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仕様違いの魔法使い  作者: 赤上紫下
第 2 章

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09:換金と夕食と夜

 狩人(ハンター)組合(ギルド)の換金所まで来た頃には、空は日がもうすぐ沈みそうな色合いを見せていた。昼に帰ってくるつもりが、随分と遅れたものである。

 尤も、最優先の目標は利益だったので、初日にゆっくりしていた分、今日の帰りが遅くなるのも道理ではあるのだが。

 日没が近いだけあって、前回よりマシな程度とはいえ、換金所はそれなりに混雑していた。

「凄い人数ですね」

「もう少し後になると更に混むはずだから、さっさと並ぼう」

「はいっ」


 並んでみると、窓口一つに対して二人程度しか並んでいなかったので、すぐ俺達の番が来た。

「いらっしゃいませ、ええっと、ユーリ様でしたか。こちらの子は?」

「パーティメンバーだな。今後狩人(ハンター)としての活動は大体この子と一緒にやると思う」

「えと、アニマです、よろしくお願いします」

「はい、こちらこそ」

 アニマが組合証(ギルドカード)を出しながら自己紹介すると、担当者も挨拶を返してくれた。

「では、換金の対象となる物をこちらのトレーにお出しください」

「まず、アニマから見てもらうといい。どの位やれたかがわかればまぁ、励みにはなるだろ?」

「は、はい、ではっ」

 アニマは少し焦りながら、トレーの上に自分の背嚢(はいのう)から魔石を取り出して並べていく。

 アニマが狩った相手の残した物は魔石だけだったが、それでも価値は十分にありそうなところである。

「これは、オーガの素材ですか、お二人で狩られたんですか?」

「魔物の討伐自体は単独ですよ。俺が狩ったのはまた別にあるんですけど、この子が狩った分の換金だけ先にお願いできますか?」

「かしこまりました……金貨八枚と、大銀貨六枚、ですね。オーガの魔石があるというのは驚きですが……このままお渡しして大丈夫ですか?」

「ふぇぇぇ……ご、ご主人様?」

「うん? ああ、財布なんかは持たせてなかったか。俺が預かっておきます」

「それでは、……はい、こちらですね」

 アニマは随分驚いているようだが……まぁ、自分八人分以上の値段だしな。

「じゃあ、次は俺の分の換金、お願いします」

「かしこまりました、ではこちらのトレーにどうぞ」

「はい」

 まずはゴブリンの魔石がいくつかと、オーガの魔石が九つ、心臓が二つに目玉が八個。

 トレーに並べていく途中で、何故か担当者の顔が引きつっていた。……少し申し訳ないが面白かった。

「以上です」

「ひぇ……って、こ、これ、お一人で?」

「俺はそこまで鋭い感覚は持ってないんで、魔物を探すのはこの子に任せましたけどね。換金、お願いできますか?」

「は、はい、かしこまりましたっ」

 ……そんなに驚く量だったんだろうか?


 何やら担当者さんの手が時々震えているが、作業が終わるまでの時間はそれほどでもなかった。検算を何度か繰り返しているぐらいだ。

「い、以上で、金貨一〇三枚と、銀貨三五枚になります。一部を、えと、大金貨でお支払いしてもよろしいでしょうか?」

「まぁ、あんまりじゃらじゃら持ち歩くのもなんですしね。大金貨は何枚?」

「五枚ほどお願いしたいです、はい」

「わかりました、じゃあそれで」

「畏まりました…………では、こちらです。お納めください」

 ええと、雑な日本円換算で、五〇〇万ちょっとぐらいか? 日本基準で考えると一日森に泊まってあれこれ狩ってくるだけでこの金額というのは中々だ。


 言われた通りに貨幣が支払われていることを確認して、収める。

「換金ありがとうございました」

「それで、ですね」

「……なんです?」

 用は終わったと思ったのだが、まだ何かあっただろうか?

