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異法使いのポチ  作者: 枚方赤太
二章 変革
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第九話

 俺はクズだ。 クズで、ゴミだ。 一人の異法使いとしてそれはハッキリと認識しているし、理解している。 ましてや、この世界にある法律、政府、常識に刃向かうような選択をして、そしてそんな反政府側に俺は付くことにした。 そんな奴をクズと呼ばない奴なんて、同じ異法使いしかいないだろう。 一般的、常識的、そういう風に見てしまえば、法使いと異法使い、どっちがクズかなんて一目瞭然だな。


「カクレよぉ、テメェいつまでびびってんだよ。 そんなんじゃ殺されんぞ?」


「で、でも……ほら、やっぱり怖いじゃん。 怖い人もたくさんだし、強い人もたくさん居そうだし……ツツナさんたちも、大丈夫かな……?」


 俺とポチさんが出会ったのは、昔のこと。 少しばかり電子機器に強かった俺は、紆余曲折はあったものの、とある裏の仕事をしていた。 そして、そこで出会ったのがあの男だ。


 そりゃーもう、気に食わない奴だったよ。 人を食ったような性格で、何もかもが見通されてる不気味さだって感じた。 だから俺はあいつと何度か戦い、負けた。 最初に対峙したのは、俺とカクレが仕事をしているときに突然現れたときだったっけか。 初めて負けたのがそのときで、お互いの顔を知ってからも何度か手合わせはしたんだよな。


 結局、俺の異法ではまるで歯が立たなかったんだ。 ポチさんの異法は正直規格外すぎて、対応できる術を持ち合わせている奴は存在しねぇ。 それを理解するのに、三度も……最初のを入れたら四度か。 そんだけ挑んだ俺はきっと大馬鹿だろうな。


「カクレ、この建物の中で一番でかい部屋はどこにある? そこを俺たちの拠点にしよう」


「え、えっと……よ、四階の会議室、かな? ルイザさんが地図はくれてるから……たぶんそこが一番大きい部屋だと思う」


「んじゃあそこを目指すとしますかぁ。 道中の敵はお前が片付けろよ。 俺の異法は遭遇戦じゃクソの役にもたたねーからよ」


「う……。 りょ、了解」


 カクレの異法は、空間と空間を繋ぐ力だ。 簡単に言ってしまえばそうなるが、時空間を捻じ曲げる異法というのが正になる。 俺たち異端者はそれをドアと呼んでいて、奇襲や待ち伏せなんかでは持ってこいの力でもある。 事実、この前のガッコーを襲撃したときは随分役に立ったらしいしな。 俺はめんどかったからサボったけど。 こういうとき、自由主義の異端者は楽でしょうがねぇ。 つってもサボりすぎてこの前はポチさんが直々に家まで来たけどな。 そういうわけで、さすがの俺もヤベーって思ったわけ。


「止まれッ! 何者だ!」


 と、そんなどうでもいいことを考えながら廊下を歩いていたとき。 目の前に三人の法使いが現れた。 見たところ、普通の雑務兵って感じかね。 つっても相手は基本スペックが高い法使い、油断はしないでおくか。


「アッハハ! わざわざ死ににきたのかよおい。 カクレ、ゲームだ。 俺が指示したところにドアを作れ」


「……うん」


 俺の言葉に、カクレは一度頷いた。 基本、こいつは臆病だし、不安症でもある。 だが、一度戦闘が始まってしまえばそれは異なる。 自分で言うのもアレだが、俺が居るときと居ないときでもこいつは違う。 俺が居るときのカクレは、百パーセントの力を出せるからな。


 こいつの集中力は桁外れ。 それは俺すらも凌ぐ、抜群の集中力を持っている。 それがカクレの持つ、もう一つの人間としての力。


「法執行!」


 三人の中の一人は叫び、俺たちの元へと走り出す。 持っている武器はナイフ、考えられるのは切れ味、範囲ってところか? 範囲強化の法がある場合、そいつは見た目状では間合いが狭い武器を持つ可能性が高い。 ここなら届かないという認識を植え付けるために。 だがまぁ、関係ねーな。 速度、方向、それらを見極め、俺は言う。 幅が広い廊下、俺とカクレにはその全てを理解できる空間把握能力があるんだよ。


「Dの三」


「異法執行」


「ん……? な、なんだっ!?」


 直後、前へ出した男の右足が消滅した。 否、完全に消えたわけではない。 移動させられたのだ、右足だけ。 まずは第一フェーズ突破。 問題なく移動させられたということは、カクレの異法はこいつらにも使える。 異法力が劣ってれば、異法自体を消されちまうからな。


 カクレの異法は、移動させられる当人が認識していれば別だ。 当人が受け入れれば、たとえポチさんクラスでも動かせる。 しかし、それを受け入れていない場合は異法力が上回っている場合しか動かせない。 応用力が良い異法、それがカクレの空間接続。


「オーケー。 カクレ、ドアを閉じろ」


 俺が言うと、カクレは異法取り消しと呟く。 同時、そのドアは閉じられる。


 さて問題だ。 どんな扉でもいい。 そこに片足だけを入れた状態で、無理矢理にドアを閉じたとしよう。 するとどーなるでしょーか?


