第二十二話
「終わりカ」
「んだね。 協力ありがとう。 でもうひとつ頼み事なんだけど、少しこいつを見ていてもらっていいかな」
俺は言いながら、アリアナをコクリコへと引き渡す。 今は俺の異法で意識を奪っていて、目覚めることはないだろうが、生身で放置しておくのも少し可哀想だしね。
「……趣味ガ悪いナ、矢斬」
「そう? まぁ面白い道具だよ、これは。 それより刈谷島さんは?」
「さぁナ。 帰ったのではないカ」
相変わらず、重度のツンデレだなぁ。 ま良いんだけどね。 終わり良ければ全て良し! と言いたいところなんだけど……残念ながら、まだ終わっていない。 むしろ、これからいろいろと始まりそうな気がしているんだ。 ロクはどうやら無事に成功したようだけど、解決はまだまだしていないね。 ひとつが終わればひとつは始まる。 そしてそれを始めるためにも、今ある一連のこれを終わらせないと。
その始まる予感自体、もう確定とも言って良い。 さっき、俺があの戦艦を落とすとき。 更に上空から、視線を感じた。 ずっとこの戦いを見ていたのか、敵か味方かは知らないけど、とりあえずは一発だけそいつに向けてみたんだ。 結果、見事に避けられて見事に逃げられたようだけど。
「さて、もう一仕事かな」
「人気者はつらいナ。 精々頑張レ」
「あら、意外と優しいこと言うね。 まぁさっきは手酷い扱いを受けたし、そのくらい優しくしてくれないとねぇ。 ねえねえ、今度お詫びついでに一緒にデートしようよ、デート」
「殺すゾ」
いや怖いからね。 冗談の返しが「殺すぞ」って、もう脅しじゃんそれ。 警察呼ぼうかな。
「……矢斬、オ前はロクにもそんナ態度カ?」
「ん? ロク? うんまぁね。 俺は平等主義者だからさ、ロクにもこんな感じだよ。 この前なんかさぁ、お風呂一緒に入ろうって誘ったら殴りかかってきてさ」
ていうか、なんでロク? 確かにコクリコ、刈谷島とロクは面識あるにはあるけども。
「オ前ノ場合はなんノ感情もなくそれをするかラ怒らせるのダ」
「へ? なに、なんの話?」
「なんでもないサ。 それよりいいのカ、ここデ私ト雑談なんかしていテ」
「いいや、時間調整だよ。 俺だってほら、会いたくない相手もいるわけだし。 たとえば今向こうにいるエリザって奴だったり。 とは言っても会いたくない人ってのは限られてて……あとはそうだね、まーあの人くらいかな、コクリコと刈谷島さんの上司さんとか」
「……海常カ」
「うん、そうそう」
刈谷島とコクリコ、二人は異法使いの学校での臨時講師もやっている。 むしろ今となってはそっちがメインで、暗殺業は一切していないとのことだ。 しかしそんな学校も、法使いとの関係が悪化している所為で休校中。 原因は、俺たち異端者が第一学園を襲撃したから。 その影響はやはり大きく、俺たち以外の異法使いは異端者を恨む者だって存在している。 肩身が狭くなれば、それも無理はないか。
そして二人が務める学校の理事長。 海常要人。 俺が苦手な人ナンバーワン。 嫌いではなく、苦手なんだ。 あの人はどうにも、俺と似ているから。
まぁ元より苦手な人はそこそこいる俺だけど。 あの絶望の魔女と呼ばれているエリザだって、俺はきっと苦手だなぁ。 だから顔は合わせたくないね。
「しかシ、法使いハ集まっていル。 助けニ行かなくテ良いのカ」
「助ける? 誰を? もしかしてツツナとロクのことか? あはは、だったら面白い。 あいつらが、負けるわけないじゃん」
何を馬鹿なことをと思って、俺は言う。 冗談なのか、それとも本気か。 コクリコのそれ、分かりづらいしなぁ。
「信用しているんだナ」
「信用? ちょっと違うね、俺は理解しているだけだからさ。 あいつらは天才だよ、本当の。 ツツナに関しては回路が強い、ロクに関しては異法が強い。 分かるでしょ? だからあいつらは負けないよ」
