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仕様違いの魔法使い  作者: 赤上紫下
第 4 章

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04:魔族の国への侵攻

 会議を終えた昨日は疲れからかぐっすりと眠り、今朝は食事をしっかり摂った。

 そして今は、忘れ物が無いように部屋を確認して、出陣したところだ。

 以前魔族の軍を押し返すのに貢献したらしい、パーティーでならランクSに届く狩人(ハンター)達はまだ療養中との事で、王都からの援軍には加わっていなかった。


 現在俺が乗っている馬車には御者を除いて、俺、アニマ、アンナ、駆、アモリアという五人が乗っている。

 ちなみにバルダーは別の馬車で指揮を執っており、エドワルドはそちらの護衛についている。

 しかし、ただの偶然のはずだが、馬車に乗っている女性陣は三人とも名前が『ア』から始まるというのは妙な感覚である。

 大体はアニマと名付けてしまった俺のせいだが、今更変えるわけにもいかないし、その気もない。

 とにかく、この戦いで上手く【固定】の掛かった武具を排除しきってしまえば後は【固定】を使えるのは俺とアンナだけだ。俺が責任を取る必要のある騒動はそうそう無い……は…………ず?

「………………あっ」

 砦前の宿場町で魔族に、というより人体に【固定】を掛ける実験を散々やってたのを忘れていた。あの日は微妙に睡眠不足だったり変に興奮してたという言い訳もなくはないが、あれが原因で広まったら面倒だ。

 結局朝まであの実験材料(まぞく)達は【固定】を習得できなかったし、実験が終わったらきっちり解除したし、人族の領域だから人族の兵にやられてる可能性もあるし、大丈夫…………だよな?

 突然声を上げた俺に視線が集まっていたが、そこはなんでもないと誤魔化した。


 俺は相変わらず主戦力扱いで、行軍中に疲労を貯め込まない為に、馬車に乗せてもらっている。時々下から突き上げられるように揺れるので自前の鎧にはクッションを仕込んでいたりもするが、それは内緒だ。

 そして俺と同じ馬車に乗っている人員はというと、少しばかり意外な気のする顔ぶれである。

「砦に居た時点でもどうかと思ってましたが、アモリアさんも来るんですね。……危険ではありませんか?」

「私ですか? 戦闘においてはそれなりに自負も御座いますが……シライ様はご存知ありませんでしたか?」

「あー……申し訳ありません」

 謝りながら改めてアモリアを見てみる。華のある鎧姿だが、確かに言われてみれば着られている風ではない、風格を漂わせているような気がする。

 魔道具の補助があったとはいえ異世界から人間を狙って召喚できる魔法の使い手であるし、おかしくはない、か?

 所々金属で補強してある頑丈そうな杖を持っているあたり、近接戦闘もできそうだ。

 まぁ、それはそれとして、やはり妙な気分にはなる。

 昨日の会議でも驚いたところなのだが、魔族の国(ハインデック)内の目的地まではあまり遠くはない。

 この世界の王というのは脳筋体質らしく、魔王も前線まで当たり前のように出張ってきているそうだ。

 まだそこに居るかどうかは不明だが、情報通りなら俺達が寝泊まりしていた砦から数時間で辿り着ける位置に居ることになる。

 ……いやまぁ、王自身の戦力が高いならそりゃあ前線にも出るってものなんだろうが、やっぱりこう、なんだかなぁ。

「はぁ……」

「ど、どうかなさいましたかシライ様?」

「いえ、戦争中に互いの王族が前線まで出てくる、というのが、妙な感覚でして」

 俺の言葉が不思議なのか、アモリアは数回瞬きをした後、問いかけてきた。

「シライ様が居た世界……ええと、地球では違ったのですか?」

「違ったと思いますけど……あれ? そういえば昔はよくあった事でしたかね」

「? その、納得できたのでしょうか」

「えと、まぁ、はい」

 違和感はあったが、よくよく考えてみれば、将棋やチェスといったボードゲームは王将やキングの取り合いである。

 日本の戦国時代ぐらいなら武将は前に出て戦ってそうな気がする。西洋だと、百年戦争だかはいつ頃だっただろうか。……ゲーム知識だが、そのあたりの時代ではまだトップが前に出ていた気はする。

