表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
仕様違いの魔法使い  作者: 赤上紫下
第 3 章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

37/238

03:実験と夕飯の騒ぎ

「おふぁようございますご主人様……」

「おはよう」

「……何を作ってらっしゃるんです?」

「色々あって伸ばし伸ばしになっちゃったけど、ほら、布を編む道具を俺が用意する話はしてたろう?」

「あ、はい、それがそう、なんですか?」

「そういうこと、使い方は、糸を通してこう──って感じだな。難しくはないだろう?」

「はい、わかりましたけど、その、私が編んでる間ってご主人様はどうするんですか?」

「うん、今日は上位魔法士の訓練の日だったはずだから、そっちだね。終わったらすぐ戻るよ」

「は、はい」

「今は、朝ごはんが先だけどね。別に戻ってくるまでに完成させろって話じゃないから、焦らず一段ずつ、ね?」

「わかりましたっ」

「……試作品だから、失敗してるところがあったらごめんね」

「えっと……はい」



 アニマと少し話した後は、いつも通りに小食堂へ移動して朝食を摂る。

「本日はその、参加されるのですか?」

「そのつもりです、買った物とは違うんでしょうけど、ちゃんとした杖はまだ実際に魔法を撃つところまで使ってないですし、聖属性の魔法もまだ小さな奴しか撃った事はないですから」

「そうでしたか。……【聖魔法】といえば、ご存知ですか?」

「えと、どうしたんですか?」

「あ、僕もようやく使えるようになったんですよ、【聖魔法】」

「おお、よかったな。威力はあるんだよなぁ、あれ。魔力の消費量が酷いけど」

「ですねー、出してるだけであんなにガンガン減るとは思いませんでした」

 まぁ、駆も使えるようになったのなら良い事だ。

「そういえば本堂君は、上位の訓練には行かないのか?」

「戦える回数は今の方が多いですし、勝率もまだあまり高くないので、このまま頑張ります」

「そうか」



 朝と朝食とでそんな会話を進めた後、一旦部屋へ戻って、アニマに道具を渡して訓練へ。

 今回はちゃんと杖も選んでから並んでいる。

 そしてラウディが前に立ち、以前と同じように開始の挨拶を──

「今回は新規の者は居ないようだな。では、訓練を開始する。皆、励むように」

 ──訓練全体の説明は省略された。……まぁ、そんなもんだよな。


 教官の試技の後で行われる訓練は、前回参加時と特に変わり映えはしなかった。

 サーラとリケルも参加していて、現れる的を前と同じように破壊している。俺よりも経験はあるはずなので、自分なりに使い易い魔法が定まっているのだろうか。

 そして、俺の番。

 開始の合図が流れ、的が出現したら、杖を構えて魔力を込める。

 魔力の輪が浮かび、杖の一部にも魔力が集中し、それを通すように【魔力知覚】のスキルを使うと、俺の知覚できる範囲の半径が倍ほどになり、演習場全体が知覚できるようになった。出現した的はすべて範囲内に収まっている。

 これで準備は良いとして、後はどの属性の魔法を使うか。……オーソドックスに火かな?

 魔力の輪に集まった魔力を使い、体の中から出した火属性の魔力に主導させて、やや大きめの火属性の矢を作る。

 杖を前に傾け、全ての的を貫通するルートを考えて、それをなぞるように飛ばす。狙い通りに的を貫いていき、俺の番は無事に終わった。


「時間をかけて集中しているようだったが、杖はどうだった?」

「演習場全体がこれだけでわかるのは良いですね、前回より使った魔力も少ないですし」

「それはそうだろうな。魔法の制御の難度も下がるはずだが……どうだった?」

「……んー、そっちはわかりませんでした。次は制御の難しいのをやってみますかね」

「程々にな。暴発すれば怪我では済まない場合もあるんだぞ?」

「気を付けます」

 リケルからはまた小声で注意された。


 俺の番が来るまで考え、今回は制御能力を試すべく矢を複数浮かべてみることにした。

 一〇本程でもまだ余裕はあったが、必要以上に増やすのもなんなので、そのまま放つ。火、水、風、土の四属性が二本ずつ、光、闇の二属性が一本ずつだ。

 それぞれが障害物に当たらないように的だけ壊して戻ってきたので、属性別に再吸収。

 以前模擬戦で四本飛ばした時と同じ程度の負担で動かせたが、杖のお陰というより、スキルとして形を成していなかった何かが活性化していた気がする。

 ……要実験、かな。


 その後は、ずっと放置していた聖属性への変化だけを繰り返した魔力がようやくまともな純度になってきたので、使ってもみた。

 威力は、普通の聖属性魔法と変わらなかった。



 …………?