「あ、いえ、何処で狩られたか、お聞きしてもよろしいでしょうか」

「? 南の森の、ちょっと奥の方ですね。ええと、地図あります? 地図だと──と、この辺ですかね」

「そうですか、ご報告ありがとうございました」

「どういたしまして。ほらアニマ、用は終わったから出るよ?」

「……はっ!? はいっ」


 換金を終えてからは夕食、ということで、なんとなく思い出深い店にやってくる。

 今回も獣人奴隷が大丈夫か多少心配ではあったが、俺達の他にもそういう客が居たのでそのまま入った。

「このお店ってもしかして……?」

「なんとなく、鼻でわかるのかな? アニマと初めて会ったのはこの店の裏だよ」

「やっぱり。覚えがある匂いだと思いました」

「そうだな。……そういえば、食べ物の好みなんかは聞いてなかったが、何かあるか?」

「えと……どんな言い方をすればいいんでしょう?」

「んん、そこで悩むか……酒は大丈夫だよな? あと、初めて会った時に食べさせたあれは美味しかったか?」

「はい。お酒は大丈夫ですし、美味しかったです」

「ならいい」

 この質問をしたのが注文後であるあたり、俺の短慮加減が嘆かわしいところである。反省。


「あれ、ユーリじゃない」

 届いた料理、香辛料の効いた肉料理と野菜スープ、パンを食べていると、声を掛けられた。この声は──

「おや、イーリアさんだっけ。こんばんはー」

 俺がこの国で初めて参加した訓練で一緒になり、初めて森で狩りをする時に引率をしてくれた二人のうちの一人であるイーリアだった。

「こんばんはー。連れてるのは、獣人の……奴隷?」

「えと、ご主じ、ユーリ様の奴隷で、アニマです。はじめまして」

「うん、はじめまして。私はイーリアよ。それで……ユーリ? この子、随分懐いてるみたいだけど、どうしたの?」

「そりゃあ話せば長く……もないか。何日か前にバクスターさんや本堂君と一緒にこの店に来たよね?」

「あの狩りの帰りかー、トイレが長いと思ってたけど、その時に買いに行ったの?」

「それだったら帰りに連れてなきゃおかしいって。あの日トイレに行ったら店の裏でこの子が死にかけててさ、治したら懐かれて、別の日に奴隷として扱われてるこの子と会って、なんやかんやあって買ったんだ」

「ふーん……? お金は足りたの?」

 ……何か、疑われてるんだろうか? 経緯としては、大体は健全なはずなんだが。

「あの時の分け前でなんとかね。それでちょっと所持金が心許なくなったから、また南の森に行って稼いできて、晩御飯ってとこ。この子も頑張ったんだよ」

「ふぇうっ!? 私はあの、ご主人様が居なければ全然でしたよっ?」

「そりゃあ、装備は俺があれこれ整えたけどな。敵を探したのはこの子の手柄だし、オーガも一対一で倒せてたよ」

 正直な感想を口にする。俺特製の装備で固めていたとはいえ、オーガを倒したのは間違いない。

 戦い方はわかったはずだし、もう少し動けるようになれば、普通の装備でも狩れるようになるだろう。

「オーガと戦ったの? あんまり危ないことは…………って、戦ったのはこの子? 無茶させちゃだめじゃない」

「いやいや、いつでも助けに入れるように見守ってはいたよ。ゴブリン相手に経験は積ませてたし、この子が挑む前に見本は見せてたしね」

「それなら……おかしくない、のかな? この何日かでやることじゃないとは思うけど」

「あははは……まぁ、普通はそうだろうね」

 自分でも早い気はしたが、俺にはエルヴァンだった頃の経験があるからな。

「この子って実際どの位やれるの?」

「ゴブリンやオーガ相手の実戦は経験してるし、ここ一番の度胸はあるんだけど……対人戦の経験が全然ないらしいのが弱点かな」

「うーん……順番が明らかにおかしいんだけど、どうするの?」

「……弓は実戦でいいとして、あとは……俺が自分で訓練を付けるかな」

「一番角が立ちにくいのは、って考えると、やっぱりそうなるよね」

「魔法はあんまり自信がないけどね。まぁ、明後日魔法の上位の訓練を受ける予定になってるから……あ、その間アニマをどうしよう?」

「えと、ご主人様に付いてては駄目なんですか?」

 なんだか不安そうな目でこちらを見ているが、安請け合いをしてダメだった、なんて流れは嫌なので、イーリアに確認。

「……見学が許されてるかどうかがわからないんだよな。イーリアさんはわかる?」

「うーん……基本的には駄目だったと思うんだけど、訓練場が見える所は結構人通りもあるから、どうだろ?」

「んー、部屋で大人しくしててもらうのが一番かな?」

「ぁぅ……わ……わかりました……」

 俺の出した結論を聞いたアニマは、落ち込みつつも頷いた。…………。

「まぁ、なんだ。何もしないままぼーっと待ってなくても良いように色々用意はするつもりだよ? 俺も訓練が終わったらすぐ部屋に戻るからさ」

「は、はい、すみません」

「はぁ……、なんていうか、本当にしっかり懐いてるのね……」

「?」

 なんだか変な味の物でも口に入れたような、妙な表情を見せるイーリア。……うん。わからんでもない、か?