「……オ前のそノ考エ方ハ嫌いダ」
「好き嫌いじゃないでしょ、これ。 一人の天才の前には全部が無駄になる。 分かるかな?」
「分からないナ。 私モ刈谷島モ努力ヲ重ねてきたのだかラ」
「……うーん、まぁ良いや。 なら、分かりやすく見せてやるよ。 俺は今までさ、努力なんてしたことがない。 けど反対に、天才なのに努力を惜しまない奴を知っている。 あははは、久し振りに、会えそうだよ。 コクリコ、君が言った努力っていうのが、どれだけ無駄なものなのかを教えてあげよう」
さて、そろそろあの魔女さんは姿を消してる頃合いだろう。 あの魔女さんは入り混じった戦いは好まないからね。 分かりやすく、向き合った戦いが好きなんだ。 だから三者混じっての戦いは不慣れ。 そんな不慣れは避けているだろうから、魔女さんはもういない。
となれば、残るはロクにツツナ、そして法使い共。 さっき、戦艦に乗ったときに見えたんだ。 B地区に居る奴らの姿。 回路のおかげで、視力はだいぶ応用が効く。 数十キロ程度なら、鮮明に見えるように合わせることも可能。 だから、見えた。
「元気かなぁ、あいつ」
まぁ。 まぁね、そりゃ元気だよ。 本部の少佐、それも異例の若さでの昇進。 前代未聞を作り続ける女。 誰もが認める天才で、誰もが認める努力家だ。
でも、分かってない。 あいつは分かっちゃいない。 いや、そもそもこの世界に分かってる奴なんて一握りしかいないんだよね。 俺だって、分かっている側とは言いづらいんだよ。 最後にどうなるかなんてのは、まだ分からないんだしさ。
だけど、ひとつくらいはあいつに教えてやろう。 俺が今まで散々、身に沁みて理解してきたことを。 一人の絶対的な天才の前では、全てが無意味だってことを。 俺はさ、ほら。
「あはは」
あいつの、親友だからね。
「ああ、久し振りだな……矢斬」
俺が声をかけると、凪は答えた。 少し、顔付きが変わったようにも思える。 けど、髪型もアクセサリーも、あの頃から何一つ変わっていない。 相変わらず絵になりそうなほどに綺麗で、相変わらず落ち着いている。 多少は動揺が見られるけど、たったそれだけか。
……あっはは。 なんだ、俺。 これじゃああれだ、最初に天上が襲ってきたときと、同じことを思っているじゃん。
「一年ちょっとだったけど、凪はあんま変わらないね。 やってることも、してることも」
昔から、変わっていない。 こいつは変わろうとしていない。 ひとつの確固たる信念を持ち、それを貫き続けるのだから、変わるわけがない。 いいや、凪に限った話じゃないね。 この世界には、凝り固まった信念を持っている奴が多すぎるんだよ。 それは、俺も含めて。
だから、人はいつの時代だって変われない。 変わろうと思っている奴なんて、いないんだから。
「それはそうだよ。 私は、正しいと思った道を進む。 しかし、対してお前は変わったな、矢斬」
「そうか? 俺としてはさ、こっちの方が本来だから、あんま分からないんだ。 それに、変わったとか変わってないとかどうでもいーや。 だからさ、ひとつだけ教えてくれよ、凪」
ロクも、ツツナも、身を引いていた。 ツツナの方は凪とやりたがっていたから、悪いことをしてしまったか。 対して法使いと……おや、あれは巫女魔術使いちゃん。 懐かしい顔の発見だ。
「ああ待ってストップ、不って名前だっけ君。 エリザ様のことを裏切ったのか」
「矢斬戌亥……だったらどうした、私はいつだってフリィーダムなのだ」
「ふうん、ま良いんだけどさーあ。 君もいつか、殺すことになるのかなって思っただけだよ」
俺が笑って言うと、不は俺のことを睨みつけるように見ていた。 そして次に声を上げたのは、俺も知っている男。
「お前の目的は、俺が止めてやる。 異法使いランク一位」
「数多さん、久し振りだ。 俺はあんたの法に興味がある、だからまた会うことはあるだろうさ」