「アっハハ」


 答え。 足は切断される。


「あ、ぐぁああああ!? な、なにを……あ、あ」


「あーあー痛そうだねぇ。 カクレ、Dの四だ」


「異法執行」


 手加減はしない。 俺はいつだって、本気でやると決めているからよ。 たとえ相手が雑魚だろうと、それが敵に対する敬意ってもんじゃねーのかね?


 なんつってな。 精々、遊ぼうか。 アッハ。


「閉じろ」


「異法取り消し」


 ドアは開かれ、そして閉じられる。 俺はそれからカクレに数度、指示を出す。 一回、二回、三回。 やがて、その場に残されたのは右手だけ。 血が辺りに散らかり、狭い通路を染め上げる。


「まずひとぉーり。 次はテメェらだ。 アッハはは、逃げんなよぉ?」


「……ほ、法執行ッ!」


 一人の男は遠い距離で、そう叫ぶ。 すると、通路の温度が高まった。 一秒ごとに高まり、熱を感じ始める。 やっぱり法使いってのは一人一人が良い物を持ってやがるね。 それに比べて異法使いときたら、ろくな力もねーんだからさぁ。 まーだからこそ、ただでさえ異端である俺たちの中から異端が出たとき、飛び抜けるのかもしれねぇな。


「なるほど、温度に対する強化ね。 能力の強さはさすが法使いってところかねぇ。 カクレ」


 既に温度はかなり上がった。 それでもあいつらが平然としているってことは、恐らく温度が上げられているのは俺たちの周りだけ。


「ごめんなさい、お兄さんたち。 俺のせいで、ごめんなさい」


 カクレは言い、異法執行と続ける。 その言葉と同時、通路の温度は元に戻る。 簡単な話だ。 俺たちの周りの温度が上げられたのなら、その間にドアを作ってしまえば良い。 たったそれだけのことで、あの男と俺たちが居る場所は別の空間へと変わる。 そうしちまえば法使いの能力はここまで届かない。 そして。


「繋げろカクレ。 馬鹿は死ななきゃ治らないってな」


「了解。 異法執行」


 カクレはドアを繋げる。 男と俺たちの間にある見えないドアと、男の真後ろを。 放たれた法はドアを通過し、自らを熱する。 ドアを作っている間に相当な熱量になっていたのか、決着は一瞬だった。 二人の男の体は燃え上がり、悲鳴を上げる間もなくその場へと倒れる。


「ったくよぉ……別に今回の仕事、俺が来る必要なかったんじゃねーの? カクレ一人でも余裕だろこれ」


「そ、そうかな……けど、やっぱ強い人と当たったときが怖いから……ハコレが居てくれた方が、良いよ」


「別にお前に必要とされてもねぇ……。 ま良いけどよ。 ちゃっちゃ対象見つけてぶっ殺すぞ。 んで、とっととX地区に戻ってポチさん助けねえと」


「うん……そうだね。 ポチさん、大丈夫かな。 死なない、よね?」


 俺の言葉に、カクレは顔を伏せて言う。 こいつは一段とポチさんのことを尊敬しているんだよな。 圧倒的な力ってのが、多分カクレにとっては尊敬している部分なのだろうよ。 俺もカクレも、二人して力がなかった所為で、最悪なものを見てきたからな。


「あ? はは、アッハハハ! おいおい、馬鹿かよカクレ。 ポチさんがぶっ殺されるとこ、想像できっか?」


「で、でも……法使いの状態だと、使えるのはひとつだけだし……」


 俺とカクレは会話をしながら廊下を歩く。 切り離された右腕、そして焼けて炭のようになった男二人の体を踏みながら。 俺もカクレも、それを気にすることはなかった。 そんなのには、もう慣れた。 慣れてしまった俺たちは、やっぱりどう考えてもクズだろうなぁ。