 とりあえず、魔族軍が高性能な銃を所持しているかどうかはわからないので、砦が近付いてきたら一応前に出て警戒しようと思う。



 そして進軍は(つつが)無く、昼頃には魔族の砦まで数キロメートルほどの位置まで進むことができた。

 そこで止まった理由は、砦への道に設置されていた板を立てたようなバリケードと大砲を斥候が見つけたからだ。

 こちらを直接狙える位置ではなさそうだが射程はそこそこ長いらしい。こちらの軍の位置は魔族側にも把握されているらしく、大砲の後ろには当然魔族が待機している。

 見えている大砲の射程外で止まったこちらの軍を狙える伏兵、といったものも居るかとは思ったが──居ないようだ。

「シライ殿、早速で申し訳ないのだが……道を拓いてもらえるか?」

「ええ、行ってきます。……?」

 軽く返事をしながら行こうとしたら、バルダーが真剣な表情で何かを言おうとしていた。

「……貴殿の勇気に敬意を」

「いやいや、申し訳ないですが俺は勇気なんてさっぱりですよ?」

 ありがたい言葉だが、ここは反論しておきたい。

「……シライ殿のそれは勇気ではないと?」

「はい。俺は死地に挑むわけではありませんから。……恩と、打算ですかね?」

 少しだけ冗談めかして言ってみた。実際、俺は前に出ても大して危険じゃないからな。

「ふふ、そうか。貴殿との出会いに感謝を。報酬は弾もうじゃないか」

「ありがとうございます。それでは」

 俺はバルダーに一礼して、前線へ向けて歩き出した。



 バルダーからある程度離れたところで剣を抜き、反対側の手にも剣を作る。鎧は馬車に乗っていた時から作ってあったので、問題なく攻めていける。

 そのまま早歩きで前進するが魔族軍の動きは少なく、バリケードとの距離が三〇〇メートルほどになったところでようやく、砲口の一つがこちらを向いて砲弾を放ってきた。

 着弾箇所は、俺のすぐ近く。直撃はしていないため殆ど効いていない。

 直撃しても大して効きはしないはずだが、正面から撃たれるのは流石に少し怖いかな。

「!? ……! ……!」

 今の大砲をぶっ放してきた魔族が何やらわめいている。

 しかし、大砲の煙の多さが気になる。あれは黒色火薬だったりでもするんだろうか?

 (すす)掃除用のブラシでも置かれてたら確定だろうが──と、今まさにやってるな、そして大砲が次々と火を噴く。……あれ、比喩じゃなくほんとに大砲が火を噴いてるな。火薬入れすぎじゃないか?

 俺を狙って飛んでくる砲弾を防いで、なんだか笑いそうな気分になりながらバリケードに到達すると、魔族連中が逃げ出した。さて、置かれた火薬の無力化を──

 …………。

 砦の方から飛んで来た砲弾によって火薬が誘爆し、目の前のバリケードが吹っ飛ばされて、びっくりした。完全に近付く前で良かった、かな?

