03:慣れ親しんだ力
主人公の能力の説明回+アルファ。
妙に長いですが、状況に応じて適度に説明は入れているつもりなので読み飛ばしても大丈夫、かも?
悠理が魔法と訳した、エルヴァンとして生きた世界の力はこんなんです。
『エル、今回はまた随分な大物を仕留めて来たんだな!』
『戦い始めてから仕留めきるまで結構時間かかったけどね。逃げも逃げられもせずに戦い続けててあれだけ時間がかかるとは思わなかったよ』
『お前には覇気が足りてないんだ。俺ならもっと短い時間で勝ってみせる』
『マル、そういうセリフはまず、エルと同じぐらい力を身につけてから言おうね』
『そうよ。まずはチームでの狩りに成功してからね』
『アンナ、イーデまで……。いや、俺なら認められさえすれば今でも!』
『そんなことばっかり言ってると、またダッドソンさんに怒られるぞ?』
『ぬぐ…………、絶対だ! 俺が一人での狩りを認められたら絶対にエルより短い時間でやってやる』
『ハァ……。まぁ、頑張れよ』
………………
…………
……
…………ああ、全く。
昨日の出来事はやっぱり現実、か。
……本当に、なんだってんだろうなぁ、エルヴァンとして生きてたら、白井悠理の身体に戻ってたってのは……。
転生した後で魂だけを元の体に戻されたんだとは思うが、それで力が使えるようになっているのが不思議だ。
……いずれにせよ、今考えることではない、か。
まだ日は出てないのか、窓の外は暗い。
暗い室内でもうっすらと光って見える備品を俺が操作すると、カチャリと鳴って光が増え、部屋の中を明るく照らした。
これは、地下にあった照明と同じ光源を利用したテーブルランプのような卓上照明で、淡く室内を照らしてくれる便利な道具である。光の色は室内照明器具の、たしか常夜灯とかいう豆電球の光と似た茶色だ。
点灯、消灯の切り替えはできないが、光量の操作はカバーの開閉で行える。先程の操作でカバーが大きく開き、部屋を照らしたわけだ。基本的に燃費が良く、光を漏らさないようにすることで燃料を節約することも可能なのだとか。
ちなみに、燃料とは言うが魔力を補充するだけである。量も大したものではなく、燃費が良すぎて光り続ける為、仕方なく蓋が作られたという経緯があるとかなんとか。
こちらでも一日を二四分割するものだった時計を見たところ、もうそろそろ空が白む頃だろうか。
二度寝する気分にはならないので、顔を洗ってから少し自主練をしておくことにした。
ロールプレイングゲームでよくある、ステータスという表現が的確そうな、昨日測定してもらったあの結果。……結局は身体測定の延長のようなものだったが、それは置いておくとして。
精神、精度、知力の三つは高いが他は平均未満か大きく劣り、スキルは【基本スキル】のみという微妙な結果だった俺。
筋力は低いが他は平均前後、魔力については三倍で、魔法六種類に加護付きという駆。
比較すれば負けている気はするが、そもそもこれらは健康な成人の平均値と比べてどうだったかという数値だ。
アモリアの話しぶりから考えて、少なくとも、兵士が束になっても早々勝てないであろう相手を打倒する必要があると思われる。
駆が【聖魔法】を覚えて、その【聖魔法】が魔王とやらに対して劇的な効果を及ぼすのであれば、もしかしたら俺が頑張る必要はないかもしれない。
しかし、備えあれば憂いなしという諺もある。駆の居ない戦場で俺が相対する場合もあり得るなら、最低限は戦えるようになっておきたい。
そういった諸々の指標として、今日の訓練は多少無理を押してでも参加したい。目標は早めに定まった方が努力もし易いというものだ。
【基本スキル】だけでも魔法を使えなくはないということだし、できるだけ身につけまくってやろうと思う。
それに、【基本スキル】しかないとはいってもそれは魔力を介する技能の話で、エルヴァンだった時に得た力は白井悠理の身体でも使えた。
改めて試してみると、昨日より更に反応が良くなっている。固さも申し分無し、かどうかはまだわからないか。
一晩寝ただけだが体調もそれなりに回復しているようだ。訓練にも参加するとして、それまでにできるだけ勘を取り戻──いや、身につけておきたい。
……この身体は戦闘経験がないからな。
さて、自主練ついでに、今俺が持っている力についての再確認をしておこう。
