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仕様違いの魔法使い  作者: 赤上紫下
第 1 章

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14:図書室で勉強

FAQ

 Q.図書館じゃないの?

 A.図書を置くための館ではなく、王城内にある図書を置くための一室。よって、図書室。

 使用人の案内で、名前の響きより広い気がする図書室に到着した。利用者は数人ほど。

 図書室の中は表紙の分厚い本(ハードカバー)が、ずらりと並んでいる。数えようという気が起こらない程度には多いが、見える範囲で、一万冊に届くかどうか、ぐらいだろうか。

 数量としてはやや地味だが、週刊少年誌が二〇年分並んでいるところを想像してみるとわかり易いかもしれない。いや、逆にわかり難いかもしれないが。


 利用に関する諸注意を聞いてから、とりあえずと、文字について書かれた本を探す。

 狩人(ハンター)組合(ギルド)で広告を読めた時点でわかっていたが、【基本スキル】は文字にも対応していたらしい。ただ、文字についての理解を深めるにはそれだけでは不十分なので、【基本スキル】に頼らない読み書きも覚えるべく、といった目的である。


 丁度良さそうな一冊を手に取り、机まで移動して読み進める。

 ちなみに、ここでも【固定】は大活躍している。多少疲れはするものの、思考と大差ない速度で薄く、小さく情報を保存することができるからだ。

 俺は素の記憶力に自信などないので、能力の測定結果など、細かい情報は【固定】を使って残している。手書きより早いので、森に入る際におおよその地図を書きながら走って進むような真似も可能である。

 方法は、ただ空気を小さな範囲で固めるだけ。体から連続してさえいれば形状を認識できるため、日本の少額貨幣程度の大きさでもそれなりの量の情報を保存できる。

 体積あたりの容量としては、一文字が二バイトだったとして、フロッピーディスク(カバー含)ぐらいだろうか? 〇と一の羅列で管理していれば容量は増やせるが、流石に俺の脳だけでこれを変換するのは面倒だったので、文字の形をそのまま保存しているせいである。


 …………。

 そのまま一〇ページほど複写した後で確認を行い、残念な事実に気付いた。【固定】だけでの読み書きは【基本スキル】を通さないので、そのままでは読めなかったのだ。

 紙サイズに拡大して、自分の目でも見えるようにすれば大丈夫だったが、【固定】を大きな範囲に使わなければいけないので、地味に疲れる。

 その際の方法は、【固定】で固めた空気の板を用意し、必要に応じて部分的に光を遮ること。そうすると光を遮られた箇所が透明から、全反射でもするのか(多少制御が粗いため鏡面ではない)銀色に変化し、肉眼で読めるようになるわけだ。

 そんな方法で可視化しても読めるあたり、【基本スキル】も何気に優秀である。

 とりあえず、この文字について書かれた本は原文のまま丸ごと複写することにした。他の、文字よりも内容が重要そうな本は【基本スキル】が翻訳した後の文章を保存していこうと思う。


 文字に関する本を一冊複写し終えたら、スキルや魔法の本を読んでいく。

 スキルには様々な種類があり、攻撃的なスキルについては、以前見た魔法スキル以外だと、エドワルドが使ったような剣術スキル、弓術などがある。

 他には、補助的なスキルとして、探知、体術、鑑定など。回復魔法の他、料理や製造系のスキルもあるそうだ。

 製造系スキルといっても、適切な加工法が頭に浮かんだり、温度がわかるようになって管理し易くなる、不純物を取り除く、純度を高める等の効果である。

 製造系スキルはあった方が間違いなく楽ではあるが、魔力の操作を適切に行えるなら、製造系スキルが無くても同じ品質には届くと見て良いだろう。……同じ品質に届く頃には、製造系スキルを獲得できているとは思うが。


 魔法は、魔法スキルという形を持つことがある点からも察せるように、スキルとの共通点がとても多い。

 しかし結局は魔力の運用法でしかないため、【基本スキル】さえあれば割とどうにでもなるようだ。

 そして、本から得られた、俺が今まで認識していなかった知識は大きく二つ。空間魔法と、魔法陣の記述方法だ。

 駆と俺の体を呼び出した召喚魔法はこの空間魔法に属するはずだ。アモリアや国王(バルダー)の話、駆の蘇生魔法が俺の魂(?)に作用したと考えられる点からして、恐らくは──空間を超えて目標を定める手段も存在する。

