三話 ガイスト王国
大都市「ガイスト」
この世界にある二大都市の一つで王家であるガイスト家により統治された国。代々王家の者には不思議な力が宿り、その力により民を導き国を安定させていた。
そして、この国の中心にあるガイスト城の小部屋にて。
「ふむ、今しがた言った事は事実か?」
豪華な服を着た銀髪の女性。若くしてこの国の女王となったティアが、同じ髪をした妹であるスノウと呼ばれた馬車に乗っていた子の名を呼ぶ。
「姉さま!! あの方は魔獣から私達を守ってくださったのです!! ですから何も罪もございません!!」
「恐れながら、ティア王女……私も含め皆あの者に窮地を救われたのは事実。かの者をすぐに解放してください」
ネロが頭を垂れ嘆願し、王女の妹であるスノウも必死の目で姉を見る。
そして、国の王女であるティアは特に顔を変えず兵に命令を下す
「よかろう。その者と話しがしたい牢から出せ」
○
「おい、起きろ!!」
「あぁ……うるさい……こっちは疲れてんのにさぇ……」
牢屋の中で硬い石でできたベッドに座り靴の底をいじっていると、赤髪の女性が大きな声を出し私を呼ぶ。こっちはずぶ濡れのまま連れてこられ体が寒いのに……
牢屋の鍵が開き二人の兵を引き連れ赤髪の女性が入ってくる。どうやら私をどこかに連行するようで着いて来いとの事だった。
「ちなみにどこに行くんですか?」
「黙ってついてこい…それにしても、こいつはなぜ姫様たちと同じ髪を… 」
赤髪の女性が何かをつぶやく。同じ髪? そういえば、あの小さな子と私に剣を向けた二人って銀髪だったけど? ところで、なんでこの人こんなにいらついてんの?
「まぁいい、話しが終われば貴様など用などない!! 」
と敵意を出され、正直イラッとした。狼に襲われそうになったのを助けたのにこの人は!!
怒りをこらえつつ、彼女に私の荷物はどうしたか聞こうとしたが。彼女の腰に吊っていた袋を見てすぐにわかった。そこにあるなら……
兵が私を拘束しようと近づいてきた時、手を伸ばしてきた兵の手を掴み
「どっせい!!」
掛け声を出し背負い投げをして壁に叩きつけた。すぐさま二人目の兵が取り押さえに来るが、拳底で鎧の内部に強力な衝撃を与えて気絶させる。
「貴様!!」
残った赤髪の女性は腰にある二本の剣を抜いて私を切りにかかるが、私は目をきつく閉じて靴底に隠していた小さな弾を床に投げつけた。
カッ!!
地面に当たった弾から強烈な光が生まれ、目を閉じていなかった女騎士は目がくらみその場で目を押さえ立ち尽くす。
「くっ!? 一体なにが、目が!!」
閃光玉の光でいきなり視界を奪われ動揺している内に彼女の腰にある袋を奪い、袋の中には私の端末と宝石が入っていた。
牢屋から出てすぐに走る。赤髪の女性の叫びが後ろから聞こえたが無視して端末を起動し画面にパルトが出現した。
「数時間ぶりだな? どうだい? 異世界で逮捕された感想は?」
「馬鹿な事言ってないで、さっと逃げるよ!!」
とにかくここから出ないと本当に何されるかわからない。脱出道具を取り出そうとしたところでメールが届いていて早速パルトが読み上げる。
「「どうやら、面倒な事に巻き込まれたようだね?
