俺の≪生物鑑定スキル≫によると、魔王はとてつもない善人でした
2作目で、まだまだ拙いとは思いますが、良ければお読みくださいね!
1/13 一部、修正しました。
俺は、勇者に巻き込まれて、異世界に来てしまったらしい。
そう、ひげがモジャモジャした神様に言われた。
「悪いが、ワシでは元の世界に戻すことはできん。チートやるから、まぁ頑張れ」
そんな訳で、俺は≪生物鑑定スキル≫というチートを貰った。
ちなみに、神様に使ってみた結果は、こんな感じ。
特徴:神様
人柄:わりと良い人(神様)
性格:甘いものが大好きで、お菓子を貢げば親切になるので、結構チョロい
現在の思考:ワシの失敗で異世界に連れてきてしまって、申し訳ない。
説明内容、ふざけてるんじゃ……。
どれくらい役に立つのか不安になるチートだな。
そもそも、生物鑑定という事は、魔物相手でも使えるのか?
でも、使えたとしても、魔物の性格とか分かっても、どうしようも無いな。
とりあえず、鑑定結果から、異世界に来た原因がこいつなのは分かった。
まぁ、反省している事だし、何より言ったところでどうにもならないだろうから、ひとまず許すとしよう。
……スキル使っておいて言うのもあれだけど、俺の≪生物鑑定スキル≫が使えるってことは、神様って生物なんだな。
次元を越えた存在、みたいなかっこよさ無いのかよ。
それに、自分の与えたチートで、チョロいとか書かれてるよ……。
チートとこの世界の服、そして少しの金(金を持ってるとか、俗物的な神様だな)を貰い、俺は街に降り立ったのだった。
とりあえず、自分の事も鑑定してみるか。
特徴:前の世界でも、この世界でも顔は中の上という残念なイマイ少年
人柄:それなりに善人だけど、ずる賢い
性格:美人なお姉さんに弱い
現在の思考:人の顔を中の上とか失礼な! いや、でも中の上という事は、平均より若干イケメンということか? なら、良いとしよう。
うーん、改めて何とも言えないスキルだなぁ。
俺の現在の思考が残念過ぎる事は、無かったことにしようかな……。
でも、人柄とその時の思考が分かるのは、慣れない異世界での対人関係に役立ちそうだ。
――そんな出来事が有ってから、早1ヶ月。
現在、宿屋で働いている。
宿屋を営んでいる夫婦は、人柄がまれに見る善人である。
わざわざ、鑑定スキルを使って、就職先を見つけただけ有ったぜ、二人ともめっちゃ良い人!
スキルを使うと、客について分かるため、仕事にかなり役立っていた。
面倒事を起こしそうな人は、泊めないようにしていると、宿は平和になったそうで、経営者夫婦にとても感謝された。
2人とも良い人過ぎるからなのか、以前はよく騙されていたそうで、宿代を払ってもらえないことも有ったらしい。
こんな優しい人たちを騙すなんて、けしからん!
最近は、うちの宿が安い上に、もめ事が起こらないと噂になっているらしく、泊まりに来る人が増えている。
そんな訳で、今日も残すところ1部屋のみだ。
しかし、泊まりたいという客が、現在2人居るのだ。
黒いフード付きのマントで顔を隠した怪しげな男と、キリッとした顔立ちに腰から剣を下げた男。
見た感じ、剣を下げた男の方が良さそうだが、一応鑑定してみる。
特徴:勇者
人柄:世界でも有数の悪人
性格:歯向かう者は、自分の強い能力で排除する。残虐無道。善人を演じるのが得意で、多くの人を騙している。おだてられると、調子に乗る。
現在の思考:あぁ、魔物の殲滅をしたい。いくら切り刻んで灰にしても、勇者であるオレがするなら全て正義。勇者ってマジで最高だな。
怖えぇ。
勇者超怖い。
俺、こんな奴に巻き込まれて、この世界に来たわけ!?
というか、こんな勇者嫌だよ!
