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仕様違いの魔法使い  作者: 赤上紫下
第 3 章

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15:単眼の巨人

 ひとまず屋上へ向かい、周囲を見回してみると、遠くに見える巨人と目が合った気がした。

 巨人の視線の先は砦だとは思うが、中々に圧巻である。

「ひっ……」

「ご、ご主人様……?」

「いやぁ、でかいねぇ」

 ゲームやアニメとはいえ巨大な相手はそれなりに見慣れていてよかった。主観的には随分前だが、それでも初見よりはマシだ。

 重い足音を轟かせながらこちらに向かってくるサイクロプスとやらの巨体は、大よそ一五メートル。地球の神話に登場するサイクロプスと同じく単眼である。

「あ、あれと戦うの?」

「そうだな。アンナ、できるだけ気を付けようとは思うけど、破片か何かが飛んできたら屋上付近だけでいいから防いでおいて。アニマは悪いけど今回は留守番で」

「そ、そう? その、」

「お気をつけて」

「おう。行ってくる」

 短く返事をして、段々と近付いてくるサイクロプスに向かって屋上から飛び降りた。



 俺が接近する間にも、サイクロプスはそこらの木を簡単に踏み潰しながら歩いてくる。こいつの身体はどうなってるんだか。

「ヴオオオオオォォォッ!」

 俺を見たサイクロプスは、巨体らしい大きな声をあげながら握りしめた拳を俺に振り下ろしてきた。思ったより速い。

 後ろに小さく跳んで躱し、少し長めの剣を【固定】で作っていく。

 地面にめり込んだサイクロプスの拳が土を巻き上げつつ引かれ、反対の拳がまた振り下ろされたのでまた躱す。

 俺はいつもと同様、刃に魔法を纏わせて、引かれる前の腕に水蒸気を噴きながら斬りつけた。

「っつぁっ!? っととと」

 関所で作った水蒸気を動力源に使って、相当な勢いに加速していたはずの剣は、肉と骨の密度で止められてしまった。剣が止まった時点で消費されていなかった力は、俺の足で地面を抉ることに消費されたらしい。

 愚痴りながら引き抜こうとしている間にサイクロプスの拳がまた引かれて、剣ごと俺が持ち上げられる。

「ヴオオオアアアッ!」

「うおぅ、ちょまっおおっ!?」

 虫か何かのように反対側の手で払いのけられ、剣が抜けて自由になったと思ったら空中で蹴られた。

 魔力操作も使って空中で回避行動を取ったが、掠って空中で数回横回転。【固定】で守られているので怪我はないが、急な動きで酔いそうだ。

「っ!」

 着地するなり跳んで避けると、そこへ振り上げられたサイクロプスの足が俺の着地点に振り下ろされる。

 巨体でありながら運動神経も優れているとは、中々の理不尽性能である。

「ヴアアアアアアッ!」

 サイクロプスは叫び声をあげながら、そのまま何度も執拗に俺を踏みつぶそうとしている。

 俺は足を避けながら、辺だけの大きな三角錐を【固定】で作り、サイクロプスに踏ませた。

「ッッッ、ヴアッ!」

 サイクロプスの足が半ばほどで切れ飛び、バランスを崩して倒れ込む。そのまま首へ向かおうと思ったが、サイクロプスが暴れて上手く近付けない。

 数秒でサイクロプスは座るような体勢になり、俺を見つけて攻撃を仕掛けてきたので、三角錐を回収しながら一旦距離を取った。


「さて、ッ!」

 どう攻めようかと考えていると、サイクロプスが地面付近を薙ぎ払うように腕を振るってきた。俺が一度斬りつけた手だが、どうやらこの短時間で使える程度には傷も塞がったらしい。

 飛び越えるには微妙に高い位置なので屈んで躱し、前方へ跳び込む。その少し後でサイクロプスの腕が動きを止め、折り返して地面を抉っていくのがわかる。

 勢いを無くさないようにサイクロプスの体に足を食いこませながら駆け上がり、首の後ろまで移動。

 剣をもう一本作ったところでサイクロプスの手で叩きつけられたが、力の入らない体勢だったのか威力は大したことがないので無視。

「ヴァッ!? ヴアアッ!」

「終わり、だっ!」

 俺は二本の剣を大きく広げ聖属性の魔法を纏わせて、サイクロプスの首の両側から挟み込む。

 手前で交差する鋏のような当て方では距離を開く力が掛かるので、平行な刃が合わさる爪切りのイメージで。

 力は少々籠め難いが、筋力が籠め難いだけであり、今の俺の腕を動かす力は高温の水が発する圧力である。【魔力操作】での再接続に一秒程度の時間が掛かりはしたが、そこまで済んだ以上は問題もない。

