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仕様違いの魔法使い  作者: 赤上紫下
第 3 章

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12:再びの移動と砦

「ご主人様……」

 ……アニマ?

 何やら呟くような声が聞こえたので、そちらに顔を向けてみると、アニマの頭が目に入った。

 寝言、ではなく起きているようだ。

「何かあったのか?」

「い、いえ、何もないです。おはようございます」

「? おはよう」


 詳しく聞いてみると、単純に落ち着かなくて目が覚めただけだったらしい。アニマはそんな理由で起こしてごめんなさいと謝っていた。

 二度寝をするには微妙な時間だったので、一応何か異常がないかを確認してから可愛がった。



「では参りましょうか。戦闘はお任せすることになりますが、よろしくお願いします」

「そこはまぁ、俺達の仕事ですから」

「僕は、任せっぱなしですみません」

「俺だって本堂君に治療は任せてたんだから気にしない気にしない」

 兵士達とのそんな会話の後、俺達が乗る馬車を含む、昨日より大所帯になった一団が進み始めた。


 会議で決定した作戦としては、日が明けてから国境付近の防衛に当たれるだけの兵を連れて進軍するというもの。

 砦へは王都から物資が届くはず、ということで多少砦にも残したが食料類は相当な量を馬車に積んで進んでいる。

 会議で聞いた話だが、魔族の軍に昨日与えた被害は一〇〇〇に届くかどうかといったところ。前線に来ていた魔族の軍は三〇〇〇に満たない程度だったようだが、随分取り逃がしたものだと思う。

 あまりにもあっさり魔族の軍を打ち破ったせいか、撤退の判断を早めてしまったらしい。

「先日までの最前線に到着する予定は、明日でしたっけ?」

「そうだな。できれば体勢が整う前に攻めておきたいところだが……仕方あるまいよ。お前が多少速く走れたとしても、着く頃には疲れ果ててましたじゃ話にならねえしな」

「ですね」

 先日まで居た急ごしらえの砦から国境の砦までは馬車で二日程度ではあるが、走り抜けるには流石に遠い。

 それでも距離的には随分近い気もするが……まぁ、馬車だしな。

 自動車や飛行機が走り回っているような所ならまだしも、ある程度徒歩で進軍するような世界ならこんなものだろう。

 ……まて、飛行機……? そうだ飛行船なら、いやエンジンが微妙だから気球? 風船……ううむ。


 空気の密度は立方メートルあたり一キログラムの二割か三割増しだったと思うから、とりあえず一〇〇キログラムの物体を浮かべるとして、質量ほぼ〇の物体を連結できたとしても八〇立方メートル程度必要になったはず。

