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異法使いのポチ  作者: 枚方赤太
三章 神罰
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第五話

 ボスの命令は絶対。 そうボスの目の前で言うと、決まってボスは「命令じゃない」と、苦笑いをしながら言うのだ。 私だって、別にそれが命令だと思っているわけではない。 頼み、そういう言い方をボスはするし、事実そうでもある。 だけど、私にとっては自分を納得させるため、命令という意識を持った方が楽なのもまた、事実。


 私の人生をひと言で表すなら、裏切りという言葉になる。 とは言っても、私はいつだって裏切られる側の人間でしかなかった。 仕事として人殺しを始めたのは、まだ幼さも残る中学生の頃で、ボスと出会ったのは丁度十八歳の誕生日のこと。 その頃には暗殺業というものにすっかりと慣れ、しかし肉親以外の誰も信用することができなかった私は、一人で仕事をこなしていた。


「お前の力、俺に使わせてくれ」


 ボスが最初にした命令は、それだったんだ。




「……ぜんっぜんダメじゃない! あんたらやる気あんの!?」


「ひっ……いやいやもっちろんあるよ? ポチさんのために! 俺っちはいつだってやる気全開さ!」


 少し苛立ち、語気を強めて言う私の声に返事をしたのは霧生。 いつもいつもふざけている男で、私としてはあまり好きではないタイプ。 まぁ……仲間としてはそれなりに信頼しているけど。


 異端者という組織に加わって、真っ先に私に近づいてきたのも霧生だった。 そのときは思いっきり顔を叩いてあげたけどね。 私はそこまで安い女じゃない。 それに、今では仲間も必要な存在だと思うけど、逆に今でもパートナーは不要だと思ったりもしている。


「つってもよぉルイザ。 ここらの奴ら、全員知らねえだの他を当たれだの、どうにも避けられてる気がして仕方ねえぞ」


 今、天上が言ったこともまた事実。 恐らくは知っている人も、知らないと言い張る。 関わろうとしてこないのだ、ここの住民たちは。 それは私たちが余所者だからというわけでなく、LRIという機関に関わりたくないという表れか。 そして、蔓延しているLLLもそこには深く関わっている。 自ら服用しているLLLのことを聞かれ、素直に答える人間もいない。


「機関の連中は好き勝手だからな、無理もねぇよ。 それと、近頃じゃ通り魔も現れてるからな、警戒してんだ、みんな」


「爆弾魔のことね」


 しかし、ボスは言及しなかったが、私としての考察だと……その爆弾魔もLRI、及びLLLに関わっている可能性が高い。 それも、どちらかと言えばこちら側、LRIに対する復讐を行う側で。


 ここでひとつ、面白い繋がりがある。 爆弾魔がターゲットにする人物、それには共通性がある。 男、女、子供、老人、そんな違いじゃなく、習慣的な繋がりが。


 それが、タバコを吸っているということ。 そして、LLLと呼ばれる薬はまさに、見た目状はタバコとなんら変わらない。 つまり、爆弾魔はタバコを吸っている人物、またはLLLを服用している人物を対象としている可能性が高い。 けどまぁ、まさかタバコを吸った人間だけを標的にするなんてこと、ちょっと考えられないわね。 そうなってくると、爆弾魔の狙いはLLLを服用している人物だ。


 その過程で、タバコを吸っていた人たちも被害者になるということ。 無差別でなければ、通り魔ですらない。 これは、歴とした計画犯で間違いない。


「その考えは面白いな。 だとすると、オレもやべえってことになるけどよ。 ははっ」


「精々気を付けるようにね。 シロちゃんだっけ? あなたが死んだら、悲しむでしょ」


 私から見て、それはどちらかと言えば逆の話だった。 当然、あのシロという少女だって、この八雲という男が死んでしまったら悲しむだろう。 だけど、それよりも逆の話。 八雲にとって、シロという少女の存在が大きいのだと私は感じた。 その想いの方向は、ロクがボスに向けている感情にとても似ていて、だから私は人事とは思えなくて……ついつい、お節介を焼いてしまいそうになる。


