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仕様違いの魔法使い  作者: 赤上紫下
第 3 章

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06:王都への帰還と雑事

 目が覚めると朝になっていたので、少しだけ周辺の探索を進めてから、森の外へと歩き始める。

 村のようなこの巣に居た魔物は昨日の時点で一通り倒したはずだが、周辺にはまだ魔物が居たらしく、俺達が起きた時点でまた何匹か歩き回っていた。


「結構居るもんだなぁ、魔物って」

「そうですね……あ、また来ました」

「またか、なんでこうチマチマ来るのやら」

「あはは……」

 ……まぁ、上位種(ハイ)コボルド相手の経験をアニマに積ませることはできたから良いんだが。


 アニマと適当に会話をしながらだったが、散発的にやってくる魔物を狩りつつ、森の外れまで無事に移動できた。

 魔物がどんな増え方をするかは知らないが、あれだけ狩ればいくらかは減るだろう。

 念のため森の出口付近ではしばらく待機し、追ってきている魔物が居ないかをしっかり確認してから、今度は王都に続く街道を歩き始めた。



 昼過ぎには何事もなく王都に帰り着いたので魔物の素材を換金したいところだが、換金所ではなく狩人(ハンター)組合(ギルド)の受付へ向かってみた。

「ようこそ狩人(ハンター)組合(ギルド)へ。……あっ! ユーリ様達じゃないですか。ご無事な姿を見られてよかったです」

「こんにちは。ありがとうございます。今回は生存者は居ませんでしたけど素材は結構な量があって、巣も見つけたんですが……換金所に行った方が良かったですかね?」

「普通ならその方が好ましいのですが、ユーリ様達であれば前回のように応接間での換金でも問題ありませんよ。かなり高額になりそうなんですよね?」

「多分そうなるかと。すみませんが、部屋を用意していただけますか?」

「承りました」


 用意してもらった部屋に案内されたので、とりあえず、素材を一通りトレーに並べる。

「素材は以上ですね。それで、ええと、今回潰した巣は地図だとこの辺りです」

「……」

「……あの?」

「は、はい……そうですよね、ユーリ様達が二日も籠ればこの位はできますよね……」

「個人ランクでAの人は結構居るでしょうし、パーティーランクでSの人たちならもっと行けるでしょう?」

「それは、はい、まぁ、なくはないのですけれど……」

「? なら、普通なのでは?」

「……そうですね、あの、少し失礼します。少々お待ちください。貴方は査定を進めておいて」

「? はい」

「はい!」

 良い返事をした換金所の職員を置いて受付職員は部屋を出ていってしまった。


 俺達が持ち込んだ素材の査定を進める職員を見ながら黙って待つこと、二分ほど。受付職員がもう一人連れてやってきた。

 やってきたこの人は……どこかで見たが、誰だったか。

「試験の時以来ですね。高額の素材を次々に持ち込んでくださってありがとうございます。ユーリ様」

「えーと……ああ、試験を遠くで見ていた方ですね、お久しぶりです。お名前は、存じませんが」

「はっはっは。グリフォード王国王都狩人(ハンター)組合(ギルド)組合(ギルド)長を務めております、ノーテと申します」

「ご丁寧にどうも。ご存知のようですが、ユーリです。変な目立ち方してて申し訳ありません」

「アニマです」

「いえいえ、被害が減っているのはありがたい事ですよ。低いランクの魔物だけを大量に狩るようであれば問題ですが、ユーリ様達はそうでもありませんし」

「そうですか、それは良かったです。……といっても目についたランクの低い魔物は大体狩ってるんですけどね」

「ランクの高い魔物しか狩る相手が居ない、という状況にはなっていないので大丈夫ですよ。それで、そちらのアニマ様にランクの試験はご不要ですか?」

「うーん……、俺が補助すればランクBの魔物も狩れるんですけど、純粋な力でBに届くかどうかは怪しいぐらいなんですよね。わざわざランクを上げなくても別行動をする気はありませんし……」

 正直なところ、あまり受けさせる意味はない。受けさせるだけでも金は掛かるから、もう少し訓練を積ませてからにしたいところだ。

「……そのような方を連れてどのような狩りをなさったのです?」

 ……まぁ、当然の疑問ではある、かな?