 人間が脳で計算できる内容ではないと思われるため、空間魔法を覚えた魔力というのは、そういった計算も担当できるのだろう。あの二人が本物の天才だったという可能性もなくはないかもしれないが、俺には体験済みの例がある。

 初めて魔法を使った時は文言を唱えるだけで、魔力が勝手に形を作り、前に進もうとしていた。杖も同じく、魔力を流し込んだら勝手に魔力の輪を作った。

 いや、そもそも、『精霊』そのものが、自我を持った魔力といわれていたんだったか。……見落としが多いなぁ、俺。

 【基本スキル】も、それぞれが俺の意思を的確に魔力に伝えるための道具であるとすると……ふむ。


 今までの感覚と考察をまとめて、電子機器に例えてみると──

『魔力素子』 :パソコンやゲーム機など、入出力機能まで備えた多機能ハードウェア。

【基本スキル】:OSオペレーティングシステムあるいはファームウェアと、基本的な機能を使うためのドライバやアプリケーション等のソフトウェア。

 他のスキル :特定の機能、あるいは特定の運用を行うためのソフトウェア。

『純粋魔力』:【基本スキル】の範囲で動作する単純なアプリケーション兼、電力。

『属性魔力』:他のスキルにも対応したアプリケーション兼、電力。

  魔法  :実行中のアプリケーション。

  精霊  :判断能力を持つ高度なアプリケーション。

 ──という感じだろうか。慎重に考えながら立てた推論なので、当たっていると嬉しいが。


 魔法を使う際に唱える文言は、音声入力でアプリケーションを呼び出すようなもの。魔法陣も恐らく同様で、情報量が違うだけ、だと思う。

 魔法陣がCDか何かみたいに見えてきたな。『魔力素子(ハードウェア)』は勝手に読み込んでくれるから、条件(トリガー)さえちゃんとしていれば……本の記述からしても、これで辻褄は合いそうである。

 ……流石に、大昔のパンチ穴だらけの紙テープ扱いは失礼だよな? いや、直径数メートルのロール状であれば情報量は相当多いとは思うが。


 俺が力を付ける上で必要なことは、『各種の魔力(でんげん)』の確保。『魔力素子(ハードウェア)』の持つ機能を十全に発揮するためのスキル(ドライバ)獲得(インストール)、あるいは習得(プログラミング)。パソコンに例えるなら、操作に習熟するのも大事である。

 そして、セキュリティも必要か。俺からも何度か他人の魔法に干渉をしている以上、逆をされない保証はない。

 体内の『魔力素子』を外部から遮断できるような仕組み──今は【固定】でいいか。一方向だけという制限は無理でも、開閉だけならそう難しくもないからな。

 しかし【固定】の応用が利きすぎるせいか、色んな魔法が存在してる世界に来たってのに……俺が一番理不尽(ファンタジー)


 ひとまず仮説も立て終えたところで、次の本を探しに行こうと目線を上げると、正面からじっと俺を見ていたらしい人と目が合った。図書室に案内してくれた使用人から、司書だと聞かされた子だ。青みがかったような銀髪で、背はあまり高くない。

「……何か、御用ですか?」

 無視するのはどうかと思ったので、小声で訪ねた。

「その本、面白かった?」

「まあ、それなりに」

「その本の次は、どんな本を読もうと思ってる?」

 そう言われたので、何を読むかを考えてみる。魔法陣の概念は今手元にある本でわかったが、厳密な物ではないし、種類が少ない。空間魔法も触りだけだった。だから──

「色んな種類の魔法陣が載ってる本と、空間魔法について書かれた本かな」

「わかった、待ってて」

 俺の言葉に応えて司書はとことこと歩いていった。……なんというか、不思議な雰囲気を持ってる子だな?


