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異法使いのポチ  作者: 枚方赤太
二章 変革
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第八話

「着いたな」


 それから僕たちは、天上さんたちが調達した車へと乗り込み、B地区へと移動した。 法執行機関本部にもかなり近いB地区はさすがの繁栄ぶりで、人々も活気が溢れていると言っても良い。 そんな中、僕たちは車の中で準備を整える。


「では、私から」


 静まった車内で最初に口を開いたのはルイザさんだ。 ルイザさんは言うと、長い髪を後ろに一本で縛り、脇に置いてあった鞄から四角い液晶を取り出す。 そして慣れた動作でそれを操作し、後部座席に座る僕たちへその画面を向けた。


 その画面に映されていたのは、恐らくはB地区支部と思われる長方形のマーク。 そして、赤い点がそれを囲うように配置されている。 数は、九。 これが僕たちということかな。


「赤点は私たち……というのは分かっているわよね? で、見たところB地区支部には内部へ通じる扉は大きく分けて二箇所。 表口と裏口って言い方をすれば分かりやすいわね」


 ルイザさんは画面を見ずに、液晶パネルに触れた。 すると、緑の線が長方形の上下へと表れる。


「今居るのはここね、表口側。 警備がもっとも堅いのも表口側だから、侵入するに当たってまずは二班へ分けるわ。 表口から突破する班と、裏口から突破する班ね。 戦闘能力が高い人を表口側だから……ツツナさん、霧生、リン姉妹が表口側。 私、ロク、ハコレ、カクレが裏口側。 天上はいつも通り上空からっていうのが一番良さそうね」


「それで、中に入ったら? そのなんだっけ、ロイスさんだっけ? その人を殺すにしても、居場所が分からないよ」


 僕が尋ねると、返事をしたのはルイザさんではなく、ハコレさんだった。 気だるそうに、ハコレさんは口を開く。


「だから俺がいるんだろーが。 つってもよぉ、配置を把握するのにもちょいと時間がかかる。 それに出来る限り中心部に行った方が把握がしやすいし、正確な情報も取れるからな」


「そういうこと。 だから中に入り次第、ハコレはカクレと一緒に中心部へ。 私はリン姉妹と合流、天上は霧生の位置を確認して合流、ツツナさんはロクとね」


 ルイザさんはきっと、そうするのが一番やりやすいと踏んでそう言ったんだ。 そしてこれは、ポチさんが最初に指定した構成にもなっている。 もしかして、だけど。


 ……ポチさんはこうなることも、分かっていたのかな? いや、まさかね。


「ルイザ」


 そこで、ツツナさんが口を開いた。 ツツナさんは基本的に寡黙で、声をかけられても必ず返事をする人でもない。 だから、ツツナさんが自ら口を開くっていうのは結構珍しいんだ。 一対一ならそれなりに話してくれることもあるけど、みんなと居るときは特に寡黙になっている。


「はい、なんですか?」


「話の腰を折って悪い。 馬鹿が二人、既に突入を開始している」


「……へ?」


 ツツナさんの言葉に、ルイザさんはB地区支部へと視線を向けた。 ああ、ふふ。 そうだよね、それはそうなるよ。 あの二人が、何も言わずに大人しく話を聞いているなんてあり得ないことだったよ。


「あんの馬鹿共がぁ……!」


 ドン、という鈍い音が響いた。 恐らくルイザさんが車のハンドルを殴った音。 壊れちゃってもカクレさんの異法で戻れるから良いんだけどさ。 それにしても今のルイザさん、相当怒っている様子だ。 ルイザさんは怒ると怖いからなぁ……普段が優しい分、余計に。


 まぁ、僕としてはこういうのも慣れたものだったりするんだけど。 人が怒られる分にはいくら見ていても良いや。 僕が怒られるのはイヤだけどね。


 それで、そんな怒る原因は二人。 勝手に突入をした二人だ。 天上さんに、リンさんの姉のほう。 二人とも血気盛んで、ポチさんの言うことならば素直に聞きはするけど……どうも僕たちだけとなってしまうと、勝手な行動が多い二人だ。 自由奔放というか、唯我独尊というか。 そんな感じの二人なんだよねぇ。


「鈴を止めないと。 あとでくすぐりの刑に処す」


「なぁなぁ、支部って女も居るんだろ? ならさ、俺っちちょいとプライベートタイム入って良い?」


「駄目に決まってるでしょ! ああもう! 折角作戦考えたのに無茶苦茶じゃない! あとであの馬鹿二人、ボスに絞ってもらうんだからッ!」


 言いながら、ルイザさんは車のドアを開ける。 どうやら、諦めはついたようだ。 そういうことなら、僕たちもそろそろ行くとしよう。 強い人、居るかなぁ。


「……その前に、全員良いか。 万が一のことがあればすぐに俺へ連絡を入れろ。 これはできればや、できたらではない、命令だ。 少し、妙な気配を感じる」


 しかし車外に出ようとしたルイザさんをツツナさんの声が引き止める。 低く、落ち着いた声。 ツツナさんが警戒するということ自体、非常に珍しい。 そして、そんな珍しさは悪い方向に向いているってことだよね。