「……! ……!」

 何やら魔族連中が随分驚いているが、着弾音から聴覚を保護しているので声はわからない。

 煙たかったので気密を制御し、適温の圧縮空気を鎧内に少しずつ解放、呼吸を確保する。

「!? ……ァァッ!」

 煙の中から足を踏み出して前へ進むと、そんな俺に驚いた魔族が背を向けて逃げ出した。耳を塞いだ状態の俺にも微妙に聞こえるぐらい、高く叫び声を上げながら。

 なんというか、必死で逃げる様が地味に面白く、なんとも言えない気分を誘うものである。とりあえず、癖にはならないようにしたい。

 ……さて、次の大砲は、向こうか。

 目標を見定めた後で後方を振り返ると、アニマとアンナがこちらを見ているようだったので、伝わるかはわからないがガッツポーズを見せておく。

 二人も反応を返してくれたので、俺は改めて次の目標へ向けて歩き始めた。



 砦に近付いても大砲が魔法や矢に変わる程度だったので、淡々と魔族の防備を無効化しながら進攻。砦の門の前まで足を進めると、アンナが協力して作ったらしい例の砲が二つ並んでいた。

 砲身が薄く、取り回しはし易そうだが、口径的には大差ない。問題ないかとまっすぐ目標へ向かうと、ガツッという衝撃の後に爆発による強い光と衝撃が来た。

 そんな事に驚いていると次々に衝撃が来て、微妙に吐き気がしてきた。……ほかにも大砲だか巨弩(バリスタ)だかは設置されてたか、失敗失敗。


 しばらくすると衝撃が止んだが、俺がふらついた姿は煙に覆われて見られていない様子。

 しかしここの砲弾は、榴弾とかいう火薬の詰まった弾だったんだろうか? なかなか侮れない使い方をしているものだ。

 煙が晴れるまで律義に待つのもなんなので、脚部の空気を圧縮して移動に備える。

 俺の現在位置が砲撃では殆ど動かなかったのも、目標の位置も【魔力知覚】で確認できているので、少し呼吸を整えてから例の砲の下へと跳び込んだ。

「ッ!?」

 狙い通り、手に持った剣が例の砲に命中した。

 砲手だった魔族が驚いているがそれは無視。さっと砲に掛かっていた方の【固定】を解除して、聖属性の魔法を纏わせた剣で断ち切った。

 周囲を見ると、小回りの利く例の砲がもう一つこちらを向いている──っと。

 焦り過ぎた砲手が自爆したようで、ズンっという衝撃と共に、例の砲が飛んでいってしまった。

 溜息を吐きながら行き先を目で追い、地面に突き刺さって止まるところまで確認。

 先に目の前にあった砦の大きな門を聖属性の魔法と剣でこじ開け、例の砲を改めて鉄くずに変えた。


 周囲を見回すと砦の外の見える範囲、地面に設置されている大砲はもう無いようなので、残る目標は……壁の上か。

 それなりに高いので、【魔力操作】で体に上と壁方向への加速を与えつつ、壁を駆け上がる。

 とりあえず手近な大砲や巨弩(バリスタ)から順に、砲手と射手を斬り捨て、破壊していく。

 一通り門を狙えそうな兵を斬り終えた後、鎧の汚れが気になったのでまた脱皮するように汚れを落とし、警戒に入る。


 魔族の軍が出てこないかを見張り続け、進軍を始めた人族の軍が砦の門前に到着したところで、剣を収めて合流した。

「はは……いや、なんとも派手にやったもんだね、シライ殿」

「いえいえ、俺は斬っただけですよ。火を付けたのは魔族です」

 今居るこの場の近くには、先程の自爆で吹き飛んだバリケードの残骸が散らばっている。俺の手で起きた変化の比率はそう多くない。

「そういうつもりではなかったのだが……確かにそうだね。それで、中はどうなっているんだい?」

「ここまでの道を拓いただけで、門の内側は大砲と巨弩(バリスタ)ぐらいしか触ってません。と、そうだ、例の砲は二つまで発見、無力化済みです。後は一つだけですね」

「そ、そうかい。では……聞け! 見える範囲はシライ殿があらかた無力化してくれた。内部は不明だが、この勢いで攻め落とすぞ!」

 軍に向かってバルダーが声を張り上げ、命令を下した。