 水蒸気の排出と共に俺の背中に掛かっていたサイクロプスの手が力を失い、その首が落ちていく様子を眺めてほっと息を吐く。

 もとい、吐こうとしたところで、俺はどこからかの衝撃によって吹き飛ばされた。


 地面にべしゃりと倒れながら体調を確認すると、すぐにわかる異常はなかった。

 顔を上げて周囲を見ると、数メートル先に崩れていくサイクロプスの体がある。

 起き上がって横に移動してみると、俺が倒れていた位置とサイクロプスの体を線で結んだ延長には砦があって、煙を噴いている砲が見える。

 どうやら、砦から撃たれた弾が俺に直撃したらしい。

 …………。

 思うところは多少あるが、とりあえず、崩れたサイクロプスの体から魔石を掘り出して安定させる。

 サイズだけなら持てそうな大きさだが、随分と重かったのでどうしようかと悩んでいる内に、砦の方から焦った様子で兵士達が駆けてきた。

「もも、も、申し訳ありませんっ」

「……ああ、さっきの砲撃か。まぁ、驚いたけどな」

「ほ、本当に申し訳ございませんでしたああっ」

「とりあえず、ほら、あれだ。サイクロプスは倒したんだから素材を集めて砦に戻るぞ」

「はっ、すぐにとっ、取り掛からせていただきます!」

 ……この様子だと、誤射かなぁ。全く。


 次々と駆けてきては土下座をする兵士達に素材を集めさせ、砦まで運んだ。



 砦に戻ってからは素材を任せ、ひとまず屋上向かう。

「っと、ただいま」

「おか──」

「お帰りなさいませ、ご主人様っ」

 屋上まで登ってすぐ、アニマから抱き着かれた。互いに鎧のままだったので柔らかさなど何もないが、それでも嬉しいものである。

「……おかえりなさい」

「ただいま、アンナ」

 アニマと比べれば淡泊な反応だが、まぁ比較対象が悪いだけだな。

「二人とも白井さんのことを心配してましたよ。大砲の弾が当たった時なんて凄く取り乱して」

「ちょっ」

「そうなのか?」

 いつの間にか屋上に来ていた駆の発言にアンナが反応しているが、取り乱した姿というのは想像し難い。

「~っ……怪我は、してないわよね?」

「ああ、ちょっと驚いたけど、そのぐらいだよ」

「ぶ、無事ならいいのよ、無事なら。ちょっと何を笑ってるのよ、こら!」

「心配してくれてありがとう。じゃ、会議室まで戻ろうか」

「もう」

 アンナらしい懐かしい反応を楽しみながら、砦の中に入った。


 会議室に入った俺達を迎えたのは──無事を喜ぶような顔が大半だが、信じられないものを見たような表情も少し。

「討伐は終わりました。あの巨体で軽快な動きってのは恐ろしいもんですね」

「そうだな。刃もまともに通りやしないから兵器を使ってもかなり手こずる……はずなんだがなぁ」

 とりあえずと報告して、所感を少し口にしたところでエドワルドが声を掛けてきた。

「いやぁ、結構手こずりましたよ? ライカンスロープの胴体をぶった切れる力でも腕に食い込んだぐらいでしたし」

「首は一発で落としてたじゃねえか」

「首の後ろにたどり着くまでの手間が全然違いましたよ。正直、魔物に囲まれた状態で戦いたくはないです」

「サイクロプスが単独だったとしても普通は一人でやるもんじゃねえよ、ったく。怪我はないんだな?」

「ええ、ないです」

 そこまで言うと他の兵や指揮官も反応を示した。

「っ、砲弾の直撃を受けて無傷だと!?」

「いや、怪我はないとはいえ、かなり驚いたんですからね? あれ」

「その程度で済むのがおかしいのだ! ……いや、シライ殿が例の装備を作っていれば一般の兵でも耐えられるようになるのか?」

「それは当人が時間をかけて調整でもしてないと無理ですよ。できるなら他にも人を連れて戦いに行ってます」

「む……」

 俺の言葉に納得したのか、まだ何か言いたそうな顔はしていたがそれ以上聞かれることは無かった。



 今後の方針が大よそ決まったので、割り当てられたというか、もぎ取った一室に移動した。

 俺、アニマ、アンナの三人でだが、一室丸ごと使えるのはありがたい。

 風呂や調理できる場所は無いが排泄の為の設備はあり、多少騒いでも人を起こす心配もないという好条件。

 食事は食堂で皆と同じ物を食べられるので問題もなく、備え付けの寝具は微妙だったが布団を搬入させてもらったら快適になった。

 長期間の利用は遠慮したいが、数日寝泊まりする分には十分に快適である。