そのままでは、包囲網を作られ逃走が困難だろう。この端末には既に城のマップはインストールをしている。」」
そう書かれ、画面にマップが表示される。マップには脱出ルートらしき矢印が記されているが。矢印は上に登る階段ではなく、足元にある鉄格子を示していた。
○
「も、申しあげます!!」
謁見の間にアンに投げられ気絶していた兵が慌ただしく入り息を大分荒げ、スノウやネロら騎士に向けアンが脱走したことが告げられる。
「な、なんだと!! 馬鹿者!! その者は我らを救ってくれた恩人だぞ!! すぐさま探しだせ!!」
ネロが兵達に指示をし、すぐさま城のあらゆる出入り口や窓が封鎖され。アンを捜索するのだがーー
○
「ぷはぁ!! くっさ!! 何もこんな所じゃなくたっていいのに!!」
下水道内の異臭に気分が悪くなり。悪態をつきながら錆び付いた扉を思いっきり蹴って壊すと夕日が見え牢屋に入れられて半日ぶりに外に出ることができた。
とにかくもう逃げた事は気づかれているはずなので、この異臭をどうにかする前に下水道から早く出よう。
「どうせなら、もっとましな道が良かった……」
「ここはまだ安全じゃないぜ? ほれ、早く行けよ」
この匂いが分から無いくせに……と思いながら。周りを警戒しつつ進むが
「あ、取られた武器忘れた…まぁ、いいか…」
城に連行された際に没収されたグレネードランチャーとウォータカッタ―のことを思いだすがさすがに城に戻るわけにはいかず。道具のことはあきらめ先に進むことにした。
今いる下水道の出入り口の近くに橋が見え、身を隠すために橋の下にもぐって身を隠し。
端末から出した服に着替え消臭剤を使い体中の異臭を少しでも消そうと頑張っていた。既に日は落ちて夜空には星が浮かぶ。
「って、やば…」
橋の上に人の気配を感じいくつかの足音が聞こえ過ぎ去っていく。
……やっぱり、私を探してるよね? これ?
兵士を気絶させて城から脱獄したらさすがにそりゃこうなるよな……と考えつつ。目立つ銀髪を隠すため赤色で長髪のウィッグをつける。
「さて、どうやってこの国から出ようかな…」
こう警戒が強いと当然、正面の門も兵が多いことだし。
橋の上に立ちあたりを見る。木で作られた家々が並び、道の端には明かりのためか火が灯ったカンテラがいつくつか置かれて、現代社会では見られない光景に自分は異世界にいる事を改めて再確認してしまう。
「は、離してください!!」
「ん?」
突然後ろから幼い声が聞こえた。黒い外套を身につけた男三人に一人の少女が囲まれており、少女は短く赤い髪をして、手には大事そうに籠を体に抱いて守っていた。
「こんな所でカツアゲ?」
次から次に、と思いため息をつきながら、腰に吊っていたホルスターから銃を抜いて弾を確認する。マガジンに致死性が無い麻酔の弾が装填されているのを確認し男達に気づかれる前に音を立てずに近づき、引き金を三回引いて乾いた音が鳴る。
ドサッ
麻酔弾が命中し三人は直ぐに気を失いその場に倒れ込む。
「え? あ…?」
いきなり男達が倒れた事に驚いている少女が私の事に存在に気づいて目が合う。少し怯えている彼女に「夜は危険だから、気をつけてね?」と安心させるため笑顔でそう言ってさっさと立ち去ろうとしたら。
「ま、待ってください!! きゃ!!」
「え? うっわ!!」
私に向かって走ってきた赤髪の少女が転びそうになり受け止める。小柄で軽かったので私も一緒に倒れる事はなかった。
「大丈夫? 怪我ない?」
「は、はい…ご、ごめんなさい…」
「それじゃ、私はここで…」と言い彼女と別れようとしたが、遠くから幾つかの明かりがこっちに向かっているのが見えた。さっきの少女の叫びにきずいたのか、数人の兵士が近づいてきた。
「なんだ!? 貴様何者だ!?」
倒れた男と、私を見て兵が槍を向けてくる。こうなったら強行で、と思っていたら私の前に少女が立って。
「待ってください!! この人は私の所のお客さんです!!」
少女が叫び、兵達はその言葉を受け一瞬驚いた顔をしたが。すぐに私から槍を下ろすのであったーー