第二十二話
「ツツナさん」
「ロクか。 状況は分かっているな、この地区にいる異法使い、魔術使いは皆殺しにして良い」
「了解」
アジトへ戻る途中、何人かの異法使いと何人かの魔術使いを殺して進んでいた僕は、その道中でツツナさんを見つけた。 声をかけるとすぐにそう返事があり、どうやらもう戦闘は始まっている様子。 やっぱりポチさんやルイザさんがいないと、とことん纏まりがないなぁ。 みんな、好きなようにやってるみたいだし。
「一緒に行動するぞ。 敵は異法使いがおよそ三百、魔術使いは四百五十ほどだ」
「よし、それじゃあこうしようよツツナさん。 どっちが多く殺せるか勝負」
「……くだらない。 勝手にやってろ」
「ふふ、それじゃあそうするね」
言い、僕は前を見る。 前方に構えているのは、異法使いと魔術使いの群れ。 リンさん姉妹はペアで行動だろうし、ハコレさんとカクレさんもペアだろう。 となれば、僕とツツナさんもペア行動になるんだけど。
「ふふ、ふふふふ! あーあ、かわいそう。 くじ運最悪だよ、君たち」
さぁ、たくさん殺そう。 殺して殺して殺し尽くそう。 異法使いと言えど、僕の邪魔をするなら敵だ。
『ツツナさん、ロク、聞こえる? 聞こえてなくてもまぁ良いや! 一応さ、こっち側に付いてる異法使いもいるっぽいんだけどどうしよ?』
「鈴か。 どのくらいの規模でいる?」
ある程度の数を減らしたところで、僕とツツナさんの通信機に連絡があった。 ちなみにこの時点で僕が二十三のツツナさんが三十七。 結構不利な状態だよ。
『そこまで多くはいなさそうかなぁー。 見た感じ数十人程度? 避難してる人もけっこーいるっぽいし、全員が全員裏切ったってわけじゃないね』
「……裏切りか。 いや、元々そうは言えないかもな。 他の奴は無事か?」
『問題なし! でもさ、一人相手に変なのがいるんだよね。 魔術使いっぽいんだけど……なんか頭おかしそうなの』
「頭おかしそうなの? それってポチさんのこと?」
『いやいや、そうじゃないってロク。 ポチさんともまた違う感じ。 なんて言えば良いんだろ……とりあえずカッコイイ!!』
リンさん姉はどう説明しようかと考えている様子で、そんな不可思議な報告に僕とツツナさんは顔を見合わせる。
そのときだった。
「対象はっけえええええええええええん!! 貴様等だなぁ! 異法使い、異端者のツツナとロクぅ!!」
「……うわ、なんか来たよ」
建物を破壊し、目の前へと姿を現す人物。 西洋系の甲冑に身を包み、その顔も西洋系の兜で隠されている。 背中側には僅かに見えるが、剣のようなもの。 明らかに場違い……って感じの男。
「拙者はアルデルト・ヴァリアント!! 親しみやすいようにアルデルトと呼ぶが良いッ!!!! 魔術使いにして、騎士ッ!! 魔術騎士とは拙者のことだッ!!」
「……見た目からして我輩って言いそうなのにね、拙者なんだ。 もしもーし、リンさん?」
『あー、聞こえてる聞こえてる。 たぶんそれだよ、さっきアタシが言ってたの。 まぁ超カッコ良かったんだけど面倒くさそうだったからアタシは放置してたんだよね、そっちいったならもう任せちゃっていい?』
「チッ……次からしっかり殺れ、鈴」
『あいあい、りょーかい!』
リンさん姉ですら面倒だと思うって、どれだけなんだろ。 まぁ任されちゃったし、向こうの狙いも僕たちみたいだし。 こうなることは決まっていたのかもしれないけどね。
「おい貴様等ぁ!! 拙者が名乗りを上げたのに名乗らないとは何事かッ!! エリザ様親衛隊、第一兵隊兵隊長、アルデルト・ヴァリアントに対する不敬と捉えるぞッ!!」
「やっかましいなぁ……ツツナさん、任せても良い?」
「ふざけるな。 俺にあの馬鹿の相手をしろというのか、ロク。 お前も手伝え」
「……はぁ。 分かったよ、早く殺しちゃおう」
まったく、これだと貧乏くじを引いたのはどうやら僕たちみたいだ。 そりゃ、ここまで無傷で来ているのだからそれなりに強いんだろうけど。 それでも僕とツツナさんが一緒にやって、相手になるのかどうか。
ああ、けどあれだね。 油断は禁物だ。 腐っても魔術使い、相手が誰であろうと、油断はしない。
「おじさん、今回のコレって、おじさんが指揮を執ってるの?」
「おじさんでは、ないッ!!!! 拙者はエリザ様親衛隊、第一……」
「黙れ」
「うおっ!?」
アルデルトと名乗った騎士に向け、ツツナさんが容赦なく瓦礫の塊を頭上に出現させる。 アルデルトはそれを見て、叫び声に似た声をあげた。 避けようとしない……というか、驚いて体が固まっていたように見える。 本当に戦えるのかな、この人。 そのまま見事に押し潰され、数秒が経過する。
「うぉおおおおおぁあああああああああああああああああ!!」
