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仕様違いの魔法使い  作者: 赤上紫下
第 2 章

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01:狩人組合

 自由に活動できる範囲が広がったところで、章区切り。

 狩人(ハンター)組合(ギルド)の建物に入ると、前とは違って数人の利用客が居た。客同士で集まって何かを話しているが、内容はよく聞き取れないので無視。

 掲示板に目を向けてみると、二日程度ではやはりあまり変わらないようだ。強いて言えば、大規模ゴブリン殲滅作戦の紙が『実行中』から『終了』に修正されているぐらいか。


 受付に向かうと、受付の担当職員から前と同じ言葉を掛けられた。

「ようこそ狩人(ハンター)組合(ギルド)へ。本日はなんの御用でしょうか」

「登録に来ました」

「承りました。紹介状などはお持ちでしょうか」

「いえ、無いです」

 ……しまったな、誰か捕まえて書いてもらっておけば良かったか。

「では、身分証、またはそれに類する物はお持ちではありませんか?」

「うーん……これも身分証みたいな物ですかね? さっき貰ってきたんです」

「!……はい、それで結構です。ユーリ・シライ様ですね。少々お待ちください」

 城への通行証を見せると、メモに何かを控えた職員が奥に引っ込んで、何かに向かって話している。電話みたいなものか?


 受付前に置かれた椅子で待つこと数分、受付職員が戻ってきた。

「お待たせして申し訳ありません、唯今確認が終わりました。……あの、できれば今後身分証としてはこちらの組合証(ギルドカード)をお使いください」

「……あまり人前で出す物ではありませんでしたかね?」

「ええ、身分証が無くても登録は可能でしたし、名前を間違えずに登録するため程度の確認ですので」

「ああ、そうなんですか……先程確認していたのは、偽装でないかとか?」

「はい、義務になりますので……。登録名はどうなさいます? 個人名のみで登録する方もそれなりにおられますよ」

「他の方と被っても問題ないんですよね?」

「同名の方が丁度訪れているような際は面倒をお掛けすると思いますが、名前以外の情報で管理しておりますので、登録には問題ありません。また、ユーリ様のお名前は重複はしておりません」

「じゃあ、個人名だけでお願いします」

「承りました。では登録料の大銀貨一枚を……はい。それでは組合証(ギルドカード)を作成して参りますので、少々お待ちください。作成でき次第お呼びいたしますので、声の届く範囲内でお待ちいただけるようお願いいたします」

「わかりました」


 受付から離れ、自由に読んで良いらしい冊子を手に取り、置いてあった椅子に座る。……微妙にしわがついたりと、年季の入った冊子だ。

 内容は組合(ギルド)の規則から始まり、魔物の素材を安定させる方法、獲物の情報が少々。そして馬車を利用する手順、料金と続いていく。

 前回と同じ馬車は、大銀貨二枚? ……ああいや護衛兼御者付きで大銀貨五枚だな。

 大銀貨五枚は地味に高い。二五○○○円ぐらいだと考えれば……送迎と、車の護衛を兼ねると考えれば安いか?

 自前で用意できるなら組合に払う金は要らないそうだが、馬の食費や車検のような制度もあるので地味に金が掛かる。

 リヤカーなんかは借りることも買うこともできるそうだが、今は不要だろう。俺は城の部屋以外に自分の住居があるわけでもないため、車両用の倉庫を借りる必要があるからだ。

 ……背嚢に入る大きさの、折り畳み式リヤカーでも作るか? 目立ちそうだが、【固定】のお陰で強度は足りるんだよな。


「ユーリ様ー」

 運搬をどうするかと考えているうちに組合証ができたらしく、名前を呼ばれた。

 冊子を戻して受付に行くと、四角い金属製のカードと、ケースのような物を一緒に渡される。

「こちらが組合証(ギルドカード)です。ランクの説明も必要でしょうか」

「はい、一応お願いします」

「では説明させていただきます。ランクとは、個人、団体、魔物の戦力を表す指標として狩人組合が制定したものです。E、D、C、B、A、Sの六段階に分かれており、Eが最も弱く、Sが最も強いランクとなります。ここまでで質問は御座いますか?」

「俺のランクは何になるんでしょうか」

「今は戦力評価がされていないため、個人ランクはEとして扱われます」

「ランクを上げるとどんな利点があるんです?」

「それはこれからお話しする内容ですね。一言で言えば、組合内における権利が増えます。借りられる馬車や、借りる期間についても自由度が増していきますし、お渡しできる魔物の情報も増えます」

 ……なるほど、まぁ弱い組合員が馬車を護衛付きで長期間占有なんかしたら困るだろうしな。

「誰のランクが何っていうような情報の扱いはどうなってます?」

「当人がランクの公開を希望していない場合、組合(ギルド)がランクの公開を行うことは御座いません」

 情報管理もしっかりしていると。……ふむ、変な絡まれ方はしない、か?

