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仕様違いの魔法使い  作者: 赤上紫下
第 4 章

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05:魔族の王

 上階から跳びかかってきたヴォールトの剣は、あと少しというところで掴み損ねた。

 俺の手を避けた剣はそのまま俺の胴を薙ぐように当たり、ヴォールトは即座に振りぬいて距離を取る。

 俺の反応速度は【演算】スキルのお陰で上がっているのだが、それでもヴォールトの方がまだ速いようだ。

「この剣で傷すら付かぬとは、やはりその力は面倒だな」

「頼っておいてよく言うよ、全く」

 斬り付けられた事で確証を持てたが、やはりというか、少なくともヴォールトの剣はアンナが【固定】の力で固めたものだった。恐らくは鎧も同様にアンナの手が加わっている物だと思われる。

 せめて押し付けるような振り方であれば剣に掛かった【固定】ぐらいは解除できたのだが、当たっている時間が短く、解除は間に合わなかった。

 俺も剣を抜いて振るってみるがこちらは綺麗に回避される。

 次に、腕に付けている補助装置『怪物の腕(モンスターズアーム)』に高温の水を動力源として接続し、力強い剣を振るってみる。

「くっ……ぬ?」

「チッ」

 かする程度にしか当たらなかったが、ヴォールトの鎧も予想通り、【固定】で固めた頑丈なものだった。

 ヴォールト自身が【固定】を使えるわけではないようだが、これだけ反応の早い相手を取り押さえる前に隙間を狙うのは現実的ではない。

 ヴォールトは俺が斬り付けた辺りを確かめているが、すぐ動ける程度にはこちらを警戒しながらだ。これは、どう攻めるべきだろうか。

「……ふむ、力は消えていないか。短時間の接触であれば問題ないという事か」

「ッ」

 余計な事に気付かれた。

 向こうに有効打がない以上は俺の勝利で終わりそうだが、俺が想定しきれていないだけという可能性もある。対策を練られる前に、短期決戦を狙うべきだろう。


 先程までより攻撃的に剣を振り、手を伸ばし、跳び掛かり、効きはしないが魔法で牽制(けんせい)しつつヴォールトを確実に追い詰めていく。

「っし」

「む……?」

 互いの剣が打ち合った瞬間を狙い、ヴォールトの剣に掛かっていた【固定】を解除できた。勢い余って自分の剣の【固定】まで少し解除してしまったが、そちらは掛け直せば良い。