 とりあえずと、手に持っている本をすぐ近くの、元々その本が入っていた本棚に戻して、机に座りなおす。

 もうしばらくすると、先程の司書が二冊の本を抱えて戻ってきた。注文通り、魔法陣について書かれた本と、空間魔法について書かれた本だ。

 なお、司書が本を取り出した位置については、目で追いながら手元の【固定】製図書室内マップに記したので、いつでも返せる。

「どうぞ」

「ありがとう」

「どういたしまして」

 礼を口にして、魔法陣の本から読み進める。


 魔法陣の書かれたページでは、試験の問題用紙のように、空欄と対応する番号が書かれており、隣のページにどのような文章を置くかが書かれている。

 勝手に魔力を集めないように、魔力を注いでも発動しないようにと、色々考えてあるらしい。なんというか、その工夫自体が少し面白く感じる。

 比べながら研究をするには少しばかり時間が足りないので、最後まで保存してから本を閉じた。今回は文字自体に意味がある本だったので、文字をそのまま保存してある。

 丸ごと複写するだけだが、【伝達】のお陰で意味が、【固定】での複写によって文字が頭を通るため、この世界の文字には随分と慣れてきた気がする。


 流石に疲れてきたので、空間魔法の本については完全に複写するだけで済ませることにする。

 ページを飛ばしてしまわないことだけ気をつけて、内容はあまり深く考えずぱらり、ぱらりと複写する。ページ数がそれほど多くなかったおかげか、数分で複写を終えたので、目を揉んだ。

「もういいの?」

「今日は疲れたし、結構考える材料は集まったからね……って、うん?」

「?」

 あまりにも静かだったので意識の外に行っていたが、この司書はずっと俺を見ていたのだろうか。

「司書の仕事とか、大丈夫なのか?」

「利用者が多い時は忙しい、けど、今日はそうでもないから大丈夫」

「そうなのか……でも、俺を見ててもそんなに面白いことなんてなかったろう?」

「ううん、面白かった」

「……俺が?」

「貴方が」

「…………どこらへんが?」

「全体的に?」

 …………。

 なんなんだろう、この子。

「まぁ、うん。面白かったのならよかった、のか? この二冊の本はありがとうね」

「利用者の求める本を探すのも、司書の仕事だから」

「そっか。えっと、じゃあ、この本は元の場所に戻して帰るよ」

「そう?」

 まぁ、よくわからないが本を元の場所に戻しに行き、「じゃあね」と言って部屋に戻った。



 ………………



 ──コンコンというノックの音と、俺を呼ぶ声がぼんやりとした頭に染み込んでくる。

 しばらく後、「失礼いたします」と言いながら部屋の扉を開いた音で目が覚めた。入ってきたのは……使用人?

「お休みになっていたところ申し訳ありません。夕食の時間で御座います」

「……ああ、そうか、知らせてくれてありがとう」

 体を伸ばしながら、くあっと大あくび。少しばかり涙も出てきた。図書室から部屋に戻った後、ソファに座ったまま眠ってしまったらしい。

 ソファから立ち上がり、3点ユニットが設置された扉に向かいつつ、使用人に言う。

「顔を洗うから、少しだけ待っててもらえるかな?」

「できればお早く、アモリア王女殿下とホンドー様はそろそろ小食堂に向けて出立していると思われます」

「それは急がないとね」


 少しばかり催してもいたので、さっと用を足してから手と顔を洗い、タオルで拭い、使用人の所へ。

「お待たせ」

「では、ご案内します」

「よろしく」

 ……多少早歩き気味なのは気付かなかったことにしよう。



 談話室改め、いつもの小食堂というらしい部屋に着くと、アモリアと駆は既に待っていた。

「お待たせしてすみません、居眠りをしておりました」

「いえ、私達も着いたばかりですから」

 アモリアの言葉に、駆も頷いている。

 そんな始まり方だった夕食も普通に進み、今日の訓練の話になった。


「如何でしたか、我が国の兵は」

「エドワルドさんは凄かったですね。急所を狙わなくても一撃でオーガを倒せそうな剣技には驚きましたよ」

「あの剣、そんなに強かったんですか……たしかにすごい音はしてましたけど」

「エドワルドは元騎士団長ですから、狩人(ハンター)組合(ギルド)の個人ランクでAに相当する実力者ですよ。年齢を理由に引退し、後進の育成に当たっていますが、それでも実力は確かです」