「なお、義務については特に御座いません。ランクの高い魔物が現れた際に情報をお渡しすることはありますが、そのぐらいです」

「あれ、そうなんだ?」

「ランクがSに相当する魔物が現れた場合は軍に通報されますので……ユーリ様の場合、そちらで参戦することになるかと」

「あ、あはは……」

 魔王に関する物でないので戦う必要はないはずだが、そうだよな、軍が戦うんだよな。……犠牲者が出るって話も聞いたんだよなぁ。

 ………………あんまり強くないといいな。

「あとは、パーティーですね。これは、組合員が団体で行動することを組合(ギルド)に登録する制度です」

「それはちょっと聞いたことがありますね。個人ランクがSの人は居ないけどパーティーランクがSに届く団体はあるとか」

「そうですね。普段から団体行動をとる方々もそれなりに居るのに、個人で狩れる魔物でしか評価しないのは勿体ないですから」

「パーティーの登録はこちらで?」

「はい、ただし、所属メンバー各員の個人ランクより高いランクのパーティーにおいて、メンバーが減った場合には再評価が必要になるのでご注意ください」

「わかりました」

 どの程度縁があるかは知らないが、一応覚えておこうと思う。

「他に何か質問は御座いますか?」

「ランクってどうやったら上がるんです?」

「個人ランクで、Bまでなら近くの試験場で試験が行えますよ。個人ランク試験でBの場合……大銀貨が三枚必要になります」

「試験官の給料ですかね?」

「ええ、それと施設を稼働するための費用と、合格時の再発行費用も含んでいます。ユーリ様の組合証(ギルドカード)にはまだランクが刻印されていない為、再発行は不要なのですが、初回でも同じ金額を頂くことになっております」

「まぁ、仕方ないかな。試験を今受けることは可能でしょうか?」

「可能ですが、受けていかれますか?」

「そうしようかと、ってそうだ、組合証(ギルドカード)の説明は以上ですか?」

「そうですね。最後に一つ。組合証(ギルドカード)を紛失された場合は直ちに届け出てください。犯罪に使われた場合、紛失した組合員自身も罰せられることがあります」

「わかりました」



 間近で見る建物の高さに圧倒されつつ、受付職員から聞いた通りの道を進んで試験場に辿り着いた。

 試験場は、太く短い丸太の的がいくつかと、模擬戦用の魔道具。……先日訓練で使った闘技台(リング)と似た技術かな?

 試験場には試験官らしい男性が待っていて、少し遠くで様子を見ている人も居る。

「君がBの個人ランク試験を受けにきたユーリという新人でいいのかな」

「はい、組合証(ギルドカード)はこれです」

「……うむ。私はマイルス。貴方の試験を担当いたします」

「よろしくお願いします。試験は、何をすればよろしいので?」

「それほど難しくはありません。試験が始まったら、まずは、魔法か剣であの的を破壊してください。破壊に要したのと同じか、少し長く、私の攻撃を避け続けられれば合格です。質問はありますか?」

