13:上位者との模擬戦 後編
しばらく後。どの闘技台でも選出が終わったらしく、大型闘技台に人が集まってきた。
ちなみに俺のいた闘技台の二人目は、模擬戦で矢を撃ってきた女性の弓手で、名前はジーナというらしい。「大型闘技台ではちゃんと当ててやるよ」と言われたので「楽しみにしてます」と、ヴェイルの時と同じような返し方をしておいた。
残りの四人は、大剣を背負うエドワルド、杖を持った男、犬っぽい獣人族の男、重装備の──女? だった。駆は負けたらしい。
エドワルドも俺に気づいたらしく、話し掛けてきた。
「ユーリはここまで残ったか。戦績はどうだった?」
「俺は全勝しましたよ。本堂君は負けたみたいですが」
「ああ、カケルとは話した。戦闘経験の浅い者が容易に勝てるほど甘くはない……はずなのだが、な」
「まぁ、俺は経験がありますからね。昨日はオーガも狩りましたし」
「ほう」
「本堂君には、もう少し実力を着けてほしいですけどね」
「そうだな。とはいえカケルは、鍛える余地も大きい。今日の模擬戦を糧として育つだろう」
「ですね」
「……そろそろ準備も良かろう。実力、見せてもらうぞ?」
「ええ、少しばかり暴れようかと思っていたところです」
「おお、それは怖いな」
エドワルドははっはっはと笑いながら、自分の階段まで歩いて行った。俺も自分の向かうべき階段へ歩きながら、どう戦うかを考えてみる。
前回参加した新兵向け訓練と比べれば、高度なことはやっている。
だが、魔法や矢を掴み止められた程度で思考を止めていては、危ういと言わざるをえない。
あまり細かく世話する義理はないが……うん、このままではダメだと脅すぐらいは良いだろう。
六人が大型闘技台に立って間もなく、風の鎧が全員の身を守り始め、プアァァンと今までの闘技台より少しばかり元気な音が鳴り響いた。
模擬戦が始まったので、まずは──
「流石に当たりはしないかい」
「そう簡単に当たってやる気は無い、よっ!」
「ッ! チッ」
横のジーナから飛んできた一本目の矢を掴んで言葉を交わし、二本目を掴み取りつつ、反転させた一本目をダーツのように投げ返す。
多少山なりではあるが、昨日体を調整したお陰か、ブレも無くそれなりの速度で飛んでいく。ついでに二本目も投げたが、どちらも難なく躱された。
魔法での追撃は、断念。
「これを防ぐのかっ」
「挟み撃ちされたぐらいでいちいち食らってたら、魔物相手になんて戦えないだろ?」
「はっ、確かにな」
断念した理由は、後ろから迫ってきたこの獣人族の男だ。
獣人族の男からの剣の一撃を腕につけた盾で防ぎ、そのまま掴んでやろうとしたら逃げられた。流石に反応が早い。
残り三人は、エドワルド対二人で戦っているようだ。
さて、このまま二人相手に戯れるのも良いが、それでは少しばかり物足りないので、体の前に魔力の輪を、大きめに展開。
魔力を集めつつ矢を掴み、剣も掴んで、獣人族の男ごとぶん投げる。
「うおっとと、なんて奴だ、全く」
「この程度で驚かれてもな?」
言いながら魔力を四本の棒状に集め、火、水、風、土の四つの属性に変化させる。
「……はっ!?」
「何よそれっ!?」
周囲に浮かべ、それぞれ操作が効いていることを確認してから、どう攻めるかを考える。
制御能力にはまだ若干余裕があったので、小さな火属性の魔法の矢を三つ作って、エドワルド達に飛ばす。この程度で決まりはしないが、あちらも目を丸くしてこちらを見た。
注意喚起も兼ねようとしてるんだし、このぐらいはしておくべきだろう。しかし──
「ふふっ」
悪いとは思うのだが、俺のしたこと一つで驚く様が面白い。もっと驚かせるために頭を使いたくなる。
……目的は果たせるし、いいよな?