そして、もう一人知っている奴がいる。 女と……若い男か。 男の方は知らないが、女の方は見覚えがあるな。
……うーん、ああ、ああそうだ。 あのときの、あいつか。 ロクと戦ってた女。 そして、俺が遊んであげた女か。 いやぁ懐かしい懐かしい。 本当に涙が出てしまいそうなほど、懐かしい再会の連続だよ。 それで、どうやら相手さんもこの一年半ほどの間、努力を積み重ねてきたようだね。 全員、前とは見違えるほどに強くなっている。 それが顕著として表れているのが、凪か。 比べ物にならないほどに強いな、こっちは。 そして、鹿名という女の方も、中々に実践を重ねてきたように伺える。
「今日は襲ってこないのか、女」
「黙れ、異法使いが」
相変わらず、敵意剥き出しだね。 悪いことじゃないさ、そういう人は嫌いじゃないよ、俺。
ただ、まぁ。 今はこいつらに構う時じゃあない。 とりあえずは無事に異法使いへ戻れて、あの少佐は死に中佐の身柄は確保した。 どうやらロイスを確保、殺害をするという目的は失敗に終わったみたいだけど……ミラージュの情報は得られたしね。 それに、支部一つをほぼ壊滅まで持って行けた。 改めて、俺抜きでも十分すぎるほどの組織だよ。
さて。
「悪いな、懐かしくて。 それでさ、凪に質問。 凪はさ、俺の敵か?」
「……私は」
凪はそこで、笑った。 そして、法武器……凪の一振りを構え、言い放つ。
「お前が矢斬戌亥だというのなら、私はお前の親友だよ。 だが、お前が異端者のリーダー、ポチだというのなら……敵だ」
「そうか。 それは、残念だ」
なら、俺もそう思おう。 こいつは敵だと、凪は敵だと。 俺はやっぱり、法使いにはなれやしない。 異法使いであるべきで、そうでしか居られない。 もしも法使い、異法使い、どちらかが全員死ななきゃいけないことになったとする。 だったら俺は迷わずに法使いを殺すよ。 世界はそうすることでしか、答えを、結末を、見せてくれないんだ。
「ワンワン。 ならばお前はここで殺そう、凪」
「ッ……法使いのときはあんなに可愛かったのにな、異法使いとしては最強か」
凪は圧迫感から避けるように、距離を取る。 こいつは時間という法を使う、まともに食らえば治すのもちょっと面倒だな……ツツナのとは違って、俺のは要するに巻き戻しなわけだし。 進まされすぎると、追いつかない可能性もある。 でも欠点はあるんだ。 凪の時間の法は、自分の周囲一メートルにしか使うことができない。 だから距離を取っている間は絶対に安全。 しかしまぁ……いいか。 考えるのが段々、面倒になってきた。 たとえそれを食らったとしても、それに回路を間に合わせれば良いだけでしかない。 少し疲れるくらいのデメリットは、俺も出しておくとしようかな。
「お前の目的はなんだ、矢斬」
「あは、世界平和」
「ふざけたことを……人を殺すお前に、とても似合わないセリフだよ、それは」
「そうかな? 凪、お前は人間の命って等価値だと思うか? みんな平等で、みんな愛されて、みんながみんな、幸せだと思うか? 恵まれて、楽しくて、未来があって、目標があって、頼れる奴がいて、好きな奴がいて、尊敬できる奴がいて、それでみんな、満足して死んでいってると思うか?」
「思わないな。 だが、人の命は等価値だよ。 全員が幸福だとは思わん、お前が言うような物を受け取れているとも思わん。 だけどな、矢斬」
そのとき、凪は俺にたったひと言をぶつけたんだ。 俺はその言葉を聞いて、凪のその想いを聞いて。
「誰もがそうなる道はある。 だが、そうなれないのは当人の能力不足だ」
凪は俺に、そう言い放ったんだ。 俺はそれを聞いて、笑うのを止めた。
「要するに、俺みたいに努力をしない奴は酷い目にあっても仕方ないってことか」
