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異法使いのポチ  作者: 枚方赤太
三章 神罰
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第一話

 神が与える罰。 それは神罰と呼ばれ、神が下す超自然的な罰だ。 時に人の理を逸脱した者に。 時に人の道理を外れた者に。 時に人の世を乱す者に。 時に人ならざる者へなった者に。 それは様々な形で、様々なことを持って、決定し、下される。


 俺は神なんて存在は信じはしない。 もしも本当に居たとしたら、俺たちの現状を見て、何もしない奴なんていらないね。 俺が神殺しをやっても良いくらいだよ、その場合は。 だから、この世に神なんて存在しない。 不要だと言って良い。


 仮に、もしもの話をしようか。 もしも、その神に匹敵する力を持っている奴が現れた、或いは居たとしよう。 たとえば……そうだね。 どんな命令でも、一ヶ月に一度、必ず起こせる法使い、とか。


 そりゃあもう神に匹敵するほどの力だと言って良いんじゃないか? そいつが人の死を命じればそいつは死に、大雨を命じれば大雨が降る。 天災、人災、風災、横災禍災水災兵災変災厄災、思うがままってわけ。 神に限りなく近い存在で間違いはない。


 けどね、それは神と同等ではないんだ。 あくまでも神に近いというだけで、神じゃあない。 だから、もしもそいつが神の真似事でもしようものなら、俺はきっと。






「そんじゃ行くか。 ツツナ、頼んだぞ」


「ああ」


 法使い、魔術使いとの会合から数日が経過し、俺とエリザの宣戦布告は正式に受け取ったのか、テレビのニュースでは連日、そのことが伝えられている。 とは言っても、もちろん正確に伝えられているわけなんてなくて、俺たちのことを悪者に仕立てあげるような内容だが。 まぁそんなことは分かりきっていたし、今更文句なんてないけどね。 それでこそ正義だろうさ。


 同時に、膠着状態。 向こうが動くとしても戦力が足りないのだ。 魔術使いが法使いに宣戦布告をしたおかげで、最悪の場合である両者が手を組むということがなくなった。 これはぶっちゃけ朗報だな。 両者揃って化け物と呼ばれる人種はいるわけだし、それを二人も相手にしてしまったら、俺の回路だって使えなくなってしまうし。 何より、目的が果たせなくなってしまう。 俺が見据える、もっとも大きな、かつ最終的な目的を達成するためにも、まずは目先の小さな目的から進めていこう。


「……むう」


「なんだよロク、まだ不満か? 今回ばかりは、できるだけ戦力が寄らないようにしておきたいんだよ。 お前は強いからさ、俺たちの家を守って欲しい。 な?」


 ここから、少しの間は別行動となる。 俺、霧生、天上、ルイザはアースガルドへ。 その他、残った者たちは地上で不測の事態に備えるために。 全員でアースガルドへ行っても良いんだけど、あそこで余所者が大勢で動いていたら、嫌でも目立ってしまうから。 仕方なく、この少人数での仕事というわけ。


 今居るX地区から、K地区まではそれほど離れた場所ではない。 とは言っても、厄介事に巻き込まれる可能性はないと言い切れず、こういうときにカクレの異法が大変役に立つんだ。


「だって、そっちの方が楽しそうだし。 僕も行ってみたかったなぁ、アースガルド」


「大丈夫大丈夫! しっかり俺っちが写真撮ってきてあげるからさ! ね?」


 不満そうに言うロクに対し、霧生はカメラを見せながら言う。 その格好は、とてもじゃないが仕事をしに行く格好とは思えない。 なんというか、観光気分だな。 別にそれでも良いんだけど……ちゃんとやってくれさえすれば。


「そうそう、私もちゃんとお土産買ってくるから。 元気出しなさいよ、ロク」


 次に口を開くのは、ルイザ。 ロクの頭を撫で、笑顔を見せて言う。 金色の髪を今日は縛っておらず、長い髪は腰の辺りまで伸びている。 身に纏っているのはスーツで、一応は変装のつもりなのか、眼鏡。 キリッとした顔立ちのおかげか、どこかの秘書みたいにも見えてくる。 ルイザは格好こそしっかりしているが、内心は遊ぶ気満々だろう。 ここ数日、アースガルドの特産品についてずっと調べていたみたいだし。 遊ぶってことを知らないルイザにとって、今回の遠征はきっと良い思い出になるんじゃないかな。


