14:幼馴染のこれまで
「とりあえずその、アンナさんってどんな方なんです?」
「どう説明すればわかり易いのかしら……」
「この世界に来る前の話と、来てからの話をしてみたらどうだろう。俺も聞きたいし」
「そう? なら、そうしましょうか」
大丈夫だとは思うけど……ポロっと変な話を零したりしませんように。
「まず、貴方たちは私が居た世界ともこの世界とも違う世界から来たのよね? エ……ユーリ」
「そうなんですか?」
「アンナが居た世界に月はないから、それだけでも違う世界だってのはわかるだろ?」
「へぇぇ……」
「貴方たちが居た世界でも太陽以外に、あんな大きな物が空に浮いてるのね?」
「ああ。季節が一巡りする間に一二回とちょっと満ち欠けを繰り返すんだ。この世界でも同じで、一か月っていうのも元は月の周期を表す言葉だよ」
「それ私も驚いたのよね。季節ごとじゃないんだーって」
「僕は逆にちょっと想像が付かないですけど……」
俺がエルヴァンとして生きていた頃は、脳内で何か月という数え方もしていたが、それは言わないでおく。
「で、そうね。私の世界が他にどんな所かっていうと……小さな動物や虫まで全部、魔法を使えるぐらいかしらね?」
「それはまたすごい世界ですね」
「普通の魔法より厄介だけどな。ほら、例の硬い武具があるだろ? あれを見てどう思った?」
「え、あ、はい、凄い武具だと思いました。矢も魔法も弾いちゃいますし、剣だって効きませんし……」
「本当なのねぇ……」
「だから言ったろ?」
俺以外からの【固定】への評価も聞いて、アンナは改めて戸惑っている。
「あの、なんの話です?」
「その、カケル君? 私が居た世界だと、小さな虫でも時間を掛ければ鎧に掛かってた魔法ぐらいは解除できるし、自分に掛けることもできるの」
「え、ええっ!?」
「一応衝撃は中に通るから、小さな動物までなら魔法が使えなくても殴り倒せるとは思うけど……」
「ゴブリンと一対一で戦ったら、アンナが居た世界の小動物の方が勝つだろうね」
「うえぇ……なんですかその恐ろしい世界……」
「ランクSの魔物はまだ見てないけど、そのあたりまで含めるとこの世界も相当だと思うよ?」
「ああ、それが居るんでしたっけ……いや、それでも、えええぇ……?」
駆のそんな反応にアンナは困惑している。
「ええと、これが普通の反応なの? ユーリ」
「驚き方は人それぞれだと思うけど、このぐらいの驚き方はするはずだよ。そういう話はしなかったのか?」
「あんまり深くは話さなかったのよね。やけに褒められるな、とは思ったけれど」
……そんなもん、なのかねぇ?
地雷は踏みたくないが、やはり気になるのは俺が悠理に戻ってからのエルヴァンの話。問題なさそうな聞き方は──
「世界のことはこれで良いとして、暮らしてた街や生活なんかはどうだったんだ?」
「他の街をよく知らないから、何からどう話せばいいかが良くわからないんだけど……そうね。角が生えてる人とか、そこのアニマちゃんみたいに動物みたいな耳や尻尾が生えてる人はいないわね」
「僕達の居た世界も見た目はそんな感じですよ」
「そう? それで、こういう石でできた立派な建物は少なかったけど、木でできた家ならいっぱいあって、街の外との境目には壁があって……何千人かは居たかしら?」
俺に確認するような視線が向けられるが、頷くだけにしておく。駆は頭の中で整理中だったらしく、こちらを見ていなかった。
「……その、街の守りなんかは大丈夫だったんですか? 虫や小動物でも怖い世界なんですよね?」
「子供も皆使える力だったからそうでもなかったわよ? もっと大きな猛獣になってくると危険だったけど」
「そ、そうなんですか……」
「それで同じような年齢の幼馴染も結構居たんだけど、一番凄かったのはエルね。エルヴァンって名前で、大人を含めても街の中では特に強い方だった人よ」
「アンナさんと同じような年齢で強かったって、えと、どのぐらい凄かったんです?」
「あの世界の魔法について言ってもわからないと思うけど、制御も発想も凄くて、大人でも相手が厳しい猛獣を次々に狩ってたわね。物腰も落ち着いてて、憧れてる人は結構居たわよ?」
「……」
嬉しいような恥ずかしいような、むず痒い感覚。
アニマからも尊敬するような目を向けられているが、内緒にしておいてねとジェスチャーで伝え、頭を撫でながらアニマの視線を俺から逸らす。