 部屋に戻ると、編みかけの布と編み機が机の上に置かれていた。

 しかしアニマの姿はない。そして、風呂やトイレがある個室内にアニマらしい魔力を感じる。

 トイレかと思って椅子に座って──アニマの、何やら気分の悪そうな、うめき声が聞こえてきた。

 気になったので【魔力知覚】に集中して確認してみると、生きてはいる。他に何かが居たりはしない。

 よくわからないので、扉越しに声を掛けてみる。

「アニマ、無事か?」

「あ、あう、ご主人様、すみません、その、大丈夫です……」

「随分調子が悪そうだが、本当に大丈夫か?」

「えと……あの、えと……月のもの、です……」

「月の? …………あー……」

 俺は転生後も同性だったのでいまいち良くわからないが、やはり辛いのだろうか?

「ごめんなさい、すぐ出ます」

「いやいいよ、落ち着くまで自分のペースでいい」

「すみません……」

「いいってば。体は大事にな」

 別に無理をさせるところでもないからな。と、そうだ。

「何か必要な物はあるか?」

「えっと、その、汚れても良いタオルがあれば……」

「……わかった」

 ベル型の魔道具を使って使用人を呼び、素直にお願いすることにした。


 使用人に手伝ってもらって落ち着いたので、今はアニマの作業をのんびり見ているところである。しかし──

「俺から言い出しておいてあれなんだが、作業し辛くないか?」

「いえ、私は問題ありません。ご主人様の方こそ、何か進めたい作業とかあるんじゃないですか?」

「それはこのままでもできるから大丈夫」

「なら、このままが良いです。……お嫌でしたら、離れますけど」

「嫌だったら言い出さないよ」

「良かったです。えへへ……」

 すぐ近くにあるアニマの頭を撫でてやる。


 使用人が帰ってから改めて俺なりに診終えた後、礼を言って布の続きを編み始めたアニマを見て、こっちに来るかと言ってみたのだ。

 結果は、何というか、現状の通り。

 椅子の上で俺に抱き抱えられたまま布を編むアニマと、アニマを抱き抱えながら片手で魔法の練習をする俺、という不思議な構図が出来上がった。

 実際アニマはかなり集中できているようで、編む速度も決して遅くないあたり、俺としても随分驚かされた。

 俺が片手でやっているのは、複数の魔法を制御する訓練である。やはりスキルになりかけていた辺りが活性化しているようで、杖の効果ではなかったらしい。

 なりかけのそれが育つように、働き方を教え込むように少しずつ練習を重ねていく。まだ形を成せるほどではないが、徐々に形を成しているのは感じ取れた。

「んーふふー」

 アニマの機嫌は良いようで、作業の手も遅れていない。……俺も、頑張るか。


 夕食時には布団に使えそうな布も完成しており、よくやったと褒めなながら夕食へ。

 夕食は問題なく摂れたようで、体を拭いてやってから眠りに就いた。



 ………………



 一晩寝た後、アニマは随分調子も良さそうだった。案外、昨日の時点で普通に動けたりしたんだろうか?

 ……無理させる場面でもなかったし、別に良いか。アニマが布を編む時間も必要だったしな。



 朝食も無事に摂れたので、アニマを連れて城の外にある家へ移動し、とりあえず、一言。

「ここもいい加減寝泊まりぐらいはできるようにしないとな」

「あはは……そうですね」

 とはいっても管理状態は大体良かったので雑巾で一通り拭く程度だが、二人で手分けして各部屋の掃除を進めていく。

 俺が高い所を拭いていき、一通り拭き終えたところでアニマが床を拭いていく。

 勿論そのための棒ぐらいは用意しているが、地味に広いので少しばかり面倒臭い。


 掃除が終わってからは、アニマの作業室だと決めた部屋で作業を始める。

 薄く、細く、折れず、歪まない【固定】製の刃を使って、木材を切る。軽さは少々悲しいが、そこは作業場を床や壁に固定する事で補助する。

 厚みや長さを計算し、刃の位置をしっかり決めてから切断開始。大きなハンドルを回すように操作すると、連動した糸のこぎり状の【固定】製の刃が上下に動きながら木材にぬるりと、少しずつ入っていく。