「っははは、さあ、どのぐらい通じるかなっ?」
俺はそう言い放ってから、魔力の輪を消した。
近くで獣人族の男が動きを止めていたので、風の鎧を割らない程度に水属性の魔法の棒でこつりと叩いてみると──獣人族の男は勢いよく後方に跳び退がった。
五人をざっと見てみるが、まともに動けそうなのは、エドワルドだけか。
五秒ほど時間を置いてから、床をがつりと踏みつけて音を出し、四本の魔法の棒をエドワルド以外の四人に飛ばした。
流石に四本分の操作を個別にやるには、俺の頭の処理速度が足りていないので、殆ど単純に飛ばすだけだが。
壊されなかった物だけ手元に戻すつもりで操作したところ、ジーナは距離が近かったせいか避けるので精一杯な様子。残りは弾かれたので結局全部手元に戻ってきた。
戻ってきたうちの一本で、バランスを崩したままのジーナの風の鎧を砕き、獣人族の男に魔法の棒を三本差し向ける。
対象一人に集中できるのであれば、そのぐらいの操作はできなくもない。
「くっ、ぬおっあっ!?」
回避の手は足りず、獣人の風の鎧も程なく砕けた。
込める魔力が多かったからか、ヴェイルの時とは違って魔法の棒は壊れなかった。
「あと三人。さあ、どう来る?」
「……フッ!」
杖持ちが魔法の矢を俺に連射してきた。間隔は一秒に一発ぐらい。普通なら脅威だったのかもしれないが──
「威力も速度も足りてないぞ、もう少し頑張れ」
「ぐっ……! オォォオッ!」
可哀想だが、あのオーガの一撃と比べれば全て足しても劣っている。確かに高い貫通力を持ってはいるようなので、それを防げる盾を用意する必要はある。しかし、用意できてしまえば、少しばかり強い風が吹いている程度でしかない。
魔法の連射で精一杯な様子の杖持ちに、魔法の棒をまた一本飛ばして風の鎧を叩き割る。
「魔法を使うにしても、無防備過ぎるのは駄目だな。そして──」
「く……むっ……!」
目の前からもパンと割れる音が鳴る。俺が杖持ちに魔法を飛ばした隙を狙って重装備の人が掛かってきたので、矢と同じように手で止めた後、魔法の棒で反撃をしただけである。
「剣を使うなら掴まれた後のことも考えないとな。あと、一人」
敗者が退き、目の前が開いたところでエドワルドが突っ込んできた。
「オオオオオオッ!!」
気合の入った大剣の振り下ろしを手で掴み止める。足元にズンと衝撃が抜けていくのがわかる。
「こりゃあ凄い、オーガ相手でも真っ二つにぶった切れそうですね」
「ッッ! ……嫌味か? ったく」
「純粋な賞賛ですよ。お、おぉぅ?」
体ごと大剣が振り上げられそうになったので、大剣から手を離す。
【固定】の性質上、振り下ろしの衝撃を地面に逃がすのは得意だが、横振りや振り上げに対してはただ切れ難いだけだ。
そして、固体に【固定】の力を通すのは中々時間がかかる。地面に多少力を浸透させたところで、今と同じ衝撃が横から来れば、浅く剥がれた地面ごと飛ばされるだけである。
それにしても、エドワルドが剣に込めている力は明らかに普通ではない。どんな手を使っているのかとしっかりエドワルドを見ながら、攻撃を防ぐ。
よくよく見てみると、エドワルドの全身に込められた魔力が高まり、大剣を振るう度に魔力を消費しているように見える。
速過ぎて完全に防ぐのは大変だが、できるだけ上に弾き、反作用で地面との摩擦を確保しながら、選択肢を残せるように行動する。
それでも手が足りず、飛ばしていた魔法の棒を身代わりにすることで時間を稼ぐような戦いが続いたが、なんとか理解はできた。
「【魔力操作】の応用で、魔法を飛ばすように剣を加速させている……んですかね? 力加減を間違えると大怪我しそうな……」
「人の腕力で敵わない相手に剣で挑もうとするなら、自然と至る技法だろうよ」
「ご尤もで」
残っていた二本の魔法の棒をエドワルドに飛ばし……簡単に砕かれたが、ひとまずは俺も短剣に魔力を込めてみることができた。
あとは、エドワルドの振り下ろしに合わせて、下から打ち上げる。
「「オオオッ!」」
ギン、と大な音を立てて短剣が俺の手を離れ、大型闘技台の上を跳ねる。……多少はいけたが、熟練度不足だな。残念。
短剣を失ってしびれる手を前に出し、素早く光属性の魔法の矢を放つ。エドワルドの風の鎧が砕け、プアァァンと決着を告げる音が鳴り響いた。
闘技台の片付けを終えてから、今日の模擬戦についてエドワルドから話しかけられた。
「しっかし何というか、ユーリは成長具合が極端だな……。一昨日の走り込みでへばってたのが不思議なくらいだ」
「あー、あれまだ一昨日でしたっけ。あれは五年はまともな運動をしてなかった体にいきなり運動させたせいです。感覚は残ってたから、体の錆を落として、スキルや魔法にも頼ることで、今日ぐらいの戦い方ができるようになった感じですね。幸い、知力と精神はこっちの平均以上ですし」
