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仕様違いの魔法使い  作者: 赤上紫下
第 1 章

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15:王国法と通行証

 今日の目覚めは昨日暴れたお陰か、あるいは本を読んで満足できたのか、悪くはなかった。


 身嗜みを整える途中で『魔力容器(マナケース)』の魔力のことを思い出したので、様子を見てみる。

 減っていたり、使えなくなっている様子はなかったので今後も使うことに決定。完全に遮断するとまたすぐ忘れかねないので、認識できる程度に軽く魔力の通り道を繋いでおく。また、魔力もある程度の量を溜めておくことにする。

 体調を把握してからは、いつものようにアモリア、駆と朝食を取り、予定通りに図書室で過ごすと告げてから図書室に向かう。

 駆はというと、今日が基礎訓練の日なのでそちらに参加するそうだ。

 アモリアは国王であるバルダーの執務を多少手伝っているそうで、その関係で通行証を発行させるのが容易なんだとか。



 図書室に着くと昨日の司書が居たので目礼を交わし、法律について書かれた本を探す。

 入口に近い辺りに置かれていたので、そのまま近くの机で読み進める。

 日本の六法全書ほど分厚くはないが、俺が簡単に全てを細かく把握できるほど薄くもないので、原文の複写と翻訳文の保存を平行して進めていく。


 概要は地球の法律と通じるものがかなり多い。とはいえ違いも当然ある。

 例えば男女や種族の区別等は特になく、一定の能力を持ち合わせているかの試験によって行うらしい。

 月のものの関係から女性がやや不利な職は多く、その差の分だけ女性を優遇するように求めた団体が昔存在したそうだが、この世界は人の死が近い。

 文字通りの意味で戦力になれない日が多い女性を、男性と同数程度配属するようにという主張は、内乱に繋がる可能性が高いとして厳重注意。それでも活動を止めなかった者達は厳罰に処されたとのこと。

 獣人以外にも様々な種族が居るように、この世界は性別や種族によって向いている職もそれなりに大きく分かれている。そういった不利を乗り越えて職に就いている者達が尊敬されている事実も、厳罰に繋がった理由の一つであるとかなんとか。

 前述の罪を最終的に確定させた裁判官は女性、裁かれた側は男性だったというから、なんとも皮肉な話である。

 尤も、『女性は拾い上げてもらわなければ職に就けない』といった趣旨の発言を繰り返していたそうなので……結局のところ、一番差別していたのはこの活動家だったようだが。


 他に特徴的なものといえば、銃刀法的なものは若干緩い。剣を佩いているのは問題なく、魔法もある程度は可なんだとか。

 剣を抜いて振り回す、人に向けて殺傷力の高い魔法を放つ等を行えば問題。ただし、正当防衛は認められている。

 嘘や真実を見抜くスキルや魔道具が存在しているため、正当防衛であることの証明は楽であるらしい。


 あと、散々接してきておいて今更だが、この国には身分制度が存在している。

 国王を頂点とし、濃い血縁関係を持つ王族が続き、その下には貴族が居て、それ以外は平民だ。

 実力主義な気風があり、多くの平民を正しく導ける平民が居れば、貴族の一員として(じょ)されることもあるんだとか。

 そして、権謀術数の類については、内乱罪に準じた厳罰が処されるそうなので、概ね腐敗は少ない。

 それもこれも、虚実を確かめる手段が豊富にあるが故か。いや、嘘や(はかりごと)で上を目指す者達に世界が厳しいだけかもしれないが。


 そして、奴隷について。

 これは身分制度において、平民より下のという意味ではなく、人に所有されるという扱いになる。……とだけ言うと厳しい扱いのように感じるか。

 もう少し言うなら、日本における家具や絵画、あるいは愛玩動物(ペット)等と同じような扱いである。

 奴隷として扱われるようになる理由は、『犯罪者に対する刑罰』、『親に売られる』、『自身を売る』の三つが主だ。

 逆に、奴隷から人として扱われるようになるための方法もいくつか存在する。奴隷になった理由によって条件は異なるが、犯罪者でないなら金銭で解決可能である。

 奴隷自身は人権を所持していないため、その奴隷の主人にその意思がなければ不可能ではあるのだが。


 奴隷の扱いに関する他の話としては、貴族の所有物を平民が傷つける、あるいは奪おうとした場合、平民側が重い罪に問われることになる。これは王族と貴族に置き換えても同様である。

 身分の高い主人の所有物である奴隷が、身分の低い者より優先される事例、というのはそれなりにあるわけだ。

 そして珍しい例だが、平民の所有物を貴族が傷つけた場合に、貴族側が罪に問われることもある。これはスキルや魔道具によって悪意を証明できるからこそ起こり得る例である。

 現代的に言うなら──平社員の私物を役員が私情で損壊させたことが監視カメラで発覚したようなものか。この例の監視カメラを担当するのがスキルや魔道具だ。


 ……はて、俺はなんでこんなにも奴隷関係の情報に思考を割いているんだろう?