 窓が無いせいで少々薄暗いが、発光する魔道具を置けばジャラジャラとしたインテリアのあるおしゃれな──

「正気?」

 アンナが呆れたような目つきでこちらを見ながら、そんなことを言ってきた。

「条件はそう悪くないだろ?」

「それは、そうだけど」

「ま、準備が整うまでの数日を暮らすだけだよ」

 数日間というのは、会議で決まった話だ。砦の確保のための人員を連れてきたり、食料や消耗品の補給、ついでに侵攻に加わる兵を待つためにも日数が必要なのだそうだ。

「それもわかってるけど、だからって地下牢で寝泊まりするのはどうなのよ……」

「鉄格子は壊したから本来の用途には使えないただの地下室と変わらないし、他人が居ないから色々な話をしやすい、なんて理由もある。それとも、他の兵士と相部屋になりたかったか?」

「む……それもそっか。私も話はしたいと思ってたし、私が魔族を手伝ったことで犠牲が出たんだものね」

「そういうこと」

「ごめんなさい、エ……ユーリ」

「気にしなくていい。あと、他に人が居ない時なら呼びやすい方で構わないよ」

「ふふ、ありがとう、エル」

「どういたしまして」


 食堂でちらちらと見られながらの夕食を済ませ、節水に気を付けて体と衣類を洗い、ベッドに横たわる。

「ベッドの数からしてそうじゃないかなーとは思ってたけど、貴方たちは一緒に寝るのね……」

「うん? まぁ、ベッドが一個しかない所で暮らしてたしな。あー、そうだ、アニマ、アンナ、二人で自己紹介がてら自分のことを話してみたらどうだ?」

「えと、私からアンナさんにですか?」

「構わないけど、なんでまた?」

「二人とも互いのことは全然知らないだろう? 仲良くしておいてくれると、俺としても気が楽だからな」

「そういうことでしたら、わかりました。ではどちらから話しましょうか」

「そうね。……エル、お願い」

「俺に選ばせるのか? じゃ、まぁ、アニマからで」

「はいっ」

 微妙にアニマの鼻息が荒くなった気がする。


 俺に会うまでのアニマの話は、俺に何度か話した関係からか簡潔に纏まっていてさらりと終わった。

「そんな時にご主人様と初めて会ったんですけど、ボロボロだった私を嫌な顔ひとつ……あれ? してましたね?」

「あの時のアニマはかなりひどい怪我負ってたし、どうしてもなぁ」

「で、でもほら、私がどんな状態だったかをご主人様が細かく口にしてたのは怖かったですけど、さっき話した古い怪我は全部その時に治してくれましたから」

「へぇ……この世界の魔法も結構便利なのね」

「え、ちょっ、あの時そんなこと口にしちゃってたか俺!?」

「あ、やっぱり意識してなかったんですね」

「……そりゃあ、瀕死の怪我人を怖がらせる趣味なんて持ってないよ」

「あははは、エルらしい失敗ね」

「アンナ!?」

 俺に会ってからの話は、俺の失敗が浮き彫りになったりなんだか随分持ち上げられてむず痒かった。適当な機会を見つけて思いっきり可愛がろうと思う。


「じゃあ、私の番ね。産まれてすぐのことはあんまり覚えてないんだけど、エルとよく遊んでたのは覚えてるわよ」

「家は近かったからなぁ。アンナを初めて見たのは俺が一歳ちょっと、アンナは産まれて一〇〇日経った頃だけど、流石に覚えてないよね?」

「そんな小さな頃のことは流石にね。って、エルはその頃のことも覚えてるの!?」

「頭というか、意識はこの年齢の俺だったし、見たものを覚えるぐらいはしてるって」

「う、ううう……その話を聞けば納得なんだけど、エルは周りの中では一番大人びてたのよね。紙を齧ったとか高い所から落ちたとか、随分とやんちゃもしてたけど」

「……ご主人様?」

「いやほら、俺が居た世界だと出回ってる紙は木から作った物だったんだよ。動物の皮から作った紙がどんな味か、気になってもおかしくないだろう?」

「ええぇぇと……その、あはは……」

「流石にそれはどうかと思うわよ、エル」

「味方がいない!?」

 アンナの方も大体はそんな、俺の方に流れ弾が飛んでくる話だった。もう少し手加減してほしいところだが、なんだかんだで楽しいのがまた悩ましい。


 俺だった頃のエルヴァンの話をアンナが終えたころには良い時間になっていたので、続きはまた明日と話を切り上げて眠りに就いた。

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