「ああ、それなら納得できる、か? 魔法の技能だけ異様に鍛えられる魔法のない世界……一体どんな世界なんだか」
……妄想力が無駄に逞しい世界です。
実際にはエルヴァンとしての経験もあるはずだが、そんな感想を告げるのもなんなので、普通に返して話を逸らそう。
「あっちからすれば、こっちも随分と不思議な世界ですけどね。そういえば、ちょっと矢を掴んだり、魔法を止めたりしただけで驚き過ぎじゃないですか? 今日の人達」
「確かに驚き過ぎてはいたと思うが、あれはちょっととは言わねえよ……俺も一撃目を止められた時にかなりの隙を晒したからな」
「あれはあそこで連撃を仕掛けられてたら多分負けてましたよ、俺」
「あの一撃で決める気だったから、連撃は無理だった。あと、決着直前のあの剣の一撃はやっぱ、あれだよな」
「見本が良かったんですよ、下地はありましたし」
「……はぁ、お前みたいなのを天才っていうのかね?」
……俺が天才? ないない。
「運が良かっただけですよ。今まで暮らしてきた環境、知識や技術、あるいは学ぶ精神。それらに、良い結果を示せる順序で触れてこれたってだけです」
「それは、運で片付けて良いことなのか?」
「これまで相当失敗してきた思い出がありましてね。それに俺がやってることは、大抵の人間ができることを積み重ねただけですよ?」
本心である。
地球の知識、エルヴァンとして得た力、そしてこの世界の魔法。それらを身に着けた人間は、流石にそうそう居ないとは思うが──俺と同じような経験を得た人間が居たとすれば、俺より上に行けていてもおかしくはない。
エルヴァンとして生きていた世界の力である【固定】は、あの世界では小動物ですら身に着けている力だ。俺が覚えられたのは、エルヴァンの母親が無意識に掛けていたらしい、緩い【固定】があったから。必死に解除しなければ生きられない環境で、あの世界の身体に刻まれていた本能の助けもあったからだと思う。
だが、あの力に長期間晒されていればそれだけで、この世界で習得する人間が居ても不思議ではない。
どこまで有効かもわからないし、多少習得されたぐらいで負けるとは思えないが……だからといって、誰かの習得を助ける気は起きないかな。
「……目や反応の良さはどうなんだ? 矢を掴んで止める真似なんて普通できないだろ?」
「誰でも、とまでは言いませんが、【魔力知覚】なんかで通り道は見切り易いですよ? 例えば、『刃物で切れず、伸びない糸』が指の間に張られていたとして、その糸で剣を受けたらどうなると思います?」
「糸が切れないって条件ならそりゃあ…………ああ、それで掴めちまうのか」
「ええ、通り道さえ見抜ければ矢ぐらい速くても、いつ来るかを考えなくていいんです。その糸さえあればよくて、俺はたまたまその糸を持ち合わせていた、ってとこですね。勿論例え話ですけど。あと、受け止める為に骨や関節は補強してます」
「そんな物を用意できるなら、わからんでもない」
「俺からすれば盾を構えてるのと同じような物ですからね。何も知らない相手が受ける衝撃は段違いでしょうけど」
……まぁ、こういうヒントを出すぐらいは良いだろう。
「成程な。ってことは仕掛けも無しにそれができる奴相手だと……」
「多分、負けるでしょうね。地力で圧倒的に負けていたらどうにもなりません」
「そりゃあ、そうか」
そんな話をしてから、挨拶を交わして部屋に戻った。
訓練は終わったが、まだ時刻は昼を少し過ぎたところ。
汗を多少かいていたので湯を少量沸かして、服を脱ぐ段階でようやく思い出した『魔力容器』を見てみると、一応まだ魔力は問題ないようだった。
体を洗って着替えてからは、昨日飲食店で買っておいたパンとソーセージを摘みつつ、この後何をするかを考えてみる。
夕食以外に予定は入っていなかったはずだし、肉体的には結構疲れたのであまり動きたくもない。本でも読めれば良いのだが、生憎と部屋に本はない──と、昨日バクスター達に聞いた話を思い出した。
使用人を呼び出すベルを手に取り、チリンチリンと鳴らす。何気に使用するのは初めてだ。
ベルを鳴らしてから一分もしないうちに、いつもの使用人が部屋に来た。
「失礼いたします、シライ様。なんの御用でしょうか?」
「城には色んな本があって、城に居れば読めるって聞いたんだけど、俺でも読めるかな?」
「ええ、図書室は御座いますし、入室、閲覧の権限はシライ様、ホンドー様ともに御座います」
「じゃあ、場所を教えてくれるかな? 案内してくれると嬉しいんだけど」
「では、ご案内させていただきます」
「ありがとう、よろしくね」
こうげき:(一応)普通
ぼうぎょ:チート
とくしゅ:(防御力と比べれば)普通
すばやさ:(まだ)普通
場外負けありの戦闘でガンガン飛ばされたら厳しい。
内臓をゆらす系の技を頭に掛けられたら多少は効く。それでも、普通の人よりは硬い。




