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仕様違いの魔法使い  作者: 赤上紫下
第 1 章
3/238

02:ステータス

「では、どちらから測定を行いましょうか」

「……俺からで良いですかね?」

「僕は構いませんけど、なんでです?」

「まぁ、俺が得た力は本当に大したことがなさそうだからな。本堂君の後になると、何かものすごく落胆させそうで……」

「あ、はは……確かにそんな気はしますけど、そうなると僕のハードルが随分上がりそうですね」

 ……少しだけ、上げてしまいたい気もするな。思った所で変わるものでもないが。

「ってことで、俺からお願いします」

「わかりました。ではシライ様から、この台の前に立って、楽な姿勢でお待ちください。起動と測定はこちらで行いますので……始めてください」

「はっ」

 演台のような台の上に置かれた魔道具の前に立つとアモリアが指示を出し、魔道具が起動した。

 起動と同時に来たのは、全身を羽で軽く撫でられるような違和感。痛みは皆無で、くすぐったさは耐えられなくもない程度に弱いのが救いか。いや、やはり内臓まで撫でられてるようなこの感覚は長く味わいたいものではない。

 十数秒程度続いたその感覚が収まってくると正面の石板に結果が表示された。結果は──


────────────────

 体力: 23 / 95 (-53)

 魔力: 5 / 70


 筋力: 82  耐久: 60

 敏捷: 70  精度:111

 精神:132  知力:109


 状態:疲労(中)


 スキル:【基本スキル】


 加護:無し

────────────────


 ──と、こちらの文字で書かれていた。【基本スキル】のおかげで読めているらしい。

 とはいえ、数字自体は高いのか低いのかよくわからない。体力の項目、後にある数字は最大値だとは思うが、その後の括弧と数字はなんだろうか。

 周囲から多少驚いているような反応も感じられるが、正直良い数字なのか悪い数字なのかがわからないので、どちらに驚いているのかもよくわからない。

 蘇生したばかりらしいから仕方ないにしても、この疲れが目に見える形で表されたせいで余計に疲れた気もするが、まぁ、置いておくとしよう。

 説明を求めるように視線をアモリアに向け、声を掛ける。

「表示はされましたけど、これはどういう意味があるんです?」

「後でまとめて説明いたしますので、先にホンドー様の分も測ってしまいましょう。……記録はできていますね? では、ホンドー様、こちらへ」

 言われてみれば当然かと、台から離れて駆に交代する。

 俺が台から離れると表示も消えたが、担当者らしき人が何かの紙に記録していたようなので大丈夫だろう。


────────────────

 体力:118 / 120

 魔力: 67 / 318


 筋力: 65  耐久: 80

 敏捷: 91  精度: 95

 精神:113  知力:101


 状態:正常


 スキル:【基本スキル】【火魔法】【水魔法】【風魔法】【土魔法】【光魔法】【蘇生魔法】


 加護:聖

────────────────


 数字の前にある文字からすると、俺よりは活発に動き回れそうな数値で、魔力も随分と高い。あとマイナスがついていない。

 加護が『無し』ではなく『聖』だなとか、【基本スキル】以外にも──魔法系ばかりとはいえスキルを持っているのが少し羨ましいような気がする。周囲からの声も俺の時より大きい。

 そこで思い出したが、俺がエルヴァンとして得た力はこの魔道具では表示されなかったようだ。

 他にもいろいろ考えていると記録の担当者が作業を終えたようで、アモリアに見せている。

「では、すぐ近くに腰を落ち着けられる部屋があるので、そちらに向かいましょう」



 アモリアの先導に従い移動したのは、測定用の魔道具があった部屋より一回り小さい応接間、あるいは談話室のような部屋。

 向かい合うソファーの真ん中にあまり背の高くない机があるという、よくありそうな部屋だ。

 部屋に着くなり「お二方とも、そちらにおかけください」と言われたので返事をして素直に座る。

 アモリアも席に着いたところで先程の測定結果を記した紙が机の上に並べられ、説明が始まった。


「まず、この数値についてですが、健康な成人の平均値を基準に定められたものになります。近隣を含めた三か国が合同で定めた値で、広く普及している基準といえます」

「場所によっては別の基準を用いている場合もあるんですかね……その、基準となった平均値が一〇〇、という理解でよろしいでしょうか」

「ええ、その通りです。ホンドー様から多少伺いましたが、お二方の身体的な能力がこちらの平均値より低い理由についても察しはついています」

「日本は便利な機械が多いからね……」

「俺はちょっと健康のために運動もしてましたが……まぁこんなもんですよね。全身一気に測れるあたりはこっちの方が便利ですが」

「その点については、魔法が存在しているお陰ですね。不便を押し付けるだけではないとわかって、少し安心している所です」

 そう言いながらアモリアが笑顔を見せたので、同意するように笑い返した。


「体力は、どの程度死に近付いているか……というところでしょうか。現在値と最大値が計測され、現在値がゼロなら死に至っていることを表します。最大値は怪我や病気によって減ることもあり、その場合は括弧の中に、最大値が表示と比べてどれだけ減っているかが表示されます」

