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異法使いのポチ  作者: 枚方赤太
二章 変革
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第二十三話

「ぐ……ふっ」


 凪の体を俺の腕が貫く。 凪はそのまま血を吐き、驚いたような顔で、俺のことを見ていた。


「……や、ぎり……なにを」


「お前が斬れないと思えば、未来からは接続されない。 つまりそれは、お前が意識をする前に、攻撃をすれば良いだけの話なんだ。 だから言ったろ、どんな努力も、無駄だって」


 こいつが意識するより早く、倒してしまえば良い。 たったそれだけで、こうして終わること。 俺を舐めた結果というならば、無理もない結末か。 ああ、可哀想に。


「……かはっ」


 腕を引き抜くと、凪はその場に突っ伏した。 すぐさま血溜まりが広がり、これならば放っておいても死にそうかな。 法で治そうにも、痛みから集中すらできないだろうし。 俺はそんな凪の姿を数秒見つめたあと、振り返る。


「凪少佐ッ!!」


「寄るなよ、俺たちがしてたのは殺し合いだ。 殺し合いってのはどっちかが死んで初めて終わる。 だから、待てだろ?」


「く……そが。 貴様、貴様貴様貴様ッ!!」


 感情を露わにするのは、鹿名という女。 こいつはどこか異法使いに対して感情を剥き出しにする節があるな。 何か、恨みでもあるのだろうか。 まぁ、良いんだけどさ、そんなのは。


 俺に殺意、敵意を向けるのは四人だ。 数多、鹿名、木高、そして不という魔術使い。 まとめてかかってこられても負ける気なんてしないけど、連戦連戦で俺も疲れてきちゃったしね。 無駄な戦いは避けようか。


 さっさと凪に止めを刺して、終わりに。


 しようと思って、気付いた。 いつの間にか、俺の背後に人が居ることに。 当然、ロクでもツツナでもない。 あの二人は基本的に俺の戦いには入ってこようとしないし。 助けるというよりかは邪魔になるってことを分かっているからこそ、あいつらは来ない。 ならば。


「おい、聞こえなかったのか? 待てって俺は言ったんだけど」


「おおっと、わりいわりい! いやけどよー、可愛い可愛い俺の部下が殺されるのをだまーって見てるってのはちょっと駄目でしょ。 そうでしょ? へへ」


 白の軍服、機関の奴か。 だが、肩に付けられた勲章……こいつ、へえ。


「殺すぞ」


「それは遠慮願いたいね。 まぁまぁ落ち着いてよ、異端者のリーダーさん。 俺はさ、今回ちょっと提案があってここまで来たんだ。 つっても俺独自のじゃないよ? これは()()()()()()の提案だ。 それと、法者様のね」


 やっぱりか。 この男……十二法の一人というわけか。 若く、人当たりが良さそうな態度のわりに、やけに殺気が溢れている奴。 本人的には抑えているつもりなのだろうが、怖いなぁ。


「提案ねぇ。 んで、先。 先に名乗ろうよ、とりあえず」


「ん、ああまぁそうだな。 俺は法執行機関本部、十二法の一人、アレス。 十二法ってのは十二神のように当てはめられる。 俺の場合は、軍神アレスだ」


「なるほどね。 んじゃ要するに馬鹿ってことか。 人間にすら負けた神が、一体俺になんの用かな」


 アレスと名乗った男の空気が少し、変わる。 挑発には乗りやすい男だな。 まぁだが、底知れぬ力を持っているのも確かか。 この場でやり合っても俺は一向に構わないが……そうなると、ロクとツツナが心配にもなってくる。 十二法と言えば、法者の次に強い法使い。 まともにやり合えばタダじゃ済まないのは目に見えている。


「随分と口が悪いガキだな。 けどまぁまぁ良い、構いはしねぇさ。 俺たちが求めるのは話し合いだ。 俺たち法使いと、あんたら異法使いのな」


「話し合い……? ふうん。 なんの企みがあるのか知らないけど、まぁ良いよ。 気が向いたら行ってやっても」


「そうかい! そりゃあ良かったぜ。 ならこれ、その案内だ」


 アレスは言うと、凪を抱える手とは反対の手を使い、俺に一枚の紙を差し出す。 俺はそれを受け取り、ポケットへと無造作に押し込んだ。


「なんだ、案外話がわっかる奴じゃん! へへ、あそうだ、あんた、名前は?」


「君に名乗る名前はないよ、アレスくん。 なーんかテンション下がったなぁ……ロク、ツツナ、帰るか」


 俺は振り返り、歩き始める。 そんな背中に、アレスは言葉を投げつけた。


「……やっぱりてめぇは嫌いだわ! 次会ったら覚えとけよ馬鹿野郎っ!」


「子供かよ……」


 苦笑いを浮かべ、俺たちは後にする。 凪を仕留めることはできなかったが、まぁいいだろう。 たとえあいつが生きていようが生きていまいが、話のひとつになるくらいで、世界に与える影響なんて皆無なんだから。 居ても居なくても変わらない。 結末はもう、変えることはできやしない。


