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仕様違いの魔法使い  作者: 赤上紫下
第 3 章

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01:新しい戦い方の模索

 買ってあった家もそろそろ本格的に使い始めますし、文字数的にも丁度良いので新章開始。

「おはようございますご主人様。悩み事ですか?」

「ん、おはようアニマ。……まぁ、その通りだよ」

 昨日は中々に疲労が溜まっていたらしく、風呂を上がってからはすぐに眠ってしまった。

 そしてアニマにも見抜かれてしまったが、昨日苦戦してしまった戦いについて悩んでいるところである。

「昨日戦った相手ぐらいならこう、スパッと片付けられるようなものはないかとね。アニマにも心配かけちゃったし」

「名前は、ライカンスロープでしたっけ。本当に心配したんですからね」

「わかってるよ。【固定】を全力で使ってれば相変わらずなんとかなったけど、ランクがSに届くような相手にそのまま通じるか、っていうとねぇ」

「ご主人様の【固定】っていうと、いつものあのお力ですか。えっと、【聖魔法】とかじゃダメなんですか?」

「……あ、忘れてた。それがあったな」

「ご、ご自分の力ですよね?」

 言われるまで忘れていたが、一応理由はなくもない。

「試し撃ち以外だと全然使ってないんだよね、あれ。魔力の消費量も妙に多いから、他でなんとかなるうちは良いかなって」

「な、なるほどっ? なら、今回はどうなんでしょう」

「……そうだな、使えるように練習はしておこうと思う。あとは、【固定】の活用法も考えながら……空間魔法もそろそろ覚えたいな」

「えと、空間魔法って、凄く珍しくありませんでしたっけ。知り合いに使い手が居るんですか?」

「少なくとも一人いる。アニマも知ってる人だよ」

「そうなんですか、えっと、誰でしょう?」

「俺は別の世界からここに『召喚』されて来たんだぞ? だから──」



「空間魔法を覚えたい、ですか?」

「空間を超えて別の世界に語り掛け、召喚を果たしたアモリアさんは適任だと思ったんですが、お忙しいですかね?」

 朝食時になって、いつもの人員が小食堂に集まったので、俺の死体と駆を召喚した本人に聞いてみた。

「いえ、多少の余裕は御座いますが、私から教えられることは御座いませんよ?」

「そうなんですか?」

 異世界に移動する魔法が空間魔法として簡単な部類のもの、ということは流石にないだろうから、初歩ぐらいは聞けそうな気がしていたのだが。

「はい、多大な魔力を集めた上で、魔法陣の補助も加えてようやく扱える魔法ですし、その、シライ様の練習のために召喚魔法陣を使わせるわけにもいきませんし……」

「……もう少し小規模な魔法はないでしょうか?」

 必要な魔力が多い以前に、召喚魔法でしか練習できないようなら無理なのは理解できるのだが、俺もそこまで一気に行けるとは思っていない。

「空間魔法は、必要な魔力量や複雑さが尋常ではありませんから……そこは、ご自分で研究なさるしかないかと思います。ですが……その、魔王を倒すまではご容赦願いたいです」

「そんなに難しいんですか?」

「ええ、この国においても研究はしておりますが、芳しい成果は上げられておりません」

「召喚と、送還でしたっけ。あと、召喚前に確認するための会話? そのあたりはこの国で研究されたものだと思ってたのですが……」

「はい、それは事実です。ただその、研究の主体になったのは昔こちらの世界に来られた異世界の方でして、次々と魔法を極めておられたと聞いております」

「そうなんですか……えと、それで?」

「その方は元の世界へ帰るための魔法陣を研究し、数年かけてようやく実現したそうです。その過程でより確実に帰る為に、移動先の世界から何かを呼び出す召喚魔法や、異世界間で会話を行う手段も開発されました」

「ええと、つまり、その人は既に帰っていて、この国がしたのはその研究成果を読み取って使えるように整えただけだと」

「はい。加えて言うなら、その効果は三つとも同じ魔法陣によるものです。魔法陣というより、あの部屋全体がそのための魔道具のようなものですね」

「へぇ……」

「現在の研究も、より確実にそれらを行うため、というのが主体です。大きすぎて特定の効果だけ抽出することは難しく、特にその、研究をされていた方が研究中の事故で亡くなってからは……」

「…………わかりました、止めておきます」

「はい、それがよろしいかと」


 力を付ける方向は手を抜かないものとして、小規模なサンプルぐらいはないかと念のため聞いてもみたのだが、どうやらその研究中の事故というのが案外大きかったらしい。

 昔の異世界人の研究成果を集めて行われており、研究所ごと破損してしまったそうだ。どうにか、召喚の為の魔法陣やいくつかの資料は残っていたらしいが。

 そして、失われた資料も多い中、どうにか偉大な先人の成果だけは問題なく使える状態にした、という経緯らしい。

 事故が起こる可能性を考えると……研究を許可しそうな発言をされていただけでも随分譲歩されている……か?



