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仕様違いの魔法使い  作者: 赤上紫下
第 4 章

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06:レイク

 一応【魔力知覚】で確認しながら戻ると、予想した通りバルダー達は元居た場所から近い部屋に居たので、そのまま向かった。

 あちらも程なく俺に気付いたものの、様子がおかしい、というか騒がしい気がする。

 欠員は居ないようだが──とりあえず、挨拶が先か。

 開いていた扉から近付くとアニマとエドワルドがこちらに気付いたので、手を挙げて笑い掛けた。

 そのままバルダーの下まで歩き、声を掛ける。

「ただいま戻りました陛下」

「あ、ああ、ご苦労だったシライ殿。その、担いでいるのはやはり……」

「ええ、ハインデックの魔王、ヴォールトです。……何かあったんですか?」

「いや、それがね……」

「?」


 バルダーが目で促した先にはアンナが居て、誰かと何かを言い争っていた。

 相手は黄色い肌で見覚えのない男。顔つきは日本人風で年齢は二〇代ぐらい。そして何故か縄で縛られている。

 アンナが言っていたレイクという男だとは思うのだが、どんな状況なのやらと耳を傾けてみる。

「──君がいればボクは世界を取れるんだぞ。だからアンナ、君はボクと居るべきだ! あんな奴についてちゃいけない!」

「あんたみたいなのと一緒に居る理由の方がないに決まってるでしょうが」

「ボクが気に掛けてやってるのになんだ! ボクと一緒に居れば必ず幸せにしてあげるってのに、なんでだよ!」

「私があんたに欠片も興味を持てないからよ。気安く私の名前を呼ばないで!」

「そうか、まだボクとアンナは知り合ってあまり時間が経ってないからね。もっとボクの事を知っていけばきっと」

「あんたの場合時間は関係ないわよ。気持ち悪い」

「いや、ボクの知識とアンナの力が合わされば世界だって取れる。そうすればきっとアンナもボクを見直してくれる」

「そんなわけないに決まってるじゃないの。もう、いい加減にしてよ!」

 …………。

 正直、ちょっと後悔した。

 レイク(仮)はなんだか同じような主張を繰り返しながらアンナを口説こうとしているらしい。なんとなく、道理が通じない気がする。

 できれば関わりたくないが、アンナは本気で嫌がっている様子だ。……放置するわけにもいかないか。


 ヴォールトの遺体をバルダー達に預けて、刺さっていた剣を受け取った。

 気は進まないが、縛られているレイク(仮)とアンナに近付いて話し掛ける。

「あー、そこの、レイクでいいのか?」

「そうだけど、なんだ、今ボクは彼女と大事な話を……お前は、銀鎧っ! チート野郎がなんの用だっ!」

 レイクからはいきなり随分な発言が飛び出してきた。

「いやお前、俺のもんに手を出そうとしといて何言ってんだよ」

「彼女はものじゃない! ボクと居るべきだ! お前は……そこに転がってるのは魔王か? あの魔王を倒せる奴が彼女を使って何をする気だ! させないぞ、彼女が居れば世界征服だって夢じゃない、だから彼女はボクと居るべきなんだ!」

「……本当に話の通じない奴だな」

「黙れっ! あの大砲をモロに受けて無事なチート野郎が彼女まで手に入れるだと、ふざけるな! 彼女は、アンナはボクと居るべきなんだ!」

「ふざけるなはあんたの方、よ!」

「痛ッ」

 あまりの話の通じなさにアンナからついに手が出た。蹴りだから足か?

