「…………へっ? そこで俺、私に振るんですか? 案……案…………」

 まさかこっちに意見を求めにくるとは思わなかった。

 とりあえず、求められたものは仕方ないので考えてみる。

「貴様は、何者だ? グリフォードの者ではあるまい?」

「そりゃ生まれは違うけど、何者かと言われれば……あー」

 ……グリフォードの軍に所属してて、貴方の父親の仇です。なんて話をいきなりするのは、いくらなんでもちょっとな?

 とはいえ今の俺は鎧を透明なままにしているので、平服で王の近くに立つ謎の男といったところ。

 この場で身に纏っている鎧を銀色に染めてみても、あれから随分時間は経っている事だし、実際に相対した事のない相手だろうから脅しとしては不十分か。

「どうした、早く答えろ、異邦の者よ」

 やはり戦うのが一番手っ取り早いだろうか? 戦うなら、まぁ今更命まで奪うのは流石にどうかと思うから、と、行けそうだ。

「バルダー陛下、思いついたばかりの案ですが、私と彼らで模擬戦をしてみるのは如何でしょう」

「……それが一番手っ取り早いかな。シライ殿の事を知るにも、状況を知らしめるにもね」

「よ、よろしいのですかバルダー陛下?」

「ああ、オウルム殿も見てみると良いよ」

「なんの話だ! そもそもオレが模擬戦などを受ける理由もない! オレの目標は──」

「ああいや、話を遮って済まないが、アンドリュー殿下? 貴方が俺を狙うべき理由はちゃんとありますよ」

「……なんだと?」

「魔王ヴォールトを討ったのは俺ですからね」

「ッ!? 貴様が父上の仇だと!?」

 結局すぐ言う事になったが、今なら状況としても適している、と思う。さて、このまま模擬戦に持ち込むには──

「アンドリュー殿下。邪魔が入り易いこの場での戦闘と、ヴォールトを討った私一人を相手にする模擬戦。どちらが良いですか?」

「舐めおって! 良いだろう、まずは貴様から血祭りに上げてくれる!」

「という事なので、ええと、オウルム殿? 模擬戦が行えそうな広い場所はありませんか?」

「……それでしたら、訓練場が御座いますので、案内いたします」



 案内されて辿り着いたのは、だだっ広い訓練場。ちょっとしたスタジアムぐらいだろうか。

 少なくとも、グリフォードの王城にあった訓練場よりは確実に広い。

「それで、模擬戦と言ったがどのように戦うというのだ? オレは模擬剣など使う気はないぞ?」

「ええ、殺す気で来てくださって結構です。人数は……俺は一人ですが、アンドリュー殿下達は何人でも構いませんよ? あぁ、むしろ全員で来てくださるとありがたいです」

「貴様、どこまで本気なのだ?」

「全部本気ですが、何か問題でも?」

「……死んで後悔するなよ!」

「残念ながら、後悔するのはきっと貴方達だ」

「ほざけ!」


 バルダー達は観覧席に座ってこちらを見ている。魔族も含めて、観客は一〇〇〇人以上になるだろうか。

 俺はいつでも始められるのだが、三〇人ほどのアンドリュー達はこの状況に少しばかり戸惑っているようだ。

「来ないんですか? 先手は譲りますよ?」

「……貴様は剣を抜かないのか?」

「問題ありませんが、そこまで言うなら」

 すらりと抜いて、剣は構えずに降ろす。鎧は透明なままなので無防備に見えるはずだが、あえてこのままで。

「何処までも舐めた真似を!」

 ……実際には相当しっかり装備を固めてるんだけどな。

 流石に腹に据えかねたのか、アンドリューが斬り掛かってきた。俺は剣の軌跡を目で追いはするが、それ以上は何もしない。

 そして、振り下ろされた剣はギンと大きな音を立てて弾かれた。

 俺は【固定】で固めた空気の鎧は身に纏っているので当然の結果なのだが、アンドリューはとても驚いている。

「剣の振りは随分遅かったですし、今のが全力ってわけでもないでしょう?」

「なんだ……? 何をした? 何故弾かれた!」

「はぁ。しばらくは攻撃させてあげますから、早く斬り掛かってきてください」

「っ、うおおおっ」

 アンドリュー達のやる気もようやく出てきたようだ。


 金属の弾かれる音が連続して耳に届く。思ったよりうるさかったので耳に届く音を少し減らしながら、様子を見る。

 アンドリュー以外の魔族も俺に手を出し始めてから、何分経ったろうか。

 体重の乗った槍が当たれば穂先がへし折れ、剣にも欠けや曲がりが目立ってきたので、そろそろ良いかと行動を開始しても良い頃だろう。