「妙な気配? ふうん……ま、僕はツツナさんと一緒だから関係ないか」


 ツツナさんの言葉は車内に居た全員には、とりあえず届いたようだ。 ルイザさん、霧生さん、倫さん、ハコレさんにカクレさんは一度頷き、そして車内から飛び出していった。


「行くぞ、ロク」


「うん、そうだね」


 言い、僕たちも続いて車内から出る。 そして、支部へ向かって歩き始める。 最早、ルイザさんが考えた作戦は全部無駄になっちゃったけど。 でも、結局はみんな、さっき言った人たちと一緒に行動を取るだろう。 侵入まではルイザさんたちと一緒で、そこからは別行動。 戦力で考えたら、誰か一人で余裕で支部なんて潰せるけどね。


 既に支部からはサイレンが聞こえ、銃声も爆発音も聞こえてきている。 B地区支部、一体どんな強い人がいるんだろう? あの法使いの女……鹿名って人よりも強い人とかいるのかな? なんてことを思いながら、僕とツツナさんが数歩踏み出したそのときだった。


 後ろに、何かを感じた。 どうやら、それはツツナさんも、ルイザさんたちも一緒だ。 僕はその気配から振り返ろうとし、ツツナさんは同時に、僕の体を突き飛ばした。


「ちょ……ツツナさん、何するのさ……あれ」


 地面へ倒れ、ツツナさんに文句のひとつでも言ってやろうと、顔を向けた。 だが、そこにツツナさんの体は存在しなかった。


 理解するのに、そこまで時間は必要としない。 分かりやすいほどに、その光景は僕に情報を与えてくれた。 ツツナさんの体は、吹き飛ばされたのだ。 たった今通過した、光の柱によって。


「こーんーにーちーはぁ。 どーも、初めまして。 薄汚い異法使いちゃん」


 声の元へ、顔を向ける。 そこに居たのは、少女だった。 僕と同い年か、年下か。 長い金髪を腰の辺りまで靡かせ、ローブを纏った少女はそこに居た。 一瞬で分かったよ、この人……ヤバイね。 でも、ふふ。 支部の中よりも、よっぽど面白そうなのはこっちかも。


「ツツナさん」


「……」


 ツツナさんの体は元に戻る。 たとえ木っ端微塵にされたとしても、その再生力だけを見ればポチさん以上でもあるのだ。 ツツナさんの異法は、たとえ一瞬にして体を全て吹き飛ばされたとしても、再生する。


「まずはご挨拶。 わたしはエリザ、エリザ・フレデリカ。 魔術使いを統べる者と言えば、分かりやすいかしら?」


 これが、魔術使いのトップ? こんな、子供が……か。 だけど、確かにと納得せざるを得ない。 明らかに、他の者とは異質の雰囲気を纏っていた。 他の者、その横に居る三人の魔術使いと、そしてその後ろに居るのは……確か、一度僕は見かけたことはあるかな。 学校を襲ったあと、ポチさんを追い回していた魔術使いか。


「ロク、こいつらはここで殺そう。 俺はあの金髪のガキを殺る。 ロクはその他の奴らを殺れ。 ルイザ、お前らは予定通り対象を探して殺せ。 分かったな」


「……了解。 行くわよ、みんな」


 ツツナさんの言葉に、ルイザさんたちは支部内へと姿を消す。 どうやらエリザと名乗った魔術使いは、そっちの方には興味を示さなかった様子。 不幸中の幸い、かなぁ。 けど、まぁ良いね。 僕たちがこっちと戦えるなら、ソレ以上のことはないからさ。


「ふふ、そうこなくっちゃ。 了解だよ、ツツナさん」


 欲を言えば、僕があの真ん中の人とやりたかった。 でも、無理だと理解したからね。 僕よりもあの人は、強い。 そしてひょっとしたら、ツツナさんよりも。 もしかしたら……ポチさんに匹敵するかもしれない、危険な人物だ。


 だからツツナさんは言ったんだ。 ここで殺そうと。 明らかな危険性を持っているこの人をポチさんに会わせるわけにはいかないと、判断したんだ。


 だったらもう、断る理由はないよ。 僕は僕で、楽しもう。


「挨拶が遅いわよ、ガイコツちゃん。 挨拶をされて挨拶を返さないだなんて、失礼じゃないかしら? わたしね、そういう無礼者は好きじゃないの」


「挨拶か。 悪いが、もうしている」


 直後、エリザと名乗った少女の上にトラックが表れた。 ツツナさんの異法はやっぱり利便性が高く、羨ましいな。


「あらあら。 躾が必要ね、あなた。 ギル、クラレディ、ジェローム、あなたたちはあっちのお子様の子守。 わたしはあの子とやるから、よろしくね」


「はっ!」


 魔術使いの王女は、動じることなく指示を出した。 というのも、そのトラックは頭上でそのまま停止したのだ。 魔術……だよね、この場合。


「不ちゃんは支部内に行きなさい。 こいつらの仲間が居たら殺っちゃって良いから。 あなたよりも強い子だとしてもやりなさい。 分かったぁ?」


「……はっ」


 言うと、不と呼ばれた少女は姿を消す。 あの程度なら、問題はないかな。 今はどうやら、僕とツツナさんも簡単に動けそうにはないし。 ルイザさんたちでも大丈夫だと思うしね。


「さて」


 魔術使いの王女は言い、空に手をかざす。 すると、頭上で停止していたトラックは粉々に砕け散る。 それは文字通り粉々にだ。 一瞬にして砂の塊のようなものへとなり、そしてそれは風に乗って消えていく。 ああ、あは。 ちょっと、良いな。 久し振りに面白いよ。 これが魔術使いか。


「始めましょうか、異端者さん」

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