「……」


 そんなテンション上がり気味の二人に反し、どこか居心地が悪そうな顔をしているのが天上だ。 こいつとしては、まぁそうだろうな。 なんつったって、アースガルドは天上の故郷とも呼べる場所なのだから。


 昔、天上はアースガルドで暮らしていた。 異法使いとして行き場をなくした天上が辿り着いた場所こそ、アースガルド。 かつて、天上はアースガルドで小さな組織を作っていた。 一昔前の表現でいくと、チームだとかそんな感じの組織を。 今では消えてしまった組織のリーダーをやっていて、その当時の仲間に対する想いが未だ、天上にはあるのかもしれない。


「天上」


「ん」


 どうやらロクたちの話はまだ終わりそうにない。 話好きのこいつらの楽しみを無理やり止めるのも嫌だったから、俺は天上の名前を呼び、首で合図を出す。 アジトの外、二階からの景色を眺められるバルコニー。 そこへ天上を連れ出し、俺は天上に向けて口を開く。


「選んだのは、嫌だったか」


「良かったか悪かったかで言えば、どっちもでもねえ。 ポチさんの指示には従うよ、俺は」


 手すりに体を預けて言った俺の横で、天上は外の景色を眺めながら答える。 荒れたX地区の街並みは、前回の戦いを経て、更に荒れ果てたものへとなってしまっている。 直そうとする奴もいなければ、その人自体が少ない。 異法使いの数は、日を追うごとに減っているんだ。


「俺とお前の立場は同等だ。 上も下もねえって、いつも言ってるよな。 だから天上、お前は俺に殴りかかっても良いんだぞ」


「……はっ。 今更、そんなことできるかよ。 ポチさん、俺はあんたに付いて行くって決めたんだ。 俺の仲間だった奴らは、もういねぇ。 あんたが全部殺したからな」


 かつての、仲間たち。 数十人は居た天上の仲間は、もういない。 俺が殺し、殺し、殺し尽くした。 残された天上は俺に付いて行くと決めて、周りから見れば、それは強い奴に靡いたクズ野郎ってことになるんだろうさ。 けど、事実は少し違っていて。


 ああ、いや。 そうじゃないか。 この話には、事実しかない。 俺が天上以外を殺し、そして天上が俺の仲間になったという事実だけしかない。 そう決めて、そういうことになっている。 だから、俺は天上に向けて言う。


「仲間になったとしても、恨みは忘れるな。 俺はちゃんと覚えているし、お前もちゃんと覚えておくべきだから。 それは分かるよな」


「ああ、分かってる。 俺はいつか、あんたを倒す」


「おう。 いつでも来い」


 さて。


 やっぱり昔話ってのはどうにも好きになれないね。 湿っぽくもなってしまうし、俺たちの昔ってのは良いことなんて殆どないのだから。 悪いことだらけで、そりゃあ異法使いなんだから仕方ないことだけど。 それを仕方ないで良しとしないように、俺たちは動く。 そして、俺がポチとしてしてきたことだとか、これからすることだとか、そういうのはみんなに対しての罪滅ぼしにもきっとなるんじゃないだろうか。


 空を見上げた。 夕暮れ時ということもあり、空は赤く染まっている。 薄い雲が広がり、幻想的な景色に見えた。 赤い光は雲の間を抜け、地上へと降り注ぐ。 神秘的、綺麗で美しい光景だと大勢の人は言う。 それは正しく、それは普通で、それは一般的なこと。 だから、俺が思うのは逆なんだ。 その光景は俺から見たら、災厄の到来に見えるのだから。 それを表すかのように、遠くでは分厚く、黒い雲が広がっている。 これは一雨来そうだね。


「ボス」


「ルイザか。 丁度良かった、話は終わった?」


「ええ、お時間取らせて申し訳ないです。 支度は整いました」


 丁寧にも頭を下げ、ルイザは言う。 本当に良いタイミング、俺がそろそろ行きたいなって思ったそのときに来てくれたんだから。 まぁそれはあくまでも、俺たちにとっての良いタイミングということで、残るツツナたちにとってはそうじゃないかもしれないけど。


「良いよ、待つのは好きだから。 それじゃあ行こうか」


 こうして、俺たちはX地区を後にする。 目指す場所は、地下帝国アースガルド。 鉄で作られ、鉄によって生きる大国。 この日本に存在する、もうひとつの国。 法地区、異法地区、魔術地区とも別種の、そして同時に異種とも呼べる地下の国だ。