 そのあたりで区切りをつけて、城に帰ることにしたので、この店は持ち帰り用のパンとソーセージを販売しているので、一人なら三食食べられる程度買っておく。

 買い食いばかりでどうかとは思うが……奴隷も一緒に城の飯を食わせてもらうのはなんだし、城の部屋には調理スペースがないからな。



 店を出る時にイーリアと別れ、市場を少し見て回ってからアニマ用に小さな鞄を買い、アニマが狩った魔物の分のお金を放り込んでおいた。

 そして、いつもの通用門から城に入り、部屋に戻る。今回もアニマには、居場所を報せる腕輪型の魔道具が装着された。

 そのまま風呂にでも入ってさっぱりしようと思っていたが、蝋か何かで封をされた封筒が机の上に置かれて目立っていた。国を示す印が押されているので、アモリアかバルダーからの手紙だろうか。

 内容は──

「アニマ、明日の朝食は豪華になりそうだぞ?」

「はい……?」

「この国の王女様が、俺が連れている奴隷……要するに、アニマのことを聞きたいんだそうだ。同席させて一緒に食べても構わないらしい」

「えぅ、うぇぇっ……!?」

「……本堂君の入れ知恵か、前例があるのかは知らないがな。普段着で構わないってさ」

「は、はいっ」

「……と、その前に。ちょっと待ってて」

「? はい」

 机の上に置かれたベルを持って、鳴らす。ベルの音はあまり大きくないが──連絡用の魔道具であるため、これは使用者に動作したことを知らせるための音だろうか?


 ベルを鳴らしてから一分もせず、いつもの使用人が部屋に入ってきた。

「シライ様、お呼びでしょうか」

「ああ、この手紙の件だが、知っているか?」

「はい、存じております。明日の朝食はお摂りになる、ということでよろしいのでしょうか」

「話が早いな。その通りだ。用件もそれだけ……いや、明日の朝の案内もよろしくってぐらいかな」

「畏まりました。それでは、失礼いたします」

「うん、ご苦労様」

 歩いて部屋を出ていく使用人を見送る。

 ……よく働いてくれてるみたいだし、そのうち、何か、土産でも用意しておこうかな?

「まぁ、そういうことだから、風呂に入ろうか」

「はいっ」

 今回は石鹸しか使っていないが、前と同じように風呂に入り、体を洗っていく。浴槽は相変わらず【固定】製の節水仕様である。

「うん、汗や脂が少ないとやっぱり洗い易いな。虫も居ないし」

「うぅ……あれは仕方ないじゃないですか……」

「…………そうだな。アニマが最初から綺麗だったら、俺は会えなかっただろうしな」

「それは……うー……ん……良かった、んですかね? ご主人様の奴隷になれたのは良かったんですけど、もう少し違う出会い方をしたかったような……」

「む? んー……違う出会い方をしてたら、買わなかった気がするんだが。ま、大事なのはこれからだ、これから」

「……そうですね。これから、ご主人様の手を……わずらわせないようにすればいいんです。うん」

「色々と手を入れるのは好きだけどなぁ、俺」

「あぅっ!? ……ど、どうしましょう?」

「わざと泥を被ってきたりするようだと困るし、普段がだらしなさ過ぎてもあれだが、手が掛からないのも寂しいっていう、ジレンマだな。悩ましい」

「汚れ過ぎないように、適度に汚れれば……?」

「いや、意図的に汚れてくるのはなしで頼むよ。面倒事なんかもね。ただ、困った時は素直に頼るように。ね?」

「えと……?」

「わかり難かったか? ……スパッと一言で表せる優れた例なんかは思いつきそうにないんだよなぁ。まぁ、長い付き合いになるんだから、ちょっとずつ擦り合わせていけばいいか」

「はいっ」


 風呂を上がって、寝巻に着替えようとしたところで、問題に気がついた。

「明日は洗った服を着るとして、アニマの寝巻、どうしよう?」

「? 前と同じじゃダメなんですか?」

「んー……、それでいいか。明日になったら何か買いに行こう」

「わかりました」

 ということで前と同じ、俺が召喚された時に着ていたTシャツを着せる。

 反応を見る限り気に入っているようなので、売ってないようなら糸でも買って再現してみるか?

 あるいは──

「えと、なんでしょう?」

「いや、なんでもないよ」

 ……やっぱり、人毛はやめておくか。

 獣人の特徴は精霊の加護によって表れた物だが、初代以降は遺伝子的に変化して、生物として生えてきた毛、であるらしい。

 糸状にちゃんと紡いでから編めば、見た目も普通の服と大差なく仕上がるとは思うのだが──どことなく呪術的で、印象がよろしくない。


 とりあえず、明日も朝から予定が入っている。

 素材については買い物に行った後で考えることにして、ストレッチやマッサージをした後で、ベッドに入った。

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