 というか今の話で思い出したが、倉庫に入ってすぐの俺を大砲で攻撃したのはこいつか。あの時も確かチートがどうのと聞こえたし、たしかこんな声だった気がする。

「……とまぁ、こういうわけでね。シライ殿やホンドー殿と同じ日本人らしいが、話が通じないからどうにも扱いに困ってるんだよ……」

「……なんか、すみません」

「その、どう扱えば良いかな。軍に与えた被害という意味では、ビニット嬢と比べても小さいんだよね……」

「……なんかほんと、すみません」

 あれはちょっと、反応に困るのはよくわかる。アンナと比べて被害が小さいというのは……砲撃の対象が主に俺だったからだろうな。


 視線が泳いだ結果として、俺がバルダーと話しているからか無言で周囲を警戒しているアニマが目に付いた。

 なんだか平静に見えて、時折ぶるりと震えたり、尻尾の毛が立ったりしている。レイクの言葉が耳に入ってきているのだろう。それ以前にも何か言われてそうだ。

「ほら、ボクを蹴った事は許してあげるから一緒に逃げようよアンナ」

「いい加減人の話をちゃんと聞きなさいよ!」

「アンナも正直に言いなよ、あんなチートだけの野郎なんかよりボクの方がいいだろ?」

「この上なく正直に言ってるでしょ! あんたは気持ち悪いだけよ!」

 思わず意識がレイクとアンナの方に行ってしまった。相変わらずだらだらと口説いている。

 アンナには悪いが、あの会話を聞いていると俺の精神が削れそうだ。

 と、気になる事を一つ思い出した。

「そういえばあれ、何故縛られてるんですか?」

「ああ、それなら、白い布を振りながら近付いてきて、隠し持った武器で人質を取ろうとしたからだね」

「……え、白旗振りながら不意打ちしようとしたんですか?」

「まぁ、そういう事だ」

「……」

 白旗は戦意が無い事を表明し、休戦を求めたり、降伏するために掲げる旗である。

 それを掲げながら逃走や不意打ちをするというのは、相手の信頼を裏切るばかりでない。他の、本当に降伏したくて白旗を掲げる人物に不信を抱かせてしまう行為である。

 たしか、地球の戦時国際法だかでも禁止されている行為だった、はずだ。

「シ、シライ殿?」

「彼を処刑するのであればご自由にどうぞ。俺は彼をかばうつもりはありません」

「そうかい? シライ殿がそう言うのであれば、そうさせてもらうよ」

「即座に斬り捨てたりせず、俺の意思を尊重してくださった事には感謝します」

「なに、私がしようと思っただけさ。……今回は期待に沿えなかったようだけどね」

「それでもありがたいですよ。……一応、自分でもそのあたりの話をしてみていいですか?」

「あぁ、気が変わったら、言ってくれれば善処はするよ」

「多分ないですけどね」


 バルダーに許可をもらったので、改めてレイクの前に立つ。

「アンナ、こいつの相手はもうしなくていいよ」

「えっ? ……あっ、ご、ごめんなさい、熱くなりすぎてたわね」

「糞っ、なんなんだよお前! なんでお前みたいなチート野郎がいきなり出て来てアンナと仲良くしてるんだよ!」

「あんた、またユーリの事を」

「アンナ」

「だ、だって」

「アンナ」

「……わかったわよ」

「よろしい」

 まだ言い足りないのだとは思うが、アンナに言い聞かせて口論を止める。

 そんな俺をレイクは物凄い顔で睨んでいるが、随分と迷惑をかけてくれたんだ。心情を慮ってやる気はない。

「それで──」

「ふざっけるな! なんでボクとアンナを引き離そうとするんだ! お前には関係ないだろ!」

「いやアンナは俺のもんだっつったろうに」

「アンナはお前なんかと一緒に居ても幸せになれない、ボクと居るべきだ!」

「そんなのはお前が決める事じゃねえよ」

「そうだ、アンナが選ぶ事だ! アンナが冷静ならボクを選ぶはず──」

「人の話ぐらい聞け!」

「な、なんだよ、ぼ、暴力は……」

 蹴りつけたのは壁だが、思わず足が出てしまった。

 とにかく、静かになったので話はできそうだ。


何人(なにじん)かと、名前と年齢」

「な、なんの話だよ、なんの関係があるんだよ」

「良いからさっさと言え」

「わ、わかっ、日本人、水池(みいけ)透流(とおる)、年は二八だっ」

 とりあえず、嘘を付いている風ではないのは【伝達】越しに伝わってくる。……なんだか、名前だけは無駄に清純そうだ。

「レイクってのは偽名か?」

「ゲームで、よく……なんだっていいだろ!」

 短気な奴だな、全く。

「はぁ……こんなのが年上だとか信じたくないんだが」

「お前、ボクより年下の癖になんでそんな生意気な態度をとるなんて、許せないぞ! 糞っ」