「っ、っっ!」

「じゃ、そろそろこちらからも動きますね」

「!? ぅああああっ!」

 空いていた左手を動かし、剣の一本を掴み止め、いつものように極小範囲の聖属性魔法で、刃を折って放り捨てる。

 槍も柄を掴んで聖属性魔法で切り、穂先はまた適当に放り捨てる。

 聖属性魔法は魔力消費量こそ多いが、威力が強いのでこういう時にはやはり便利だ。

 二度三度と繰り返すうちに俺を囲む円が広がったので、今度は剣の刃先に聖属性魔法を纏わせて次々に武器を切り落としていく。

「さて、次は何をしようかな?」

「っ、ば、ばっ、化け物!?」

「失礼な。とりあえず……そろそろ無力化し始めるぞ」

 俺に攻撃できなかった魔族も居るだろうが、見分けは付かないので可哀想だがそのまま武器を破壊し、適当にぶん殴り、蹴り倒しながら無力化していく。


 単純作業をしばらく続けると、立っている魔族がアンドリューだけになったので、一旦手を止めて声を掛ける。

「さぁ、残るは貴方だけですね? アンドリュー殿下」

「っ、うあ、うああああっ!」

 アンドリューは叫びながら尻もちをつき、腰が抜けたのか立てずにいる様子。

 アンドリューが特別優れていたわけではなく、俺が意図的に残した結果であるため仕方ないといえば仕方ないのだが……少し驚かしすぎたか?

 そんな状態でも流石は魔族というべきか、火・水・土・風・闇と様々な属性の魔法が次々に飛んでくる。魔法を撃つ間隔は中々に短く、人族のものよりは威力も高そうに見える。

 しかし残念ながら、【固定】の鎧を貫く事はできず、中に通る衝撃も大したものではない。狙いが外れた魔法を無力化するのは手間だったが、観客席に飛ばないように防ぎつつ、アンドリューに向かって歩き始める。

 アンドリューはそんな俺に怯えたのか途中で魔法を撃つのを止め、腰を抜かしたままどうにか逃げようとしているようだ。

「く、来るな、来るなっ、来るなあっ! うあああぐあっ」

「まぁ、殺しはしないので安心してくださ……あれ?」

 這いずって逃げようとするアンドリューの背中を踏んで声を掛けると、アンドリューは動かなくなっていた。

 顔を覗いてみると白目を剥いて気絶している。

 一応息はしていたので安心もしたが、とりあえず、生で見たその表情は意外に怖かった。

 生存は確認したので足を下ろし、周囲に転がっている魔族達に声を掛ける。

「さて諸君。まだやるか?」

「!? うあ、うあぅ……」

 泣いている者とそうでない者はいるが、まだやるぞと首を縦に振る魔族は居なかった。継続の意思はないものと見るべきか。

 剣を収めながら、模擬戦の終了を宣言する。

「じゃ、終わりにしようか。お疲れさん」

「は、はは、はいっ、お疲れ様でしたあっ」

 いや、怯え過ぎじゃないか?


 首を傾げながら観客席に戻るとバルダーは苦笑、オウルムは驚愕していた。

「相変わらずだけど、良い薬にはなったかな。今回は斬らなかったんだね?」

「模擬戦って事で始めましたからね」

「彼らは殺す気だったように感じたけれど、それは良かったのかい?」

「それは、殺す気で掛かってくるように私が言ったからですよ。模擬戦で私の言う通りに応じからたら殺す、なんて真似はいくらなんでも酷いでしょう?」

「そうだね。……オウルム殿?」

「で、でで、できるだけ早急にお支払いいたします! いえ、金額ももっと増やした方がよろしいでしょうか……!?」

「落ち着きたまえ、オウルム殿。そんな決意は逆効果だ」

「そそ、そうなのですか? シ、シライど……様?」

「実際に統治されてる方に俺が口出しするのはあれなんですけどね。ほら、賠償金を無理に支払わせて国が傾いたら、難民が出たりした結果として結局こちらが迷惑を被りそうでしょう? 真面目に国を立て直して統治してくれた方が、少なくとも私は気楽ですよ」

「……そ、それで良いのですか? 贅を凝らしたり、多くの人を従わせる事もできるのですよ?」

「そもそも私は貴金属や宝飾品への興味をあまり持ち合わせていません。平和にのんびり暮らせる時間が好きです」

 この世界で大金だけあってもできることはあまりないし、日常では、アニマとアンナが居てくれるからな。

「そう、で御座いますか」

 俺の言葉を聞いたオウルムは困惑したような、どこか安堵したような雰囲気を漂わせていた。

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