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異法使いのポチ  作者: 枚方赤太
三章 神罰
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第四話

「まず考えるべきは、LLLのデータがどこにあるかってこったな。 それが分からなきゃ、侵入にしろ襲撃にしろ、無意味なものになっちまう可能性だってある。 持ち逃げされちまったらなんの意味もねぇ」


 それから少し経ち、ようやく話し合いが本格的に始まる。 今、八雲が言ったことはまさにそうだろう。 場所の目処を立てなければ、そもそもの行動が無駄になる。 動く場合は最低限で済ませるべきで、データを持ち出した人間が地上に出たらそれこそ最悪だ。 地下の問題は地下に留めておくべき、それに麻薬にも近いLLLが地上の一般人……法使いにまで広まったら、それこそ収集が付かなくなってしまうしね。 そうなってしまえば、世界が死ぬ。 それは駄目だ。


 LLLは端的に言ってしまえば回路の活性化を強制的に促すもの。 それならば魔術使い、異法使いも使用は可能なはず。 問題はそれが地上に出たとき、回路が弱い異法使いがそれを使用するパターンが容易に想像できるということだ。 そして法使いが使用することを前提とされている以上、どんな副作用が起こるか分かったものではない。


 妬み、恨み、嫉妬。 それらが長年積もり続けた異法使いの心中は、見た目以上に恐ろしい。


「それならまず、二手に分けようか。 LRIを調べるグループと、聞き込み調査をするってグループで。 前者の方は研究員の奴らと戦う可能性が高いから、戦力もそれを踏まえて分けようか」


「了解です。 それならば、ワタシとポチでLRIの調査といった感じが最善ですかね」


 さっすがだねぇ。 各自の実力ってものが分かっている。 やっぱりこの子、人を見る目はあるみたい。 ただ、ひとつ間違えてはいるみたいだけど。 まぁそれも俺にとっちゃ関係ねえか。


「シロはともかく、あんたにそんな大役が務まるのか? はっ」


 言い、八雲は俺のことを見ながら笑う。 馬鹿にされているとは感じたが、別に言い返してもなんも意味はない。 というか、どうしてこう喧嘩を売ってくる奴が多いんだろう。 俺はそんな売られやすい性格なのかな。


「私たちはともかく、ボスを侮辱するなら殺すわよ、あなた」


 と、言い返したのはルイザだ。 殺気を隠すことなく、八雲に向けて言う。 リン姉妹もそうだけど、ルイザも怒るのは俺のため、か。


 ……俺としちゃ、そこは自分のために怒って欲しいんだけど。 言っても聞かなそうだよなぁ、こいつらは。


「チッ……はいはい、今のはオレが悪かったよ。それにシロが言うなら間違いはねえんだろうしよ。 けどな、シロに手を出したらテメェ、殺すぜ?」


「うん、良いよ別に。 ただ、俺も俺で君が俺の仲間に手を出したら殺すから。 俺にとっちゃさ、正直どーだって良いんだよ」


 そ。 どうでも良いんだ。 ロイスの所在が不明ならば、シロと八雲に協力するメリットはない。 ただの個人的な恩返しでしかない今回の行動に、目に見えるメリットはないと言って良い。 一般的に考えれば、LLLの流出を防ぐことだってメリットになり得るかもしれないけどね。


 でも、それもまたどーだって良いんだ。 だって、LLLを使っていくら強くなったところで、どうせ俺に勝てる奴はいないのだから。 それならば、そんなことに意味なんてない。


「それじゃ、これで決定だね。 結果が出たら報告って感じで、何も分からなくても二日後には一旦集まろうか。 ルイザ、天上、霧生、それで良いか?」


「私は勿論です。 ボスの指示に従います」


「ま、ポチさんが言うならね。 俺っちとしては危ない仕事の方が好きだけど、地味な仕事も必要だしねぇ」


「俺も問題ねぇ。 ただ、いくら聞き込みだからってナメた奴がいたら殺すぜ」


 三者とも思いに違いはあれど、拒否することはない。 だからこそ異端者という組織は、俺の存在が必要不可欠となってしまっている。 特にそれが顕著なのは……ロクか。


 一瞬だけ、俺は俺が思っていることをロクと話をしなければいけないのではと思った。 だが、そんな考えもすぐに霧散していく。 俺が話すということは、共有するということ。 それは少し、できそうにないかな。 俺が持つ目標は、俺だけが持っていればそれで良い。 この話を共有するのは、酷だ。




「ポチ、八雲のことを嫌わないで欲しいです」


「ん? いやいや、なに言ってんのさシロ。 俺はああいうヤツ、嫌いじゃないよ。 強気な人は好きなくらいだし」


 俺とシロは共に研究所の調査。 アースガルドの中央に位置するそこには、他の鉄の建物たちとは明らかに違う建造物がある。 地面も壁も、建物ですら全て鉄で作られているアースガルドの中で、このコンクリートでできた建物は非常に珍しいし、異質だ。 そんな研究所を遠巻きに見ながら、俺とシロは会話をしていた。


「そうですか、それは良かったです! 朗報ですね!」


「あはは、嬉しそうだな、シロ。 それで、シロはLLLの排除が終わったらどうするつもりなの? それも少し気になってるんだ」


 遠巻きに見る限り、当然の如く警備は厳重なもの。 建物は高い塀で囲われて、さながら刑務所のような見た目。 それだけならまだしも、建物の周りは数メートル間隔で警備が置かれている。 出入口だけではなく、建物全体を覆うように。 こりゃ確かに発見されずにってのは難しいかもね。 なら残される手は正面突破だけど……数多さんたちだけならまだしも、戦場さんたちも一緒に居たら、少し厄介か。