「バーカ。 あの人のヤベェところは異法じゃねーんだよ。 カクレ、お前さ……今この場で俺を殺さないとならない状態になったらどうするよ?」


「え、え!? は、ハコレを!? そ、それは……」


「はいダメ。 そこだよ、違いは。 人間誰しもよぉ、躊躇いってのはあるもんだ。 お前がどう思うか知らねーけど、俺だってこの場でお前を殺さなければならなくなったら、躊躇いは一応するんだぜ? けどよぉ、ポチさんにはそれがねーんだよ」


 そうそう、あの人はハッキリ言って異常だ。 ただでさえ異常な俺から見ても、異常なんだよ。 だから俺はすげえと思うと同時に、怖いんだ。


「……そ、そうなの?」


「どんな奴にも、躊躇う場面ってのは存在する。 行動に移すまでのタイムラグってもんがあるんだ。 だけど、ポチさんにはそれがねぇ。 知ってるか? アッは、あの人さ、天上の仲間を全員ぶっ殺してるんだよ」


「……え?」


 俺も、聞いた話でしかないけどな。 その昔、天上が集めた仲間たちが居たらしい。 今ある異端者とは全然違ったみたいだけどな。 そして、それら全員をあの人はぶっ殺した。 俺が知ってるのはそんだけで、この情報ってのも執行機関のデータベースに残っていたからだ。 つまり、その事件には執行機関も一枚噛んでいる可能性がある。 そして今、天上が俺たち異端者と一緒に動いてるってことは……。


 いいや、邪推だなこりゃ。 俺たちは俺たちの仕事を淡々とこなしてりゃそれで良い。 ポチさんが過去に何をしてようと、天上が一体何を想って俺たちと一緒に行動してようと、関係のねーことだ。 本人が納得してんなら、それはそれで良いんじゃねーのって思うしな。 かくいう俺たちだって、ポチさんに同調したからこそ仲間になったんだし。 結局はその当人がどう思ったかでしかねーんだ。


「ここか。 さぁて、話は終わりだカクレ。 ここなら俺もようやく異法を使える」


「わ、分かった。 じゃあ俺は……連れてくるから、頼んだよ」


「任せとけ。 そうだなぁ……適当に強そうなの、頼んだぜ」


「りょ、了解」


 俺の異法、箱庭と呼ばれるそれは、閉ざされた空間を捻じ曲げる異法だ。 この異法は少々特殊で、閉鎖空間というのを作り出す。 そしてその部屋では、とあるルールが決められる。 それは無数に存在し、俺ですら把握しきれていない。 ただ、そんな俺の異法でもひとつだけ分かること。


「アッハハ、異法執行」


 この空間内では、俺こそがルールとなる。 さてさて、楽しい楽しいお遊びの時間だぜ。


 俺はクズで、ゴミだ。 そんくらい程度には分かってる。


「っ……なんだ、異法……か?」


 目の前に現れたのは、歳を食った男。 この軍服……おお! キタキタキタ! 来ちゃったよこれッ!!


「サイッコーだカクレぇ! お前、一番最初に一番良いの持ってきてんじゃねーかよ! アッハハハハハ!!」


 B地区支部、支部長。 ああ、やべぇやべぇ。 こりゃ、本当に最高だ。 クソみてぇに退屈な仕事に、こんな最高のことがあるなんてな。 他の誰でもない俺が殺れるだなんて、これほど嬉しいことはねえって。 本当に、本当に本当にさぁ!


「……貴様は、そうか。 異端者、ランク十位だな。 となると、移動させたのは九位の異法か」


「おう? おいおいなんだ、俺のこと知ってんの? まぁ良いや、遊ぼうぜ、おっさん」


 伊達にただただぶっ殺されてるわけじゃねーってことかい。 それなりにも相手さんも調べてるっつうわけか。 けどよぉ、いくら調べても無駄ってもんだぜ、それ。


「ガキの子守は嫌いでね。 俺はB地区支部、支部長……八賀(はが)奏生(そうせい)。 ただで済むとは思うなよ」


「くっだらねぇ前置きなんていーんだよ。 それじゃ、始めるか」


 俺の言葉と共に、俺と八賀の丁度間に、一丁の拳銃が現れる。 あーあ、マジかよ。 一番つまらない奴引いたか?


「チッ……ロシアンルーレット。 ルールは知ってるよな? どうやら今回はそれだ」


「付き合う義理など……ないッ!!」


 まったく、殆どがこうなるんだよな。 ろくに理解しないで、ろくに把握もしようとしねぇ。 異法使いの力なんてとか、その程度にしか思われちゃいねえんだ。 だから、やっぱりこいつらは。


 俺以上に、クズでゴミだ。

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