 本格的な研究に取り掛かるかどうかは別として、もう少し資料はないかと図書室まで来てみた。

 駆は昨日の戦いで思うところがあったらしく、自主的に戦闘訓練をやりたいらしい。予定していた勉強会はまた次回になった。

 そして本から何かを読み取れないかと色々調べてみてはいるのだが、空間の認識というのは難しく、本だけではきっかけを中々掴めない。

「あー……これは、無理かなぁ」

 せっかく拠点も作ったんだし、外から家に荷物を送る魔法ぐらい使えれば狩りが楽にならないかな──なんて考えてもあったが、そこまで甘くはないらしい。

 仕方がないので空間魔法は諦めて、荷車でも作る方向で行こうと思う。難度的に、敵が攻撃として使うのも難しいはずだしな。

「ご主人様でもできないことなんてあったんですね……」

「そりゃ、当然だろう? たとえばその服、今なら一着作るのに一時間半ぐらいあれば足りると思うけど、数分でさっと作ったりするのは無理だしな」

「それは……そうですね」

「空間魔法は実用化が難しいみたいだから放置するとして……いつまでも無着色なのはなんだし、染料でも調べるか」

「つ、強くなるのは良いんですか?」

「一応【聖魔法】はあるんだし、調べながら考えるよ」

「そういうことでしたら……まぁ」

「染物の本。わかった、持ってくる」

「うん、ありが……!?」

 またいつの間にか、司書の女の子──改め、サーラが俺達の近くに居た。本に集中しすぎて見逃していただけか?

「あはは……気付いてなかったんですね、ご主人様」

「魔物が居る森の中なんかならともかく、こういう安全圏で気を張り続けるのもなぁ」

「……言うべきでしたか?」

 ……む?

 このぐらいなら新鮮な気分というか、さほど悪い事もないので構わないのだが、他の場所だと困るか。

「……今回は不要ではあったけど、今後は一応頼むよ」

「はいっ……えっと、今はどうしましょう?」

「気付いてるから大丈夫」

「もってきた」

「ありがとう」

「どういたしまして」

 相変わらず、仕事が早い。


 本をめくりつつ、複写しながらどういう手順で染色した素材を入手するかを考えてみる。

 この世界の染料は当然というか、植物由来の色素が多い。

 アニマに着せている服は繊維を魔法で繋げてあるので、染料の浸透具合がどうなるかはわからないが……試せばわかるか。

 染まった後は、色落ちを防ぐために繊維に施す処理もあって……酢と塩? 酢は分量が多いな。塩だけでも一応いけるのか。

 薄く樹脂で覆えればそれで良さそうな気もするんだが、加減を間違えると粉を吹きそうだ。【固定】は掛け過ぎれば怪我をするし、薄く掛けると散りそうなので却下。

 …………染め終えた品を買うのが手っ取り早いかな?

 糸の段階であればそれでよし。自作も多少の方針は得られたが、それは最後の手段で。

「もういいの?」

「ああ、ありがとう」

「どういたしまして。ところで、この子は貴方の、奴隷?」

「紹介してなかったっけ。それで合ってるよ。アニマ」

「はい……その、アニマです。先日、ご主人様、ユーリ様に買っていただきました」

「そう。貴方は、幸せ?」

「はい、とても」

「そう……」

「…………」

 なんだか、妙な居心地の悪さが…………あ。

「……城で暮らしてるうちは買えないとか言ったんだったっけな、俺」

 サーラが俺の言葉に首肯する。確かに言っていた覚えはある。結局、城の外に出られるようになったその日に購入して、城に連れ込んだわけだが。

「……あれだ。別に俺は奴隷を買うために奴隷商に行ったわけじゃ……あれ、あるのか。奴隷を物色しに行ったわけじゃないけど、この子を買うために行ったのは間違いないし、ううん……?」

「何が違うの?」

「えーっと……この子が大怪我してたところを助けたのが最初で、奴隷商に連れていかれそうな場面に出くわして、法的に間違いなく奴隷だったみたいだから、買った」

「あのままだとどうなっていたかもわかりませんし、初めて会った時か助けられてばかりです、私」

「狩りでは十分役に立ってるよ? 頑張ろうとしてくれるのは嬉しいけどね」

「えへへ……」

「……その服は、どうしたの?」

「ご主人様が作ってくださいましたっ」

「市場で売ってた服が気にくわなくて、綿から作ったらんだけど、外で着れない品質になっちゃったのがなぁ……」

 思わず乾いた笑いが漏れる──当時は創作意欲が随分と暴走していたものである。

 ふと気付くと、俺達の説明を聞いたサーラは瞬きをしながら珍し気に見ていた。

「どうやって作ったの? 縫い目もないみたいだし、普通の糸とは品質が違う」

「回復魔法、ええと、魔道具でスキルを調べた時は【再生魔法】だったかな。植物だって生き物といえば生き物なんだからってことで試してみたら、繊維そのものを繋げられたんだ。服の方は、普通……じゃないけど、かなり効率化しながら編んだんだよ」

