表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
仕様違いの魔法使い  作者: 赤上紫下
第 8 章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

137/238

16:港と蛇と

 鈴を乗せるために、いつもより若干左右に太くなった人獣型の『搭乗鎧(ALV)』を作製。搭乗も済ませ、四人乗りの状態で現場である小さな港町へと転移し、遊びを考慮していなさそうな海岸に着地した。

 雨足はそれなり、波もそこそこ荒れてはいるが、視界はそれなりに効く程度だろうか。

 周囲の魔力は薄いようだが、空間に穴が開いているなら魔力も流れこんできていそう、ということで『二重の輪(デュアルリング)』と今回の武器も作った。

 最近はDacian(ダキアン) Falx(ファルクス)もどきの木刀も気に入っていたが、そのままこちらでも使うのはどうかということで、作ったのは英語であればScythe(サイズ)になりそうな両手で使う大鎌だ。取っ手がなく、さほど長くもない柄に、緩く湾曲した刃を直角よりはやや緩い角度で取り付けてあるため、農耕具の大鎌そのものというわけでもないが。

「んー……ひとまず狩りの方に集中したいから、質問に答えるのはもうちょっと後でいいかな?」

 俺達の手が空くまでは、ということで鈴には質問を待ってもらっていたが、二、三体は狩って慣らしたい気がする。

「うぇっ? うお、お、おう」

 後方に作ったスペースでクッションに座っていた鈴から、期間延長の言質は取れた。これで心置きなく狩れるというものである。

 そしておあつらえ向きに、百何十メートルか先ぐらいの位置で、舌をチロチロと動かしている比較的小さめな蛇が居た。

「……あいつから、だな」

「はいっ」

「いつでもいいわよ」

「おう」

 二人の返答に短く言葉で返し、【伝達】で連携を取りながら距離を詰める。今回はお客様が乗っているので、加速も急制動もなしである。

 それでも数秒ほどで距離を詰め、鎌の刀身? を上に向けて構えながら更に接近。蛇がこちらを向いたので、左側から薙ぎ払った。

「さて、魔石はこの辺だったかな? っと」

 魔物の体が崩れる前に次を狩るべく、大ざっぱに切り取ったブロック肉を小脇に抱える。

 そのまま、アニマが見つけておいてくれた次の目標へ向かって移動を始めた。


 大物を確認していた地点まで進み、比較的小さな蛇を四体狩ったところで辿り着いた。

 流石に今回は少し立ち止まり、魔石を含む肉が崩れきってから近付き──

「長っ?」

 太さは直径一メートルを少し上回る程度の大蛇の胴は、海中をうねりながら俺が【魔力知覚】で認識できる範囲の外まで続いていた。

 海中の認識できる範囲は空中より少し短いものの、それでも五〇メートルほどはある。大蛇の頭からこの範囲の限界までは直線距離で四〇メートルほどだが、うねり具合や範囲の外の方が安定していそうな動きからして、全長は一〇〇メートルを超えそうな勢いである。

 その大蛇が鞭のように尾の方からしなったかと思えば、何をどうやったのか俺達の背後から大口を開けて迫ってきた。しかも無駄に速く、回避するのは難しい。

 ガツンと衝撃を受け、現状を確認してみると、やけに長い牙を持つ大口によって下半身の後ろ半分が飲み込まれている。

「おい、大丈夫なのか!?」

「大丈夫大丈夫。ただ、ちょっと激しく動くと思うから、しっかり踏ん張ってて」

「っ!」

 少し気持ち悪そうにしている鈴に注意を伝え、どこかに叩きつけようとする大蛇の追撃を妨げるべく、魔力を動かして減速させる。

 他の方向に叩きつけようとしているのか細かく向きを変えるのが面倒だが、横向きに噛み付いてきた大蛇のあごを両手で抑えつつ、時間を掛けて魔法を発動。

 首のあたりを左右から挟み、思ったより硬いようで少しずつしか進まないが、確実に斬り進めていく。半分を超えたあたりで、暴れた大蛇自身の力で頭が千切れ、頭の無い胴体が海上をのたうった。

「おしまい、かな?」

「……首を落としたのに暴れてるのは、何でかしら?」

「何でだろうな? 今までだったら終わってるはずだけど」

「まだまだ元気、って感じよねぇ」

 十秒、二十秒と時間が経っても、首のない大蛇は身体の一部を海の上に見せながら暴れ続けている。千切り取る形になった頭部は、他の魔物と同様に少しずつ崩れているのだが。

「……とりあえず、もう一方の端まで辿ってみるか」

「あ、双頭の蛇とかかもしれないってことですね」

「そういうこと。一応聞いとくけど、ここからじゃ見えないよな?」

「……見えないです。せめて汚れが浮かんでなければ、見えたかもしれないですけど」

「そっか」

 アニマの言葉に応じつつ、海上を跳ねるように進む。港の近くにいきなり水深何十メートルなんて箇所は流石にないため、【魔力知覚】だけで事足りる。

 そのまま岸から三十メートルほど離れたところで、先程の大蛇の尾というか、根本部分を発見した。水深三〇メートルほどの海底部分で、岩のような大きな塊から伸びている五本のうちの一本だったらしい。

