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仕様違いの魔法使い  作者: 赤上紫下
第 2 章

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10:お披露目?

 うっすら明るくなってきた室内と、手元で何かがもぞもぞと動く感触で目が覚めた。

 視線を下げると──見慣れてきた緑の毛と、二つの三角形が目に入る。

 ふっと息をかけるとぴくぴく動いて少し面白かったが、あまりやると可哀想なので、いじるのはそこまでだ。

 時計を見ると、二度寝をしたら朝食に寝坊しそうな時間。

 もう少しゆっくりしておきたいが、そろそろ起きておくべきだろう。


 アニマも目が覚めかけていたようで、俺がベッドから降りようとしたところで起きてきた。

 用を足し、身だしなみを整えてから、体調を診て、いつ呼ばれても大丈夫なように着替えた。

 着替えた後は、食後の予定を話し合う。予定といっても普段着にするならどんな服が良いかとか、欲しい物は何があるか、といった程度だが。

「どんな料理が好きかーって話も聞きたいところだけど、朝食の後がいいかな。あ、どうしても食べられそうにないって物があったら早めに言うようにね」

「あはは……多分、大丈夫です」

「なら良いんだけど」

 ……無理しそうでちょっと怖いんだよなぁ。


「料理はいいとして…………これも大概今更な質問なんだけど、アニマは趣味とか、あるか?」

「趣味……? ええと……」

「裁縫とか、小物作りとか、料理、あるいは、歌? 読書とか」

「えとえと……内職でちょっと手伝いをした以外では、本を読んだりはしてましたけど、これっていうのは思いつかないです」

「うん、そうなのか? じゃあ、最近楽しかったことってなると何がある?」

「楽しかったこと……ご主人様と会ってからは楽しいことばかりですけど……あっ」

「お?」

「私って昔から鈍臭くて、走り回ってる近所の子達が羨ましくてたまに見てたんですけど、ご主人様のお陰で走れるようになって、あんなにいっぱい走れて、凄く嬉しかったです」

「なるほどなぁ。森に行った時と帰りはどっちが良かった?」

「どちらかというと、行く時の方ですけど、初めていっぱい走れたからってのもありますから……うーん」

「今から走るなら、どっちが良い?」

「それなら、帰る時の方です」

「了解、参考にするよ」

 行きと帰りの違いは、初めてだったかそうでないかというのもあるが、走る為の補助具を付けていたかどうかという違いもある。

 疲労度としては帰りの方が小さかったはずだが、速度はかなり違ったからな。そして、『思い出補正』のようなものがなければ、速い方が良い、と。

 俺としてもその方がゆっくり走らなくて良いので楽……む、そういう意味も含まれているのか?