「詳細は省きますけど、魔物を探すのがこの子、倒すのは私という役割分担でしたね。守る自信があったからできた狩りです」

「…………なるほど……」

「お、おわりました。金貨で……ええと……四二三枚と、銀貨二二枚です」

「うわぁ、持ち運びが辛そうな枚数ですねぇ……何枚ぐらい大金貨にできます?」

「金貨四二〇枚分まで全て大金貨でもお支払いできますが、よろしいのですか?」

「持ち運びに不便ですからね。あまり枚数が多くても困りますし……大金貨は四〇枚でお願いします」

「承りました。お持ちしますので、少々お待ちください」


 換金所の職員が部屋を出て、先程言っていた通りの金額を持ってきたので確認し、鞄に収める。

 俺が貨幣を鞄に収めたところで、ノーテがまた話をし始めた。

「ユーリ様は個人ランクA相当の実力があると見なし、組合証(ギルドカード)の更新をしようと思うのですが、如何でしょうか。アニマ様のランク試験もついでに如何です? お安くしておきますよ?」

「特に義務なんかもないんでしたっけ?」

「はい、御座いません。適切なランクの組合証(ギルドカード)を所有しておいていただけると援助がし易くなる、というこちらの都合ですね」

「……まぁ、道理ですかね。あと、正規の料金で構いませんよ、金貨には届かないでしょう?」

「はい。ですが、よろしいのですか?」

 さっきケチろうとしたばかりだが、金だけ無駄にあり過ぎても困る。

「使うアテがあまりないので、そのぐらいは構いません」

「では、──」


 組合(ギルド)長ノーテのおかげで俺の組合証(ギルドカード)の更新もすぐ終わり、アニマの個人ランクB試験が始まった。

 受ける試験のランクはCでも良いかとは思ったのだが、不足していればCで受け直させれば良いということでBの試験を一応受けさせてみた。結果──

「合格です。少々粗くはありますが、十分でしょう」

「ありがとうございました」

 普通に合格していた。……ちょっと過保護だったかな?