「表示と比べてということは、俺の場合は最大値が正常な状態で九五、現在の最大値は……四二になってる、んですかね?」

「その通りです。お休みになれば最大値も回復していくと思いますよ」

「僕の方には括弧がない……ですけど」

「最大値に変化がない場合は表示されないようになっています」

 なるほど、と思う。マイナスがない場合にマイナスゼロではなくちゃんと非表示にしたり、マイナスがある時にも最大値をきちんと計測したりと、技術者の努力が見える所である。

 いや、こういう場でしか測れないんだから、現在値を表示させる意味はわからないが。


「魔力は、おそらく魔法のない世界であれば慣れていないと思いますが、魔法を使うための力です」

「僕は体力と魔力両方とも平均値より高いみたいだけど、なんでだろ? 日本では魔法なんてなかったはずなんだけど」

「体力は元から持ち合わせていたものだと思います。魔力は、召喚の影響でしょうね。召喚を行った部屋は魔力で満たしてありましたから、上手く定着したのだと思います」

 ちらりとこちらを申し訳なさそうな目で見るアモリア。……まぁ、そういうことだよな。

「召喚の主体になった本堂君にその魔力が宿り、【蘇生魔法】でも使ったのかな? で、余りが俺に入ってきた、と。なんか凄い出涸らし感ですね……」

(おおむ)ねその通りです」

「あ、あははは……」

「まぁ、それがなければ朽ちるだけだったと思いますから、生きてるだけマシってもんですけどね」

 駆が乾いた笑いを漏らしていたので、笑いながら少しばかりフォローしておく。


 俺と駆の二人がアモリアから聞いた説明をまとめると──


 体力:生命力。ゼロになったら死ぬ。

 魔力:自身の魔力。ゼロになっても死にはしない。

 筋力:全身の筋力の評価。出せる力の量。

 耐久:力を出し続けられる時間の評価。要するに、俺のスタミナは平均の半分ぐらい。鈍りすぎ。

 敏捷:速く移動する力。雲梯(うんてい)……は流石にないにしても、木登りや山道の走破ぐらいは含むかも。

 精度:どのぐらい思い通りに動けるか。俺の精度の高さは……タイピングの影響かな?

 精神:魔力操作の力強さと持久力。俺の精神の高さは……エルヴァンだった頃に鍛えた成果か。

 知力:魔力を早く的確に動かす力。ピアノなんかの経験が凄いと高い数字を出せそう。


 ──といった感じ。これだけの情報をあの短時間で計測できるのは純粋に凄いと思う。

 日本で同じことを短時間でしようとする場合、ナノマシンでも実現させなければ厳しいのではないだろうか。あるいは、三次元的な測定器とレントゲンとスーパーコンピューターでも組み合わせれば、なんとか?

 そういえば、『考えるのは苦手だけど記憶力なら負けない』っていう文系の人をこの基準で評価すると知力は低いんだろうか。

 精神と知力の扱いについては実際に魔法を教わらないとわからないが、丸暗記必須だったら俺は死にそうだ。……蘇生したばっかだけど。


「スキルの項目には、魔力を介して行える特殊な技能が表示されます。魔力操作だけでもある程度再現は可能ですが、スキルという形になっていた方が扱い易いのは間違いありません」