 自分の剣に【固定】を掛け直しながら、反対の手に持っていたもう一本の剣に聖属性魔法を纏わせ、ヴォールトの剣を叩き切った。

「くっ……者ども、奴を撃て! 目眩ましになればよい!」

「あん? っ逃げるのか!」

「準備を整えるだけよ! 必ず我の手で討ってくれようぞ」

 動揺している間に仕留めようと思ったのだが、ヴォールトは身を翻して階段を上っていった。

「ここから先は行かせん!」

「邪魔だ!」

 足止めを買って出たらしい魔族は軽く斬り捨てられたが、ヴォールトの足は速く、すぐには追いつけそうにない。

 追いかけるにはバルダー達から離れる必要もあるわけだが……とりあえず指示は出しておくか。

「アニマとアンナは協力して陛下達を守っててくれ! 俺は奴を追う!」

「はいっ!」

「わかった、気を付けて!」

「おう!」

 バルダーの下を離れることにはなるが、【固定】関係への対処は俺の役割だ。エドワルドも居る事だし、アニマとアンナが協力していれば大丈夫だろう。

「そう易々と行かせるもの……ガッ」

 今の時間で立ちふさがった魔族を斬り伏せ、ヴォールトを追いかけた。



 階段を上ると、遠くに見える二階の窓からヴォールトが飛び降りるところだった。なんというか、誘い出されたような気がしてくる。

 回り込んでバルダー達を狙う可能性もあるかと【魔力知覚】に意識を集中して位置を探ると、ヴォールトは俺達が居るこの建物からは離れていっているようだった。

 俺も同じ窓から飛び降り、ヴォールトを追いかけようかと思ったのだが、魔族の兵に道を塞がれた。

「銀鎧、貴様の武勇は知っているが……」

「我らにも我らなりの意地があ、ガッ」

「足止めの口上をいちいち聞いてられるか!」

 魔族の兵をなぎ倒しながら道を拓き、ヴォールトを追って窓から飛び降りる。

 先程【魔力知覚】で確認したヴォールトの目指していた先に目を向けると、敷地内に倉庫らしき建物が見えた。

「っこ、こいつは!」

「銀鎧のっ」

「ったくどんだけ居るんだっての。邪魔臭い連中め」

 砦の敷地内にもそれなりに魔族が動きまわっているようで、すんなりと倉庫へ辿り着くのは難しそうだ。

 進行の邪魔になる脅えた魔族を蹴り倒し、剣を向けてくる魔族を斬り捨て、ヴォールトの向かった倉庫へ向かう。魔法は無視した。

「ま、まてっ」

「陛下を追わせは、グアッ」

 ……本当に、どれだけ居るんだか。


 倉庫に着くと大きな扉が閉まろうとしているところだったので、両手を差し込み、こじ開ける。

「チート野郎め、吹き飛んじまえ!」

「ッ!?」

 扉をこじ開けた途端、誰かの声と共に例の爆発する砲撃が飛んできた。

 煙によって視界が妨げられ、聴覚の保護が間に合わなかったせいで耳鳴りがする。

 ……屋内で大砲を使うなんて正気か!? いや、もう一つ出入り口があったのか。

 扉を閉めようとする力は人力だったようで、砲撃の余波を受けたらしい魔族が左右の多少離れた所に倒れている。

 改めて【魔力知覚】で位置を探ると、ヴォールトは既にもう一つの出入り口から外に出ていたらしい。

 外から回り込むかは少しばかり悩んだが、爆発する砲弾を放つ砲はアンナが協力してしまった砲である可能性が高い。もしそうなら相応に重要度が高く、壊しやすさからしてヴォールトより優先すべき対象であると言える。

 幸いなことにヴォールトも準備を終えたのかその場に留まっているので、俺は屋内を突っ切って砲の破壊を優先する事に──方針を考えているうちに次の砲撃が飛んできた。狙いは俺から外れているが、扉に当たって爆発したため、それなりに衝撃はある。

 急ぐべきかと爆発を無視し、【魔力知覚】を頼りに目標へ跳び進み、薄っすら煙に覆われた視界の中で砲に剣を当てる。

「……ぁっ!? ……ば……、……てら……かっ!」

 煙で姿はよく見えないが、砲手は驚いて尻もちをついたようだ。まだ遠いままの耳でも砲手が罵声を飛ばしながら逃げていくのがわかる。

 ただ、剣を当てた砲はやはりアンナが【固定】で強化したものだったので、今はこの砲の破壊が優先だ。前と同じように剣越しに【固定】を解除しながら、魔法を纏わせた剣で破壊した。

 砲手は既に離れているが、ヴォールトの方はどう──

「フンッ!」

「うおあっ!?」

 何やらでかい物が高速で迫ってきていたので回避。俺の居た場所を通り抜けたそれが、倉庫の壁を貫いて振り抜かれた。

 その攻撃で風が発生して砲撃の煙が散り、ヴォールトの姿を視認できるようになった。

「避けおったか。だが、こいつが直撃すれば流石に耐えきれまい」

「何っつー……ふざけた攻撃をしてきやがる」

 ヴォールトが振るっているのは、恐らく破城槌(はじょうつい)と言われる類の、金属で補強された丸太だった。長さはヴォールトの身長を超えていて、太さもそれなりにある。

 破城槌に付いている鎖を握っているようだが、普通の剣を振っていた時と比べても振る速度がほとんど落ちていない。倉庫の壁は簡単に貫いていたので、見た目と違って軽いという事もない。

