表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異法使いのポチ  作者: 枚方赤太
一章 終世
8/126

第八話

「ポチさん、お疲れ」


 昇降口を出たところに座っていた俺は、後ろからかかるそんな声に顔を向ける。 すると、見慣れた小柄な小さな少女が居た。 その横には、相変わらず身長が高いツツナだ。


「おうお疲れさん。 やっぱ集まるのが一番はえーのはいっつもお前らだな」


「……お前に言われてもな。 大体遅刻の常習犯はお前だぞ、ポチ」


「そうだっけ? 都合が悪いことは忘れる主義なんだよね、俺」


「あ、僕と一緒。 そっちの方が楽だし落ち込まないから。 それより他のみんなは?」


 ロクの言葉を受け、俺は上を指す。 上空から来る奴なんて多分一人で、俺たちの中じゃロクについで喋るのが好きな奴だ。


「おっまたっせ! と……うわ、ロクとツツナもういんのかよ? 相変わらずどんだけ集まり良いんだっての」


「お疲れさん、天上。 みんな来るまで休んでいいよ」


「言われなくてもっと。 あー疲れた」


 天上は言い、俺の横へと腰かける。 こいつとは歳が近いおかげもあり、わりと気さくに話せる仲だ。 ツツナの場合は上だし、ロクは下になっちまうからな。 ちょっとヤンキーっぽい奴だけど、根はわりと真面目だったりする。


 その時点でふと後ろを見ると、ロクがなんともいえない顔をしていた。 狐面をつけているが、雰囲気で分かる。 まったくガキだねぇ、なんて思い、俺はロクに声をかけた。


「ロク、お前も座っとけ。 なんかイラつくことでもあったんだろ」


「……うん、了解」


 と、ロクは言うとぱたぱたと小走りで俺の前へくる。 そして、俺の膝の上へと腰をかけた。


 ……そこに座るのはちょっと想定外だな。 ま良いけどよ。


「いやぁ遅れた遅れた。 あれ、なんだみんないんじゃん。 おいルイザ、お前が喉渇いたとかいうから遅れたじゃねえかよ!」


「は? あんたが無駄に法使いの女を口説くからでしょ!? 私に原因擦り付けてんじゃないわよ」


 んで、いつものように言い争いをしながら現れる仲が良い二人。 霧生とルイザだ。


「お疲れ、ルイザに霧生。 楽にしといてくれ」


「お疲れ様です、ボス。 ……ほらあんたも頭下げなさいよ!」


「別に良いんだって! 俺っちとボスは超仲良いからっ! ね、ボス」


「ん? 誰だっけ、君」


 なんて冗談を言うと、霧生は「そんなぁ!」とリアクションを取りながら俺の体を掴んでくる。 ちょっとだけ強い香水の匂いが、俺はわりと好きなんだ。


「冗談冗談、ほら二人とも楽にして良いぞ。 ところでツツナ、ハコレとカクレは?」


「ハコレは具合が悪いと言って帰ったぞ。 カクレなら、さっきからそこに」


 ツツナは言うと、俺の横を指差す。 天上の方ではなく、その逆だ。


「ん……っとうわっ! 来たなら来たって言えよお前! くっそびっくりしたじゃねーか!」


「ごめんポチさん。 俺、ついつい一人見逃しちゃってさ……どういう顔してポチさんに会えば良いのか分からなくてさ……ああもう駄目だぁ、死のう」


「死ぬな死ぬな。 別に俺は無理に殺せなんて言ってないからいーよ。 それよりカクレがいないと帰るのがしんどいから、居てくれないと困るんだ」


「……ポチさん、ポチさん! う、うわぁああああああん!!」


 負のオーラが出まくっている。 相変わらず、ネガティブな子だ。 けれど、居てくれて俺は嬉しいよ。


 それよりもハコレの奴、また体調が悪いとか絶対嘘だろ……家でゲームやってそうだ、あいつ。


 そんなことを考えたそのとき、上で爆発音がする。 そして次に、俺の目の前に人が降り立った。 ああ、上から来そうな奴、そういえばまだ居たな。


「どこだここ!? あみっけたボス! 」


(りん)、ちょっと先に行かないで」


「おおっと、わりわり! いやでも迷子になったんだし仕方なくね? (りん)