「ルイザと霧生は初めてだったよね? 行く前にさ、覚えておくことが三つくらいあるんだ」


「ルールのようなものですか?」


 K地区までの道を歩きながら、俺は霧生とルイザの二人に尋ねる。 天上がアースガルド出身だということはみんな知っているし、そうだからといって差別なんてことは起きない。 むしろ、地理をある程度理解している奴がもう一人居るというのはプラス要素。


「ともちょっと違うかな。 まず、前にハコレが会ったって言ってた白い奴。 そいつがアースガルドの頂点に居る。 まぁ見ればすぐに分かると思うから、会ったらとりあえず頭を下げとけよ。 じゃないと、間違いなく村八分になって、情報を引き出すこともできなくなるからさ。 周りに人がいなきゃ殴っても良いぞ」


 頂点といっても、それは名目上、見た目上の話。 本質的な部分、あの国の核と呼べる部分はLRIと呼ばれる研究機関。 表向きの操り人形がシロで、その裏で非人道的な実験を行い続けているのが、LRIだ。 シロを隠れ蓑として、人体実験を継続していると言っても良い。 しかし、耳に入ってきた話によると、今現在シロは、その機関と敵対しているらしいな。


 ……まー、あいつの性格からすれば無理もないことか。 馬鹿正直で、純粋無垢、あいつはそういう奴なんだよね。


「要するに、その女王様にヘコヘコしておけば良いってことっしょ? てか天上っちさ、その人と知り合いとかそういうんじゃないわけ?」


「知らねえな。 そいつ自体、表立って来たのはここ数年の話だろ? 俺が居たのは、ポチさんが小学生くらいのときなんだよ」


「懐かしいね。 そんで、次の覚えておくこと。 不意打ちに気を付けろ。 あそこは基本として、実力主義国家でもある。 それに、犯罪者とかそういう奴らが放り込まれる場所でもある。 だから、いつだって攻撃を受ける可能性はあるって覚えとけ。 それが余所者だってなれば尚更ね」


 いきなり後頭部を鉄パイプで殴られることだってある場所。 天上に関しては知ってるだろうけど、俺も最初に訪れたときは驚いたもんだよ。 ま、当然今と昔じゃ治安も変化しているとは思うが。


「最後。 腕章を付けている奴らにはちょっかいを出すな。 そいつらはLRI、研究機関の奴らだからな。 下手に関わると面倒事しか起きない」


 とは言っても、シロの要求は恐らく研究機関を潰して欲しいとのことだろう。 そのくらいの予測は既に付いているが、最低でも作戦を立ててからじゃないと面倒でしかない。 巷では噂の法回路促進剤……LLLと呼ばれるクスリを多数所持しているとも聞いている。 いつの時代も、クスリってのは人の世界を狂わせるんだよね。


「うぇ……なーんか覚えること沢山だねぇ……。 頭痛くなってきちゃった」


 舌を出し、そんなことを言うのは霧生。 それに対して文句を言うのがルイザ。 この流れはもう様式美と言っても良いかもしれないね。


「たった三つでしょ、それくらい覚えなさいよ。 ほら、天上だって……」


「えーっとなんだっけ? 見えないとこで殺れ、殺られる前に殺れ、腕章付けた奴を殺れ。 でいいんだよな? ポチさん」


「良いわけないでしょ!? あんた一体何を聞いてたのよっ! 頭の中に何詰まってるのか見せてくれない!?」


「……なーんか頭痛くなってきたな」


 霧生に関しては、ただ馬鹿なだけだけど。 天上は喧嘩っぱやいし、この場ではルイザが居てくれたことだけが救いかもしれない。 俺の考えだと、今回の仕事ではこの面子が一番だと思ったんだけどなぁ……失敗だったかな。


 と、今更文句を言っても仕方ない。 だってほら、もう着いちゃったわけだし。


「あったあった」


 寂れた、一昔前のビル郡の間、その路地裏にアースガルドへの入り口はある。 もちろん、入り口はここだけではないが。 言わば正面玄関とも呼べる場所がここで、通行証があるならばここから入るのがセオリーである。


「これ……ってちょい待ちポチさん、俺っち、下水とか嫌なんだけど?」


「ん。 ああ、大丈夫大丈夫。 ここは下水に繋がっているわけじゃないからさ」


 その路地裏にあるマンホール。 行き止まりで、ひとつだけぽつんと設置されているそれが、アースガルドへの入り口。 知る人ぞ知る無法地帯、上のルール、法が存在しない別の世界。 ここに慣れてしまった奴らは、みんながみんな同じことを言うという。


 地上の楽園ならず、地下の楽園だと。

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