 アニマの回答を参考にどうしようか考えていると、アニマが何かに気付いたのか、耳を動かした。俺も耳に意識を集中してみると、使用人らしい足音が聞こえてくる。

 足音は俺の部屋の扉の前で止まり、そのまま部屋の扉をノックした。

「シライ様、起きておられますか?」

「はい、起きてますよ。どうぞ」

「失礼します。おはようございます」

 扉をノックしたのはいつもの使用人で、入室と共に挨拶をされた。

「おはよう。そろそろ移動する時間かな?」

「朝食まであと一五分ほどとなっております。早めに向かいますか?」

 一五分ぐらいなら、先に行って待つにしても早すぎず丁度良いぐらいだろう。

「奴隷の分まで料理を用意してくれるって話だし、待たせるよりは良さそうだから、そうしようか。案内よろしく頼むよ」

「かしこまりました。それでは、ご案内いたします」

「はい。アニマ、行くよ」

「は、はいっ」



 アニマと一緒に連れられてきたのは、若干ご無沙汰気味の小食堂。

 小食堂内には誰も居なかったが、移動にも二、三分はかかり、時間までもう間もないとは思うので、なんとなく立ったまま待ってみる。

 五分程度で小食堂前にアモリアと駆も集まってきたので、軽く挨拶を交わしてから席に着いた。

「改めて、ええと、二日半ぶり?」

「確かになんだか……微妙な期間ですね。ちょっとだけ久しぶりです、白井さん」

「うん、微妙な期間だよな。まぁ、それはいい。今日来たのはこの子の関係、というのかな。招待を受けたから来たんだが」

「ええ、城から出た次の日にはご購入なさっていたようですので……経緯をお聞かせ願えますか? シライ様」

「良いですけど、えーと、ちょっと血生臭い話が入りますけど、そのへんの表現どうしましょう? ご飯、入ります?」

「すみません白井さん、グロい話はちょっと、マイルドにお願いしたいです」

 駆のグロ耐性はやや低いようなので、直接的な描写は避けることにしよう。……そういえば、あの時すぐに飯を食えたこの子は凄いな。

「じゃあまずは、俺がこの子と初めて会った時なんだが、ほら、バクスターさんと一緒に狩りに行った帰り、店の裏に俺が一人で行っただろ? あの時──」

 治療した時のことを話していく。

「──へえ、それで懐かれたんですか」

「シライ様が城を出る前に出会っておられたのですか。では、ご購入されるまで間は?」

「普通に別れてそのままだと思ってたんですけどね、城から出た日に狩人(ハンター)組合(ギルド)に登録した話は伝わってますよね? そのまま狩りにいって──」

 夕飯を食べてから、購入するまでの経緯と、アニマと名付けたことを話した。

「確かに、獣人族なら鼻でわかりますか。しかし未教育とはいえ、金貨一枚で売られる奴隷というのは、その、戦力になり得るのですか?」

「買う時は考えてなかったんですよね。運動が元々苦手で、魔物に畑を潰された時に売られた子だったらしいんで、安いのも妥当といえば妥当なんですけど」

「ああ、確かに先日そういった事が起きましたね、その時の被害者ですか……」

「そんな子を奴隷にして連れ歩いてたんですか? 白井さん……」

「ご、ご主人様を悪く言わないでください、無理を言って買っていただいたのは私ですから……!」

 アニマが庇おうとしてくれているようだが、普通に考えれば無謀なのは俺だ。

「ほら、大丈夫だから落ち着いて落ち着いて。それで、オーガぐらいなら守りながら戦える自信はあったから連れて行ったんだけど、この子はかなり動けてね、道中びっくりしたんだよ」

「……ええと、このアニマちゃんって、どの位速かったんです?」

「ちゃんって……一八歳らしいから一六の本堂君より年上だぞ? この子。速さは、初めて訓練に参加した時の俺達の走り込みより速い速度で、南の森まで休まず行けた。この子を最初に治療した時に背骨を矯正してたのが効いたらしい」

「はい、ご主人様のお陰ですっ」

「あ、あはは……元はそんなにひどかったんですかね?」

「かなりな。あー、さっき省いた話になるが、背骨の形はなんとなくわかるだろ? それが前後じゃなくて、左に大きくこう、曲がってたんだよ。しかもかなり前からそんな状態だったらしいんだ」

「そんなこともあるんですね…………でも、どうやって治したんですか? 僕の【蘇生魔法】だと、なんか、古傷は消費量が凄いことになりそうなんですけど……」

「そこはほら、俺のあの力だな。魔道具じゃ識別できないみたいだから一応、【固定】って名付けておいたんだが、神経を対象にすると麻酔みたいに感触を消せるんだよ。治せるのはこの子を見てわかるだろうけど、ちょっと試してみるか?」

「へっ? えと、ちくりとかします? 後遺症とか……」

「ないよ、掛けてる途中で動いたりしたら、わからないけど」

「うっ……」

「掛かりきる前に動かなければ問題はないのですね? でしたら、私が受けます」

「い、いえ、僕がやります」

「じゃあ両方で。左右どっちでも良いんで、手を出してみてください。あ、痛くないだけなんで、ぶつけたら怪我はしますからね?」

 二人の手首を掴んで、手首から先を麻痺させた。


 二人ともしばらく、感触のない自分の手を触って驚いていた。振ってみたり、叩いてみたりしても間接的な感触しか得られない状態にいきなりなるというのは、流石に経験したことがないのだろう。

 駆は特に、自分の魔法でも麻痺が治らないことで少し焦っているように見受けられる。

「そろそろ感触も大体わかったと思うんで、治しますよ?」

「こ、これ、本当に治るんですよね」

「そりゃ勿論。アモリアさんも」

「は、はい…………あ、動きます。感触もわかりますね」

「治すのも一瞬なんですね……あれ? これでどうやって背骨を治すんですか?」

 ……そこ聞いちゃうのかー。まぁ、普通は気になるよな。

「あっははは……あれだ、感触がなくなってるうちにこう、ゴリッとやって、骨や筋肉の位置を整えてから、回復魔法で細胞を繋げたんだよ」

力業(ちからわざ)……!? だ、大丈夫だったんですか?」

「大丈夫じゃなかったらアニマはここに居ないって。俺の回復魔法はオーガと戦った後で本堂君に【蘇生魔法】を掛けてもらったことで覚えたんだけど、その前から、自分の力だけでもちょくちょくやってたことだから大丈夫大丈夫」