「さあ、今度こそ殺してくれようぞ」

「ハッ、やれるもんならやってみろ」

「言われるまでも、ないッ!」

 破城槌が俺に向けて振るわれた。


「ハッハッ、どうした、逃げ回るだけか銀鎧!」

「どんなパワーしてんだよ全く!」

「フンッ! 一瞬の接触で問題がないなら、あとはひたすら攻めるのみよ。鎧がいくら硬かろうと気を失わせればどうとでもできる。それが貴様の最期と思え!」

 ヴォールトは高速で破城槌を振り回している。単純な筋力では質量的にあり得ない動きなので、恐らくは、【魔力操作】で操作の補助をしているのだと思う。

 ふざけた攻撃の癖に振る間隔は短く、隙がない。まともに食らってふらついたが最後、気絶するまでぶん殴られそうな雰囲気だ。

 剣で少し切りつけてもみたが、あの破城槌は一気に切り裂けない程度には頑丈だった。毒性の強いガス類は使い果たしているし、高温の水蒸気で攻撃してみても打ち払われてしまい、効果がない。

「……チッ」

 俺がヴォールトを倒すためにはまずどうにかして近付いて、ヴォールトの鎧に掛かっている【固定】を解除し、その後で改めて斬り付ける必要がある。

 固めるのに比べて解除の方が楽とはいえこの忙しい状況では、せめて一秒程度は接触できないと解除するのは難しい。

 しかしなんというか、俺も使っている力とはいえ、飛び道具が常時ほぼ無効というのは酷い力である。足止めの手段が少なすぎる。

 足元に【固定】で固めた空気を広げて罠にしようともしてみたが、固めきる前に散らされた。

 瞬間的な接触ができた際に、ヴォールトの鎧には隙間なく【固定】による強化が施されている事はわかっているので、そう易々とは…………む?

「どうした、避けきれなくなった時が貴様の最期だぞ」

「いや、終わるのはあんただよ、ヴォールト!」

「っ戯言を!」

 上から打ち下ろされた破城槌を避け、ヴォールトの手に【固定】で補強した剣を当てる。接触した箇所からヴォールトの鎧に掛かっている【固定】に干渉し、ヴォールトの鎧の関節部分に【固定】を掛ける(・・・)

「チッ、肘までしか間に合わなかったか」

「何っ!? これは!」

 すぐに距離を取られたが、ヴォールトの鎧のうち右肘の関節部分を固める事ができた。ヴォールトは驚いているが、俺は俺自身の鈍さに呆れるばかりだ。

「そうだよな。わざわざ解除しなくても下地はあるんだから、少し力を掛ければ拘束具にできる状態だったんだ。何で気付かなかったんだよ俺……」

「な、何だとっ!? くっぬっ!」

「それの強度は知ってるだろう? 筋力で解くのはまず無理だよ」

 肘だけしか固められなかったが、ヴォールトの動きはあからさまに鈍っている。

 破城槌はまだ操作できているものの、もはや当たる気はしない。

 ある意味、アンナが補強した鎧をヴォールトが着てくれていて助かった形だ。いや、それが無ければ既に斬り捨てていた気もするが、考えても仕方ないことだ。


「ぐ、ぬあっ」

「よし、これでもう動けないだろう」

 動きが悪くなったヴォールトを拘束し終えるまでの時間は、そう長くはなかった。

「ッ! 舐めるなアアアッ!」

「うおっと、とんでもないな」

 ヴォールトは関節を動かせない状態であるにも関わらず、【魔力操作】で全身を動かし、破城槌を叩きつけた。勿論避けたが、つくづく無茶苦茶な奴だと思う。

 仕方がないので地面や倉庫の壁にも【固定】の支えを伸ばし、動けないように拘束をより強めながら、万が一の可能性を奪っていく。

「ぬっ、この、このような事がっ……!」

 もはや動けないと悟ったヴォールトは、今度は魔法を飛ばしてきた。まぁ効きはしないのだが、流石にこの状況で冷静に動けというのも無茶か。

「さて、ここまでだな」

「何故だ、何故貴様はそこまでこの力を扱える! アンナが居た世界の力なのだろう!? 貴様が居た世界とは違うはずだろう!?」

「ま、軽く説明ぐらいはしてやるか。簡単に言えば、アンナが探していたのは俺なんだよ。時系列的には俺が人族に召喚されたからこそ、魔族がアンナを召喚できた、という流れになる」

「……はっ? な、何だと!?」

「突然魔族がこの力で固めた武具を使い始めた時は焦ったぞ? まぁ、もう会えないと思っていたアンナにまた会わせてくれた点は感謝するよ。さっき言ったようにな」

 ……『嘘から出た実』か『瓢箪から駒』か、いや、どちらも違うか?