と、再び叫び声。 そして、瓦礫の山は吹き飛ぶ。 その内の一つが僕の真横を通り抜け、後ろの建物へと命中した。 攻撃というわけじゃない、それに食らっても問題ないや。
「口上の途中で攻撃を加えるとは何事かッ!! ツツナと言ったな、貴様ッ!! 貴様だけは絶対に許さんッッッ!!!!」
「それは面倒だな。 ストーカーは生憎募集していない」
「まずは貴様からだッ!! 魔術ぅ執行ぉおおおおおお!!!!」
言いながら、アルデルトは背負っていた剣を構える。 すると、その剣の刀身を炎が包んだ。 見た目は騎士でも、中身はやっぱ魔術使い。 一応は魔術を扱えるみたい。
「行くぞ、戦友! 爆ぜろ、炎剣レーヴァテイン!!」
声に反応するように、剣は激しく燃え上がる。 そして騎士は一歩、踏み出す。
「炎、獄、楼、斬ッ!!!!」
「お」
アルデルトは僕とツツナさんの位置から数歩先まで距離を詰め、剣を振るう。 すると、剣に包まれた炎は僕とツツナさん目掛け飛んだ。 それを僕は左へ、ツツナさんは右へと飛んで回避する。 威力もなく、早いわけでもない。 見てから避けるのは容易いか。
「よっし、じゃあ僕からね。 異法執行」
指を噛み、自らの血を飲む。 そして、僕は異法を執行する。 異法使いから法使いへ。 さっさとケリを付けてしまおう。
「貴様はあとだ子供よ!! 遊んでいる暇は生憎拙者にはナシッ!!!!」
「子供じゃないってば。 もう、みんなそう言うから嫌なのに。 頭きた」
目標を正確に見る。 頭、首、胴体、腕、腰、足、手、露出している部分はなし。 なら、もっとも薄いところを狙おう。 この場合、装甲からして薄い部分は。
「首かな」
「むっ!?」
アルデルトの背後まで瞬時に移動し、僕は首目掛け蹴りを放つ。 当然、警戒をしながら。 法使いの状態では、攻撃を食らえばひとたまりもない。 こっちのときは警戒を最大限して動いている。
だが、それも必要のなさそうなことだった。 アルデルトは回避どころか防御もできず、その蹴りをまともに食らう。 大きな図体と甲冑によって重量ある体は軽々と吹き飛び、側面にあった廃墟へと勢い良く突っ込んだ。
「……死んじゃったかな?」
僕は煙が立つそこを見ながら、呟く。 だが、数秒後にその廃墟から人影が現れた。
「認めようッ!! 貴様も強敵だ、ロクと言ったか!!!! 拙者の相手として不足なしッ! 無礼な発言を詫びようッ!!」
変わらず、大声でアルデルトは叫ぶ。 いちいちほんとうるさいな……。 でも、正直驚いたよ。 蹴りを手加減したつもりはないし、殺すつもりでやったのに。 まるでダメージが通っていないみたい。
「炎剣よ、ゆくぞッ!!」
「ロク、気を付けろ」
アルデルトが構えると、ツツナさんが僕に声をかける。 珍しいなと思い、同時にアルデルトの動きに注視する。 ツツナさんがそう言うってことは、さっきよりも早いか強いか、いずれにせよ警戒するに越したことはないね。
「炎、獄、楼、無ッ!!!!」
「ちょ」
僕の体が影で覆われた。 そう思った瞬間には、アルデルトは目の前に居たのだ。 さっきとは比べ物にならない速度、マズイ。
「うぉおおおおおおお……」
「……」
だが、どうやらこの男は馬鹿だ。 さっさと剣を振り下ろせば良いものを何やら大きな溜めを作っている。 僕はそれを見て、後方へと飛ぶ。 丁度、ツツナさんの真横へと着地した。
「ふんッ!!!!」
「ッ!」
しかし、どうやらその溜めには意味があったかも。 まるで地震のような大きな揺れ。 地面は割れ、その割れた隙間から地下を通った炎が噴き出している。 あの一撃はさすがに、食らったらヤバイかもね。
「うるさい奴だ。 少し黙れ」
「あれ、怒ってるの? 珍しいなぁ」
明らかに苛立っている様子だ。 ツツナさん、静かな方が好きだから仕方ないかも。
「異法執行」
「ぬおっ!?」
ツツナさんが消え、そこには石ころが現れる。 同時、アルデルトの真横へツツナさんの姿が出た。 そして、ツツナさんはアルデルトの甲冑の隙間に指を差し込む。 アルデルトの肉体に触れたのだ。
「消えろ、ゴミ」
ツツナさんの異法を使えば、どこか遠い場所へ飛ばすのも容易い。 ツツナさん自体はどこへ飛ぶのか分からないが、生物であるあの騎士を無力化できるのは間違いない。
……が。
「ふんぬッ!! 甘いぞ異法使いツツナぁあああ!! その程度の攻撃で拙者を仕留められると思うなよッ!?」
「……なに?」
腕を振るい、それを見たツツナさんは再び僕のところまで退避する。
しかし、どうしたものかな。
「貴様等はここで拙者がたおおおおおおすうううううう!! このアルデルト・ヴァリアントの名の下に!! 親愛なる王女、エリザ様の名誉と誇りを守る為にッ!! アルデルト・ヴァリアント、押し進むなりッ!!!!」
この魔術騎士様、どうやら異法が効かないようだ。




