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仕様違いの魔法使い  作者: 赤上紫下
第 3 章

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07:帰宅からの騒動 前編

 アニマと二人で王都を歩き、家に辿り着いたのだが──どうにも様子がおかしい。

「……ええと、鍵、閉め忘れてたかな?」

「いえ……こじ開けられているようです……ね……」

「だよねぇ……」

 壊れた扉が口を開ける家を見て、どうしたものかと今一つ考えが纏まらない。

 強いていえば、さほど大事な物は置いていなくて良かったというところか。

「仕方ない、一旦城まで戻るか」

「はい……すみません……」

「……アニマ? どうかしたのか?」

「あの……押し入った人達なんですけど……その……」

「……」

 この、とても言い辛そうなアニマの雰囲気から察するに、知り合いだったのだろうか?

「……あの、ご主人様」

「うん」

「……父と、近所に住んでた知り合いの匂いがありました」

「そうか」

「……怒らないんですか?」

「何故だ? アニマが指示するなりして押し入らせたわけじゃないだろう?」

「それは勿論です。……でも、押し入った人達がそうだったのは事実ですから……」

「あー、その父親と知り合いが主体になって押し入ったのか?」

「! ……そうみたいです。ご主人様と私以外には、父と知り合い二人しか入ってないみたいです」

 一応、主犯が別に居る可能性を提示してみたのだが──アニマは嗅ぎ取った匂いを思い返し、結局はそうとしか思えなかったらしい。

 違って欲しいという思いもありそうなものだが、正直に報告するあたり偉い子である。

「どちらにしても、責任を感じる必要はないよ」

「そう……ですか?」

「押し入る事を選んだのは向こうだからな。アニマに怒る理由がない」

 それにしても、一度奴隷として売り払っておきながら強盗として奪おうとするとは、つくづく外道な親である。

 ……いや、売ったのは母の一存だとか言っていたか? それならまだ……いきなり物理的な手段に出た以上はアウトか。


 城に報告して、兵士を連れて改めて家に帰ってきた。

「うわー……酷い事になってますね」

「あーあー……冷蔵庫は、ああそうか、塞いでたっけ」

「表面が壊されてて中身が平気なのは不思議ですね、理由に心当たりはありますか?」

「俺の魔法で守ってあったんで、それを破れなかっただけだと思います」


 兵士と一緒に見て回ったところ、扉は破られていたが、俺の力で保護していた範囲に被害はなかった。

 扉を除けば、剣で付けられたと思われる傷が──廊下と、そこに面するドアと、台所(キッチン)内にできている程度だ。

 そして、身元は割れているので手配は回し、捕まえたら報告が来るということで話がついた。

 兵士達はそのまま帰り、残った俺達は家の掃除と修理に取り掛かる。侵入された範囲が限定的なだけあって、全体を修理するのと比べればいくらかマシではあったと思う。


 一通り掃除してからは、ミルクを一度煮立てておく。それから蜂蜜をまぜて冷やしながらアイスクリーム状にしていき、ラップ代わりの落し蓋をして、使ったボウルごと冷凍庫に放り込む。