まずは、魔力。【基本スキル】によって知覚、吸収、操作、変換、蓄積と様々な操作が行えるこの力。全身に馴染んではいるが、特に心臓付近に集中しているようだ。
【魔力知覚】は、魔力を知覚できる。体の中、目に映る範囲、更には背後であっても濃淡はわかるようだ。
【魔力吸収】では、吸い込んだ空気から、魔力を吸収できる。もう少しできることは多そうだが、手ごたえがない。要研究かな。
【魔力操作】は自身の魔力を操作する。血管や骨など、体内の組織を無視しても動かせる。体外に出して操作もできたが、維持するだけでも目減りしていく。
【魔力変換】を試してみると、多少の倦怠感と共に魔力が増えた。そこら辺の空気から吸収するよりは効率よく魔力を増やせそうだ。変換自体にも多少魔力を使うようで、体力、魔力の変換を繰り返すと明確に減っているのがわかった。ダイエットには良いかもしれないが、無駄は避けたいところである。
【魔力蓄積】は、魔力変換で体力などに変換しておくよりも、魔力を高い効率で蓄えられる。再び使えるようにする際のロスも殆ど無いといえる程度だった。
ここまででわかった内容として。
なんとなく不思議な感覚だが、少なくとも魔力というのは、操作しなければ風によって流されるものであるらしい。ついでに、【魔力蓄積】によって体内に安定した状態で蓄えられて、その場合は血流に乗って体内を循環したりもする。
つまり、魔力を媒介する分子、原子、あるいは素粒子か、とにかくそういった何かが存在している可能性は高い。ひとまずは存在するものとして、『魔力素子』とでも仮称しておこうと思う。
これ以上は、魔法の使い方がわかるまで放置だろうか。
そして、エルヴァンとして得た力。
俺がエルヴァンとして生きた世界では『魔法』と認識しておくだけで良かったが、こちらで言うなら『エルヴァンだった時に得た力』というような遠回りな呼び方になる。例えるなら、まぁ色々あるが、固定電話の市外局番あたりが妥当だろう。
頻繁に使う以上は、簡単に表せる名前を設定しておきたい。こちらで通すなら…………【固定】とでも言っておくか。
特に誰かに言うこともなく俺の中で呼ぶだけのつもりなので、こんなものでも良いだろう。別件で得た力と名称が被るようなら【固定:固有】や【固定:特殊】とでもすれば良い。
そう、一言で表すならこの力は【固定】が適切だろうと思う。
『物に力を流し込んで固める』、『固めた物から力を奪って元に戻す』という二つがこの力で起こせる現象だ。
後者は【反固定】として分けるべきか? 仮決定としてひとまず大まかな要素をまとめてみると──
【固定】
・物に力を流し込んで固める力。厳密には、『流動を遅らせる』ような力。
・固めても、対象物の質量や体積は変化しない。
・『固まった状態に変化させる力』なので、掛けるだけでその状態を維持できる。
・時間経過で若干の劣化はするが、年単位で保たせることも可能。
・物質なら大抵固められる。ただし、密度が高いほど固め難い。密度が低すぎても固め難い。
・固めた流体(気体や液体)は一個の物体(固体)として扱える。
・固めた物同士の結合と分割は自由。
・元々物理的に繋がっていた物を分割するには、物理的な干渉が必要。
・『熱伝導を遅らせる』『光の通過を遅らせる』等の効果を追加できる。追加効果は単独も複合も可能。
・ある程度の太さを持っていた方が硬さを持たせやすい。とはいえ、単分子カッターのような物も作れなくはない。
・空気であろうとしっかり固めれば、金属を一方的に削れる程の硬さも出せる。
【反固定】
・固めた物から力を奪う力。
・勿論、対象物の質量や体積は変化しない。
・【固定】によって固めた物以外には効果がない。
・【固定】を掛けた後、手を離して時間が経った物にも効果を発揮する。
・他者が【固定】を掛けた物に対しても使用可能。
媒体となる力
・視認できず、接触していない力を感知できない。
・対象には直接触れるか、触れている固めた物が触れるなど、力による何らかの接触が必要。
・この力の及んでいる範囲であれば、ほぼ完全に認識できる。
・【固定】で固めるために使った力は【反固定】によってほぼ百パーセントの回収が可能。
・生きていれば体の中で生成し、補充できる。
・接触せず、固めもせずに放置した場合、徐々に霧散していく。
・操作に多少の精神力? が必要。食事や睡眠で回復するし、慣れれば疲れにくくなる。
──といったところか?