「それなら、白井さんも魔法を使えるようになれるんですね」

「はい、【基本スキル】さえあれば魔法を発動することは可能です」

「そこは安心しましたけど……というか、魔力を介してってのはどういう意味です?」


 といって話を続けていくと、もう少し詳しく聞くことができた。

 魔力によって身体能力を強化したり、剣や弓の扱いにおいても魔力を使うような技がスキルとして形を成すことがあるらしい。

 スキルを獲得すると、そのスキルが該当する行動に対する補助が得られるようになるとのこと。また、使い込み、理解を深めていくことで効率化も成されるそうだ。

 【基本スキル】しかない俺でも魔法についてもちゃんと学んでいればスキルとして形を成すという保証が得られたので安心した。


「続いて加護の説明を……する前に、精霊について説明する必要がありますね」

「「精霊?」」

「言葉は通じているようですが、御存じありませんか?」

「いや、なんというか……心当たりが多すぎて絞り切れないというか」

「俺もそんな認識です」

 精霊……ファンタジー界隈ではよく聞く単語だが、種類が多すぎてどの意味の精霊なのかがわからない。

 この世界の情報がもう少し入っていれば絞れそうだが、残念ながらまだまだ情報不足だ。目覚めてから一時間経ったかどうかってぐらいだしな。


「魔法がない世界だとそのようなことも起こり得るのですね……。この世界において精霊とは、魔力が何らかのきっかけで意思を持った存在をそう言い表します」

「魔力そのものの体を持つ知性体ってことですか?」

「いえ、物に宿った魔力が意思を持つこともよくありますので、それを含めた表現ですね」

「その精霊が僕に宿っている、と」

「そうなります。因みに、精霊は多くの場合において群体であり、何らかの属性を持ちます。数が定まっているとも限らないため、測定用魔道具では宿っている精霊の属性だけで表示されるようになっています」

 属性というと、これもゲームなんかでよく聞くか。何に属しているかを簡単に表す、分類用の単語だな。


「その、精霊が宿っていると、何か良いことがあるんですか?」

「該当する属性の魔法を使う際に、発動の補助をしてくれます。聖という属性は、光を中心に四大元素を含んだ複合的な属性であるため、多様な属性の魔法がホンドー様に発現したものと思われます」

「加護があればスキルを得易くなるのか……【聖魔法】は頑張れば覚えられるかな?」

「はい。一時はどうなるかとも思いましたが、前提がここまで揃っていれば遠くない内に【聖魔法】も発現するでしょう」

「加護ですか……少し羨ましいですね」

「いつの間にか覚えていた、という話もよくありますから、頑張ってください」

「そうします」

 そう言って左手にエルヴァンとして得た力を集中させてみる。さっきよりは多少まともに発動した。


 さっきから回りくどい言い方ではあるが、エルヴァンが居た世界(あっち)で対応する単語は俺の脳内では魔法という意味で理解していたせいで、表現が面倒だ。

 エルヴァンが居た世界(あっち)ではそれでも大丈夫だったが、こっちでこれを指そうとすると多様な魔法があるせいでなんとも……ちょっと聞いてみるか?

「一通り説明しましたが、何か質問は御座いますか?」

「僕は特にない……いや、この後の予定が気になるぐらいかな」

「本日については、城内の案内を少しするぐらいですね。その頃には部屋の用意も終わっていると思われるので、そのままお休みになっていただいて構いません」

「わかった。訓練は明日から?」

「そうなると思います。シライ様が体を動かす訓練に参加するのはもう少し後になるかもしれませんが」

 アモリアの言葉を聞いた駆が、俺の分の紙を見て納得したように頷いた。


「シライ様は何かありませんか?」

「……じゃあ、一つ。魔力を介さないスキル、というのは存在しますか?」

「先程のような魔道具で識別できるスキルは必ず魔力を介したものです。身体エネルギー、あるいは気などと呼ばれる力で発動するものもありますが、これも少なからず魔力を介しますし、あの魔道具が認識できるスキルとしての形を成します。何故そんなことを?」