「……やっぱり、面白い」

「何か、希望でもあれば作ってこようか? 服は採寸する必要があるからなしとして、布ぐらいなら大丈夫だよね? ……何か風習的に、特別な意味がある贈り物になったりはしないよな?」

「そういった風習は特にない。けど、布よりも、作るところを見たい」

「あー、糸を作る方はともかく、布を編む時に使ってる力はあんまり見せびらかす気はないんだよ。だから布の方で我慢してくれないか?」

「……その、本を読む時に使ってる力じゃないの?」

「…………あっ」

 そういえば、本を読む時は普通に使ってたな……今後は、もう少しどうにかしよう。

「だめ?」

「……他言無用、守れる?」

「大丈夫」

「ここで見せるのはなしとして、俺の部屋かな。二時間もあれば一から完成まで見せられると思うけど、大丈夫?」

「問題ない。部屋もわかる。司書の仕事があるから、今夜、九時頃でいい?」

「わかった、その時間には部屋に居るようにしておく」

「ありがとう」

「……どういたしまして」



 約束を交わした後は本を返し、部屋で着替えさせてから、再び市場に繰り出した。今日の天気は晴れている。

「その、良かったんですか?」

「広まり過ぎると面倒だけど、なんだかんだで人には結構見せていたからな。容易く解析できるものでもないはずだし、純粋な興味しか感じなかったからなぁ」

「そうですか……」

「さ、今はそれより買う物を探そう。色付きの糸か布、染料……かな。よろしくね、アニマ」

「は、はいっ」


 アニマの鼻を頼りにそれっぽい店を見つけたので、商品を見てまわる。

「結構な色が置いてあるなぁ、この店」

「そうですね、店内が色鮮やかです」

「ちゃんと染色済みの糸も売られているしな。染料もありそうだが、今回はいいか」

 毛糸ではなく、機織り用と思われる細い糸が塊で売られていた。品質はやや悪いが、染色具合は十分だ。

「値段的にも、買うならこの辺かな。流石に綿とは違って重たいな」

「あはは……どのぐらい買います?」

「んー、デザインが決まらないとなんともな。アニマは、どんな色が好きだ?」

「ええと、黒か、白でしょうか」

「……うん? なんでだ?」

「ご主人様の髪の色と、着せてくれた服の色ですから」

「…………あー……、そうか」

 参考にならない上にむず痒い。いや、嬉しいのは確かなんだがな。

「じゃあ、逆に、嫌いな色はあるか? ないなら別に構わないが」

「そうですね…………特には、ないです」

「無理はしてないな?」

「はいっ」

「わかった」

 どれでも良さそうだ。赤系はアニマの毛とは補色の関係にあるから目は引くが、目立たせたくはないんだよなぁ。まぁ、アニマも俺より目立っても落ち着かないだろうしな。

 だから普段着用に買うなら──緑から近い色が良いか。青と緑と黄を主体に、茶と紫と赤は少しずつぐらい……?

 補色バリバリで目を引く服も俺だけが見るなら別に良いんだが、今はなしだ。

「すみませーん、清算お願いします」

「はい、全部でー…………銀貨六八枚になります」

「んじゃあ、……はい」

「まいどありー」

 俺が普通に持てる程度の量の糸だが、結構な金額になった。大雑把に日本円に換算すると、三四〇〇〇円ぐらい? ……払えるけど、高いなぁ。



 買ってあった家兼工房に運び込んで、買い物は一区切り。いい加減多少は使えるようにしようかと、掃除をしようかと思ったのたが、何やらアニマの様子がおかしい……か?

「どうした?」

「あ、はい、ええと懐かしい……というのも変なのですが、今日の買い物中に、知ってる人の新しい匂いがいくつもあったので……」

「奴隷になる前の知り合いか?」

「はい、父と、その、前に話した近所の子達……あ、いえ、成人している人も混じっているので人達ですね」

「ふうん……?」

 集団で来たのか。だとすると──

「アニマを買い戻しに来た、とか? いや、ないよな」

「その、私が売られたのはほぼ母の一存でしたし、母が直接来てそうな匂いはなかったので、そうかもしれません」

「ふむ。…………もし本当にそうだったとしたら、どうする?」

「私は、今の私は、ご主人様の奴隷です。ご主人様の望むままに」

「……聞き直そう。君は、どうしたい? 望む通りになれるとしたら、どうなりたい?」

「私は…………ご主人様の奴隷でいたいです」

「わかった、不安にさせて悪かったね」

「いえ、ありがとうございます」

「改めて、死ぬまで俺に付き合ってもらうよ?」

「どこまでも、お伴させていただきますっ」

「……ありがとう」

「はいっ……!」


 一部屋ほど、具体的には浴室を掃除してから汗を流し、汗を流してのんびりしていたら日が傾き始めたので、王城へ戻ることにした。

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