第九話
その光景は、伝わる話によれば異常なものだったらしい。 九人の異法使いを囲んでいた約百人……正確に言えば九十人だったらしいが、それら全てが一歩も動けず、跪いたという話だ。 そして、同時に潰されたのが五十人。 あっという間の出来事だったという。
後に第一学園襲撃事件と名付けられたそれは、法使いたちが思い描く異法使いのイメージを塗り替えた。 それまでは弱者でしかなかった異法使いを恐怖し、怯え、そして屈服する。 それらのイメージをほんの少しでも脳裏に描いたという。
異法使いの集団、異端者と言われるその集団は堂々とその包囲を突破する。 そして校門を出た直後、その姿は幻のように消え去ったとのこと。
「興味をそそられるね、これ」
「……異法使いを甘く見過ぎています、俺たちは。 あいつらの力は俺たちの想像の遥か上を行っている。 それが追い詰められて得た能力なのか、それとも元々あった力なのか、分かりませんが」
「どっちでも良いよ、そんなの。 数多支部長、異法使いに対する取り締まりを強化しよう。 報告ご苦労」
「はっ! では失礼します、凪第一部隊少佐」
第一学園襲撃事件に関する報告書。
十月十四日、午後十二時十九分、異端者と思われる集団が法執行第一学園を襲撃。 同時刻、学園内に居た生徒、及び教員を無差別に攻撃。 襲撃者の数は九名、その全てが異法使いと思われ、子供と思われる人物から二十を超えている者まで確認。
空を飛ぶ異法、通称天狗と呼ばれる異法使いが上空からの視察後、屋上部から学園内に侵入。 同時に正門から五名の異法使いが侵入。 屋上部では矢斬戌亥という名の生徒が、正門部では幸ヶ谷小牧という名の生徒がそれぞれ応戦。 更に同時刻、校舎四階に異法使い二名、異法使いランク二位と三位が突如として現れる。 これに応戦したのは凪正楠、そして生徒会長を務める赤城風夜と、生徒会書記を務める間宮由香奈。 凪正楠は異法ランク二位と、赤城風夜及び間宮由香奈は異法ランク三位に応戦した。
結果、幸ヶ谷、凪、赤城、間宮、以上四名は負傷。 内二名、間宮由香奈は右目を失明し、幸ケ谷小牧は内部器官に甚大なダメージを負う。 幸ヶ谷小牧に関しては治療の目処は立ったが、間宮由香奈に関しては治療不可との判断。 現存する法使いの力では、自然治癒できる範囲の負傷にしか対応できず、本人の精神的ダメージのケアに務める必要があり。
他、全生徒、及び教員八百名の内、負傷者の数は軽症者も含め約七百。 死者は六十八名。 生徒らの肉体的、精神的ダメージは計り知れず、一週間が経過した現在も第一学園の再開時期は不明。 事件の一報を聞きつけたD地区支部から法使いを九十名派遣したが、そのうちの五十名が死亡。 これは異端者のリーダー格、通称ポチと呼ばれる男によるものと断定する。
同時に、各報道機関への規制をするも、目撃者が多く、事件の真相は漏洩。 社会的にも異法使いに対する恐怖心が増幅しつつある。
以下、襲撃者、異端者に関する情報。
異法使いランク九位、本名不詳。 箱面と呼称する。 背が小さく、内気な少年との情報あり。 紙袋でできた覆面を付けて行動、恐らくは今回の事件の輸送係かと思われる。 空間に穴を空け、それにより瞬時の移動を可能としている。 異端者が我々の包囲を突破した際、校門になんらかの異法を執行し、集団を移動させたと思われる。 今回の事件を経て、異法力Bと認定する。
異法使いランク八位、本名不詳。 赤目と呼称する。 他の者とは違い、面を付けずに行動。 赤い目が特徴で、顔立ちが似た者が他に一名あり。 言動及び行動は短絡的、かつ暴力的。 以下に記載するランク七位とは血縁関係があるかと思われる。 今回の事件を経て、異法力Bと認定する。
異法使いランク七位、本名不詳。 童子と呼称する。 八位同様、面を付けずに行動。 ランク八位と顔立ちが似ており、言葉数は少ない。 計算高い行動が多く、八位と行動を共にしているとのこと。 八位が体、七位が頭脳を補っている。 今回の事件を経て、異法力Bと認定する。