「あー……まぁ、あれですよ。ここに来る前からできてたことがスキルになっていないみたいなので気になっただけです」

「ええと、どのようなことでしょうか」

 まぁ……見せといて良いかな。

 自分の紙を左手で摘んで持ち上げ、手を離す。

 紙は重力に従って──空中に垂れ下がった。摘まれた箇所だけをそのままに。

「…………え?」

「え、白井さんって奇術師(マジシャン)だったんですか?」

「いや、普通のサラリーマンだったけど?」

 発言しながらまた左手を動かすと、それに従ってちょこちょこと紙が動く。

 二人の視線が紙に捉われているのを少し楽しんでから、紙を机に降ろして力で摘むのを止めた。

 そして肩を竦めながら一言。

「大したものじゃないですけど、こんな感じです」

奇術師(マジシャン)じゃないなら、本物の超能力者(エスパー)……?」

超能力者(エスパー)といえば超能力者かな。今やったことの延長しかできないけど、事前に道具を用意する必要はないし」

「へええー……」

 駆は純粋に驚いているが、アモリアは固まったままだな。瞬きぐらいはしているが、考えがまとまらないようだ。


 仕方ないのでこちらから声をかける。

「アモリアさん? 大丈夫ですか?」

「…………え、ええ。よければ、もう一度見せていただいてもよろしいですか?」

「そのぐらいなら」

 紙を持ち上げた後、手を離したまま空中に保持しておく。

 今度は主に頭の動きに追従するようにして、膝に降ろした左右の手で少し動かす。気分は釣り師か、ラジコンの操縦者か。

「本当に魔力を使わないんですね……」

「まぁ上から釣ってるだけなんですけどね」

「え?」

 驚いたアモリアが紙の上に手を伸ばし、俺が伸ばした力に触れる。

 俺の頭の動きと連動しているのがわかるように少し触らせた後で「じゃ、引っ込めますね」と言って力を引っ込める。少し残念そうに見えたが、気にしない。


「釣るのに使ったのは俺の力ですけど、糸なんかで物理的にやるのと同程度のことしかできません」

「へぇ……動いてたのはどうやったんです?」

「今やったのは、膝に降ろした両手で動かしてただけだね」

「気付きませんでした……」

「僕も紙の方に目が行ってました」

「アモリアさんは随分驚いておられたようですから。……先程のような力はスキルにはならないんですかね?」

「ええ、魔力を一切介してない様子でしたから、おそらくスキルとしては形を成さないと思います。不可視の糸を作り出して操るような力ですか……」

「まぁ、そんなもんです。もう少し言うと、作るのと壊すのはこの力で可能ですが、操作はできません。なので、ちょっと難しい所はありますね」

「僕はそれでも凄いと思いますけど、なんでそんな質問を?」

「なんで、か。…………んー…………」


 駆から飛んできた質問への答えを考える。

 ちょっと秘密にして驚かせたいというような感情もなくはなかったが、……何故明かした上で質問をしたのだろうか。

 上手く使えば強力かもしれないが、あまり強くないと言いたい気持ちもある。理由は…………ああ、多分これかな。

「多分、何もできない人間だと思われたくなかったんだと思う。自己アピールの一種かな」

「隠しておいてここぞという時に披露したら恰好良い、とかは思いませんでした?」

「それは結構思ってたけどね、無能として見られ続けるよりはマシかなーって」

「なるほど」

「ここが日本だったら多分隠してたけどな」

「え、テレビに出れるんじゃないですか?」

「あっちはもっといろんなことができる奇術師(マジシャン)がいっぱい居るし、特にコネがあるわけでもないし」

「特別な道具を使わずにできる人は稀だと思いますけど」

「人を楽しませるにはちょっと芸が足りないし、道具が要らないだけでタネも仕掛けもあるからなぁ」

「あはは……」



 しばらく他愛もない会話をした後、アモリアの案内で城内の施設をいくつか周り、宛がわれた部屋に来た。

 ビジネスホテルよりは少しだけ広い、そんな印象を受ける部屋が一人一室。

 内線というわけでもないが、使用人を呼ぶためのベル型の魔道具も備え付けられている。

 ゲームでよくある宝箱のような、荷物を入れるためのチェストも設置されていた。鍵も掛けられるので、触られたくない物は入れておけば良いらしい。

 あと、使用量はある程度抑えて欲しいとは言われたが、飲める水質の水道は通っている。

 ユニットバスのような設備も置かれていて、湯は出ないが二日に一回程度なら使用人が沸かしてくれるそうだ。トイレ付なので3点ユニットというべきだろうか。バスタブは少しばかり大き目の寸法なので、俺でもゆったり入れそうである。

 ただし風呂については、衰弱しているうちは湯と布で拭うだけにしておくように、とのこと。

 部屋を確認した後は、近くにある談話室のような部屋で駆と共に、パンと肉野菜入りスープのような料理、おまけでリンゴのようなデザートを食べた。まぁ、使用人にマナーを多少確認しながらだが。


 その後は別れて部屋に戻り、軽くストレッチをしてから体を拭い、歯を磨く。

 服は用意されていた寝巻に着替え、着ていた服は水と石鹸で洗って干す。洗剤は無いが、洗わないよりはマシだろう。

 ベッドに入り、最低限、身を守るためにエルヴァンとして得た力を使ったあたりで眠気がかなり強くなってきたので、そのまま意識を手放した。

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