 八〇立方メートルといえば、四の三乗が六四だから、四×四×五メートルぐらい。作れたとしてもでかすぎて使えない。

 現実的な大きさで俺の体重を打ち消す程度だとしても、空気抵抗を受けて速度が落ちる上に、着地時の力を利用し難いので次の動きに差し障る。

「……難しいもんだな」

「ご主人様?」

「なんでもないよ、ちょっと考え事をしてただけ」

 アニマを撫でながら、どうするかを考えていく──と、前方から何か騒ぎが聞こえてきた。魔族が襲撃してきたらしい。

「おっ、手伝うか?」

「お願いします」

 質問したのはエドワルドで、返事をしたのは外側を歩いていた兵士だ。

 飛んできた矢や魔法を防ぎ、こちらは魔法で反撃。馬車はできるだけ止めず、手早く倒して進軍を再開という流れで進んでいる。今回も──

「オオアアッ!」

「ッ!」

「ぐっ」

 エドワルドが魔族を順になぎ倒していく。

 例の武具を装備している魔族も居たが、他と同じくなぎ倒されている。他との差を強いて挙げるなら、負傷が小さく、戦う力を残していたりするぐらいか。

「ガフッ」

 まぁこちらもエドワルド一人ではないので、魔族が体勢を崩しているうちに他の兵士が止めを刺して終わるわけだが。



 夕方になり、到着した宿場町、というより休憩用の小屋の集まりで眠ることに。高速道路のパーキングエリアのようなもので、大した設備はない。

「ここも壊されてますね」

「だが、壁があるだけ他よりマシだ。まずは制圧、次は──」

 魔族につい先日侵略されたばかりの所なので、寝泊まり以上の設備があったとしても利用はできなかったと思う。

 隣接している畑もあるが、こちらは潰されていないようだ。

 ……奪い取る土地の作物に気を付けたのか? 地味にセコいような、あるいはそれだけ一気に侵略と奪還が進んだのか。

 そんなことを気にする俺がセコいのは、まぁ今更だな。


「到着予定は明日の昼頃だ。しっかり寝ておけ。疲れは残すなよ?」

 味気ない夕食を終えたところでエドワルドからそんな注意を受けた。

「了解です。ところで、目的地の砦には兵器なんかはあるんですかね?」

「攻め落とされた際に巨弩(バリスタ)や大砲は多少壊されたはずだが、持ち込まれた兵器や修理された兵器はあると見るべきだろうな」

「んー……ある程度砦が見えてきたら、俺が単独で突っ込みますか?」

「斥候にも確認を取らせるつもりだが、恐らくはまた頼ることになるだろう。済まないが、よろしく頼む」

「ま、犠牲が増えるのも嫌ですし構いませんよ」

 設置されている兵器次第では逃げたくなりそうな気もするが、ひとまずは楽観視しておく。

「では、失礼します」

「おう」


 ……しかし、この世界の兵器はどんなもんなんだろうなぁ。

 ゲームでしか見ないような、細めの丸太サイズの矢を撃つ巨弩(バリスタ)等が実在していたら、【固定】でしっかり固めている俺でも厳しいかもしれない。貫通力重視ならどうとでもなるのだが。

 現代兵器相手だとミサイルや戦車砲が直撃したら衝撃で内臓や脳をやられそうだが、それ未満の衝撃なら俺は大丈夫なはず。アニマを背負っていたらアニマがアウトか。

 少し、試す必要がある。できれば人目に付かない範囲で、最低限人型で、失敗しても惜しくない相手。そんなのは中々──

「ご主人様、武器を構えてこちらを伺っている魔族が居ます」

「……なんて、丁度良いタイミングで来るんだか」

「丁度良い、んですか?」

「人体実験……って言うと響きは悪いけど、身を守るための実験だな」

「ええと、上手くいったらどうなるんです?」

「アニマをもっといろんな所へ連れていけるようになる」

「本当ですか! わぁ」

「まぁ失敗するとどうなるかわからないから実験したいんだけどね。さて、魔族は武器を構えてこっちを伺ってるんだっけ?」

「はい、あっちに三人です」

「わかった。じゃあ、行こうか」


 近付いたら()る気を漲らせて来てくれたので、全員実験材料(いけにえ)になってもらった。

 とりあえず、失敗した時の様子をアニマには見せたくないということで納得してもらい、【固定】で隔離した空間を作って実験を行う。

 全身に至る【固定】の解除も問題なく成功したので短時間、数分、十数分と小分けに何度か繰り返し、最後には三人まとめて固めた。

 三人の表情は、流石にアニマに見せるわけにはいかないな、と思う程度には恐怖が滲んでいて酷い表情だったので、隔離したまま外に出て、そのまま就寝した。



 ………………



 アニマの協力もあってやや早めに起きられたので、見えないように置いておいた三人に掛かっている【固定】を、また隔離スペース内で解除する。

「お、おわった、んですか?」

「ふむ、全員成功か」

「ほほ、ほんとに、朝?」

「そうだぞ? ほれ」

「ヒィッ!?」

 随分怯えられているが、外が見えるようにしただけである。

 そうすると、見えるようになったと気付いたアニマが少し嬉しそうに声を掛けてきた。

「あ、成功したんですね?」

「ああ、健康も問題なさそうだよ」

「ッッ!?」

 何やらまた魔族三人組は脅えているが、まぁ、実験するにあたってしておいた約束は守ろうと思う。

「じゃ、最後にもう一回だけな。少し遠くで解除するから後は好きにするといい。反撃でもしてみるか?」

「にに、逃げさせていただきまっ、ますっ」

「そうか? ああ、そうそう、お前らが人族を襲ってるところを俺が見たら──」

「し、しません、襲いませんっ」

 話が早いのは良いんだが、なんとも釈然としない気分である。

 まぁそれはともかく。三人の献身のお陰で、アニマに使っても最低限死ぬことはないだろうという推測だけは立てられた。


 そして今日もまた馬車に乗る。

 魔族三人はこの少し前に約束通り解放したら、転びながら必死な様子で逃げていた。解放した位置はこちらの軍が警戒している範囲の外のはずなので、素直に逃げていれば生存はできるだろう。