「模擬戦では、防いでも良いんですか?」

「オーガの攻撃を想定した試験です。私の力よりはオーガの力の方が強いですからね、私の攻撃を防げてもオーガの攻撃を防げるとは限りませんので、回避でお願いします」

「あー、そうですね。わかりました」

 オーガの攻撃だとしても今なら普通に受け止められそうだが、試験のルール上仕方ないだろう。


「では、ここが開始地点です。向こうにある的はわかりますね? あの的を魔法なり剣なりで全て破壊するように。始めっ」

「お、もうですか」

 的は結構遠い位置に、三つ並んでいる。この試験に掛けた時間で模擬戦の時間が増えるなら、さっさと魔法で壊すかな。

 魔力の輪を出す手順を省略、風属性の魔法の輪を直接出して、飛ばす。以前オーガと戦った時は腕で止められたので、今回は少し大きめだ。

 ガガガガガッと木の砕ける音が連続し、全ての的を上下に切り分けるまでに要した時間は数秒。試験開始から一五秒ほどで終わった。

「これでよろしいですか?」

「魔法の得意な方でしたか。はい、十分です。攻撃力試験は合格です」


 模擬戦スペースに移動してから、試験官のマイルスに問いかける。

「で、一五秒ぐらい避ければ良いんですかね?」

「いえ、魔法寄りの方は、最短でも三〇秒は必要です。奇襲すれば仕留められるものの、相対したら死ぬ、といった方を評価するわけにはいかないので」

「……まぁ、道理ですね」

「それでは、回避力試験、開始です……ッ!」

 マイルスが開始宣言から間もなく大きな剣を振るってくる。込められている力はあのオーガと比べて随分弱い。

 オーガを想定しているといいつつ鈍器じゃないのは、鈍器では脅威が不足し過ぎるからか。

 ひょいひょいと跳んで躱していると、……なんだか焦りを若干滲ませているような? ってそうだ。

「そろそろ時間ですかね?」

「そう、です、ねっ! 躱しながらっ魔法は、使えますか!」

 ……無理に喋らせているようで申し訳ない気分になってきた。さっさと使ってみせるか。

「これでよろしいですか?」

「ハッ、ハッ、十分、です」

 十分だそうなので魔法を消し、マイルスが剣を収める様子を見るまで警戒を緩めずにおくと、遠くで評価をしていたらしい人も俺達が居る所まで歩いてきた。

「文句なしですね。合格です」

「はい、ありがとうございました」

「普通は新人がこんな簡単に合格することなんてないんですけどね、私も鈍りましたか……」

「新人って言っても他所で訓練は受けましたし、経験もそれなりに有りますからね。オーガを狩ったこともありますよ?」

「新人だからと甘く見ていたマイルス君が悪いと」

「……仰る通り、私の頭が固かったようですね。はぁ」



 試験は終わったので、試験官達の指示に従って受付に戻ってきた。

 合格した話も伝わっていて、組合証(ギルドカード)にランクを表す『B』の文字が刻印される。ケースに入れると、丁度隠れる位置だ。

「これより上のランクに上げたい場合は、先程お伝えした通り、試験を行うことはできません」

「え、じゃあどうやって上げるんです?」

「掲示板にも張られているのでご存知かもしれませんが、時々大規模な作戦が行われることがあります。対象が群れだった場合、中心には大体かなり高いランクの魔物が居ることのですが……これを独力、あるいはパーティーで討伐できれば認められます」

「大規模ってことは結構人数が居るんですよね? 単独で戦う機会なんてあるんですか?」

「先に始まっていた戦闘に加わる場合、声を掛けて参戦の是非を問うのがマナーですね」

「ふうん……?」

 状況を想像してみる。

 MMORPGというジャンルのオンラインゲームでは、横殴りだのといったノーマナー行為の話はよく耳にした。

 ドロップしたアイテムの権利がシステムで保護されるのはよくある話だったが、殴ることができなくなるゲームも存在していた気がする。

 この世界ではそういった保護はないはずなので、できれば変な人とは遭遇しないように願うばかりだが…………そんな先の話を今から考えても仕方ない、か。

「とりあえず、しばらくは適当に狩りますかね」

「ええ、慣れるのは良いことだと思いますよ」

「どこか良さそうな狩場の情報は有りませんか? 日帰りできそうな範囲の、魔物優先で」

「でしたら、そうですね。西の森で最近コボルドの発見例が増加しています。B以上の魔物の情報はありませんが、手頃ではあるかと」

「コボルドはCでしたっけ…………確かに丁度良いかもしれませんね。魔石なんかはどのぐらいの値段になります?」

「コボルドでしたら、大銀貨で一枚か二枚ぐらいでしょうか。群れで行動し、粗末ですが武器も扱うため、油断してはいけませんよ?」

「ありがとうございます。気を付けます」

 十分な情報も聞けたので、受付を後に──

「馬車の申し込みもこちらでできますが、ご不要でしょうか?」

「自分の足で見て回りたいんで、今回は要りません」

「承りました。お気をつけて」

 手を振りながら受付を後にした。

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