 そして、俺たちと法使いの溝が埋まる日は、果たして来るのだろうか。 それはやっぱり、世界の選択だ。


「だ! け! ど! やっぱり今返す! 一発ッ!」


「あ?」


 振り向いた直後に見えたのは、アレスの拳。 こいつ、凪を抱えてこの速度を出せるのか。 数十メートルはあったし、俺も警戒はしていた。 だが、気付く前にこいつは俺との距離を詰めてきた。 俺の反応速度を余裕で超えてきやがった。


「わりいけどな、兄ちゃん。 俺の速度は一番なんだぜ」


 そしてアレスは拳を振り抜く。 避ける、間に合わねえ。 受け止める、間に合わねえ。 まったく……最悪だ。


「ポチさんッ!!」


 思いながら、俺の顔にその拳は叩き込まれた。 そのまま勢いで俺の体は容易く吹き飛び、背面にあったビルへと衝突する。 痛みはないし、死ぬ気もしない。 ただ、あいつもその気はないだろうな。 単純に気に入らない奴を殴りつけたかっただけだ、あれは。


「……やってくれるじゃねえか法使い」


 髪についた埃を払い、俺はアレスを見て呟く。 ロクとツツナは構えていたが、動く気はない。 そりゃそうだ、あいつの早さは尋常じゃねえ。 目で追えない、頭で反応できない速度、少し厄介だな……。


「悪く思うなよ、兄さん! 可愛い部下が手酷くやられてんだからよぉ! 男としちゃ、一発くらい返しとかねえとな! んじゃ、待ってるぜ!!」


 アレスは言い、姿を消す。 気付けば法使いの三人も、そして巫女魔術使いも、姿を消していた。 馬鹿っていうのは訂正しておこうか。 アレスの目的は、もちろん話し合いということもあったのだろう。 だが、現場に居た法使いの救助を優先してきた。 性格に反して、手堅い選択を取る奴だねぇ。


「……無事か、ポチ」


 ツツナは言いながら、俺に手を差し伸ばす。 俺はその大きな手を握り、立ち上がりながら返した。


「ああ、まぁね。 けど、まぁ俺の負けだなぁ」


「そうかな? 普通に戦えばポチさんの方が強いでしょ」


 首を傾げて言うのはロク。 今は素顔で、整った顔で俺のことを見ている。 素顔がバレるってのは表向きの日常が消えてしまうわけだが、ロクは大して気にはしていない様子だった。 元よりこいつは、こっち側でいる時間の方が多いし、それが普通なんだけどな。


「普通にやればね。 でも、戦いってので普通にって方が珍しいさ。 まー仕方ない、帰るとしよう。 長い一日もようやく終わりだ」


「ふふ、でもポチさんでも殴られるってことがあるんだね」


 歩き出した俺の横で、ロクは言う。 口元を抑え、ちょっと嬉しそうに言っていた。


「そりゃあるさ。 昔とかよぉ、ツツナはしょっちゅう俺のこと叩いてたからな」


「え、そうなの!? なにそれ、ちょっと気になるかも」


「……」


 ロクは基本的に、なんにでも興味を示す。 ツツナは逆に、無関心ということが多い。 ツツナはそれこそロクよりも昔……俺が何も知らないガキの頃からの知り合いだ。


「こう見えても、昔は良く意見が割れてたんだぜ。 なぁツツナ」


「……さぁな」


 ツツナが俺に従うと決めたのは、ひとつの出来事があったから。 俺はそれを今でも後悔はしていない。 ツツナの方は……どうだろう。 それはちょっと分からないかな。


「うわぁ、それ気になるなぁ。 ポチさん、今度時間があるときにでも語ろうよ。 ツツナさんだけじゃなくて、みんなのことも。 僕、結構気になってるんだ」


「いいよ。 けど、そいつが居るところでな。 こそこそ話すのは趣味じゃない」


「ふふ、やったね」


 それと、過去のこともあまり好きではない。 だけど、ロクにはそれが必要だ。 こいつには過去があって、だからこそ今のこいつなんだから。 ロクの目の前でそれは、否定したくなかった。 俺にも勿論過去はあるし、結局それが原因で世界を終わらせようとはしている。 俺もとどのつまり……過去に囚われているだけなのかね。


「しっかし……相変わらずっていうか、お前らほんとにどこかで止めないとやりたい放題だな」


 俺は言い、崩れた街並みを眺める。 B地区といえば、A地区の次に繁栄した都市だ。 その全てが崩れたわけじゃないが、支部を中心とした都市は壊滅と言っても言い。


「まずかった?」


「いいや、別に。 法使いなんざ総じてゴミだよ」


「……それには同意だな」


 そう。 簡単なこと。 俺たちが思っていることで、共通したのはこれもある。 あいつらが俺たちのことをゴミとして扱うように、俺たちもあいつらのことをゴミとして扱うだけ。 死んだって何も思わないし、むしろ喜びすら覚えるくらいなんだよ。


 ただ。


 そう思ってしまう辺り、俺たち異法使いってのもゴミなんだろうさ。 それは魔術使いも一緒で。


 だからこそきっと、この世界にまともなやつなんて、存在しない。 だからこそきっと、この世界は腐りきってしまったんだ。


 俺はそんな世界を終わらせたい。

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