「はぁ……」

 さっさと終わらせたい。

「さっきから溜息ばかりついて、年上のボクにそんな態度をとって良いと思ってるのか!」

「調子に乗るな、面倒臭い」

「っ、ぼ、暴力に訴えるのかよ……糞、これだから脳筋のでかい奴は嫌なんだ。銃、銃さえあれば……」

 レイクはぶちぶちと文句を垂れている。

「で? 白旗掲げて不意打ち仕掛けたんだってな?」

「なんだよ、やっちゃいけない事だとでもいうのかよ。どんな卑怯な手だって勝てば正義じゃないか……」

「普通は勝ったところで批判が殺到するだろうよ。狙った時点でペナルティを受けかねない行為だし、そもそも負けてんじゃねえか」

「っ負けたらなんの意味もないだろ、というかお前みたいなチート野郎が偉そうに語るんじゃない! お前が一番ズルいじゃないか!」

「いや、この力がズルいってのは同意するが、アンナの力も同質のものだぞ? それを利用しといて何言ってんだよお前」

 まさに『お前が言うな』という状況である。

「ボクの方がお前みたいなガキより上手く扱えるに決まってる! それを邪魔するお前が悪だ!」

「この世界の魔法だけでも上手く扱えてない癖に何言ってんだ」

「そんなのは関係ない! ボクだってそんな力があれば負けたりなんかしなかった!」

「ぁあ? 妄言を垂れるのもいい加減にしろ!」

「ちょっとユーリ、貴方まで熱くなってどうするのよ」

「……あー、そうだな。ごめん、アンナ」

 アンナに(たしな)められてしまった。

「この暴力男を止めてくれてありがとうアンナ、やっぱり君はこんな男と居るよりボクといるべきだよ」

 こいつも復活してしまったが、まぁいい。いや、もういい。

「水池透流、だっけか。やはりお前を庇ってやる価値はない。人族の(グリフォード)王国の法によって裁かれるがいいさ」

「なんだと! なんでお前がそんな事を決めるんだ! お前だってボクと同じただの日本人だろうが!」

「同じなんて言われたくないが、頑張ったからな。一人二人の処罰に口を出せるぐらいには認めてもらえてる」

「糞っお前はチートを持ってただけじゃないか! 失敗も苦労も知らずにガンガン成功を重ねていい気になってんじゃないぞ!」

「……話にならないな」

 (ずる)い力が下地になっているのは認めるところだが、俺だって努力や失敗は重ねてきている。試行錯誤だって何度も繰り返した。

 何もせずいきなり成功したように言われるのは誠に遺憾である。

「待て、逃げるなっ」

「聞きたい事は聞けた。後は処罰を任せるだけだよ」

「ボクの話はまだ終わってなんかいないぞ! 口で勝てないからって権力に頼る下衆め! ……待て、待てよチート野郎! 行かないでくれアンナ!」

 喚き続けるレイクに背を向けて、アンナを連れてバルダーの下へ歩いていく。

「……良いの?」

「あれは人の話を聞かずに(わめ)いてるだけだからな。口喧嘩の必勝法か何かなのかもしれないが、そんなものの勝敗で罪が変わるわけでもない。聞く事は聞いたし、これ以上話しても疲れるだけ……というか現時点でも大概疲れた」

「うん……その、お疲れ様、ユーリ」

「ありがとう、アンナ」


「もう、良いのかい?」

「十分ですよ。裁いておいてください」

「……同じ国の出身なのだろう?」

「だからこそ、ですね。出身国が同じというだけで人道に反した者を庇ったりはしませんよ」

 ……何気にあいつ、味方である魔族を巻き込むような砲撃も平然としてたからな。


 俺に声を掛ける事を諦めたレイクは、今度は駆に『リア充小僧』などと言いつつ助けを求めていたが、駆は俺の視線を受けて震え、レイクに背を向けた。

 誰からも相手をされなくなったレイクは縛られたまま項垂れたが、無視する。


 そのまま多少時間が経つと人族の兵も徐々に集まってきた。本格的に戦いが終わったようだ。

「ご主人様……」

「護衛任せっぱなしでごめんな、嫌な話も全部聞こえてたんだろ?」

「はい……」

「あいつ、アニマちゃんにも色目を使ってたからね」

 アンナの言葉を聞いてその時の事を思い出したのか、アニマがまた嫌そうに震えている。

 可哀そうなので、頭を撫でて慰めておく。後ろから何か聞こえた気もするが無視だ。

「さて、やる事をやらないとね」

 バルダーがそんな事を言いながら兵に指示を出していく。


 俺への指示は特に無かったが、護衛は必要だろうという事でバルダーと共に移動を始めた。

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