こいつは、泊められないな……。
念のため鑑定して、本当に良かったよ。
人は見た目によらないって改めて感じたな。
もう1人の怪しげなフードの男を鑑定しよう。
絶対に勇者より良い人だろうけど、なんか怖くなったから、一応鑑定しておこう。
特徴:魔王
人柄:世界一と言っても過言では無いほどの、善人
性格:臣下の魔物のたちにも優しく、カリスマ性の有る人物。まさに、王の中の王。人見知りのため顔を隠している。現在、人見知りを治すために目下努力中。旅の理由は、人と触れ合い、人見知りを治すため。
現在の思考:この人に部屋を譲った方が良いのだろうか? しかし、この宿には心優しき者が集まると聞く。是非、この宿で旅の仲間を見付けたいのだが……。
まさかの魔王来たよ!
えっ、でも、魔王はすごい善人だよ!?
この世界、魔王と勇者を入れ換えた方が良いんじゃないか……?
明らかにミスキャストだろ。
「黒いフード付きマントのお兄さん、是非、泊まって下さい。剣を下げたお兄さんは悪いんだけど、部屋が足りないから、他の宿に行って貰えませんか?」
「あぁ、構わないよ。でも、他の宿を紹介してくれると嬉しいな」
勇者は青い瞳を細めて微笑んだ。
勇者が泊まる事を断ったけど、怒って無いみたいだな。
勇者の機嫌が悪くなって、俺が魔物の代わりに切り刻まれるとか、ごめんだからな……。
でも、何か怖いから、念のため、怒ってないか確かめておこう。
現在の思考:このチビ、ふざけるなよ。オレが泊まってやるって言ってるのに、フードの男を優先するなよ。マジ、ありえねー。
俺はチビじゃ無い!
この世界の人が、身長高すぎるんだよ!!
というか、言ってることと思ってること違いすぎて、怖いよ。
それに、勇者、怒ってるよ……。
切り刻まれたら、どうしよう。
……おだてたら、どうにかならないかな?
スキルによると、おだてたら調子に乗るはずだし。
「もちろん、宿を紹介しますよ。お兄さん、すごい強そうですから、うちみたいなボロい宿に泊まらせるのは、申し訳無いですし……。もっと高級な宿を紹介させて貰います」
スキルにずる賢いと言われた俺だ、上手く調子に乗せて、とっとと追い払うぞ。
「別に、強くは無いけど、そう言ってくれると嬉しいな。ありがとう。宿の紹介よろしくね!」
イケメン、滅びろ。
いや、そんなこと思ってる場合では無いな。
鑑定しないと。
現在の思考:へぇ、このチビにも分かるほど、オレは強いのか。まぁ、当然か。それに、このチビの言う通り、このボロ宿はオレには合わないな。高級宿に行くか。
だから、チビって言うな!
まぁ、上手くいったな。
意外とチョロかった……。
とりあえず、切り刻まれる事は無さそうだ。
よし、ぼったくりと評判の高級宿を特別に紹介してやるよ。
勇者を追い払う任務完了。
では、待たせてしまった魔王さまを部屋に案内するか。
「お待たせして、すみません。では、お部屋に案内しますね」
魔王さまは何かを言おうと口を動かしたのだが、結局声は出さずにこくりと頷いた。
何か問題でも有ったのか?
スキルで少し思考を読ませて貰うよー。
現在の思考:吾輩を泊めてくれる礼を言わなければならないのに、言えなかったぞ。申し訳ない。……部屋に着くまでに、どうにか話しかけなければならぬ。
「俺はイマイと言います。唐突ですが、お客さん、人見知りですか?」
知ってるけど、わざと聞いてみる。
「あ、あぁ……」
「何か言いたいことが有れば、自分のペースで良いので、おっしゃって下さいね! いつでも聞きますから」
お礼が言いたいことは分かってるけど、鑑定結果では人見知り克服中みたいだったから、言ってくれるのを、ゆっくり待つことにした。
ほんの少しだけ、ゆっくりと歩いたのだが、部屋についてしまった。
にっこり笑って、鍵を渡した。
お礼は、持ち越しかな?
「……か、かたじけない……」
「いえいえ、こちらこそ泊まってくださって、ありがとうございます。夕食時には、1階に様々な方が集まりますよ」
仲間を欲しがっている魔王さまに、さりげなく夕食の時に人が集まる事を教える。
そうしないと、人見知りなら人の少ない時間帯に食べに来そうだからね。
人で賑わってきた頃、魔王さまが気配を消すかのように、そうっと来た。
待ってました!