 あまり長期間置くと硬くなりそうだが、温度の微調整が効くわけでもないので、硬くなっていたら練り直そうと思う。

 後は……あー、冷凍庫の温度維持用に氷も作らないとな。


 夕食は買い置きしてあった分の食料で作り、風呂を済ませて布団に入った。

 申し訳なさそうな顔をしたままだったアニマは弄り倒した。



 ………………



 眠りが覚めてきて、目を開くと──部屋の様子と白い布団が目に入る。緑色も視界にはあるが、なんだかいつもより小さい。

「…………アニマ?」

「お、おはようございます、ご主人様」

「おはよう。……今日はそんなに離れてどうしたんだ?」

「あの……私にお仕置きとか、本当になさらないんですか?」

「うん? 元々理由がなかったってのも言ったし、なんだかんだでもうしただろ?」

「ええと……その、それは、恥ずかしかったりはしましたけど、全然痛い事とかはありませんでしたし、ご主人様はずっと優しくしてくださってましたし……」

 俺の言葉を聞いたアニマは昨晩の事を思い出したのか、赤面しながらやや早口で言葉を返してきた。

「それで、何が問題なんだ?」

「……父と知り合いがご主人様に迷惑をかけたのに、ご主人様が私にしてくださった事は嬉しかったのが……その……」

 …………ふむ。

「……アニマ、こっちにおいで」

「え? あの」

「おいで」

「は、はい」

 アニマを招き寄せ、向き合ってから話し始める。

「君は……農家の娘と俺の奴隷、どちらとして扱われたい?」

「えっ?」

「まぁ、別にどちらか片方でしか居られないわけじゃないんだがな。保護している農家の娘の家族が俺に悪いことをしたというのであれば、少なからず辛く当たってしまうのも道理ではあるだろう」

「はい……」

「だが、俺の奴隷としての扱いを優先するなら、俺が正式に購入した品物を力ずくで奪い返しにきた不届き者がいる、という話になるわけだな。こちらであればわざわざ辛く当たる理由なんかはない。そんな理由で、長く大事に扱うつもりの奴隷(もの)を傷つけるなんて、本末転倒も良いところだろう?」

「……!」

「何度も確認してきたし、今更扱いを変えるつもりはないんだが……俺からしてみれば、今君にきつく当たるという事は、農家の娘としての扱いを優先するという事になるわけだな。……さて、もう一度聞こう。君は、農家の娘と俺の奴隷、どちらとして扱われたい?」

「えと……私はご主人様に優しくされて、いいんですか……?」

「そういう事だ。なんとも捻くれた状況だけど、今の扱いは不満かな? アニマ」

「いえ、ありがとうございます……」

「どういたしまして」


 泣き出してしまったアニマを慰めていると腹の虫が鳴いたので、ベッドから降りてキッチンに移動した。……どちらの腹だったかは本人の名誉の為に、なんて考えた時点で答えを言っているようなものか。

「ま、健康な証拠だな」

「うぅ……」

 アニマの皿には、肉を心持ち多めに配分しておこうと思う。


 さて、この朝食で大体の食料は使い切ってしまったので、また食料を買いに行く必要がある。

 この国では朝と夕食を多めに摂る主流らしく、アニマもそういう生活を続けていたようなので、買うなら夕食の前だろうか。

 金銭的には外食をしても平気なんだが、しばらくは落ち着いたところで食べたいからな。

「……そういえば、アニマはどのぐらい料理ができるんだっけ」

「えっと……手伝いぐらいなら、それなりに。味付けはやった経験もないです」

「ふむ……結構いろんなところで食べたと思うけど、味付けはどんなのが良かった?」

「苦手な味付けなんかは特になかったですけど、強いて言うならお城と、ご主人様が最初に連れていってくれたあのお店でしょうか。あ、先日ご主人様が作ってくださったアイスクリームは美味しかったです」

「そっか。ちょっとずつ手伝ってもらう範囲を増やそうかな」

「はいっ」

 味覚は正常なようだから、壊滅的な味付けになることもないだろう。


 朝食を終えて、買い物に出かける為に着替える、前に。

「そういえばしっかり聞いてなかったな、と」

「えっと、何がでしょう……?」

「アニマが奴隷になる前の経緯だな。金銭不足で売られたという話は聞いたが、両親や知り合いに関してもう少し詳しく話せるか?」

「う……はい。それで、ええと……どこから話せばいいでしょう……?」

「んー……落ち着いて話せそうな所に移動してからにしようか」

「? はい」


 適当な椅子が無かったのでベッドに腰かけて抱き抱えつつ、俺の方で時系列を整理しながら聞き出してみることに。

「まずは、そうだな。上手く動けなくなった時期は、わかるか?」

「はい、たしか──」


 子供の頃、この家を先日襲った中にもいた知り合いと遊んでいた時に、木から落ちて大きな怪我をしたらしい。

 原因はその知り合いの無邪気な悪戯だったようだが、結果的に大怪我を負わせたのは間違いない。……運が悪かったのか、少々動き辛い程度で済んだだけ運が良かったのかはわからんが。