「欲しいの?」

 びくっと震えてしまった。また司書の子が、今日は横から覗き込んでいたからだ。

「欲しいの? 奴隷」

 再び声を掛けられる。口調は平坦だが何故か責められているような気がする。……まぁ、俺にやましい心があるからですけども。

 実際に欲しいかどうかを考えてみて、とりあえず、思った通りに言ってみる。

「興味はある、かな。でも城に部屋を借りてるうちは無理だ」

「そう?」

「そりゃね。というか、家を用意したとしてもやっぱり……命を買うのはちょっとなぁ、あっちと違って言葉は通じるから、いくらかマシなんだろうけど」

「……奴隷を買おうとしたことがあるの?」

「いや、愛玩動物(ペット)って奴。愛されたり、(もてあそ)ばれたりする動物のこと。【伝達】もなしにちゃんと絆を結んでる人たちも居なくはないみたいだけど、俺は無理」

「この世界の奴隷なら、貴方でも大丈夫?」

「多分……?」

 ……なんで俺は女の子とこんな話をしているのやら。


「とりあえず、この本は読んでおきたいから最後まで目を通しちゃうよ」

「わかった。……他に読みたい本はある?」

「今すぐ思い浮かぶのは特にないかな」

「そう……」

「……城に出入りする通行証を発行してもらえるのは午後になるだろうって話だったから……ってそうだ。魔物の種類がたくさん載ってる本とか、この世界に住んでる種族が載ってる本はないかな?」

「ある」

 俺の言葉を聞いてから一言だけ呟いて、てくてくと歩いていってしまった。


 司書が本を取り出している場所を把握しつつ、読んでいた本の残りを保存する。司書が本を持って戻ってくるのと、俺が本の内容を保存し終えるのはほぼ同時だった。

「どうぞ」

「ありがとう。そういえば、この国ってチップの風習なんかはあるのか?」

「なくはない。でも、必要でもない。少なくともこの国のサービス業で、チップが無ければ生活が成り立たない賃金設定をすることは犯罪に当たる」

「……経営側のは読み飛ばしてたな。俺のいた国はそういう風習がなかったから助かるよ」

 と言ってからふと思い至ったが、日本だって菓子折りやお中元、悪い例だと賄賂とか。よく考えたら似たようなものもなくはないか。

 心理学でも、たしか、返報性(へんぽうせい)の原理だったか。これは恩を受けた時などに、それを返し、(むく)いたくなる性質のことだ。

 似たような話で、一貫性(いっかんせい)の原理というものもある。こちらは……少し複雑だが、ソーシャルゲームのガチャに大金をつぎ込む心理は近いものがあるかもしれない?


 結局なんの話かというと、まぁ、この司書に何かを返したいという心理がやかましいわけだ。

 とはいえ、俺の今の手持ちなんて、金貨二枚の他には、小銭が少しあるだけだ。一緒に召喚されて以降、持ち込んだ荷物の中身はまだ触れていないが……さて?

「何か悩み事?」

 ……正直に言っておくか。

「君が見つけてくれた本はとても役に立ったから、何かお返しをしたいなと思ったんだ。でも、何が良いかが思いつかなくてね」

「気にしなくていい。手は空いていたし、本をただ読んで過ごすよりは楽しいから」

「それは、ありがとう?」

「どういたしまして?」

 会話が止まってしまった。……内容に一区切りはついたから、いいか。


 二冊とも複写し終え、改めて読み返していると図書室の扉が開かれた。

 視線を向けると、何かを手に持った使用人と、アモリア王女の姿がある。向こうの視線も俺に定まったから、通行証の件かな。

 本を閉じ、席を立って出迎える。

「シライ様、通行証が発行できましたので、お持ちいたしました」

「ありがとう御座います」

「こちらですね。この紐を首に掛けて服の内側に隠すような形で持ち歩く方が多いです。再発行には多くの手順が必要なので、なくさないように注意してくださいね」

「わかりました、気を付けます」

「この通行証で通行できる人数についてですね。中から外に出る場合は通行証も不要ですが、外から中に入る場合はその通行証ですと、シライ様自身を含めて二名までとなっております」