魔王さまに、俺はいそいそと話しかける。
「どうぞ、座ってください。何を食べますか?」
「……お、お勧めを……」
おっ!
今回は返事が速かったぞ。
「かしこまりました。……少しお願いが有るのですが」
「……?」
不思議そうにじっと見られる。
「俺も一緒に食事を取らせて頂いても構いませんか?」
すぐに、2回も頷いてくれた。
嬉しくて、自然と笑顔になった。
忙しい時間帯なので、経営者夫婦には申し訳なかったが、仲良くなりたい人がいる、と恐る恐る告げると、快く2人分の食事を渡してくれた。
流石、まれに見る善人だな。
魔王さまとの食事中、話していたのはほとんど俺だった。
でも、話している間中、こくこくと頷きながら話を聞いてくれたので、俺も楽しかった。
何より、食事の最後の方では、小さい声ながらも、相槌や質問をしてくれるようになった。
大きな進歩だ。
夕食を共に取るようになり、数日。
魔王さまはぼそりと告げた。
「……そろそろ次の街に旅立つ。世話になったな。とても、楽しかったぞ、ありがとな」
初めて見た魔王さまの笑顔だった。
しかし、それに対する感動よりも、魔王さまとの楽しい時間が終わることにショックを受けた。
最初は、魔王さまの人見知り克服の手伝いをしようと思っているだけだった。
俺の中で、魔王さまとの夕食は、いつの間にこんなに大事なものになっていたんだろう……。
しかし、旅立つということは、魔王さまはいつの間にか、旅の仲間を見つけていたのだ。
俺は、魔王さまに頼んで共に旅をさせて貰うことも考えたが、せっかくこの宿屋の経営者夫婦が頼りにしてくれているのだ。
突然来てしまった異世界で、何も知らなかった俺に優しくしてくれた経営者夫婦に、俺がここで働くことで恩返しがしたかった。
いろいろと考えたが、やっぱり俺が魔王さまに着いていく事は出来ない。
俺には、戦闘能力も無いから、旅なんて無理だろうしな。
魔王さまは旅立つ準備を完了させ、鍵を返しに来た。
その魔王さまの様子が、おかしい。
何か言おうと口を開いては、閉じるを繰り返すその姿は、初対面の時に戻ったかの様だった。
……まさか、俺が一緒に行きたいと思っていた事がバレたのか?
最近は普通に会話が出来ていたので、久しぶりに魔王さまに対してスキルを使った。
現在の思考:イマイを旅に誘いたいが、職を持っている者を誘う訳には……。しかし、言わなければ後悔するのも事実だ。どうするべきか。
魔王さまの思考を見て、呆然としていると、魔王さまがついに言った。
「吾輩と、旅をしないか?」
嬉しくて、顔がにやけた。
しかし、旅に出るわけにはいかない。
「ありがとうございます! とっても嬉しいです。でも、この宿屋が有りますから、行けません。ごめんなさい」
深く頭を下げた。
ぽんと頭に手を置かれて、驚いて顔を上げた。
顔を上げると、経営者夫婦が優しく微笑んでいた。
「この宿屋を思ってくれて、ありがとう。でも、イマイ、旅に行っておいで」
「そうだぞ。仕事ばかりしていたお前が、仲良くなりたいと言ったとき、嬉しかったんだぞ」
「奥さん、ご主人……。でも……」
「私たち、貴方の事は実の息子の様に思っているのよ。だから、たまには帰ってきてくれないと寂しいけど、やりたいことを精一杯やって欲しいわ」
「行ってこい。そして、いつでも帰ってこい、その友達と一緒にな!」
ご主人は荷造りしておいたぞと言って、俺の荷物を差し出した。
強く握った拳で、ぐいっと涙を拭い、にかっと笑う。
こんな優しい人たちに出会えて、俺は幸せ者だよ、なんて恥ずかしい事を考えながら、魔王さまと一緒に言う。
「行ってきます!」
こうして、俺たちの旅は始まる。
俺のスキルが想像以上に使えたり、あの極悪人の勇者と一悶着有ったりするのは、また別のお話。
感想、ダメ出しなど、下さると嬉しいです!
続編を書くか考え中です。
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