 なんとなく定番になってきた飲食店で肉料理を頼み、料理が来たところで試験についての話を出す。

「まずは改めて。無事合格できて良かったね」

「はいっ。ご主人様も更新おめでとうございます」

「ありがとう」


「この後は、城に帰ってお風呂にでも入ろうか。今回はちゃんと体を洗ってからね」

「……ふふっ、そうですね」

 アニマと話しながら食べ進め、舌と腹が十分に満足してきたので切り出してみた話だが──アニマは少し考えた後、体を洗う前に湯を張った前回のことを思い出したらしい。

「しかし、なんだな。金は十分にあるから、これからどうするか悩むな」

「そうですね……あの、私にできることはそんなに多くないですけど、地下室でのああいうことなら頑張りますよ、私」

「そうか。いつもありがとうね、アニマ」

「えへへ……」



 笑いながらのんびりと夕食を兼ねた食事を摂り終えてからは、城に帰ってきた。

 別に家でも良かったが、そこそこ大量の金貨を置くなら城の方が良いだろうという判断だ。いくらなんでも常時持ち歩く金額ではないしな。

 いつも通りアニマの腕に魔道具を付けてもらい、部屋に戻って一息つく。

 ベルを使って呼び出した使用人に明日の朝食は城で摂ることを伝えてから、風呂に入って疲れを癒した。


「拭くだけよりは、やっぱり湯に浸かってのんびりした方が気持ちいいねー」

「ですねー」

 風呂から上がった後はベッドの上で、のんびりと気の抜けた会話を交わす。


 しばらくすると眠気も来たので、そのまま就寝した。



 ………………



「ごひゅりんひゃまー……」

 ろれつの回っていない声がすぐ近くから聞こえてきて、覚めかけていた目が覚めた。

 視線を下げると、見慣れた緑の毛の塊、アニマの頭がそこにある。

 視線を上げて時計に向けると、そろそろ起きるのに丁度良さそうな時刻を指している。

 …………。

「……? ふぁふー……」

 ……うむ。


 アニマを一通り撫でまわしてから起床し、身嗜みを整えて、小食堂まで移動し、挨拶を交わす。

 朝食を摂り始めたところで、なんとなく所感を述べてみる。

「なんだか城の食事が懐かしく感じますね、ほんの数日でしたけど」

「前に白井さん達が城で食事をしたのは、五日前でしたっけ?」

「そのぐらいだね、いやぁ今回は中々開けてたもんだ」

「その間、何をなさってたんですか?」

「ええと、初日は買った家で掃除をして、作ったベッドで眠りました。次の日からはまた西の森に行って、森の中で二泊。昨日は城で寝ましたね」

「二泊……たしか凄い雨が降ってた日がありましたよね? 白井さん達は大丈夫だったんですか?」

 駆の質問に当時の状況を思い返しながら答える。

「その日もある程度は狩れたけど、やっぱり結構きつかったから早めに寝ちゃったよ。天気予報なんかがないから辛いねー」

「あはは……成果はどうだったんですか?」

「初日はコボルド何匹かって程度だったかな……と、そうそう、風属性だけだけど、アニマが魔法を使えるようになったよ」

「それは凄い……んですかね?」

「どうだろう……? 使わせてるのは、元々適性のあった属性だけだしなぁ」

「えと、他の属性も使った方が良いですか?」

「うーん……」

 この世界の魔法の場合、攻撃なら風だけで良いとは思うが、他の属性も使えるようになっておくと普段の生活で便利ではある。

 しかし多数の属性の魔力が混ざると、微妙に属性への変化が難しくなったりするから──

「魔力の操作にもうちょっと慣れてからの方がいいかな。無理にやっても悪影響が出るだろうし」

「わかりました」

「それで二日目は、森の奥に別の巣を見つけたから潰してきた。三日目……昨日は王都に帰ってきて、換金して、のんびりしてたってところだね」

「へぇ……どのぐらい魔物が居たんですか?」

「何体だったかな……とりあえず、コボルドは数えたくないぐらい。上位種(ハイ)コボルドは……道中と泊まっている途中で来た奴を含めると合計一五体だったかな。それと、ライカンスロープが三体」

「うわぁ……森の奥ってそんなにとんでもないんですか……」

「びっくりしたよ、ほんと。魔物のランクで言えばAまでしか居なかったとはいえ、徒歩圏内であんなに居るとはねぇ」

「ですねぇ……あの、生存者は居なかったんですか?」

「戦い始める前にアニマに探してもらったけど、見つからなかったよ。酷く損傷した死体の成れの果てがあったぐらい」

「そうですか……」

 なんだか暗い話になったが、魔物の話である以上仕方ないところではある。


「ところで……四日前ですか。シライ様は何やら問題に巻き込まれたとか?」

 駆との話がひと段落して、少し落ち着いたところで今度はアモリアから質問が来た。

「四日前……? あー、はい、夕方の飲食店での事ですね? 知り合いでもなんでもない男が突然アニマに酒を掛けたんですよ」

「……? どういう話です?」

「いやそれがそのまんま。店から出ようとしたらいきなり酒を掛けてきて、騒ぎ始めて終いには剣まで抜いた変な男が居たんだよ」

「それはまた、怖いですね」

「剣を奪って取り押さえたら、騒ぎを聞きつけた兵士……一人はバクスターさんだったけど二人が店に入ってきて、その変な男が兵士二人に助けを求めたりもした。まぁ、なんというか凄く腹が立ったね、うん」

 当時の事を思い出していると眉間に(しわ)が寄る。ああいう手合いはできるだけ関わりたくないものである。

「その男性の件なのですが、その、一昨日の事なのですが、拘留していた牢から脱走しております」

 この国の法律と照らし合わせてみると、そこまで重い罪ではなかったと思うのだが……脱走ねぇ?

「……見かけたら斬り捨てていいですか?」

「できれば近くの兵にでも引き渡してほしいところですが、はい。手配は既に回してありますので、抵抗された際は問題御座いません」

「その男が無抵抗なままだったら、拘束して近くの兵に引き渡す、というところですかね」

「申し訳ありませんが、そのようにお願いいたします」

「まぁ、良いですけど。……あの男はどうやって脱走したんです?」

「別件で襲撃してきた者が居たらしく、どさくさに紛れて……という形ですね」

「そういう事ですか。襲撃者と男の関係は?」

「襲撃者自体が不明であるため、脱走犯との関係も不明です」

「……そうですか」

 襲撃者とやらは何を考えていたのやら。ここで考えても仕方ないことではあるのだが。……まぁ、撃退の許可は確認できたので良しとしよう。


 朝食を終えてから駆に勉強をどうするか聞いてみたが、駆はこの後も訓練を重ねたいらしく、今日も勉強の予定はキャンセルされた。



「じゃあ予定も空いたし、この後は家でも見てこようか。……冷蔵庫の食材が少し気になるし」

「あ、あはは……そうですね」

 ……腐ってたら、アニマの鼻にはきついかな?

「まぁ、本格的に悪くなってたら俺でもわかるから」


 話をしながら外出用の服に着替え、家へ向かうべく部屋を出た。

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