「凄い人だったんですね」

「ええ。他の方はどうでした?」

「最初の初心者用訓練で戦った人達よりは強かった印象ですけど、ちょっとしたことで驚いて隙を晒してたのは減点ですね」

「僕は普通に負けちゃいましたけどね。ただ、見ているだけでもそれなりに、勉強になったと思います」

 俺と駆はそんな感想を漏らしているが、アモリアは何やら納得がいかない様子だ。

「……参考までに、どんなことをしたら隙を見せたのか、教えていただけませんか?」

「いいですよ。といってもそんな特別なことはしてないかと……。飛んできた魔法を握り潰したり、飛んできた矢や剣を摘んで止めたり、ちょっと大きめの魔法を見せたりしたぐらいです」

「あれは仕方ないでしょう、外から見てた僕でもかなり驚きましたよ?」

「……魔法を、握り潰す……? それに矢を摘んで止めるって……」

「普通やらないことだとは思いますけど、俺達は魔王と戦ったりするんですよね? 個人ランクでSに相当する相手なんだから、そのぐらいできてもおかしくないだろうってことで、驚いてた人たちについ説教しちゃいました」

「あー……僕もできるようにならないと駄目なんですかね?」

「まぁ、見ても驚かずに戦えるのが最低ラインじゃないかな。地力は上げれるだけ上げておいた方が楽だとも思うけど……本堂君は基礎的な訓練でもまだ実力を伸ばしやすい時期だろうから、今はそっちを頑張った方が良いと思う」

「はーい……」


 アモリアはまだ驚いたままだったが、以前見せた俺の力で『刃物で切れない糸』を作って止めたトリックだと説明したら納得してくれた。

 その力を訓練で使うのはどうなんだとも言われたが──

「ちょっと腕が長いとか、力が強いとかの延長みたいなもんですよ? 弓も魔法も有りな模擬戦で、体一つあればいつでも使える力をわざわざ封じて戦う意味って、なんです?」

「確かに、その通りですね。戦場で相手にそんなことは言えませんし……」

「まぁ、剣だけ、魔法だけといった場であれば控えはしますよ、一応」

 という風に言いくるめた。俺が参加するであろう魔王との戦いには、使用武器制限(レギュレーション)等は存在しないはずだから、問題はないだろう。できれば、凄惨な手段は取りたくないが。

 しかし、もう少しこう、力を出せる機会が欲しいな。……頻繁にじゃなくていいけど、ちょっとぐらいは。


 今後参加する訓練については、駆はおよそ三日毎に行われる基礎訓練。俺は七日毎に行われる各種上位訓練のうち、魔法の訓練に参加する予定だ。この訓練は二日前に行われたらしいので、次の予定は五日後になる。

 訓練が無い間はどうするかという話については、狩人(ハンター)組合(ギルド)で魔物を狩りたいと伝えたところ、王城に出入りするための通行証を発行してもらえることになった。

 護衛の必要がある内は無理だが、模擬戦で成果を出している以上は許可しても問題ないだろう、とのこと。

 他の注意事項としては──

・外泊も構わないが、週に一回は城に戻る。

・部屋は俺の部屋という扱いのままなので、いつ戻っても良い。

・食事が必要な場合は予め城の者に伝えておく。

 そして──

「罪は犯さないようにしてくださいね?」

「する気はないですけど……ああ、どんなことが罪になるかがわからないと駄目ですね。図書室にそういった本は置かれてますか?」

「ええ、置いてありますよ。それと、許可証の発行は明日の午後になると思われます」

「わかりました。それまでに最低限、目を通すぐらいはしておきます」

 明日も図書室へ行くことになった。



 そんな会話を終えた後、自室に戻って顔を洗い、歯を磨いてから日課ついでに複写していた本を読む。

 翻訳しながら空間魔法の習得方法を考えている内に眠気が来たので、ベッドに入って意識を手放した。

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