 適当な約束でアンナの持つ力を長く使おうとでも思っていたのだろうが、最短に近い経路でアンナをアンナの探し物(おれ)に向かわせだけだったというわけだ。

「……!? ば、馬鹿なっ、そんな、そんな事がっ……!」

強いカード(ジョーカー)を引いて切り札だと思っていたら負け札だった、なんていう皮肉な話だが、事実だ。残念だったな?」

 説明は終えたのでヴォールトの鎧の喉元だけ【固定】を解除し、この世界で貰った剣を構える。本来は引き渡して公開処刑でもできれば良いところなんだろうが、この場で止めを刺させてもらう。

 ヴォールトには、このまま一日二日置いておいたら【固定】の解除法ぐらいは習得してしまいそうな怖さがあるからな。

「おのれ、凡人族如きが……っ!」

 いつぞやに獣人族から聞いた蔑称を、ここでまた聞く事になるとは思わなかった。

「……それ、魔族も言うのかよ。まぁ、恨むなら侵略戦争を仕掛けた自分を恨むんだな。それさえなければ、俺がこの世界に来る事もなかったはずだ」

「っ! おのれ、おのれっ、おのれええええ!」

「さようなら、魔王」

「このような終わりなど、おのれ銀鎧めがあああああああッ! ……ゴブッ……」

 ヴォールトの喉に聖属性魔法を纏わせた剣を突き刺し、決着を付けた。


 しばらく様子を見て、動かない事を確認してからヴォールトの拘束を緩め、地面から離せるようにする。

「…………フン」

 どこか後味の悪い終わりだったが、決着は決着だ。

 剣が刺さったままのヴォールトの死体を肩に担ぎ、バルダー達が居た場所へ向かって歩き始めた。



「銀鎧!? かか、肩のは、陛下っ!?」

「ヴォールト陛下!? そんなっ!」

 ヴォールトの死体を担いだ俺を見た魔族が戦意を失っていく。今は魔族達を相手にする気分ではなかったので丁度良かった。

 ヴォールトの死という衝撃は魔族に伝播し、力なく膝をつく魔族も居れば、倒れ込む魔族も、逃げ出す魔族も居る。ただ、駆け寄ってくる魔族は居ないようだ。

 いや、元から俺を見ただけで戦意を失っていた気もするが……そんなに俺怖いかな?

 そして、戦意を失った魔族に対しては、人族の兵も止めを刺すかどうかは流石に戸惑うらしい。

 手が空いた人族の兵は、魔族の戦意を失わせた原因に、つまり俺の方に視線を向けてきた。

「ユーリ様……!」

「ユーリ様が魔王を討ち取ったぞ!」

 俺に気付いた人族の兵が声を上げて喜んでいる。ここは何かアピールでもするべきだろうか?

 とりあえずヴォールトを担いでいない、空いている手を握って掲げておく。

『おおおおお!』

 人族から歓声が上がった。俺の行動は外れではなかったらしい。

 さて、もう戦いは終わった雰囲気だが、本当に終わったんだろうか?

 近くに来ていた兵士に聞いてみる。

「なあ、これで戦いは終わりって事で良いのかな?」

「はっ、ユーリ様のお陰で魔族の戦意がほぼ根こそぎ途切れております。若干の抵抗はあるやもしれませんが、こちらに犠牲者が出るような抵抗はそうあるものではないかと」

「そうか。一応、油断はしないようにな。こんなところで死んでもつまらないだろう?」

「はっ、そうありますね」

 俺からの注意にも笑顔で答えてくれた。

「さて、魔王の遺体はひとまず、バルダー陛下に引き渡してくる事にするよ」

「承知いたしました、ユーリ様」

 うむ、と若干偉そうに頷いてしまったが、気にしない事にしてバルダーを探しはじめる。恐らくは、元の場所からさほど動いてはいないだろう。

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