17:チートなスニーク
ちょっとした居心地の悪さを感じつつ合流すると、手に持っていた折れた杖に視線が集まっているようだったので──そっと離れた所に置いて、素知らぬ顔で、もう一度合流。
それから青い顔の奴は、人間扱いしていいのかはわからないが、とりあえず体温はあって、微弱な脈も感じとれはしたらしい。診断、治療、隔離、尋問といった諸々の目的で別室に運ばれ、破損した杖の方もまた別の部屋に運ばれたようだ。
そして俺達は、偵察機の燃え残りが鎮座する訓練場に留まったままで、あの城の偵察を俺が空間魔法で担う形である。
それを見るのは、拓哉ら三人と、光の三原色なフリフリの魔法少女風連中三人。
「うわぁ……これ覗き放題じゃない? 画質も凄いし……」
「こういうのは画質とは言わねぇんじゃねえか? まぁ、あたしが見てきた限りじゃそんなことをする奴じゃねぇ、とは思うぞ?」
「黒木がそう言うのなら、そうかな? 感性もそうだけど、貴女の信頼を裏切るのは怖いもんね」
鈴と赤い奴が特におしゃべりらしく、それなりに仲は良いようだ。
「あ、いやー……どうなのかねぇ……?」
「珍しく歯切れが悪いけど……まさか惚れでもした?」
「いや、それはねぇよ。……うん。ねぇ、と、思うぞ?」
「……ちょっと、本当に大丈夫? 頭とか打った? それか熱でもあんじゃない?」
「……その格好のお前にそれを言われるとはなぁ……」
「この場で普段着と大差ない貴女には言われたくないんだけど……」
「ぁあ?」
「な、何よ?」
…………。
どういう仲だろうか?
とりあえず、視点を動かして城の内部を確認していくことにした。
偵察機の燃えた跡がある部屋の外は、明かりで照らされている廊下が左右に続いており、どうせこの先も分岐する可能性があることを考え、視点は分割せずに左から回った。
俺達の足元には敷き詰められた砂があったので、他の人にも見えるようにガリガリと大まかな間取りを書いてある。
最初の儀式場のような部屋以外には何も置かれていない部屋が多く、それ以外は魔石のような物が置かれている部屋、鎧や剣など白兵戦向けの武装が置かれた部屋、巨弩や投石機や大砲といった兵器類が置かれた部屋、あとは食堂と調理場。
廊下のあちらこちらに鎧が佇んでいたり、台座ごと倒れている造形物があり、肌の青い使用人らしき連中が部屋の外をうかがっていたり。
「何っつーか、肌の色を除けば普通だな」
一通り回ったところで、ざっくりとした感想を鈴が述べた。
「まぁ、まだ一階部分しか調べてないしね」
「……しっかし、こんだけ無遠慮に調べて気付かれねぇって……どうなんだ?」
「魔法使いっぽいさっきの奴みたいなのが居たら、気付くんじゃないかな? ……それで、どっちに行きます?」
地下へ向かう階段も二階へ向かう階段も見つけてあったので、この場で一番立場が上そうな拓哉に聞いてみた。
「……行き止まりに当たっても、すぐ分岐点まで戻れるんだよな?」
「はい。それは大丈夫です」
「なら、下で良いだろう。しかし、退路の確保や後方の警戒が必要ないというのは……反則的だな」
「えー……と、あんまりアテにはしないでくださいね?」
「……わかっている」
やや不満げながらも答えは聞けたので、視点を地下へと進ませて、何やらそれっぽい魔法陣へと辿り着き、痕跡を辿って更に別の場所へと移動した。
痕跡といっても物理的なものではなく、同じ場所へ向かう空間魔法を何度も発動させた跡のようなものだ。どうやらあの青い顔の──同じ肌色の使用人が何人も居るのはわかったが、名前は結局知らないままの奴は、その手の痕跡に無頓着だったらしい。
位置は先程までの場所とかなり近く、深さは地下三階程度だろうか?
あまり掃除の手が入っていないらしく、通路の隅に溜まった砂埃や、まばらに色濃い液体を散らしたような黒い跡が、弱い明かりに照らされている。ホラー映画じゃないので、俺は魔法で輝度調整。
そのまま通路を辿っていくと──
「当たり……かな?」
人間が入れそうな大きさのガラス管が壁際に何本も並んでいて、その中には少し色のついた液体と、液体に浮かんだまま動かない人体があった。
下から照らしている光はやや強く、輝度を下げれば明瞭に見えそうだが、衣類を着用していないのでそこは避けておく。
眠っているような表情で目を瞑っており、解剖されたような損傷はないものの、一部は腕や脚が欠けていたりもする。戦闘によるものだろうか?
また、血液は抜き切られているらしく、断面がある場合は綺麗に見えるし、全体的に痩せ細っている。流石にこれで生きてはいないだろう。
「チッ、この部屋の持ち主はイイ趣味してやがんな……ったく」
「本当になぁ……」
鈴が皮肉っているのは、明らかに作業に使っていそうな執務机がこの部屋の中にあり、作業者を向く形で人の頭が入ったガラス管も置かれている様子が見えたからだろう。
流石にベッドの類は無いが、この部屋の持ち主の趣味はかなり悪いと言える。
「ッ、白井、この映像は、カメラで映せるのか?」
「カメラで撮影するのは大丈夫だと思います。ただ、一応向こう側にも微弱な光は通るはずなので、撮影するつもりならフラッシュは避けた方が無難かと」
「わかった。まず──」
拓哉の指示に従って入口からの俯瞰、犠牲者の顔写真をそれぞれ撮影し、回収用の水槽が用意され、空間魔法でガラス管から直接回収を行った。
その最中、誰も吐いたりしなかったあたりは流石だと思う。
他にも似たような部屋に続いていたが、そちらは動物標本のようなものだったので回収はなし。また、金属でがっちり覆われた管もあったが、それにも触れていない。
「……で、いつの間にか晩飯時、あともうそろそろ風呂入って寝たいんですけど……」
フリフリした魔法少女風の三人組らは、本部からの連絡があったために席を立っており、わかる範囲で島に動きはない。
「……そうだな。この映像は出し続けられるか?」
「近くで見てないと不安なのと、魔力的にもいい加減厳しいかなってぐらいです」
燃える偵察機から多少補給はできたが、その後に調査と回収をしていたせいで、魔力の残量がかなり減っている。
しかしそれ以上に、気分的に滅入るものをかなり見せられた関係から、アニマとアンナの柔らかさに触れつつ癒されたい気分である。そもそも、そうやって寛いでいる最中にいきなり呼び出されたわけだし。
「……朝になれば可能か?」
「可能です。あの島が動いてなければ、という条件が満たされている必要はありますが」
何か、空間魔法用の目印でも設置できれば別かもしれないが、そんな物に心当たりはない。
「そうか。……いずれにせよ、あの島をどう扱うかは会議を行う必要もある。仮眠室は……鈴、手続きは済んでるから、案内頼めるか?」
「了解。……つーことだけど、ちょっと、先に飯案内していいか?」
「まぁ、飯も食いたかったし……うん、いいよ」
返事の途中でアンナ達の方に目を向けると、首肯が返ってきたので、三人の総意として答える。
「よし。そんじゃ、ついてきな」
「ういっす」
時間帯の関係で簡単な食べ物しか提供していなかったが、鈴に案内された支部の食堂で食事を済ませ、仮眠室で英気を養った。