 その塊は大雑把に見て直径二十メートル弱はあり、伸びている首のうち最も長いのが先程の大蛇。あとは五〇メートルほどのが二本と、三〇メートル程度の奴が二本で、短い奴の方が太くなっているようだ。

「何だこれ……? とりあえず潜って……む?」

 そのうち一本が潜望鏡のように突き出してから俺達を見つけ、それからすぐに他の蛇頭も一斉に俺達へと視線を向けてきた。同じ胴体から伸びているだけあって連携が取れているのだとは思うが、若干ホラー染みた光景だった。

「ぞわっとしたわよ、今の……」

「俺もだ」

「私もびっくりしました……あっ」

 先程の長い大蛇の胴体が、蛇ではなく鞭のように俺達へ向かって海面付近を横薙ぎに振るわれた。ひとまず、魔法を纏わせた鎌で迎え打つ。

「……やっぱ、結構硬いなぁ」

 一応半分ほどまで刃は入ったものの、斬るには至らず弾き飛ばされてしまった。

 根本の塊からは真上に近い海上へと降りた俺達に対し、今度は海中から首の一本が襲って来たので鎌を振る。

 図体が大きくても反射神経は優れているようで、振り始めたところで海中から来ていた首は引っ込み、今度は上から首のない一本が叩きつけにきた。先程切れ目を入れた箇所とは別の箇所なので、普通にやれば斬れてもまた半分程度だろうか。

 今度はきっちり斬り落とすべく正面から受け、海中に押し込まれることにはなったが、左手と鎌で挟みながら断ち切った。まぁ、他を斬るにも根本に近い方が楽だろうから、押し込まれたのも一石二鳥だ。

 成果は確認したので、魔力を集めながら鎧の向きを変えつつ、本体の方を見据えてみる。映像自体は大分暗めで、距離的な意味での視界も狭いが、魔力に頼らずとも魔物の本体は捉えられた。

「……玄武、でしたっけ? にしては随分と蛇が多いですけど」

「まぁ、その辺を模した魔物って可能性はあるかな?」

 本体からは、太さが四メートルほどはありそうな、亀に似た太い首が海中に来た俺達を伺っている。蛇に似た首を含めれば六本目である。

 大蛇の頭で食えない奴は引き寄せて大亀の頭で食う、という流れだったりするのだろうか? 俺達を叩き込んだ首無しの胴体もそうだが、首が残っている四本も逃げ道を塞ぐように囲んでいる気がする。

 俺達が乗っている鎧は内包する空気が多い、というより鎧の大半の素材自体が空気そのものの比重を保っているため、気密性と比重の関係で浮力が強く掛かる。周囲から集めている分でも足りるが、魔力を消費し続ける必要があるので、サッと〆るべく両手で大鎌を構えて突っ込んだ。

「──!」

 玄武もどきの方も鳴き声らしい何かを発しつつ大口を開き、多量の泡を発生させながら素早く首を伸ばした。

 俺達も負けじと、キャビテーションとかいう物理現象が起こる程度に素早く接近し、玄武もどきの口の内側、顎関節辺りに左肩を当てて位置をしっかり固定する。

 後は右手に持った鎌で中から上あごを深く斬っていくだけだが、一番威力のある聖属性を使っているのに、冷たいバターを常温の果物ナイフで切り分けるぐらいの感覚だろうか? 刃こそ進むものの、今一つ捗らない。

「──!? !?」

「んー……? 【魔力操作】で抵抗されてる、のかな?」

 蛇頭より強い抵抗を感じて、妙に斬れ難かった原因に思い至った。こんな抵抗もできるあたり、今まで戦った魔物と比べればかなり育っている部類なのだろう。

 大蛇の頭が後ろから噛み付いて引き抜こうとしたり、大亀の頭が舌で押し出そうとしているが、すべて無視。魔力での移動も合わせて留まり続け、暴れる大亀の首を少しずつ斬り進めていく。

 すると、上あごの八割ほどを斬ったところで魔力的な抵抗が消え失せ、残りはぬるっと刃が進んで一息に斬り離すことができた。

 残りの蛇頭達はと見てみると、斬ってもいないのにどんどん力が抜けていっているようで、この亀の後を追って力尽きそうだ。

「……崩れるまでは時間が掛かりそうだけど、これで終わり、かな。ま、大物は狩ったし後は話しながらでも狩れると思うから……黒木さん、もう質問大丈夫だよ」

「あ、ああ、そうか。…………まず、あたしの位置からだと正面の画面ぐらいしか見えないけど、あたしらはほんとに、あの港町に来てんのか?」

「そこから? ……言われてみれば、遊園地のアトラクションでそんなのもあったっけ」

 専用の映像を流しながらその場で座席が傾くだけ、といったアトラクションはどこかの遊園地で乗った覚えがある。

 鈴の疑念を解消すべく、後方の防音材の、外の音を拾うために切り分けてあった部分をいくつかまとめて引き抜いた。

 それだけだとまだ銀色の鎧しか見えないので、【固定】を調整して、光は全部と魔力を少しばかり通すようにする。雨天とはいえ昼間の水深三〇メートル程度というだけあって、舞い上がった砂に邪魔されていても、揺らめく蛇頭が少しは見える。