アンナの方を向くと、そちらもにやついた表情で俺を見ていたので視線を逸らす。クスリと笑われた気もするが、そんなものは見ていないので知らない。
「ただ、春の第八〇日だったかしら、そのエルが急に寝込んじゃって、起きたら勢いを無くしちゃったのよ」
「それは、何があったんです?」
「……最初は、体調を崩しただけじゃないかと思ってたんだけど、ぼーっと呆けてる時間が増えて、動きも遅くなって、魔法の腕も急に落ちちゃったのよね」
「ふうん……?」
魂が抜けていきなり死ぬような事には流石になっていなかったか。ひと安心──
「私も時々世話をしには行ってたんだけど、あまりの落ち込み方に居たたまれなくなっちゃって。エルの調子が悪くなった分だけ私も頑張ろう、なんていって少し離れて頑張ってみたの」
「そうなんですか……それで、その人はどうなったんです?」
「その間にマルプルっていうエルに対抗心を燃やしてた男の子と、その妹のイーデがエルの所に行って、やる気を取り戻させちゃったのよね。そのままエルとイーデが付き合い始めちゃって」
「へ、へぇ……」
駆は上手く相槌を打てずにいるが、俺も急展開過ぎて驚いた。付き合い始めたのはイーデが主体的に行動した結果だろうか。
「それで、エルがちょっとずつ復調して、翌年の春の初めぐらいにはイーデが妊娠してた事がわかったの」
「はあっ!? ……あ、ごめん、続けて」
……何やってんだ俺の抜け殻! 驚いたぞ畜生!
「う、うん、それで……っていってももうそんなに話はないわよ。気が付いたら私はこの世界に召喚されてて、レイクっていう人族と一緒に魔族の手伝いをさせられたのね。それで、裏切り者だって牢に閉じ込められたところをユーリに助けてもらって、今に繋がるわけ」
「そ、そっか。魔族も召喚する技術を持ってるってのは新情報だな。あとそのレイクって人族の特徴を聞きたい」
「そうね、レイクは……そうだ、髪も目も肌もユーリやカケル君と似た色合いの男の人ね。性格はなんか嫌な感じだったけど」
「日本人? とすると偽名かな。そのレイクってのはどんな手伝いを?」
「えっと、武器を作ってたわね。銃……だったかしら?」
「……どんな銃を、どのぐらい作れてたかはわかるか?」
「知ってる範囲はそんなでもないけど……先に謝っておくわ。ごめんなさい」
「? ……ああ、手伝ったのか」
アンナは申し訳なさそうに頷いた。
「強度が足りないからって懇願されて、鉄の筒を三本固めたわ」
「……太さは?」
「全部同じで、この位……」
示された太さは四〇ミリメートルほど。銃にはさほど詳しくないし、厚みで口径が違うとも思うが、銃というより砲の域だ。
大砲よりは威力も低いのだろうが、運搬の容易さが恐ろしい。
「……反動で大怪我するレベルだと思うが、撃てるなら歩兵がやばいな。どんな風に扱ってるかは見たか?」
「その、筒を一本固定できる台を作って実験してるところは見たわ……よ?」
「うわぁ……」
「ちょ、ちょっと待ってください、アンナさんって魔族の軍に所属してたんですか!?」
日本人(仮)と来世の幼馴染の合作に辟易していると、驚いた様子の駆が口を開いた。
「例の武具を硬くしてたのはこの子だよ。俺が次々に無力化してたら、裏切り者だって牢に押し込まれてたんだとさ」
「それで……でもなんで協力なんてっ」
「探してるものが人族の国にあるって話を信じて騙されてたって感じらしいけど……そういえば探してるものってなんだったんだ? アンナ」
「えっと、その……それを話すのは、二人の時でいい? アニマちゃんは居てもいいけど」
「ん……? まぁ、いいか」
「白井さん!?」
「なんだ?」
話してくれるならそれでいいかと思ったのだが、駆は納得できない様子だ。
「白井さんはそれでいいんですかっ? そのアンナさんのせいで国の人が沢山死んだんですよ?」
「つってもなぁ、アンナが硬くした武具は俺が大概無力化したし、俺だって結構人は殺したろう?」
「白井さんが殺したのは魔族じゃないですか!」
「あん? 魔族だって身体が変わっただけの人間だろうに」
「……! それなら、なんでそんな平然としてるんですか……?」
「まぁ、色々あるんだが。関所の前で公開処刑をやって俺らを罠に嵌めようとする連中や、直接俺を殺しにくる相手に遠慮する必要って、あるか?」