もう少し良い表現があるような気もするが、今は【固定】【反固定】で良しとしよう。媒体となる力の名前は……必要になったら考えよう。
ちなみに、固めた上で自在に動かせるなら【念動力】なんて名前をつけても良かった気はする。しかしこの力の場合は、動力を別に用意する必要がある点が明らかに【念動力】とは異なるため、別の名称を付けたい。
『動』を抜いて【念力】とでもするのが一番簡単な例えだろうが、一度掛けたら固まりっぱなしなのでこれもまた妙なところだ。
名前はともかく、他にできることを挙げるなら、思い切り固めると【反固定】が効きにくくなったりする、ぐらいか。
切り離した後も有効だが、その気になれば干渉できるので過信は禁物だ。
例えば虫ぐらいなら【固定】で周囲を固めて窒息させられるが、猛獣になれば簡単に【反固定】で力を奪われる程度でしかない。
【固定】【反固定】とも効き難い物はあるため、再利用の効率を考えるなら空気を固めるのが良。
ただし、空気だと【反固定】に不慣れなうちは掛けきる前に拡散させてしまう、質量が小さすぎて扱い辛いといった点から、水や木を使う場合も多い。
石や金属は力が浸透しにくいため不向き。芯に使って重りにする程度だが、金属であれば力を使わなくても道具にできる為、なんだかんだで需要はある、などなど。
随分長くなってしまったが、俺に扱える力というのはそういうものだ。学習する際に一科目として扱われるような力だったので、説明が細かく、長くなるのは仕様である。
それにしても、できることは超能力っぽいのに物理的な性質を持つという、改めて考えてみても変な力だと思う。
維持に力が要らないあたりも……なんというか、磁石のように固定する力を発し続けるような感じか?
とりあえず、朝起きた時に力が補充できている感覚は得られたので、この力を俺が使えないということはなさそうだ。
【固定】と【反固定】の力があればスキルが無くてもなんとかなるかも知れないので、かなりの安心感がある。
しかし長年慣れ親しんだ力とはいえ、体が違うせいか多少覚束ない部分もあるので、訓練は必要だろう。
【固定】で中空のボールを作り、手を突っ込んで、中で訓練を兼ねた実験をあれこれ行う。【固定】【反固定】だけでなく【基本スキル】も併用した実験だ。
【基本スキル】を得たお陰か、【固定】によって魔力を通すように固めることも、逆に通さないように固めることもできるようになっていた。
『魔力を通さない透明なボール』の中に魔力を詰めると視覚を通しても魔力が見えず、感じられなくもなったのは面白い成果だったかもしれない。
おそらく【基本スキル】内の【伝達】にも影響が出ると思うので、実験は追々進めていくつもりである。
そうやって実験を進めていると、部屋のドアをノックされた。……もう少し時間をかけて実験したかったが、今はここまでか。
【固定】で作ったボールから右手だけ引き抜き、左手で魔力を吸いつくしてから、【反固定】を使って片付けていく。
その作業を進めながら用件を聞くと、ノックしたのは城の使用人で、朝食の準備ができたから呼びに来たとのことだった。
片付け終えてから、平服として渡された服に着替えて付いて行くと、昨夜食事をとった談話室でアモリアが待っていた。
「おはようございます」
「ええ、おはようございます。直にホンドー様もお見えになると思いますので、それから用意させますね」
「はい」
…………。
「……」
「……」
…………遅いな。
「……遅いですね」
「あのぐらいの年頃ですから、中々寝付けなかったんだと思いますよ。日本には魔法なんてありませんでしたから、今日が楽しみだったなんて言われても不思議じゃないです」