 同じ名を持つ双子の姉妹。 活発な方が姉で、大人しいのが妹。 姉妹仲は大変良好な双子だ。


「お疲れさん、リン姉とリン妹。 今日は一段と元気だな」


「そりゃもう! こうやってまとまって動くのって久し振りだしさぁ! それでもうアタシめっちゃテンション上がっちゃってさぁ!」


「落ち着いて、鈴。 たぶんわたしたちが一番最後だよ」


 リン姉は暴走する部分が多々ある。 それを補っているのがこのリン妹。 コンビとして動かすのが一番こいつらにとっても良いとは思っているし、事実そうなんだ。 この二人が一緒のときは俺から見ても相当手強いしな。


「揃いも揃って遅刻か。 時間は守れ、お前ら」


「あん!? つってもツツナよぉ、俺はギリセーフだろ? 確かに数秒は遅れたかもしれねえけどさ、それでもセーフだろ?」


 呟くツツナに反応をしたのは、天上だ。 仲が良いのか悪いのか、それぞれはそれぞれを上にも下にも見ていない。 無論、俺だってそうだ。 法使いの野郎どもは俺たちにランクなんてものを付けるが、俺たちにとってはそんなのなんの指標になりやしない。 一人では駄目で、集団でこその俺たちだ。


「お喋りは後だ。 出迎えも丁度来たところだし、帰んぞ」


 俺が言うと、全員は口を閉じて一点に顔を向ける。 そこに居るのは、百にも近い人の群れ。 それぞれが丁度良い間隔を開け、昇降口付近に座り込む俺たちに顔を向けている。 この学園のグラウンドは馬鹿広いが、抜けられる穴は一見なさそうだな。


「行くか」


 言い、立ち上がる。 そして前へ向かって歩く。 別に穴を見つける必要なんてない。 なければこじ開けるまでの話でしかない。


「貴様がボス……ポチというやつか。 まだガキにも見えるが」


 その中で違う雰囲気を纏った奴は一歩前へ出て、俺の正面へと立つ。 距離は丁度、普通に話せば聞こえるほどに近い。 どうやら周りに居るのは雑兵で、こいつがそいつらを纏めている存在ってところかな。


「ワンワン。 よう、初めましてだなこの場合。 ご明察の通り、俺が一応はこいつらを纏めている。 んで、それがどうかしたかい? 数多支部長」


「……俺のことを知っているか。 なるほど、その上で俺に向かってくるか」


 ああ、違う違う。 今思い出したんだ。 そういや特徴を聞いたことがあるってな。 低い声に巨体、そして坊主頭。 特徴と合致して、そんで周りに居る雑魚を纏めているとなると、そんなもんだろ。


「あ? おいおいテメェ、俺から尻尾巻いて逃げたゴミ野郎じゃねーか! アハハ! ひっさしぶりぃ!」


 後ろで天上は言う。 そんな話もあったな、そういえば。 駄目だ駄目だ、最近物覚えが悪すぎる。 最低でも外のことは良いとして、中のことは把握しておかねえと。 こんなんじゃまとめ役としては駄目じゃねーのかなぁ。


「俺たち執行機関は、法使用の許可を得ない限り法を執行しない。 その意味が分かるか、賊どもめ」


「……ふふ、負け惜しみだ。 面白いなぁ」


 ロクの言葉が聞こえたのか、聞こえていないのか……数多という男はまったく反応を見せない。 恐らくは聞こえていても反応はしないだろう。 それだけの安い挑発に乗ってくる男ではない、か。