 それからは知り合いとの距離を両親の手で離されるようになり、家の手伝いをやるようになったが、後遺症のせいか上手く働けず、両親からはよく怒られるようになったようだ。

 どちらかといえば母親から怒られることが多かったが、力の強さの関係で怪我をし易いのは父親から怒られる時だったらしい。

 そんな生活を数年続けた後、魔物の襲撃があり、畑が潰れて生活が成り立たなくなったのは前に聞いた通り。補助金だけで生活ができなかった理由が、落ち込んだ父親が結構な量の酒を飲むようになったせいだった、というあたりは初耳だったが。

 そして、奴隷として売られる直前の話。いつものように酒を飲んでいた父親だったが、その日はそれだけではなく、アニマに襲い掛かってきた。で、母親に引き離されて、叩かれて、奴隷として売られたと。この時は更に母親から罵詈雑言をあれこれと叩きつけられたが、詳しくは覚えていないらしい。

 売った理由は……穀潰(ごくつぶ)しの娘への怒りと、娘に欲情した旦那への嫉妬かね?


「えと……結構勇気を出して話したんですけど、その、落ち着いて普通に受け止められるとなんだか変な感じです……」

 おおよその流れに納得できたので頷いていると、アニマはやや釈然としない様子を見せた。

 原因は、アニマが父親に性的に襲われかけた話を、俺が平然と受け止めているせいだろうか。

「だけど、なぁ。未遂だったのはわかってたことだし?」

「……うぅぅ、そうですけど……」

「それに、俺に話して嫌われるかもしれないって気持ちが強かったんだろうけど、アニマは襲われかけた事そのものについては、もうあんまり気にしてないだろう?」

「…………あれ? …………そうですね?」

 そして俺には、アニマから好意を向けられている自覚も少なからずあるわけで。法で処罰される相手の過去の事で、アニマ相手にいちいち腹を立てるのもなぁ。

 この家を襲った時点でそいつらの今後の扱いは既に確定しているようなものだし、そいつらの評価が更に悪くなった程度である。

 俺が腹を立てるとするなら──

「……今後、そいつらがそういう意味で迫ってきたらどうする?」

「それは普通に嫌です」

「ならいい」

「はいっ」

 やはり、アニマに大して腹を立てる理由はないな。



 なんだかんだで気分は少しだけ荒んでいたのでしばらくのんびり過ごしたが、昼過ぎには平服に着替えて、市場へと繰り出した。

「肉はこれでよし、野菜も良いかな。アニマ、何かリクエストはあるか?」

「うーん……お芋が欲しいですかね。油もちょっと欲しいところです」

「じゃあ芋から行こうかね。匂いは見つけてるんだろう? ……アニマ?」

「ご主人様、すみません、父と知り合いの比較的新しい匂いがあります。あと……わかり難いですが、距離を置いてこちらを認識している人達が居るみたいです」

「……気付くのが遅れたのは、人込みのせいかな? そこは仕方ないとして……城に向かうか」

「わかりました」

 アニマの同意も得たので、城へ足を向けた。

 周囲の人の流れの違いは、俺にはよくわからなかったので、アニマに小声で尋ねる。

「付いてきている人数はどのぐらいだ?」

「……最低でも五人は居そうです」

「面倒な事になってるな」

「すみません」

「向こうが悪いだけだ。アニマが気にする必要はない」

「はい……」


 人込みが徐々に減り、城も近付いてきたのだが、俺達の反応は少々遅かったようだ。

 二メートル近い身長の獣人族の大男が俺達の行く手を遮り、周囲の道にもそれぞれ大男の仲間らしい連中が控えている。獣人族が多いようだが──

「聞いていた姿とは随分違うな。アニマの知り合いとは別人か?」