異法使いランク六位、本名不詳。 通称、天狗。 天狗の面を付け行動。 飛行を可能とする異法を使い、今回の事件では上空からの視察、及び襲撃を行っていた。 身体能力も高く、暴力的な人格。 この異法使いに関しては被害が多く、早急な対処を求める。 得られた情報を元に、異法力Aと認定する。
異法使いランク五位、本名不詳。 金髪碧眼の女。 通称、碧眼。 白狐の面を付け行動。 幸ヶ谷によるとランク四位との戦闘中に突如として現れ、同時に体の自由が一切効かなくなったとのこと。 行動を制限する異法を使うと思われる。 得られた情報を元に、異法力Aと認定する。
異法使いランク四位、本名不詳。 通称、刀手。 口元を隠すスカーフを付け行動。 頻繁に起こっていた殺人事件で天狗と共に殺人を犯していた異法使い。 この異法使いの能力は『身体構築』というもの。 基本的には腕を刀として扱っているが、その言動から別物質に作り変えることも可能と思われる。 先の事件では幸ヶ谷小牧と戦闘を行い、幸ヶ谷に重傷を負わせる。 変わらず、異法力Aと認定する。
異法使いランク三位、ロク。 本名は不明だが、ロクという名で呼ばれていた年端も行かぬ少女。 狐の面を付け行動。 通称、狐女。 今回の事件では残虐的な性格を見せ、赤城風夜に軽傷、そして間宮由香奈に失明の重傷を負わせる。 危険性、残虐性、戦闘能力、全てに置いて危険な存在。 以前の情報では戦闘能力は低いと明記されていたが、今回の事件での行動から考えるに、戦闘能力は他の者と比べれば突出していると思われる。 使用する異法は『状態の反転』とのことだが、詳細は不明。 行使された間宮が法使いではなく生身の人間となり、そして事件が終わる頃には元の法使いに戻っていた。 能力の特異性、及び危険性から、今回の事件を経て異法力Sと認定する。
異法使いランク二位、ツツナ。 三位同様に本名不詳、他の異法使いからは三位同様、ツツナと呼ばれていた。 年齢は二十代後半と思われ、その顔は、右半分を骸骨の面で覆っている。 戦闘能力は極めて高く、学園内でもっとも実力のある凪正楠を打ち負かす。 凪によると攻撃がまったく効かず、凪の法『時間』ですら効かなかったとのこと。 三位同様、今回の事件を経て異法力Sと認定する。
異法使いランク一位、ポチ。 異端者のリーダー、そして今回の事件を指示したと思われる張本人。 能力、顔、年齢は以前として不明。 校庭での遭遇時に声を放っていたが、恐らく変声機か、もしくは異法が使われており、正確な情報は不明。 しかし、身長からするに少年かと思われる。 身長は百六十後半、細身、上記に記載した異法使いをまとめている存在ということから、戦略的な面でも長けている。 もっとも危険な存在と同時に、その能力は未知数。 我ら法使い九十人による包囲を軽々しく突破し、そして姿をくらました。 長距離から最新型狙撃銃ランドフの狙撃を受け、無傷。 及びグラウンドに落ちていた小石で狙撃班、草部一等を殺害。 鹿名一等による攻撃で右腕を失うも、瞬時に修復をした。 所有する異法はひとつではないと思われる。 最優先排除対象と同時に、将官級で対処できるか不明。 猫の耳に犬の顔をした面を付け行動。 学園内の情報、及び執行機関の内部情報を得ていると思われ、内部に仲間を得ている可能性もあり。 事件後は息を潜めているが、再びの襲撃の可能性を考え早急にその正体を暴く必要あり。 しかし一方で、その危険度から無闇に手を出すことを禁じる。 異法に関しては詳細は不明だが、重力操作、身体修復は確認済み。 他にも異法を使える可能性が大いにあり、最大の危険度を持っていると思われる。 そのため、現時点では異法力測定不能とし、暫定的に異法力SSとする。
以上、法執行第一学園襲撃事件に関する報告書。