「それは確かに…………? アモリアさん、回復魔法って、そんな簡単に覚えられるものなの?」

「い、いえ、そんな簡単なものではないはずなのですが……」

 駆に質問されたアモリアは、また随分驚いているようで歯切れが悪い。しかし覚えられたものは仕方ないだろう。

 ……そういえば俺、この世界に来た直後に【蘇生魔法】を受けてるんだよな。

 魔法を覚えた時点でそういうことを覚えている魔力はなかったはずだから、あの時の魔力は蒸発しきっていたんだろうか。

「そういうことだから、アニマ。この本堂君は、俺の死体がこの世界に来た直後に蘇生してくれて、更に回復魔法を教えてくれた人なんだ。お礼を言っておきな?」

「そ、そうですね。あの、ご主人様を助けてくださって、あと回復魔法を教えてくださって、ありがとうございました。お陰様で、ご主人様に治してもらえました」

「えっと、どういたしまし……て? …………あの時僕がアニマちゃ……さんに会ってたらどうなってたんでしょうね?」

「ん? ……【蘇生魔法】だけで治しきれなかったら、アニマは上手く動けないままだっただろうし、背骨の歪みは昔からのもので、あの時は更に、全身色んな所で骨折起こして、自分では動くこともできない状態だったからなぁ……。詳しく聞くか?」

「い、いえ、遠慮しておきます」

 駆はやはりグロ耐性不足のようだ。いや、怪我している本人が目の前にいれば案外、火事場のなんたらでできるかもしれない。

 しかし言わせた俺が言うのもなんだが、アニマから駆への礼は妙な感じだな。駆もそのあたりが妙な感覚なのか、しきりに首をひねっている。


「それでその、アニマさんって、どのぐらい戦えたんですか?」

「えと、私はご主人様の奴隷ですので、敬称は不要ですよ? 戦いについては、ご主人様が一対一で戦える状況を整えてくれたので、オーガは倒せましたっ」

「そ、そう…………? オーガ!?」

「あー、それはまぁ、俺が色々整えたからだよ。普通の鉄剣だとまだ厳しいんじゃないかな、倒せはしそうだけど。ほら、さっきも言ったけど、アニマの身体能力って結構高いから」

「それを言うなら、ご主人様の方が凄いですよ? 私はご主人様が教えてくれた通りに戦っただけですし……」

「二人で、何体ぐらい狩ったんです?」

「ゴブリンは途中で数えるのをやめちゃったけど、オーガは二人で一〇体だね」

「私が戦ったのは一回、倒した一体だけで、後は全部ご主人様が一人で倒しちゃいましたけどね」

「…………僕もそんな風に戦えるようになるんでしょうか」

「魔法への適性はかなりあるんだし、大丈夫じゃないか? 確かほら、俺より大分魔力は多かったろ?」

「……そうですよね、僕だって」

「そうそう、無理しない範囲で、一歩一歩をきっちり歩くのが大事。本堂君の場合、魔法関係なら地力不足でつまづくことも少ないだろうから、ちゃんと考えながら一歩ずつ、着実に、な」

「わかりました」


「それで、なんか随分脱線しましたけど、アモリアさん、経緯の話はこんな感じで良いですかね?」

「へ、は、はい、結構です。コホン。……アニマ、貴女は、貴女の主であるシライ様に対して、どのように仕えるつもりですか?」

「……私は、私が生きている限り、常に、ご主人様、ユーリ様の役に立つ物でありたいです」

「そ、そう……ですか」

「……凄い忠誠心? ですね、白井さん」

「俺も割とびっくりだよ? 本堂君」

 そこまで忠誠心を向けてもらえるような真似は多分してないからな。

 ……いや、人によって価値観が違うのはわかるんだが。

「……シライ様、この子の本気はわかりましたが、貴方はこの子をどのように扱うおつもりでしょうか」

「ん? どのように……と言われても、そうだなぁ。とりあえず、潰したり、捨てるようなつもりはないですよ。誰かに譲るのもなし。長く大事に扱います」

「その、白井さん、人を物みたいに扱うのはどうかと思いますよ?」

「選択肢は提示したよちゃんと。生きる為の技術を身に着けて平民として生きるか、奴隷として俺の下で生きるか。どっちを選んでもペナルティはないとか、必要な経費は俺が出すとか、平民になった後で俺の下で生きることも認めるって話はしたんだよ? 奴隷になったら俺に怖い目に遭わされるかもって、平民を選ぶように色々脅しもしたんだけどねぇ」

「それでも、私はご主人様の奴隷でいたかったんです」

「……ってことらしいよ。役には立つ子だし、よほど状況が捻くれたりでもしない限りは、迷惑にもならないからね」

 普通に考えればまず大丈夫だろう。

「捻くれた状況ってのは、例えばどんな感じです?」

「例えば、そうだな、どこぞの貴族なりなんなりが武力を盾に迫ってきたり? あるいは、この子を渡さなければテロを起こすとか言う相手が居ても面倒だよね。いや、どっちもテロか」