「はい。匂いはありますけど、全員知らない人です」

 ……こいつらの用件はなんだろうか。

「さて、そこのお二人さん。というより後ろの緑色のお嬢さんに用があるんだが、今ちょっといいかい?」

「囲んでおいて言う事じゃないだろう。誰だかも知らんが、用があるならさっさと言え」

 大男の言葉に俺がそう返すと、周囲が少しばかり騒めいた。

「フン。用と言っても大したもんじゃない。そちらのお嬢さんをこちらに帰して欲しいだけだ」

「ま、そういう用件だよな。で? 帰すってのは、この子が奴隷になる前の両親の元へって事か?」

「……わかっているなら話は早い。世話はしていたようだから、タダで帰せとも言わん。金貨一〇枚でどうだ?」

「話にならん。そもそも金銭でこの子をどうこうするつもりはないが、金貨一〇枚はいくらなんでも舐め過ぎだろう」

 やはりアニマの身柄に関する件だった。アニマの父親と知り合いの匂いがついていた時点で確定していたようなものだが……犯罪者がこれだけ人を集めるってのは、人望があるのかねぇ?

 そんな事を考えていると、大男は不満そうな顔つきでこちらを睨み付けてきたが、動きはない。無理に取り返そうとはせず、会話によって解決しようという意思はあるらしい。

「ハッ、大した図太さだが、足元を見ても良い事はないぞ? 一五枚までだ。そこで手を打て」

「空き巣の仲間が何を偉そうに。売る気も捨てる気も譲る気もない。大金貨を万単位で積まれてもそこは変わらん」

見窄(みすぼ)らしい服を着せて連れ歩いておきながら何を言いやがる」

「着飾らせても虫が寄ってくるだけだろうが。外行きの服は目立たないぐらいで丁度良いし、奴隷にしては綺麗にしてるだろう?」

「……奴隷にしては、か。……扱いを変える気はなく、解放する気もないと?」

「そうだな。状況に応じて多少変えるかもしれんが、一生付き合ってもらうつもりだ」

「一生……死ぬまで奴隷として扱い続けるってのか?」

「その通りだ。さっきも言っただろう? 金銭の取引に応じるつもりはない。金銭以外の何かで譲るつもりもないし、捨てる気もない」

「……ああ、よくわかったよ」

 大男はそう言ったまま何かを考えている。道を開けるつもりはないようだ。


「……わかったのなら退いてくれ。もう用は済んだんだろう?」

「……いや、まだだ。この手は取るまいと思っていたが、無理やりにでも引き離し、親元へ帰させる」

「そんな事をさせるとでも?」

「お前の意見を聞く気はない。黙って手放すなら見逃してやっても良いぞ、凡人族」

 …………?

 脅し文句なのだとは思うが、混じっていた耳慣れない単語がとても気になる。

「……アニマ、凡人族ってのは、なんだ?」

「えと、人族に対する悪口、みたいなものです。精霊の加護を得ても身体が変化しなかったからだとか」

「へぇー……。ああ、前に一回だけ言いかけてた事があったっけ?」

「うっ……あれは、その、父がよく言っていたもので、すみません。忘れていただけると……ご主人様!」

「おっ?」

 大男が剣で斬りかかってきたのでいつものように掴み止めようとしたが、大男の剣はその手を避けて俺の頭の前で寸止めされていた。

 剣を引いて大男が再度声を掛けてくる。

「次は斬る。大人しく手放せ」

「断る。空き巣に依頼された強盗の要求など論外だ」

「……狂ってんのか?」

「全てにおいて正常であるなんて言う気はないが、お前らのような外道よりはマシだろうよ」

「外道はお前の方だろうが!」

 失礼な言葉と共に斬りかかってきた大男の剣を、俺は【固定】で保護した腕で弾いた。

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