 馬車が進む道と同じ方向なので、馬車が近くを通る時にはどうにか隠れていてほしいとは思うが……まぁ、見つかったらそこまでだな。これ以上かばう理由もないし。



 魔族とは特に遭遇する事もなく、俺達の一団は砦が見える位置まで進んだ。

 遠目に見た感じは普通の砦。周囲の木々はまばらで、忍び寄るのは難しそうな場所にある。


 斥候は既に出ていて帰りを待っている状態で時間が余っているため、屈折率の微妙な水で望遠鏡をでっち上げてみた。

 中々手間だったので、そのうちダイヤモンドでも作って試してみようと思う。【固定】は高熱にも高圧にも耐えられるようなので、多分行けるはず。

「……なんだそりゃ?」

「手製の望遠鏡ですよ、中々見辛いので困りますね……っと、こんなもんかな」

 屋上は平坦で矢なり何なりを射かけるために凹状に欠けた壁があり、隙間からは何かが見える。

「あれは……なんだろう、筒?」

「ちょっと見せてもらってもいいか?」

「あ、はいどうぞ。形状はわかったんでもう一個でっち上げます」

「すまん。……下手な望遠鏡よりしっかり見えるな……。ありゃ大砲か」

 【固定】で外側を複製し、水を注いで覗き込む。アニマも興味がありそうなので覗かせてみる。

「遠くがよく見えますね……」

「見える範囲は狭いから、警戒には不向きだけどな」

「なるほどです……? 何か光りました」

「ん? 見ていいか?」

「はい、屋上の辺りです」

 アニマから受け取った望遠鏡で覗いてみると、確かに何かが光っている。

「……ああ、魔法かなあれは」

「む」

「撃ってる方向は砦のすぐ近く。……斥候って今、どの辺に居るんですかね」

「……済まん、行ってもらえるか? こっちも馬車で追いかける」

「わかりました。アニマ」

「はいっ」

 望遠鏡を受け取って崩しながら水を水筒に戻し、馬車の横に降りた。

 アニマを背負いながら、馬車の横に降りて前傾しつつ力を貯め、エドワルドに声を掛ける。

「じゃ、行ってきます」

「気を付けてな」

「はい」

 地面の強度を確かめながら走り始めた。



 砦の近くまできてみたが、これから入ると思うと中々に大きい。

「さて、何処から入るかねぇ? 入りやすそうな所なんてあるかな?」

「ええと……人数が多いみたいですし、どこから近付いてもすぐ見つかるかと」

「じゃあ、近付く途中で攻撃され始めたら上に上るかな。されなかったら……その時にまた考えよう」

「はい」


「何者だ」

 剣も抜かずに歩きながら門に近付くと扉を守っている魔族の兵に気付かれた。恐らくは、橋で蹴散らした兵とは別人の模様。

 槍を向けられているが、気にせずに話しかける。

「グリフォード王国軍所属の遊撃兵……かな。ちょっとこの砦の責任者に用があるんだ」

「何? まて、単独で来るとはどういうことだ? とにかく下がれ、通すわけにはいかん!」

「いや、悪いけど通るよ。ああ、約束なんかはないけど、まぁ戦争中だしね」

「は? っ! !?」

 槍で突かれたがそれを無視して歩き、開きっぱなしの不用心な門から壁の内側に入ると、こちらを見る目が多数。

「て、敵襲! 敵襲だ! 誰か止めろ!」

 門番が慌てて声を上げており、矢も飛んでくるが無視して扉に向かう。

 扉もまた不用心なことに、鍵が開いていた。いや、開いていなくてもこじ開けたとは思うがな。

「こいつは、橋で襲ってきた奴か! こ、殺しに来たのかっ!?」

「獣人を背負いながらなど、ふざけた真似を!」

 橋から逃げた魔族の兵も居たらしいが、見分けは付かないので無視して砦の中へ入った。


「頭だ、頭を狙え! 力を持っていようともあいつのように牢に押し込んでしまえば封じられる!」

『おう!』

 指示を出している以上ある程度偉そうな相手なのだろうが、気になる話を口にしている。『あいつのように』ということは、【固定】の力を使える奴は牢に入れられているのだろうか。

「何を知っている?」

「当たれ、当たれえええっ!」

 俺の質問には答えず、先程の指示に従って頭を狙ってくる魔族連中。

「全く。下手に知っている相手だと殺意の有無がよくわからないな」

「ガッ!?」

 近付いてくる連中を片っ端から殴り倒しつつ、ひとまずは砦の地下牢に向かって進んでみることにした。

 先日の会議の時にこの砦の大よその間取りは聞いている。牢があるのは地下だけなので、この砦に居るならそこだろう。

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