「あ、あはは……そうですね。他には思いついたりします?」

「んー……武力以外だと、法かなぁ。これについても結局は、法に逆らえば国が敵対するっていう、武力を背景にした脅迫なんだけどね。俺達二人の扱いは王族が招いた賓客らしいから、合法的に持ち物を取り上げられそうなのは……王族ぐらいかな?」

 と言いつつ、ちらりとアモリアに視線を向ける。

「!? い、いえ、確かに合法とは言えなくもないですが、無用な反感を買ってまですることではありませんし、元よりそういった意思はありません」

「ってことだから、敵対するとすれば、小規模な、暴力的な相手ぐらいかな」

「そうなったら、どうするんです?」

「そりゃあ、法の下に叩き潰すんじゃないか? 群れたオーガぐらいなら俺一人でもやれるし、その程度の手間を惜しんでアニマを手放す気はないよ」

「ふぁ……えへへ……」

 アニマは俺の宣言に喜んでいるが、アモリアはやや複雑な表情。駆も複雑そうだが、これはアニマの反応が理解できなさそうな感じだな。


 アモリアの中で意見がまとまったのか、質問を投げかけてきた。

「では、もし、貴方の奴隷が己の意思で騒動を起こしたら、シライ様はどうなさいますか?」

「そうですね…………罰金で済む程度の盗みをやらかした、とかなら、一緒に謝って支払って、後で叱る。王族や貴族相手にとんでもない無礼を働いてたら、ちょっと庇いきれない。他には暗殺だとか、平民相手でも通り魔や殺人を犯しまくってたら、それもちょっと無理かな」

「ちょ、白井さん!? そこは絶対に守ってやるとか言わないんですか?」

「いや、事実だろう? アモリアさんが俺達異世界人に配慮するにも限度があるように、俺だって庇える限度はある。数学や化学で言うならまだしも、それ以外で絶対なんて、本来は軽く言える言葉じゃないよ?」

「……それは、そうかもしれませんけど、こう、安心させてあげようとか……」

「俺は嘘が嫌いなんだ。冤罪を仕掛けられたとか、俺の命令に従った結果とかなら守ってやるが……俺の気を引くために悪いことをした、なんて理由なら、見捨てる可能性もないとは言わない。……でも、大丈夫だろう? アニマ」

「はい、ご主人様の迷惑に繋がらないように気を付けます」

「ん、自分から悪いことをしにいかなければそれでいいよ。困った時は、ちゃんと頼るようにね?」

「はいっ」

 ……まぁ、うん。最近似たような話をしたばかりな気はするが、ちょっとずつ擦り合わせていこう。


「それで、ですね。経緯を聞いて話をした結果として。流石に自由に歩き回る許可までは出せませんが、シライ様同伴で、ある程度の施設を利用する許可までは出そうと思います。具体的には、食事と、図書室、訓練場の利用ですね」

「ありがとうございます。と、そうだ、二つ質問したいことがあるんですけど、よろしいですか?」

「はい? どうぞ」

「では一つ目を。俺と本堂君の能力を測定した魔道具、もう一度利用することはできますか? あ、できればこの子も一緒に」

 俺自身のスキルは念入りに集中して体内を調べればわかると思うが、【基本スキル】しかなかった頃ならともかく、今は動きたがる魔力が多くて認識が難しいのだ。道具があるならそれを使った方が手っ取り早い。他人に掛けて大丈夫かどうかもわからないので、アニマの分もやはり道具を使った方が良い。

 ……できれば、改めて感覚を覚えて使えるようになりたいところだ。

「そう、ですね。短期間で数値が変化することはそうそうあるものではありませんが、私も興味はあるので、許可します。後程向かうとしましょう。もう一つの質問はなんですか?」

「城の外に拠点を構えようかと思いまして。空いている物件とか、調べる方法はありませんかね? 必要な費用がわかるならありがたいです」

「それは……不備でも御座いましたか?」

「不備……というほどでもないのですが、市場で買いたい物が色々有るのと、魔道具作りなど、試してみたいことが色々あるので……城の外に拠点があれば楽かな、と。あの部屋も生活だけなら悪くないのですが、あまり大量に物品を持ち込むのはよろしくないでしょう?」

「……そうですね、目録を用意しておきます。ただ、城への顔出しはお願いしますね?」

「はい、最低でも週に一度は参ろうと思います。質問はこれで終わりです。ありがとうございました」

「どういたしまして」

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