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異法使いのポチ  作者: 枚方赤太
一章 終世
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第七話

 聞いたことがない事態だ。 この都市で、もっとも有能な人材を排出している『法執行第一学園』が襲撃された。 それも現在、俺たち法執行機関D地区支部が追っている『異端者』によってだ。


 法執行第一学園。 学生らの間では一学との名称で呼ばれているそこは、この国でも一番と言って良いほどに、俺が属する法執行機関へ毎年入ってくる学生が多い。 かくいう俺も、一学の出身である。


「緊急伝令! 数多(あまた)支部長! 現在、異端者と思われる集団が法執行第一学園を襲撃中とのこと! 既に負傷者も出ているようで、急行せよとのことです!」


 その知らせが俺の耳に届いたのは、つい数分ほど前のことだ。 数多友鳴(ともなり)、機関に勤めて早五年。


 これは久し振りに、大きな仕事となりそうである。




鹿名(しかな)一等、状況は」


 俺は支部長室と呼ばれる部屋を出ると、そこで待っていた部下にすぐさま言う。 各地区に点在する支部はひとつ辺り、三千名程度の人員が配置されており、その中でも一等兵となれば支部長直属の部下ということになる。 つまり、この鹿名という名前の若い女性兵士は俺直属の部下だ。


 結んでいない黒髪を腰辺りまで伸ばした鹿名は、背筋をピンと伸ばし、部屋の外で待機していた。 有事の際はまず初めに上司の出す指示に従えという教えは体に染み込まれている様子が伺える。


「はっ! 現在、学園に侵入したのは約十名ほど。 異法力Aランクは天狗、狐女、刀手、碧眼まで確認できております。 そして一名、それらを凌ぐ奴が居ると。 百九十ほどの身長に吊り目、顔の右半分はマスクで覆われているようです」


「知らない奴だと? おいおいまだ隠し玉があるのか、あいつら。 それともそいつが頭か? 異端者の」


「申し訳ありません、そこまでの情報はまだ入ってきておらず……」


 吊り目に半面か。 天狗、狐女、刀手、碧眼もそれぞれが面を着けているが……これもまた異端者の共通性か?


 天狗と狐女は名前の通り、天狗と狐の面をそれぞれ着けている。 刀手は口元を覆うスカーフ、そして碧眼は白狐の面だ。 碧眼に関しては狐女と区別を付けるため、その眼の色からの呼び名ではあるが……。


 いや、今は頭を動かすべきときではない。 動かすのは、体だな。


「問題ない、この目で確かめれば良いだけだ。 それで今回の仕事、編成は? 指揮はどうなっている?」


「はっ! 編成は四等兵が五十、三等兵が二十、二等兵が十、一等兵が私を含め十となっております。 将兵は数多支部長の一名、指揮系統は本部からイズン大尉が出すとのことです」


 ……相変わらず適当な部隊なことこの上ない。 半ば呆れにも似た感情を抱きながら、俺は歩く。 緊急伝令が出たということは、交通網は開けているはずだ。 先遣部隊はこの慌しさならもう出ているのだろう。


「九十名か」


「……さすがに多すぎですよね、ただの十人程度相手に」


「逆だ、逆。 うちの連中はあいつらのヤバさを理解しちゃいねえ。 最悪死ぬぞ、この仕事は」


 正直、下手な数を出すのは自殺行為でしかない。 それを俺は何度となく執行本部に伝えてはいるのだが、上の連中は聞く耳持たないんだ。 甘く見ている、としか言えないな。


 とは言っても、逆の立場だったら俺も聞く耳を持っていなかった可能性は十二分にある。 そもそも、法使いというのが異法使いや魔術使いよりもよっぽど優れた存在だ。 しかし、異端者という組織はイレギュラーすぎる。 それぞれの持つ力は……絶大なものと言っても良いほどに。


「あ……そう言えば、数多支部長は対峙したことがあるんでしたっけ? 異端者の一人と」


「数多さんで良いって言ってるだろ。 堅苦しい呼ばれ方をすると気が滅入るって」


 俺が戦った異端者の一人、それは天狗と呼ばれる男だ。 俺が戦い、そして敗走した。 奴は空を移動する。 そして自らの髪の毛から、異生物を作り出す。 あの場面では俺は法を使ってはいなかったが、使っていたとしても負けていたかもしれないほどの強さ、そして何より強力なのは奴らの組織的な動きだ。


「あいつらの能力もそうだが、場数が尋常じゃない。 それに加え、一番恐ろしいのは統率力だ。 一見ただのテロリスト集団だが、その統率力は俺たちを上回る。 まるでひとつの生き物みたいに、統率されてるんだ」


「……考えるべきは個ではなく軍ということですね。 心得ておきます」


 鹿名一等は大変優秀な人材だ。 飲み込みが早く、物事を理解するのに長けている。 そしてその理解に、偏見が含まれることはない。 だから油断も生じず、どんな仕事でも真剣に取り組んできた。 その姿勢は素直に評価しているし、こういう奴は将来も必ず伸びてくる。 いつか、俺が抜かされる日も近いだろうな。


「鹿名一等兵、お前は俺のお気に入りだよ」


「ありがたきお言葉ですが数多支部長、私は生涯独り身を誓っておりますので」


「……はっはっは、振られちまったか。 さて、冗談もそこそこに」


 コートを羽織り、機関の地下へと辿り着いた。 緊急用の車両の助手席に乗り込むと、鹿名は運転席へと乗り込む。


「若い人らにばっか、体を張ってもらうわけにはいかないしな。 鹿名一等、俺が許可する。 全力で現場へ急行しろ!」


「はっ!」


 敵の数は九名、その全てが異法使い。 そして事前に情報をある程度得られているのは四人。 天狗、狐女、刀手、碧眼のみ。 半面の男はこれまで全く情報がなかった奴だ。 そして残りの四名もまた、俺たちが得られている情報はない。


 最善策としては、各個撃破にはなるだろう。 しかし……そう上手くいくとも思えないな。


「鹿名、現場に到着したらイズン大尉に法執行の許可を取れ」


「畏まりました。 数多支部長の法であれば、すぐに許可は降りるかと思われますね」


「違う、俺だけじゃない。 現場に居る法使い全ての許可だ。 この案件、俺たちもただでは済まないぞ」


「……承知しました。 私も、全力を尽くします」


 この支部には若い人材が多い。 最優秀とされる法執行第一学園出身の人間が半数を占めるからだ。 年々、新しい優秀な人材がこのD地区支部には入ってくる。 だからこそ、最前線に立つべきは俺になるしかない。


 あまり、若い芽を摘まれてしまっては困るからな。

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