「……マジでか……マジでなのか……」

 鈴にとっては信じ難いものだったらしく、海中を見上げながら呆然とした様子で呟いた。


 例え話として。

 まず、神隠しが起こる空間のゆがみというのは、空中に浮かんでいる電話機のような端末でも思い浮かべてみる。この端末の認識、操作、動力の供給などは全て魔力、というより魔力を適切な力に変換させれば可能であり、適切に操作すれば空間魔法を発動できるわけだ。

 と言っても、操作法は端末から読み取れるし、魔力も自分なりに考えながら最適化を進めてくれるので、自前の端末を別個に用意することもできる。

 機械的な手段で事故を起こしたというのは、おそらく、端末の存在を認識する程度のことしかできていなかったのに──

「端末が耐えられないぐらいエネルギーを突っ込んで、操作案内をガン無視してランダムにボタンを押しまくっていた……とか、こっちの研究施設がどの程度の物かは知らないけど、そんなもんだと思うよ?」

 鈴は納得がいかない様子だったので、例え話で説明してみた。最初こそ手間取ったが、わかってしまえばそう難しくもない技術である。

「…………色々突っ込みたいところはあるが、そんな簡単なもん、なのか? エネルギーとかも大量に要るんじゃねえのか?」

「でなきゃ、そこらの森で自然にホイホイつながるわけがないし、今俺達がこの場に居られるわけもないよ?」

「そりゃ、そうだけどよぉ……」

 空間魔法によってこの場所まで来ていた、という事実は、以前も含めて二度経験してなお受け入れ難いものだったらしい。

「ああでも、今の例えで言う端末の操作方法がわかっても、何処にでも自由に跳べるわけじゃないけどね」

「……そうなのか?」

「繋がる先は相対的な座標って感じで……方角や向きは発動した時の向きに依存しないけど、変数だけを弄って目的の場所に繋ぐ、みたいな真似は難しかった」

「ふーん……? とすると、リビングで見せてたのがその確認作業か。あ、じゃあ響を助けてくれた時のは?」

 というと、先日異世界人ごとまとめて日本(こっち)に召喚した時の事か。あれは目的地を俺が設定したわけでもないので、更に簡単な話である。

「あれは穴が開いたままだったから、電話で言えば、適量の電気を供給して保留を解除したようなもんだよ」

「……もう少しこう、どうにかなんねぇか? その例え。そんな家電の操作ミスレベルの事で大惨事を引き起こしてたとか、受け入れたくねぇ……」

「そんな事言われても、わかり易いし、やったことは本当にそのぐらいだし……?」

「……ハァァァァ…………」

 物凄く深いため息を吐かれてしまったが、どうしようもない話だ。文句は事故を起こした連中に対して言ってほしい。家電の操作ミスを原因とした大事故というのも、他に例がないわけでもないのだし。

「あ、そろそろ閉じとくよ。マジックミラーみたいに一方通行とかはできないし、中はあんまり見られたくないからね」

 うんざりしたような顔の鈴に離れてもらい、防音材を戻して、【固定】も光を通さないように掛け直す。

 玄武もどきの体はまだ崩れきっていないが、そろそろ魔石を掘り出せるぐらいには脆くなっているだろう。

「……こいつを動かすのが人力ってのもびっくりだし、中身がこんな色ボケ連中だったってのもなぁ……」

「いや、色ボケて。……あれだよ。【伝達】使えば発してる言葉に関わらず意味が通じるのは教えただろ?」

「まぁ、聞いたな」

「互いに熟練してれば声を出さなくても話はできるし、距離が近いほど精度や情報量も増やせるから、こんな風にくっついてると便利なんだよ?」

「あぁ、連携のタネはそれか。そんなら、二人が着てんのも必要に迫られたからってことか」

「……」

「……オイ?」

 うしろめたさから、視線を逸らしてしまった。

 …………二人が自主的にやったことだけど、俺の趣味は間違いなく入ってるからなぁ……。

 俺が部屋着のままで乗り込んでいるように、二人が冬服のままだったとしても十分な連携がとれなかったわけではない。

 アニマは鎧の作成中に手の空いていたので、その最中にパーカーの中で下着を競泳水着に穿き替え、肩紐まで掛けてパーカーを脱ぐという形だった。

 鎧の作成を手伝っていたアンナの分は、アニマがまとめて持ってきていたので、俺が鎧の最終確認をしている間にさっと着替えていた。

 どちらも、俺が咎めなかった時点で、認めていたようなものである。

「まぁー…………ほら、タイムロスは特になかったしね。さ、魔石を回収しようか」

「はいっ」

「これなら、手だけでも大丈夫そうよね」

「……ハァ……」

 先程よりは短いため息を聞き流しつつ、微かに繊維的な繋がりを残す脆い残骸を掘り進めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