「それは……じゃあ、アンナさんはどうなんです?」
「魔族連中を守れてしまう優れた防具を作ってしまったせいで魔族が侵攻してきたのは確かだがな、そこまで優れた防具だなんて認識してたと思うか?」
「それは聞きましたけど、だからって……」
「そうだな。じゃあ、連中を治療する人が居たら、どうなると思う?」
「……?」
「わかり難いか。怪我をした人を治療したら、治療された人が侵略に加わり、敵国の平和に暮らしていた人を殺して回った。これならどうだ?」
「それは…………」
駆が治療した人族の軍が魔族の国でどうするか、という話だな。
「アンナには無知な点が目立ち、やっていた事も直接的ではなく、反省もしていて魔族の軍に組する事ももうないだろう。さて、どうする?」
「っ……」
これでまだ何か言うようならいっそアレを言うべきかとも思ったが、駆は引き下がった。
……身内だからと少し甘くなっている自覚はあるが、ここでアンナにきつく当たる意味も特にはないしなぁ。
そんな事を考えているとドアがノックされて、エドワルドが入って来た。
「ユーリ、今後に向けての会議をしたいんだがそろそろいいか?」
「一応聞きたい話は聞けました。っと、アンナ、まだこっちの話はあんまりできてないけどそれは後でいいかな?」
「え、うん。一番知りたかったことはわかったから……後でまた時間は取れるのよね?」
「まぁ、多少無理にでももぎ取るよ。ってことで、行きましょうか」
「おう、こっちだ」
そのまま全員で会議室まで移動して、さっき聞いた経緯を話していった。
この子の名前はアンナで、俺達とはまた別の世界から魔族の国に召喚された異世界人で、例の武具を固めていた当人だという事。
それを俺が無力化しまくったら裏切り者扱いで地下牢に入れられていた事、アンナ自身にグリフォード国への敵意は無く、要請に応じて手伝っていただけだという事も話した。
「……それで、今は貴方の保護下に居るから何もせずに許せと?」
「俺が手伝った結果として、潰走した魔族は蹂躙できたでしょう? それで諦めてくださいませんか?」
「チッ、なら魔族どもに作ったのと同数用意させろ。それが最低条件だ」
「おい!」
不満げな様子の兵士がそんな事を言い出し、指揮官がそれを止めようと声を上げた。
……気は進まないんだよなぁ。
「本当にそんな物を求めるおつもりで?」
「強力な武具であるのは事実でしょう?」
先程兵士を止めようとした指揮官だったが、有用性は認めているようだ。
「打ち破るのが手間なだけで破れない武具ではないですし、そんな武具でも私の手の届かない所で侵略に使われるのは気にくわないですね」
「む……? 魔法をも弾く武具ではありませんか?」
「オーガぐらいの力で殴られたら大怪我しますよ。破り方もそうだったでしょう?」
こちらの兵士がその武具を着込んだ魔族を倒している事ぐらいは、俺も把握している。
「……まぁ、その通りですが」
「その分っていったらなんですが、あちらの一番厄介そうな兵器はぶち壊そうと思います。あれは危ない」
「兵器というと、どのような?」
「銃ですよ。鉄の鎧を貫通するぐらいには威力が高く、連射も効くような銃が地球には存在しまして、どの程度かは知りませんが魔族の軍にも化け物染みた銃を作ろうとしている阿呆が居るそうです」
「そ、それをその、頑丈な武具で防げないのですか?」
「貫けないだけですからね。まともに一発食らえば最低でも動けなくはなるかと」
そこまで言うと会議の参加者達の顔色が悪くなり、少しばかり静かになった。
そこで、アニマから袖を引かれた。アニマの方に視線を向けると、アニマの顔色も悪い?
「……どうした?」
「その、凄く大きな足音が遠くからこっちに近づいてきてるみたいです」
「足音?」
耳を澄ませてみると、こちらに駆け込んでくる何者かの足音。大きな足音とやらは別件だろうか。
「何事だ」
「すみません、緊急です! サイクロプスが現れました!」
「なんだと!?」
「まだ遠方ですが、この砦を目指して歩いてきている模様!」
「使用できる巨弩や砲の残数は!」
「巨弩が五、砲は二門ですが、火薬が足りません」
「なんという事だ……いや、出来得る限り立ち向かうしかないな、編成急げ!」
「はっ」
なんだか随分な事になっている。……サイクロプスかぁ。
「まぁ、俺も出ますよ」
「すまない、頼む」
「はい」




