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異法使いのポチ  作者: 枚方赤太
三章 神罰
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第十五話

 強制されているわけではない。 そして、この動きは大きな組織的な動きだ。 たまたま、偶然、奇跡的に。 そういった運の要素が含まれる類のものではない。


 僕たちの動きを予測し、そして理解し、襲撃を仕掛けてきた。 魔術使いがこの動きに噛んでいるのは前提として、異端者以外の異法使いにも根回しをしておいたってことか。 そのおかげで、こうして大規模な戦闘に持ち込み、奇襲を仕掛けることができた。


 異法使いすら、最早敵か。 そうなってくると話は少しややこしい。 魔術使いなら、攻め入ってくるとしたら外部からの侵入になる。 少数ならばそれもカモフラージュできるかもしれないが、大人数となれば話は別。 しかしそれを可能とするのは、内部にいる異法使い。 彼らは僕たちが根城としているX地区にも、未だにいる。 奇襲からの奇襲、それが狙いか。


「魔術使いに肩入れか、異法使いが」


「今更何を。 あんたらみたいに復讐に囚われないだけ、マシだと思って欲しいわ」


「マシねぇ……なら質問を変えるよ、悔しくはないわけ? 君たちも異法使いなら、法使いにいろいろされたと思うんだけど」


 時間稼ぎというわけではなく、単純に興味があった。 それに、無駄に殺したってさっきの異法で変えられてしまえば、ただ単に体力の浪費でしかない。 まだまだ戦わないといけない僕としては、それも避けておきたいしね。 目の前に居る人たちも目的は僕の足止めなんだし、お互いメリットになっているこの状況で、仕掛けてはこないだろう。


「どうでも良いわよ、そんなこと。 あんたらの所為で苦しい思いをしている奴だって沢山いる。 あんたらが法使いに喧嘩を売るから、法地区への立ち入りは禁止にされてる。 あんたらが自己満足のためにやっていることで、一体どれほどの異法使いが苦しんでいると思っているの?」


「さぁね。 聞いたことはないから分かんないや」


「殆どよ。 それで、あんたらを恨んでいる。 あんたらの敵は法使いと魔術使いだけじゃない……異法使いも、最早敵なのよ」


 それを聞いたとき、僕は真っ先に「望むところだ」と思った。 喧嘩を売られたなら買えば良い。 殺されかけたなら殺せば良い。 世界は思ったより単純にできているんだ。 そしてこの世界には二種類の人間しかいない。 法使い、異法使い、魔術使い、そんな括りではなく、もっと単純なもの。


 殺される側と、殺す側。 たったそれだけで、人間は分けることができてしまう。


「それは残念だよ。 僕としては同じ異法使い同士、仲良くしたかったのに。 でも仕方ないよね、僕たちはいつでも殺す側に回るんだから」


「あんたたちを同じ異法使いだとは思いたくないわ。 この化け物ども」


「……だから、僕はそうかもだけど、みんなは違うって」


 言って、先ほど仕舞った狐のお面を取り出した。 それを顔に着けると、心は落ち着いた。 落ち着きつつも、体は熱を持っていた。


 やっぱり駄目だな。 僕のことは結構どうだって良いんだけど、みんなのことになると駄目なんだよ。 聞きたいことは聞いた。 知りたいことも知れた。 異法使いの中には、僕たちを敵と認識している存在が多くいることも、理解した。


「だったらもう、君に用はないや――――――異法取り消し」


 瞬間、僕の体は熱を感じる。 久し振りに、自分にかけている異法を解いた。 法使いへの切り替えでもなく、何も纏っていない状態は随分久し振りのもの。 風は心地良く、日射しは強く、気温は高く、埃っぽいこの空気だ。


 さて。


 この人たちの異法は一体何か、僕は一体何をされたのか。


「ハコレさんのことを誰一人として追わなかった」


 不自然にも、最初から僕に狙いを定めたように。 通り過ぎるハコレさんに一人くらい付けても良いはずなのに、それをしなかった。


 否、しなかったのではなく()()()()()()んだ。


「不自然なんだよ、お姉さん。 ハコレさんはああ見えてとっても冷静なんだ。 だから、この大人数相手に僕一人を置いていくってことはしない。 なのに、問題ないと判断して置いていった。 どうしてか? 簡単だよね」