「そんなに良いものなのでしょうか……」
「俺ももう少し元気だったら眠れなかった可能性がありますし……まぁ、本堂君の話を聞いてからですね」
話している途中で足音が聞こえてきて、駆がやってきた。
やはり中々寝付けなかったらしく、俺とアモリアを待たせたことについて申し訳なさそうに謝っていた。
謝罪も聞けたので一緒に飯を摘みながら、今日の予定を話し合う。
「この後の予定は昨日申し上げた通りになりますが、夜には国王陛下と面会をしていただきたいと思っております」
「あ、謁見とかじゃないんですね」
「そうだな…………アモリア王女殿下は俺達二人に敬語を使ってくださっておられるし、『謁見』だと立場に差があったはずだから、対等かそれ以上の扱い……って感じかな?」
「そういえばアモリアさんって王女様でしたね、……あれ、僕結構失礼なこと言っちゃってました!?」
「王女殿下御自身の表情から不快感のようなものはあまり感じとれなかったから、そこまで失礼ってことはないんじゃないかな?」
「あの、お二方とも、軽い口調で良いのですよ? こちらは無理をお願いしている立場なので」
うむ、突然の『王女殿下』呼びに焦っておられる様子。
と、確認し忘れていた点を思い出した。
「結構今更な話ですけど、俺……はおまけだったか。本堂君に倒して欲しい魔王とやらは、どんな相手なんです?」
「ハインデックという魔族の国の、強大な魔法を操る残虐な王、ヴォールトです」
「……他国の王様? というか魔族がまずわかりません」
「強靭な肉体と魔法への強い適正と耐性を持つ種族です。聖属性の魔法、あるいは聖属性の精霊の宿る武具が有効ですね」
「聖属性が有効なのはわかりましたが、俺達以外だとどのぐらいいるんですか?」
「…………聖属性の加護持ちは三名、【聖魔法】スキルだけなら一〇名ほどですね」
「意外と多い、んですかね?」
「いえ、国の防衛を考えれば攻め入る余裕がなく、押し返すだけで精一杯なのです……」
「まぁ、そうでもなければわざわざ異世界から呼んだりしないですよね……」
「はい」
道理ではあるが、中々に厳しそうだ。
俺や駆よりも運動能力が高い兵と、複数の【聖魔法】持ちを合わせても、戦線の維持が精一杯、と。
いや、常に全員が戦っているわけではないのだろうけれど。
「俺達が訓練をしてる時間なんてあるんですか?」
「最長で三か月程の猶予はあると思います。短ければ二か月程でしょうか」
「……短い方でも結構あるんですね」
「訓練期間としては明らかに足りていませんが、訓練する時間が取れるだけ幸いであったとも言えますね」
確かに、戦争中に素質を持った人間を獲得した上で、安全に育てる時間が取れるってのは幸運だと思う。
そういえば駆が全然喋ってないなと思って目を向けると、何やら深刻そうな顔。
「ごめん、ちょっと浮かれてた」
「いえ……真剣に取り組んでくださるのは嬉しいです」
「まずは訓練を見てから、ですかね。この国がどんな所なのかも見て回りたいとは思いますが」
「あ、それは僕もちょっと見てみたいです」
「では、視察団でも編成しましょうか?」
「そうですね、あまり迷惑になるようなら遠慮しておきますけど」
「いえ、王都内の視察はよく行われていますし、少人数の視察団を一つ増やす程度なら問題もありません」
「じゃあ、僕は行きたいかな」
「そういうことなら、俺も参加する方向でお願いしたいです」
「わかりました」
俺達の要求を認めたアモリアは、後ろで控えていた使用人に指示を出し始めた。
「ではそろそろ時間も良いでしょうし、訓練場へ向かいましょうか」
「うん」「はい」
今は、訓練に集中するとしよう。