 切り出した材木を確認すると、滑らかに仕上がっていた。【固定】様に感謝である。

 組み立ててから表面に塗るニスを買い忘れていた事に気づいたが、まぁ後でもいいとして、今回は表面を滑らかに加工するだけで済ませる。

 敷布団用に買ってあった布を袋状に縫い、中に詰める綿や繊維が散り難いように回復魔法で繊維を軽く繋げる。綿を詰めてベッドに敷けば敷布団は終了。

 アニマが編んだ布はその上に敷いて、布がもう少し余っていたので、綿を詰めて枕にした。

 試しに使ってみたい衝動にも駆られたが、それは我慢だ。


 次は他人に見せたくない実験があったので、そこそこ天井が高く、広さもある地下室へ移動。室内を【固定】で補強して、昨日の早朝に思いついたまま実行できていなかった実験を開始する。

 動力は、アニマ。もう少し具体的に言うと、ハムスターが回していたりするアレに似た装置で動力を発生させているのがアニマである。

 原料はやはり【固定】製。更に走り易いように若干凹凸は付けてある。

 硬いだけあって転ぶと怪我をしかねないので、パラシュートの固定具のような感じで吊り下げ、転んでも大丈夫なようにしてある。

 膝が触れない程度の張り具合なので、歩くか走るかしている間は何もない。回転と連動しない手すりもあるし、座り込むようにすればそのまま休む事も可能だ。

 足も【固定】で保護、外側は硬め、内側は柔らかめにしておき、適度に休憩を入れながら頑張って貰う。

 目が回らないように車輪自体は透明にはしてあるが、正直、色んな意味で絵面が酷い。……今更か。


 目線を向けると嬉しそうにするので悩ましいところだが、できるだけ気にしないようにしながら、作業を続行。

 アニマを動力にして進めているのは、空気を冷却用の媒体、冷媒として圧縮と膨張を繰り返しながら冷却していく作業である。

 空気に含まれる水分、沸点の比較的高い二酸化炭素等が先に冷媒から分離していくので、ある程度溜まるようになったら一旦アニマを休ませて、それらを排出してからまた再開。

 勿論、放射熱などの関係もあるため、【固定】によって要所以外では光が通らず、熱伝導も行われないようにしてある。

 そこまでやってもまだ若干効率は悪いが、冷媒がそこらの空気である以上は仕方ないか。


 冷却の対象物も、勿論空気。若干圧力を掛けながらだったので、冷媒が空気である内に凝縮し、液体になった。ついでにできたドライアイスは一か所に纏めてある。

 スペースを区切って開封した際、ここでも効率が悪かったのかそこそこの量が気体に戻ってしまった。まぁ、リットル単位で水色の『液体空気』になったので良しとして、そのまま温度を保てる【固定】の容器で保存する。

 同様に冷却された空気もそのまま隔離。『液体空気』は破裂が怖いので二重三重に保護した箇所に安置して、次の実験。

「……こ、今回はちょっと重いですね」

「まぁ、そこはな。作ってるのもふざけた物だし」

「え、ええっ……?」

 こちらは温度が高いので、熱伝導は起こる【固定】の容器に放置する。勿論、何重にも保護した上でだ。

 エルヴァンだった頃は干渉できる相手が多かったせいでできなかった実験だが、【固定】は想像以上に狂った硬さだったらしい。


 自分でやった事に自分で表情を引きつらせながら一階に上がると、夕方になっていた。

 地下に危険物はあるが、【固定】の力は繋がっていれば一部に触れても状態の確認ができるので、一階からでも確認できるように【固定】の線を伸ばしておく。



 夕食はどうしようかと歩いていると、今までに入ったことのない飲食店を見かけたので入店した。奴隷が入店しても大丈夫かどうかは確認済みだ。

 店の雰囲気は若干騒がしい気もするが、席はいくらか空いている。

 勧められた席に着き、おすすめを頼んで食べてみると、普通よりちょっとは美味しいかな、というぐらいの鹿肉料理だった。

「今日やってた事は私にはよくわからなかったんですけど、お役に立ててたんですか?」

「ああ、十分にね。後は俺じゃなきゃできない作業だからあそこまでだけど、アニマにもできる範囲ではしっかりやれてたよ」

「なら、良かったです」


 アニマとのんびり話をしながら、料理を食べ終えた。

 金は料理が出た時点で払っているので、後は店を出るだけである。

「そろそろ帰ろうか」

「わかりまし──ひゃっ?」

 ──パシャッとアニマの頭に何かが掛かった。

 俺もアニマも、突然の事に驚いて、瞬きを繰り返しながら見つめあってしまう。

「えっと……お酒?」

 ……酒?