「じゃ、砦の中では……俺は大人しくしておきますかね?」

「そうだね。被害は減らしたいところだけれど、シライ殿だけに任せておくのも問題だ」

「……ですね」

 戦争の後の事はあまり考えていないが、俺が戦わないと成り立たない国になられても困る。あまり派手にやり過ぎると敵が増えそうだしな。

 …………。

 手遅れである可能性については、全力で目を瞑る所存である。

「陛下、そろそろ」

「そうだね。私達もそろそろ進もう。警戒は怠るなよ」

「はっ」

 エドワルドの言葉をバルダーが肯定し、俺達も砦の中に入る事になった。



 砦の攻略については、真っ当に戦っているわけだから、どうしても犠牲者は出る。

「すみません、カケル様……」

「僕の方こそ、安全な場所で治すだけですみません……」

「いえ、私を始め、カケル様のお陰で命を繋ぐことができた者は大勢います。ありがとうございます」

「そんな、頭を上げてください」

 犠牲者が出たら駆が【蘇生魔法】で治療をして、なんというか、随分と感謝されていた。

 俺は治療をしてないから仕方ないのだが、微妙に羨ましい気もする。


「ヒッ!? ……こ、ここ、こんなところにっ!?」

「わっ、わあああアアアアッ!」

「……」

 俺の方は、他の兵に攻め立てられた様子で魔族の兵が現れたら、俺を見るなり今まで離さなかった武器を捨てて逃げていくからなぁ。……あ、転んだ。

 味方からの視線も微妙に恐怖が混じったものがあり、それがまたなんともいえない気分を誘ってくれる。

 どうしてこうなった。いや、確かに恐怖を煽る演出を狙いはしたが、ここまで効くとは思わなかった。

 ……まぁ、肯定的に捉えるなら──

「楽で良い……と思うべきかな?」

「えと……その、あはは……」

 ぽつりと呟いた俺の独り言に、近くに居たアニマが愛想笑いのような反応を返した。

 魔族側で俺の情報がどんな事になっているのか、ちょっと本格的に気になってきた。



 魔族は砦の中で砲を撃つ気はないらしく、俺を前にすると逃げ出し、そうでなくても腰が引けていたりするので、俺達は殆ど戦っていない。

 そのまま砦内の階段を上ろうとしたが、上から人族の兵が転がり落ちてきた。俺が受け止めて、アニマに託して邪魔にならない所に運んでもらう。

 上階に居るのは、豪華な鎧を身に纏った魔族と、追従する兵が複数名。

「ヴォールトッ!」

「人族の王か。よもやここまで良いように攻め入られるとは思わなんだ。そして貴様が『銀鎧の死神』か」

「……」

 バルダーが名前を言ってくれたので魔族の王、ヴォールトであるらしい事はわかったが、俺の方を見て死神だとか言うのは止めてもらいたい。

 どう言葉を返そうか考えていると、ヴォールトの視線がアンナに向いた。

「アンナよ。そこの銀鎧に怯えた愚か者どもが、其方を牢に押し込んだという話は聞いた。人族どもと共に来たのは不問に付す故、改めて我に仕えぬか?」

「お断りよ。貴方に付いて得られるものには、もう興味がないもの」

「探し物があったのだろう? 人族如きに頼るよりは我ら魔族の協力を得た方が得策であろうに」

「あっははは、人族と魔族の差はよく知らないけど、今から魔族に協力する流れはあり得ないわね」

 ……まぁ、アンナの『探し物』は要するに俺だったわけだからな。

 事情を知っている面々も、少し可哀想な物を見るような雰囲気を漂わせながらヴォールトを見ている。

「っ、何がおかしい! 銀鎧、貴様の仕業か!」

「いやいや、笑わせてるのはあんただよ、ハインデック王ヴォールト。……ああ、一応感謝はしておく。ありがとう」

「わけのわからぬ事を……いや、もう良い! 貴様さえ殺してしまえば人族の軍なぞどうとでもできよう! 死ね! 銀鎧ッ」

 ヴォールトが剣を構えて突っ込んできた。

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