「終わったら、ですか? それは考えていませんけど……また、みんなで仲良く遊びたいです!」


「そっか。 そういや、昔は賑やかだったな、アースガルドは」


 今の物静かな雰囲気とは違い、昔は毎日お祭りのようなことをしていて、人々も活気溢れていた気がする。 当時はまだ、研究機関が置かれる前だったか。


「雑貨屋さんや、食べ物屋さん、工場で働いている人たちも、みんな笑顔で楽しそうで、そんな毎日に戻りたいんです、ワタシは」


 シロは遠くを見ながら言う。 昔の光景でも思い出しているのだろうか。 思い出は美化されると言うけど、シロの言うそれは事実で、昔は本当にみんな、楽しそうな街だった。 自由に生き、自由に暮らし、自由に遊び。 そんな、夢のような国であったんだ、ここは。


「あは。 王女らしい良い気概だよ、それは」


「……王女って呼ばれるのは嫌です。 恥ずかしいんです、それ」


 と、シロは俺から顔を逸らして言った。 人々から羨望の眼差しで見られ。 それはきっと窮屈なものだろう。 同時に、シロを拘束している枷にもなっている。 期待、希望、そういった類のものほど重いものは、ないんじゃないだろうか。


「まぁまぁそう言わないでって。 それよりシロ、ここの他にLRIの研究所ってのはあるの?」


「ポチは意地悪ですよ……。 えっと、ここ以外ですか? それはないです。 LRIは中心地点のこの場所に研究所を設置し、更にここで投薬実験、LLLの開発、人体実験などを繰り返していますので」


「オーケー。 ならデータがあるとしたらやっぱりここか。 あとは詳細な場所ってことになるけど……うーん、仕方ない」


 これはあんま気が進まないんだよなぁ。 入ってくる情報が多すぎて、気分が悪くなっちゃうから。 でも、そうも言ってられないよね。 ここ以外に研究所がなくて、更にここにある研究所が厳重に警備されてるとなると、可能性は他にないし。 これなしで見つけられたら楽だったんだけど。


「異法執行」


 呟き、俺は地面に手を置いた。 すると、次の瞬間にデータが頭に入り込む。 人の思考、物の形、物質、構成体、質量重量温度密度。 ポチは何をしているんですか、これはシロか。 違うな、もっと遠く。


 今日は少し肌寒いなあいつまたサボってやがる眠い昨日から体調が変だどうせ誰も襲ってこないのにただ立っているだけは疲れる被験体にこの薬を強度を試せ誰か助けて痛い怖い睡眠薬を打てナンバー三十二を連れて来いお昼は何を食べた今日の夜は暇か暗い寒い喉が渇いたそろそろ休憩か死にたい殺してくれ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ――――――――お前、LLLを地下室から数個持ってこい。


「見つけた」


 そこで、俺は異法を解いた。 得体の知れぬ気持ち悪さと、頭痛が同時に襲ってくる。 やっぱり、負の気持ちが多いここで使ったのはちょっと失敗だ。 予想以上に、マイナスの感情が多すぎる。 こればっかりはどうにもならないんだよね、本当に参っちゃうよ。 俺の体の、回路の問題ではなく、心の持ちようになってきてしまうから。 もう少し図太い人間でいられれば良いんだけど。


「ポチ、大丈夫ですか。 顔色、悪いです」


「あっはは、心配いらないいらない。 栄養不足なだけだからさ。 それよりLLLの保管場所は見つけたよ。 あとは、データがどこにあるかだけど、詳しそうなヤツが一人居た」


 居るにはいたが、問題はこいつを捕まえられるかどうか、か。 それよりもまずはクスリの破壊かな。 クスリを取ってくるように指示した男、こいつを捕まえるのはそのあとで良い。 最悪、研究施設だけでも破壊できれば大きな傷となるから。


「ありがとうございますです。 なら、ポチ。 早くここから離れましょう」


「うん、そうだね……っと、ちょっと待って」


 俺とシロは立ち上がり、その際に横目で一度だけ研究所を視認した。 そのときだ、とある人物が目に入ってきたのは。


 あれは、機関の人間か。 しかし、待てよ。 どうしてお前がここに居る? あり得ない、あいつは……俺が、俺が殺したはずだ。 なのに、何故。


「キグ」


 かつて、俺の仲間だった男。 十一人目の異端者。 お前がどうして、そこに居る?


「ポチ、どうかしましたか?」


「……いーや、なんでもない。 戻るか」


 物質変則と呼ばれる異法を持つ男。 そして、俺を殺そうとして殺された男だ。 あいつは確実に殺したはず、だというのに……間違いなく、あの男はキグ。


 うーん……考えづらいけど、殺し損ねちゃったのかな。 まぁ、過程はどうあれ結果は変わらない。 俺がするべきことはシロの依頼を達成するということで、かつての仲間の思い出話じゃあないんだから。


 しかし、あいつが持つ異法が厄介ってのもまた事実。 正面からの戦いなら、天上と霧生じゃ勝てない異法だし。 だとすると、当たるとしたらやっぱり俺かな。


 あーあー、世界は残酷だよ。 とっても仲間思いで優しい俺に、そんな酷いことをさせるなんて。 ま、そうしろって言うのならとりあえずは従っておくよ。 今の俺じゃ、まだ世界の選択を捻じ曲げられるほどの異法はないしね。 少なくとも、今のとこは、だけど。

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