「貴様ら、その場から一歩も動かずに全員その場で地に伏せろ。 殺人、暴行、テロ行為、貴様らの行動は目に余りすぎる」


「悪いが、断る。 これから飯を食いに行く予定でさ、時間が押してんだわ。 折角だしあんたらともやってみたいけど、今日のところは帰るぜ」


 言って、俺はその場から一歩動いた。 直後、数多は笑う。 一瞬理解できない笑みだったが、それもすぐに理解した。 距離にして五百、丁度三時方向か。 俺の頭を弾丸が貫いた。


 視界が一瞬にして黒く染まり、そして体が投げ出される。 遠距離からの狙撃、五百から当てるってなれば相当な腕だな、なんてことを思う。


 そう、思う。 思えるということは、問題がないということ。 俺をそんな物で殺せるだなんて、勘違いも良いところだ。


「つってもよー、それなりに驚くんだから心臓止まったらどうすんの。 まったく」


 弾丸に貫かれた場所を指で掻く。 傷跡は既に存在せず、それの確認も含まれていた。 俺って案外臆病だからさ、もしも穴空いてたらどうしよーとか思っちゃうんだよね。 まぁ大丈夫だったけど。


「噂通りの化け物だな……異法使いランク一位」


「嬉しくない呼び方だ。 てか、遠距離からってちょっと卑怯じゃない? 別に正面からやる分には構わねえけどさ、撃った奴はどうせ安全圏からの狙撃とか思ってんのかねぇ」


 俺は言い、地面に落ちていた石ころを手に取る。 手頃な大きさと重さ。 うん、充分かな。


「貴様、何を……っ! 俺だッ! 狙撃班草部一等! 至急その場から退避せよッ!!」


 おお、すげえ。 俺がすること分かっちゃった? やっぱり楽しめそうだ、この機関の連中とは。 少なくとも、しばらくは遊び相手にもなってくれそうかな。


「そうつまらないこと言うなよ。 挨拶だ、挨拶。 折角なんだしさ。 挨拶は基本だろ?」


 数多という男の方を見たまま、笑う。 そして大して大きな素振りも出さずに、手首だけで俺は石を狙撃手へと放る。 風を裂く音だけが聞こえ、そして。


「草部一等!? 貴様、よくも……! 総員に告ぐッ! 目の前の異法使いを殲滅せよッ!!」


 数多の言葉と共に、全員から殺気を感じた。 さすがに百人近い人数から一斉にそれを向けられると怖気づいてしまいそうだよ。 でもここで慌てふためくのは格好付かなすぎ。 てか、少しお腹減ってきたな。


「あーそうだ、ツツナ。 今日お前あいつ……(なぎ)とやったんだろ? 殺しちゃった?」


「いいや、面白そうなので生かしておいた。 これからあれは強くなる、俺の密かな楽しみだな」


「そかそか。 ま別にいーんだけどさ、そんじゃこの学園で一番強い奴を倒したツツナに晩飯決めてもらうか」


 俺はツツナに話しかけながら前へと進む。 数多との距離は縮まるが、俺たちの会話が理解できないのか、未だに攻撃は行われない。 そんな俺の行動を不思議にも思わず付いてくるのは、俺が連れる仲間たちだけだ。


「ちょっと待ってポチさん。 僕だってそれなりに頑張ったんだけど」


「ん? ああそうなの。 それじゃロクとツツナで決めてくれよ。 俺たちの街まで戻るまでに決めといてくれよ、俺さぁ腹減っちゃったし」


「……何をしているッ!! 殺せッ!!」


 最初に開いていた距離が半分ほど縮まったその地点で、数多がようやく活を入れた。 これから俺たちに対する総攻撃ってところか。 つってもそれをやられてしまったら、全部止めるのも面倒だ。 しかしなぁ、礼儀を弁えない無礼者は好きじゃないな。