 そんな物がどこから掛かったのかと視線を動かすと、見知らぬ男。

「……アニマ、知り合いか?」

「へ? ……いえ、知らない方です」

「……どちらさんで?」

「ああっ? 何だ何か文句あんのか?」

 …………?

「いや、まぁ、あるといえばあるんだが、俺の奴隷(もの)にいきなり酒を掛けたのは、何でだ?」

「かけちゃ何かいかんのか、ああ?」

「あー……」

「ああでわかるか! いい加減にしろや!」

「……えええぇ……」

 何かいきなり怒り出して俺の座ってるテーブルをガンガン蹴り出した。……何だこの、これ。酔っ払いか?

「っつあ、お前が唸ってばかりで何が言いたいかもわからんから怪我したわ、金払えや!」

「……ああ、強請(ゆす)りか」

「誰っがじゃごるああ!」

 ガツンとテーブルにコップを叩きつけて男が剣を抜いた。……いや色々待てや。

「すみません、店主さん、こいつ知り合いですか?」

「ひっ、すみません、そんなのが常連ですみませんっ……」

「……えと、前にも剣抜いた事とか、あったりするんですか?」

「それは、初めてですっ、すみません!」

「ごちゃごちゃるっせえわ!」

「いや、うん、お前がな?」

 剣を掴み止め、奪い取ってから床に寝かせる。

「がっ、この、返しやが、動けねえっ!?」

「はぁ……とんでもなく変なのに絡まれたなぁ」

「お、おい、俺の剣に何をしてやがるっ」

「見たままだと思うが、何だ?」

 聖属性の魔法を小さく発動して、先端から少しずつ切り飛ばしていく。見た目としては、指でちぎっているような感じだ。……というより、そう見せたいので是非とも脅えてくれたまえ。


 そうやって気分を落ち着けていると、騒ぎを聞きつけたのか兵士らしい二人がやってきた。

「これは何の騒ぎだ!」

「た、助けてくれ、この男が俺の剣を! ぐっ」

「おいっ……ユーリ?」

「バクスターさん? 今日は訓練じゃなかったんですか?」

「指導は持ち回りでやってて今日は別の奴だが、あー、お前は何をやってんだ?」

「それそれ、聞いて下さいよ、俺がこっちの、俺の奴隷なんですけどね? この子と一緒に飯食いに来てたんですけど、帰ろうとしたら、この男が急に酒を──」

 先ほどまでの事を説明する。説明しながら改めて思うが、唐突でおかしな経緯である。

「──ってわけですよ」

「……店主、事実か?」

「は、はい、間違いないです」

「それで、その剣は?」

「この剣がちょっと無残な事になってるのは……まぁ、気を紛らわしてないと思わずヤっちゃいそうだったんで。さっさと連れてってくれませんかね?」

「そうだな、おい」

「はっ」

 バクスターの指示に従ってもう一人の兵士が男を連れて行こうとしたので、【固定】での拘束を解除して引き渡した。

「えーと、それでだ。……災難だったな」

「本当ですよ、話は通じないわ剣をいきなり抜くわで。この子も酒ぶっかけられたんで早く洗ってやりたいです」

「……そうだな、そうしてやるといい」

「そうします。ほら、帰るよ?」

「は、はいっ」

 ……時間的には大したことないのに、なんか無駄に疲れた。



 家の方に帰ってからは、ひとまず地下に置いてあった物に何の問題も起きていないかを確認。

 全く問題が無い事はわかったので、アニマを優しくじっくり洗ってやってから、今日作ったばかりのベッドに入った。

 ……アニマの為というより、俺が落ち着く為だったような気もするが──

「んふえへへー……」

 ──当人は満足そうなので良かったと思おう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