 私だって、最初はロクがボスに懐いていたのは、ロクのこれまでのことがあったからだと思っていた。 ロクが経験してきたこと、体験してきたことは本人から何度か聞いているし、ある程度は知っている。 だからそうなのだと思っていた。 でも、事実は少し違っていて。


 ロクの方はいろいろ努力をしているみたいだけど、どうやらこっちの問題はボスの無頓着っぷりにあるのだと理解している。 これが唯一、私がボスに持っている不満だ。 他の部分は文句の付けようがない、変な優しさもない分、私にとってはこれ以上ないくらいに居心地は良いし。


「どうだか。 それより、閉鎖エリアの方も見に行くか? あそこにはLLLをやってるヤツがよく溜まってるんだけどよ」


「閉鎖エリア? 八雲、どういう意味だ、それ」


 八雲の言葉に、怪訝な顔で聞いたのは天上。 天上にとって、どうやらこのアースガルドは生まれ故郷でもあるらしく、しかし今の言葉からして、天上が居たときはそんなエリアは存在しなかった、ということになる。


 ……大体、予想は付いちゃったけど。


「ああ、天上は知らねえのか。 LRIの大規模実験の結果、北部地区は閉鎖されたんだよ。 あのときは大変だったぜ、なんせ人が大勢死んじまったんだからよ」


 化学兵器による実験。 成功すれば、それは地上にある執行機関に伝えられ、正式採用される流れのものだった。 だが、結果は失敗。 制御しきれなかった殺人ガスは北部地区に漏れ、多数の死者を出した。 そんな情報も、私は調べて知っている。


 たまに、人の命はなんだろうと思う。 本当にたまにだけど、夜寝る前だとか、一人っきりで感傷に浸っているときだとか、ふと思うのだ。


 力がある者は、弱者を殺す。 力がない者は、殺され続ける。 それは自然界の法則で、法や異法、魔術が存在する限り、揺らぐことはきっとない。 いつか遠い未来、天変地異が起き、法使いや異法使い、魔術使いが共存する世界になったとしても、それは変わらない。 だから人の命は等価値ではないのだ。


 私たち異端者が法使いを殺すのは、今までのことがあったから。 そう言われ、私自身、それにはなんの文句も不満もない。 恐らく、異法使いも魔術使いも、全員が法使いに対して恨みを持っているのだから。


 でも、ボスはよく「過去は好きじゃない」と、口癖のように言っている。 私はそれを聞く度に、矛盾を感じてしまう。 今までのことがあって法使いを殺すというのに、ボスは過去を嫌っている。 その決定的な矛盾には、誰しも気付いているかもしれない。 だけど、誰もそれを口にすることはない。 言ってもボスは、答えないだろうから。


 だから、私は自身の目で確かめることにした。 ボスが何をしようとしているのか、ということを。




 閉鎖エリアは、荒れ果てていた。 無人の建物、錆びついた鉄の山、時が経ち、崩れ去った建物すらある。 見た感じ人気はまったくと言って良いほどないが、それでも誰かがいる雰囲気はした。 それが八雲の言っていたLLLを使用している人間、ということになるのだろう。


「とりま手当たり次第いきますかぁ。 もうめんどいしさ、脅しちゃってよくね?」


「俺はどっちでも構わねえよ。 けど、八雲がそれでいいならな」


「お? なんだ、お前が優しいと気持ちわりいな。 まーけど構わないぜ、オレはどのみち、嫌われもんだ。 厄介事の裏にはオレが毎回いる所為でな」


 そんな会話を耳にしながら、三人の背中を見ながら、私は街を見渡す。 その荒れ具合はどこか、私たちが拠点とするX地区に似通っていた。 懐かしい……というよりかは、落ち着ける? かな。


 私が最初にX地区を訪れたときは、それはもう驚いたんだっけ。

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