「ッ!」


 真っ先に駆けて来たのは女だ。 勇ましいというか無茶というか、実力差というのを理解していない可哀想なヤツ。


「鹿名!? 待て! 陣形を崩すなッ!」


 数多という男は焦り、叫ぶ。 だが、鹿名という女は聞く耳を持っていないようだ。 みるみるうちに俺との距離が縮まり、そして。


「異法使い……ッ!」


「早いね、君」


 俺の眼前へと、瞬く間に現れた。 身体能力はかなり高いな、それと戦闘で一番足を引っ張る恐怖を持っていない。 どんな人生を歩んできたことやら。


「法執行ッ!」


 女は刀を振り上げ、その刀が頂点に言ったところで叫んだ。 女の筋力、持ち方、それからして、たとえ振り下ろされても避けるのは容易いこと。 そう思い、俺は興味深く女のことを見る。


 しかし。


「シッ!!」


 女は短く息を吐き、刀を振り下ろした。 それは予想以上の速度、そして威力を持っている。 ただの刀……だな。 見る限り、普通の刀だ。 しかし、その刀は瞬時に俺の右腕を斬り飛ばした。


「油断は禁物だぞ、異法使い」


「なるほど、法ね。 これでも一応硬くはしてあるのに、良い太刀筋だ」


 既に右腕が存在しなくなった腕を動かす。 斬り飛ばされ、宙に舞った右腕に向けて。 意識を一瞬だけ、その右腕へと。


「ただ、それじゃまだゴミみたいなもんだよ」


 なくなった腕、飛ばされた腕。 繋がっていたし、繋がれていた。 だから、元には戻る。


 腕からは血管が伸び、そして飛ばされた右腕と繋がる。 するとすぐさま飛ばされた右腕は引き戻された。 俺の右手に収まり、傷口は消えてなくなる。


「なに……? 異法、か?」


「気味が悪くて嫌なんだよな、これ。 ほら、人間じゃねえみたいだし」


「……貴様らなど、人間ではないだろうッ!!」


 怖気づかない。 恐れない、むしろ怒りすら露にしている。 感心してしまうよ、その闘争心には。


「いいや、それでも人間だ」


 たった今攻撃を受けた右手を動かした。 指、一本で良いかな。


「本来だったら殺してる。 けど、俺を数秒楽しませてくれたお礼ってことでさ。 受け取ってくれ」


「何を……!?」


 最初こそ迎え撃とうとした女だが、瞬時に危険を感じたのか、勢い良く俺との距離を取る。 良い反応だ。


「けど、逃げられない。 もう、俺と君の勝負は始まってるんだから」


「そんな、ありえな――――――――」


 女は言う途中で意識を失う。 距離を詰め、俺の人差し指を額に当てたことによって。 小突くよりももっと優しく、触れるほどと言っても良い。


 ああ、弱い生き物だ。 可哀想に、せめて俺が有益に使ってあげようか。


「法執行ッ!!」


 しかし、女が消えた。 見れば、どうやら数多という男がなんらかの法を使ったようだ。 瞬間移動か、それとも現象自体の書き換えか? だが、どちらにせよ異法使い寄りの力に見えてしまう。 だとすると、もっと幅が効くなんらかの力。 俺は今手を伸ばし、女をもらおうとした。 けどその手は宙を切って、移動できないはずの女が数十メートルは瞬時に移動した。 ああ、分かった。 面白い力だな、それ。


「ま部下を助けるその精神は褒めたものか。 んで、百人くらい? とりあえずさ、全員死ぬ気で来ているって俺は思って良いよな?」


「当たり前だ……。 そしてお前をここで殺す、異端者め」


 良い覚悟だね。 でも、見上げられるほどじゃない。 むしろ逆、見下したいほどか。 そんな覚悟は、するものじゃない。


「今から半分殺してやる。 逃げられると思うなよ――――――――異法執行、お前ら全員跪け」


「がっ!?」


 まずは、一歩目。 ゲームの開始としようか。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