「そこまでは言ってないさ。 だが現状を変えるのに、一概に法使いが悪いと決めつけるのはどうかと言うことだよ」
「ああ、そうか」
そうか、そうだな。 良く、分かったよ。
俺は異法使いだ。 今まで散々、何年も何年も法使いのことを見てきたし、殺してきた。 だけどな、それだけじゃあ全然何も変わらないんだ。 そこに凪の言う「異法使い側の努力」というのが含まれるのだろう。 俺たちが手を取り合って、法使いと歩調を合わせる。 そうすれば見えてくる、新しい道がある。
そりゃあまた……随分と面白い答えだよ、凪。
「気に入らねえ。 凪、お前のそういうクソ甘い考えは嫌いだ。 俺らが一体どんなことをされてきたのかも、お前は知らねえ。 俺がそう言えばお前は言うんだろ? 私も散々嫌なものを見てきたってよ。 けどな、凪。 俺たちが受けた仕打ちってのは、お前が思ってるほど甘いものじゃねえんだよ」
ああ、ダメだ。 ちょっと、マズイかな。 怒ったのは、久し振りか。 この頭に血が上る感じは、懐かしい。 そうだったよ、思い出した。 こいつはそういう奴なんだ。 だから俺は、こいつが嫌いで嫌いで仕方ない。 そして、その嫌いな理由はきっと、それが絶対的に正しいから。 世界の選択を受け入れているから。
お前に分かるか、どちらか片方を殺せば片方は生かしてやると言われた奴の気持ちが。
お前に分かるか、法使いの道具として使われた姉妹の気持ちが。
お前に分かるか、選ぶことをできなくなってしまった奴の気持ちが。
お前に分かるか、実の家族に心を壊されそうになった奴の気持ちが。
お前に分かるか、愛した人に売られた奴の気持ちが。
お前に分かるか、全てを失った奴の気持ちが。
お前に分かるか、感情を殺すことで生きようとした奴の気持ちが。
お前に分かるか? なぁ、凪。
「私には分からんよ。 だから、夢物語のような話かもしれんな。 だってそうだろ、私は法使いなのだから」
「お前とは敵同士で、正解だな。 凪、ひとつ教えてやるよ」
「なんだ、矢斬」
俺は指をひとつ立て、いつものように言う。 何を教えるかって、そりゃ決まってんだろ。
「俺は異法使いのポチだ。 ただの法使いが、俺に勝てると思うなよ」
言い、俺は歩き出す。 迷うことなく、凪の元へ。
「私に一度も勝てたことがない癖に、良く言うよ……法、執行」
凪は構え、法を執行する。 直後、凪の周囲の一部が歪んだのが見えた。 時間の法、凪が持つ最大で最強の法か。
「空間は数億倍の速度で経過する。 全ては風化し、崩れ去る。 良い法だね、それは」
「ご明察の通り。 今では全方向をカバーできる」
「みたいだな」
躊躇わず、俺はその空間内へと手を入れた。 面倒事は既に、面倒ではなくなった。 こいつを殺すのには苦労はしないだろうけど、俺も少しは怒ったんだよ。 だから、ちょっとの面倒くらいはやってやろう。
「なっ……矢斬、お前……」
皮膚が腐り、骨が崩れる。 粉のようになり、腕は消えてなくなる。
「あは。 いいぜ、凪。 こんなの俺の前じゃやっぱりオモチャだよ。 お前の天才性と、必死に積み上げた努力なんて、一瞬で壊してやる――――――――異法執行」
言葉と同時に再生が始まった。 俺の回路での異法、凪の回路での法、単純な力比べで、これほど分かりやすいことはない。 だが、俺は突っ込んだ腕がどうなるかを確認する前に、足を進める。
だって、そうだろ。 俺が負けるわけなんて、ねえんだから。
「化け物め……この時間経過ですら凌駕するかッ!」
「お前じゃ俺には勝てないよ」
手を伸ばす。 崩れたそばから再生され、凪の法の底が知れた。 もう、生かしておく理由も……ないかな。
「チッ、法執行ッ!」
その場からの退避、片足だけで数十メートルは跳躍したか。 だが、甘い。
「逃げるなよ、お前らしくもない」
「く……そッ!!」