 狐のお面の下で笑う。 それを見た女は、一歩だけ後退りをする。


「僕とハコレさんで、見えていた光景が違ったからだよ。 そうだよね、手品使いのお姉さん」


 幻覚。 それがこの異法だ。 恐らくは光を捻じ曲げ、幻覚を作り出している。 同時に僕の意識も多少捻じ曲げているのだろう。 そういう点で見れば、ルイザさんの異法に近いのかな、これは。 しかしそうだとしても、これだけ完璧な幻覚を作り出す異法は強すぎる。 僕とかツツナさん、ポチさんは言わずもがなだけど、そのくらいのレベルに到達しなければ使うことなんてできやしない。 なのに、この女の人はそれを使っている。


 可能性として、何かしらの条件、制約があるはず。 それはきっと、僕にだけ有効な条件だ。


 ハコレさんではなく、僕に異法をかけた。 ハコレさんは見逃し、僕は見逃さなかった。 僕とハコレさんの、決定的な違い。 異法は勿論違う、背も、性格も、性別だって違う。 だけど、そんなことではなく、もっと決定的なもの。 この幻覚の異法をかける上で、必要な条件を僕が満たしているのだとしたら、それは。


「ふふ、ふふふ。 必要なのは、()()だ」


 異法使いなら、僕という異法使いの異法は知っているだろう。 ならば、それがどんな効果を生み出すかもある程度は知っている。 文字通り、僕の異法は完全逆転。 有を無に変える異法で、あらゆる攻撃は僕の前では無となってしまう。 でも、それは物自体を消すわけではなく、普段使っているのは痛覚の無効化が基本にある。 なら、この人の異法はそれがトリガーとなっていると考えよう。


 痛みを感じた瞬間、幻覚の異法は消え去る。 そして同時に、恐らくこの幻覚によって作り出された物体から攻撃を受けても、なんらダメージはないはず。 普通の人ならそこで違和感を覚えるけど、僕の場合は万が一攻撃を受けたとしても、違和感は覚えない。 目的が足止めで、対象が僕だからこそ最高の力を発揮できる異法か。


「……さすがね。 でも、どうしようもないわよ。 実際に攻撃を加えなければ、この異法は解けない。 それにあたしが攻撃したとしても、異法を解いてるあんたには致命傷となってもおかしくはない」


「確かにそうだね」


 この女の言う通り。 一体本当は何人居るのか分からないけど、本物の敵が攻撃を加えてくることはなくなった。 目的は僕の足止めが主軸にあり、それでもしも殺せるのなら大手柄というわけ。 だったらまず、攻撃を仕掛けてくることはないだろう。 仕掛けてくるとしても、確実に殺せると判断したそのときだけ。


 でも、方法がないわけじゃないんだよ?


「気が変わったよ、おねーさん。 少しなら遊んでも良いと思ってたんだけど、所詮やっぱりその程度の異法だったってこと。 もう、飽きちゃった」


 僕は言い、左腕を伸ばす。 真横に向けて真っ直ぐと。 それを見て、女は怪訝な顔をした。 それももしかしたら幻覚かもしれないけどね。


「あんた、何を……」


「必要なのは痛み。 ふふ、だよね?」


 だったら、痛みを与えれば良い。 僕はそのまま、右手で左腕を力任せに叩く。 すると鋭い痛みと鈍い音が聞こえ、僕の左腕は肘から先が逆方向へと曲がった。 激しい痛みは、頭に響くようだ。


「ッ……」


 さすがに痛いな。 こんな痛みを感じたのは、やっぱ久し振りだよ。 本当に、懐かしい。


 僕はキツく瞑った目をゆっくりと開ける。 すると、先ほどまで僕のことを囲んでいた大勢の人間は消えていた。 居るのは、前方に居る五人だけ。 たったそれだけ、本当にナメられたものだよ。


「さてと。 君たちはどんな風に殺されたいのかなぁ?」


 僕は笑って、地面を蹴った。

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