「……?」

「また、外から通行証を持たない人を城内に招き入れる際には、とある魔道具の腕輪が貸与されます」

「……俺はそんな魔道具を持った記憶はないですけど……?」

「その点につきましては、王家からの信頼の証と思っていただければ。魔道具の腕輪の持つ機能は居場所の確認と、着用者の情報表示です。取り外し専用の魔道具を用いずに外そうとした場合、警備にそれを知らせる機能もあります」

「疑ってるようで申し訳ないけど一応確認。耐久性は大丈夫ですか? 特に予定があるわけじゃないですけど、普通にしてて誤作動を起こすとか嫌ですよ?」

「耐久性の試験は行われていますし、故意でないと判断できれば、すぐに新しいものと交換させていただきます。着用者を傷つける機能もありませんので、ご安心ください」

「そうですか。疑って申し訳ありませんでした」

「いえ、当然の疑問かと」

 ……これで一通り聞きたいことは聞けたかな?

 一区切りついた気がしたので、なんとなく通行証の内容を見てみると──


 名前:ユーリ・シライ

 性別:男

 年齢:25

 所属:グリフォニア王国軍 ※予備

 管理番号:×××××××

 ……


 ──色々続いている。管理番号はまぁ、良い。……予備? 意味はなんとなくわかるが、予備?

「予備ってなんでしょう?」

「まず、常に軍として働いている者を現役軍人、あるいは常備と言います。それに対して、有事の際のみ軍人として働く者は予備役軍人、あるいは予備と言います。ご存知ありませんか?」

「すみません……」

 ……軍関係の用語とか知らないんだよな全然。いや、常備軍なら、記憶にちょっとだけあるかな。予備軍は、別方面で聞き覚えがある。あれは何処を攻める軍だったのか……国か病院か? まぁ、納得。

「他の注意点として、軍属という形にはなりますが、シライ様とホンドー様に戦闘への参加を求めるのは、魔王に関するもののみです。よって給金の類は設定されておりません。ただ、資金が必要であればある程度まではご用立ていたしますし、部屋とお食事はこちらで用意させていただきます」

「へぇ……ありがとうございます。金銭はともかく、部屋と食事は度々お世話になりたいですね」

「資金は、ご不要でしたか?」

「はい、狩人(ハンター)として稼いでみようかと思ってましたから、丁度良いです。あ、勿論無理な狩猟をする気はないですよ? 通行証、ありがとうございました」

「ええ、それでは」



 通行証を貰った後は司書に挨拶をして、本を戻してから図書室から退室。部屋に戻り、装備を整えてから城の外へ向かうと、通行証を確認されて、問題なく外に出ることができた。

 市場を通る途中で腰につける鞄と背嚢(はいのう)というらしい、ナップサックのような物を一つずつ買った。持ち歩ける荷物の量は増やしておいた方が後々楽だと思ったからだ。

 あとは、一昨日夕食をとった飲食店を見かけたので、昼食ついでにパンとソーセージを買う。

 便所は利用しなかったが、緑の毛並みの猫獣人を思い出したので、なんとなく店の裏にある路地を通ってみる。

 法律の本でも多少触れられていたが、この小屋は公衆便所(トイレ)であるらしい。


 あの女の子が落ちてきたであろう辺りを見てまわり、壁の傷や瓦の欠けた屋根を見つけたので、真下から昇ることにした。

 昇り方は簡単。まず、【固定】の薄い膜を地面に広げておいて、上に伸ばしても簡単には倒れないようにする。その後は手足に【固定】を纏わせて、俺の体にかかる重力や、手足を動かす反作用を全て地面に押し付けられるように、しっかり固めた足場を作りながら昇るだけ。

 昇るために作っている【固定】の足場は透明だが、俺自身は隠れていないので見た目は凄まじく怪しい。そんな事実に昇ってからようやく気付いたが、誰にも見られてはいなかったようだ。


 景色は、微妙。日当たりは良いので、昼寝には良いやも。瓦が欠け落ちている屋根には窓がないから、あの子はどこからか伝って来て足を滑らせたのだろうか。

 周りを見て満足したので、【反固定】で足場を回収しつつ降り、着地後は足元も含めて【固定】に使った力を全て回収する。

 回収を終えたことを確認してから、俺は狩人(ハンター)組合(ギルド)に向けて歩き始めた。

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