凪の背後に姿を出し、空中で頭を掴む。 凪はなんとか振り払おうとするが、そんなのは無視してその場で地面へと投げつけた。 でかい音と共に、煙が上がる。 瓦礫が崩れ、やがて辺りは静かになった。
「だからさーあ、無駄な努力なんて馬鹿らしい。 しても結局、絶対的な天才には負けるんだよ。 俺だって、いつかどこかの誰かに負けるかもしれない。 なら努力なんて必要ない。 今ある力で、俺はこんな腐った世界は終わらせる。 そんで、新しい世界ってのをこの目で見てやる」
地面へ着地し、今だに煙が立ち込める中、俺は凪に向けて言う。 まさか今ので死んだなんてこと、ないよね。
「……お前はやっぱり、矢斬だよ。 矢斬戌亥だ」
やがて、煙の中から声が聞こえた。 傷は負っていない、さすがは頑丈だなぁ、凪くらいの法使いともなれば。
「いいや違うね。 俺はポチだ」
人間じゃないと、散々言われた。 異法使いは人間ではない。 それが、お前らの見解だろう? ならば精々、俺たちはそう振る舞うだけだ。 もう止められないし、終わりへと向かうしかない。 それだけのことが積み重なったんだ。 たった、それだけ。
「違わないさ。 だってほら、お前は今も、私に本当のことなど話してくれないのだから」
「……なんだって?」
「お前は私に嘘ばかりということだ」
凪は立ち上がり、言う。 ルーエと呼ばれる法武器を構え、俺のことを見据えながら、続ける。
「あのときだって、私は知っていたんだよ。 お前が異端者のリーダーだということを」
あのとき……俺が起こした、一学襲撃事件の時のことか? 凪がそれに気付けるタイミングは……ああ。 こいつ、ツツナにやられたときに、まだ意識があったってことか。 そして、異端者としての俺の姿をどこかで見たということか。
「……へえ。 そりゃ面白い。 ならどうして何も言わなかった? 殺されるとでも思った?」
「この私がお前に負けるわけがないだろう。 そんな理由、たったひとつでしかないさ。 お前が私の友達だからだよ、矢斬」
直後、両腕が斬り飛ばされた。 動作なしの一閃。 風はぴたりと止まり、辺りには静寂が訪れる。
風なき一振り。 凪の一閃……なるほど、これは。
「面白い。 本当に面白いよ、凪。 君はやっぱ、俺を飽きさせない。 その法武器、未来の強化か」
確定しかける未来の強化。 それは強化されることで、確約された未来となる。 凪が信じ、起こせると思った未来を現在に引き起こす力……と言えば良いか。 未来からの攻撃なんて対処のしようがない。 俺でもそれは、防げない。
「だけど、防げないってだけだ。 治せはする」
意識を両腕に。 すると、すぐさま俺の両腕は繋がられる。対策はできないが処置はできる。 そんな力なんて、やっぱり無意味だ。
「ふっ。 しかし、もうお前に近寄らせはしない」
最大の利点は、攻撃を行う上での動作を全て省略できるということ。 凪はただ剣を構え、意識を構築すれば斬ることが可能となっている。 そしてその攻撃は余地することはできない。 辿れば訪れる未来とは違い、未来の方からの攻撃だ。 絶対必中の剣、それが凪が持つ法武器の力。
しかし、欠点はある。
「凪の悪い癖、教えてやろうか」
「聞いておこう。 参考になるかは分からないがな」
「あはは、はは。 優しいってところだよ、本当に。 やり過ぎないように、殺してしまわないように、お前は常に手加減をしながら戦っている。 結果、徐々に追い詰められてこうして最後の手を使ってきた。 その流れは無駄で、不要なもの。 良いか、凪。 そういうのは相手をナメているって言うんだぜ?」
だからもう良いよ。 もう、程度は知れた。 お前じゃやっぱり俺の相手は務まらない。 終わりにしよう、決着を付けよう。 元々そんなの、決まりきっていたし分かりきったことだけどさ。
ああ、終わりってのは切ないな。 切なく、儚い。 それで残念だ。 悲しいよ、俺は。 あはは。




